【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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斜海(しゃかい)ダンジョン行くぞ!⑦ ~ホラーもマジでやめろ~

 

「びくとり〜」

 

 大の字になって地面と背中を合わせていた。

 右手の指でペットを呼ぶかのようにドローンを動かし、中に入ってるビニールバッグを寄せた。

 

「動けん」

 

 :おつ

 :おつ

 :今回も強敵でしたね

 

「本気で死んだと思ったやつ、手を挙げなさい」

 

 :…………

 :冗談ですやんw

 :ノ

 

「意外と信用ない? 私って」

 

 :カテゴリするなら迷惑系だからな、ロリコは

 :実力しか信用がないガキ

 :見かけたら止めろって言われてるからなお前

 :信用はないけど信頼はしている

 :勝つ時はちゃんと勝つけども

 :ガワが子供だからまず信じる人いない

 :18歳を超えてたらなぁ……

 

「ふーん、なんでもいいや。まだ見てる人、チャンネル登録よろしくね」

 

 ビシッと指を刺して促した。

 鯨は撃沈している。黒焦げて、動くことなく、生物としての機能を停止したように見えた。

 ロリコはロリコで魔力を使い切っていたので、補給のためにドローンを寄越していた。

 

 ちゅーっと。リンゴジュースをストローで吸って飲みつつ、しばらくは休憩。

 身体が休まってから報酬を獲得しよう。

 

 これで今回の配信は終わり。お疲れ様でした。

 佐伯ポプラ? いたっけ、このダンジョンに。

 

 :ロリコさんや

 

「何かねおにーさん」

 

 :奥の扉まだ開いてないっすよ

 

「え」

 

 :え

 :あ、まずい

 

 上体を起こして目を奥にやる。

 不動としている扉がそこにはあった。

 ダンジョン奥地にある扉はモンスターと連動している。鍵がモンスターになっているだけ。

 倒せば自動で開く。倒していないなら開かない。

 

 ロリコはその場から逃げ去るように移動して、扉の取手を掴んだ。

 ガチャ、ガチャガチャガチャガチャ! 

 開かない。じんわりと、手には汗が流れていた。水を浴び終えた後だからかはわからないが、冷え込んだ気分になった。

 

 :この時間からのホラゲ助かる

 :まだ19時ですよ

 

「……勝負はここからってコト?」

 

 途端に。

 何かが振動するような音が聞こえた。

 何かが振動したので、大地が揺れ動く感覚がした。

 何かが振動しているので、ロリコは後方を向いた。

 

「うぇぇ、グロ……白骨化してるよ。白骨鯨かよ……」

 

 皮がむけている様子が目に入った。成虫と化した虫が羽化するように繭から抜け出そうとしている様に似ていた。

 身体中に罅が入り、何かが生まれようとしている光景。

 そうして姿を現して、無機物な白い骨が目に映る。脱皮と呼ぶとはまた違う、肉体から剥がれて骨が全て剥き出しになっている。

 中に存在するはずの身体の器官が見当たらない。頭から切れた尻尾の先まで骨で構成されている、鯨の死体が蠢いていた。

 骨と骨の間には魔力が通っている。紫色でこちらの気分を害するような、不安を煽る色をしながら。

 

「……アンデットが苦手だと思われている私なのですが」

 

 :急に流暢

 :慣れない敬語を使うな

 :おいこれ勝てんのか? 

 :見るからに強そうですよ

 

「骨だけなんで殴り飛ばすことはできるんですよ。ただ時間がかかるだけで。それももう、すごく。あと硬いし。笑えないくらい」

 

 :つまり……どういうことだ……? 

 :ロリコはガス欠。敵は全快。この状況から導き出される答えは……? 

 :終わりって……コト!? 

 

「そういうこ……うわ見た目何もないのに口から骨撃ってきた!」

 

「小魚の骨だし!」さながら機関銃のように口元から魚の骨が放たれた。

 どこか既視感のある魚だった。鼻先が尖っている。特徴的な部位ではある。

 

 :こいつ序盤でロリコが切った魚じゃね

 :恨まれてて草

 

 地面に突き刺さったそれは貫通し、地の底まで落ちていっている。

 おまけに早い。頬を掠るスレスレだ。顔、身体、足まで含めて蜂の巣にしようとしてくる。

 

「ひぇ〜! 攻める隙が見当たらないよぅ! 無限に発射してくるじゃん! ズルだよズル!」

 

 :ロリコ! 上からいけ! 

 

「足元と着地狙われる!」

 

 :下から! 

 

「貫通してるの見えてる!?」

 

 :雷! 

 

「骨に通るわけねェだろ! あと今使えない!」

 

 :斧を盾にしろ! 

 

「やってる……あー! 貫かれた!」

 

 :玉砕覚悟でいけ! 

 

「死ぬ!!!!」

 

 :草

 

「生やしとる場合か!!!!!!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛」猫撫で声とは程遠い濁声で叫びながら泥だらけの地面を必死こいて走っている。

 とはいえ水が吸収され切って固まろうとしている段階だ。踏んだ跡が残っており、走りにくいことこの上ないが。

 

「走る場所なくなってきとる!」

 

 おまけに言えば、ロリコが走っていた大地はすでになくなっている。

 無数の穴が開き、再生の速度すら追いつかず、地面は分離して底へ落ちる。

 まさしく窮地だ。

 

「もうちょい建設的な案、ない!?」

 

 :そこになければないですね

 

「他人事だと思って!」

 

 :実際そう

 :腹に飛び込めば? 

 

「それ! その案いただきます!」

 

 崖際をくるくるとまわるように移動していたロリコは走る速度を切り替えた。

 ギアを変える。1秒だけ速く走る。たったそれだけ。

 それだけで、白骨化した鯨に狂いが走る。

 同じ速度で放っても当たらないから、もう少し早く撃つ事を試みる。

 

 そのタイミングをロリコは見逃さない。目で追って、口元を凝視して。

 一定の周期で放たれていた砲弾を見極める。

 

「ここッ!」

 

 足を捻って切り込む。

 魚の骨とすれ違った。まっすぐ撃ち放ってくるのなら、その横を。また合わせてくるならその横を。

 浮上しながら、移動しながら照準を合わせてきているならズラす他ない。

 

「見えてきたな、勝利への道が……!」

 

 腹の底に到達する。上を見上げればそこには蠢く物体が。

 白骨化してるとはいえど、弱点はある。

 アンデットには共通するものだ。

 

「禍々しいあの心臓を斬れば即死。骨に囲まれてるけど……」

 

 紫色のオーラを醸し出している心臓部。

 周囲に白骨化した生物の姿見、人魂が走っているように見えるが、気のせいだろう。

 唯一無二のチャンス。ここを逃せば他はない。

 撤退を余儀なくされる。

 一瞬、思考の余地が許される限りで頭の中に策を練る……。

 求められるは全てを破壊し切る強靭なパワー。

 そして最高速度で放出できるスピード。

 ロリコの頭に電撃が走る。表情の変化から視聴者は名案が浮かんだと察知した。

 生み出された策とは───

 

「ま、とりあえず適当に打ってみるか〜!」

 

 :ここまで来て思考放棄するな! 

 :は? 

 :見損なったぞ

 

「うるせぇ! もう限界超えてんだよ! オラッ! 怪人の刃!」

 

 ブンッ! 

 カァンッ! 

 

 :骨に阻まれて弾かれてますよ

 :知らない技名やめてください

 

「もうダメぽ〜!」

 

 骨の間を縫い付けるように放たれた斬撃は、大地に根を生やして成長する森林のようなスピードで動く骨に防がれてしまった。

 同時に、周囲を漂っていた瘴気にも等しい人魂が一つにまとまり、知らない人間の顔を作り出した。

 

「こ───」

 

 こっわ、と。口に出す前にその顔面は地面へ激突した。デスマスクが地面に移されている。

 咄嗟に前方に転がり込む頃で回避する事には成功した。成功しただけだ。

 次の案が浮かばない。

 身体が疲労しきっている。

 頭を回す余力がそこにはもうない。

 

 :ここで終わり? 

 

 残された策はロリコにはない。

 補足しておくが、最後に放った斬撃はロリコがこの場で放てる最大火力であった。

 気づけば地面は削りに削られもう後がない状態だ。

 

 :ま、まずいじぇ

 :し、死ぬ

 :ロリコーッ! 

 

「…………」

 

 ロリコは何も口にはしない。

 それは自分の死を覚悟したから黙しているのではない。

 ロリコの目は死んではいない。

 この場で発揮できる最大限の抵抗を頭でこねくり回している。

 

(使うしかないか? いや……)

 

 2度目の死を覚悟するか。

 でもタダで死にたくないから斧でも構えるか。

 一度撤退するという案が浮かんだが、逃げた後で敗北者のレッテルを貼られるのも気分が悪い。

 

 いつも通り斧を生成して、構えて、不敵に笑みを浮かべたところで───

 

「手助けは必要ですか?」

 

 玲瓏たる声だった。

 一声で場の雰囲気が一変した。

 水に囲まれた空間にいたはずなのに。

 泥に塗れて荒れた地面の上に立っていたはずなのに。

 骨を身に纏う怪物と相対していたはずなのに。

 

 夜空に瞬く星のように颯爽と現れ、雪に溶けた大地が朝焼けに照らされて輝くような。

 そんな希望を感じさせる声が背後から現れた。

 

「……じゃあお願いしようかな」

 

 首元まで伸びた艶やかな髪の毛が光り輝くように見えて、こちらを見つめるターコイズの瞳は全てを見通しているかのように見えた。

 年齢に合わない学生服は彼女のトレンドマークだ。学ぶ者として、ダンジョンを100%攻略する事を軸に地形からモンスターに至るまで解析を試みるのが彼女のスタイル。

 後方で漂いながら、ロリコからの言葉を待っている。

 

「佐伯ポプラ」

 

 蝶型ドローンから機械音声が流れてくる。

 こちらのドローンの声と重なって何をコメントしているのかは聞き取れない。

 とはいえ、今の状況に対して盛り上がりを見せていることに変わりはないと思うが。

 

「【壁】【プリズム】【反発】」

 

 ポプラは言葉を並べている。

 並び終えると同時に目の前にそれが現れる。

 言葉で名を表した通りの壁が。スキル──“詠唱”。発声したものを具現化する力。

 無数の魚の骨が放出された。ポプラの気配に圧倒されて、しばらく撃つことに躊躇いが起きていたらしい。

 半透明のその壁は、確かに目の前に存在していて、それでいて見えないように見える。

 

 壁が、凹んだ。

 ダーツで用いられる投げる道具のように差し込まれたそれはゴムのようにこちら側まで伸びてきているが、突き破ることはなかった。

 デスマスクが放たれた。

 壁が凹むが、それもまた突き破るには敵わない。

 

「…………」

 

 :つっよ

 

 無機質な代弁がこの場を示すコメントとして適切だった。

 ロリコがこの壁を破ることができるか否かは試さないとわからないが、真っ先に苦しいとは思えるくらいに強靭に見えた。

 

「【ブースト】【飛躍】【貫通】……とどめをお願いしますね」

 

「あっうん」

 

 身体から迸るはサイクロプスのアクセサリーとは異なる感触。

 足は軽く、腕は何もかも持てそうで。

 壁を飛び越えて飛翔した。

 飛翔、と表現できたのは背中に羽が生えたかのように身体が軽かったからだ。

 先程までの疲労を感じさせない、それどころか魔力の回復速度が向上しているようにも思える。

 

 いかにガルカガ産のスク水が魔力の回復効果があったとしても、回復速度が遅ければ土壇場の場面で間に合うことはない。

 その場面が先程まで。今は違う。

 

「【撃槍】【崩壊】【流星】」

 

 落ちる最中に、先ほどと同じように、白骨鯨の骨が心臓部を守るように動き始めた。

 その動きを見切ったポプラは合わせて詠唱を重ねる。壁を展開し、バフも維持しながらの詠唱は身体への負担は大きいはずだ。

 けれどそんな姿には見えない。汗ひとつかかず、水に濡れている様子すら見えない。

 ポプラは魔力を用いた行動を三つ、並行して行っている。

 

 詠唱が終了すると同時に、ロリコの両隣から無数の槍が現れた。

 

「──落ちて」

 

 声に合わせて白骨鯨の背中へ突き刺さらんとする。金属と骨が擦れる音。火花が散っているが確実にそれは削られていた。

 

「やっぱうまいんだよなぁ……」

 

 ロリコが感嘆の声を漏らしつつ、斧をグッと構えた。いつものように腰を捻って、身体全体から漲るパワーをぶつける。

 槍によって穿たれた背骨。ミシミシと再生しようとしているが間に合わない。

 

「ちぇすとーッ!」

 

 一回転。

 横降りの一撃が見事心臓部を切り裂いた。

 白骨鯨の身体はヒビが入るように崩壊を始めている。呻くような声と共に散りとなって崩壊しようとしている。

 

「あっこれ着地大丈夫な───」

 

「【蜘蛛の網】【反発】【トランポリン】」

 

「ふかふかでワロタ」

 

 寝たことのないウォーターベッドの上に飛び込んだかのようだ。

 高級ベッドの上で背中から跳ねつつ、身動きも取らずになすがままにされていたところでガチャリと扉が開く音がした。

 ボスの撃破は果たされた。あとは奥の宝物庫から財宝を回収して帰宅するだけだろう。

 

「あー、うん、手助けしてくれてありがとうポプラちゃん、分け前はどのくらいにしやす?」

 

「気にせずどうぞ。主な目的は済みましたので」

 

 ポプラは扉の先に目もくれていない。

 はなから興味がないらしい。

 解説系の配信者らしく、身の入りになる金銀財宝よりも周囲を調査して得られる褒賞の方を比重を置きくしているとも言えた。

 とはいえ、念の為確認を取っただけなのだが。

 

「いいの? 10割持ってっちゃうけど」

 

「まさか。ここで私が持って行ったらただのハイエナですよ。ロリコーンの皆様に荒らされたくはありませんし」

 

「久々に聞いたな私のファン名称。前から見てた?」

 

「いいえ? 一方的に詳しく知ってるだけですよ?」

 

「なら同じだ。私もまあ知ってるよ。じゃ、お言葉に甘えてもらってくるね」

 

 蜘蛛の糸を足裏から強く踏みつけて、扉の先まで飛んでいく。

 一連の流れと後は変わりない。中のものを回収して、それで配信は終わりを迎える。

 

「ま、当然だよね」

 

 宝物庫から出てもポプラはそこにいた。

 魔力をふんだんに激らせて、こちらを見据えて。

 今から戦闘しますよと言わんばかりに、こちらを見つめていた。

 

「じゃあ、やろうか」

 

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