【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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ポプラしばく① ~ガチロリ~

 

「何も、不思議なことじゃないよね。ダンジョン管理機関(上の人)からこう言われたんじゃない? “ロリコ・リコを発見次第速やかに確保しろ”とか」

 

 蜘蛛の糸の上に立ちたくないので扉からひょっこり顔を出しながらそう言った。

 なんとも情けない立ち振る舞いだが警戒するに越したことはないのでこのまま続けようとする。

 

「……そうですね」

 

「好きじゃないんだよな。私の切り抜きチャンネルを管理してるのもどうせあそこだろ。誰が管理してるか知らないけど、金返せって言っといてくれない? 繋がりあるでしょ?」

 

 事実、斜海ダンジョンへの攻略した日の夜にその命令が来ていた。

 攻略と確保。発見次第という言葉が肝で、あくまでも偶然見つけたら確保に急げという意味合いではあった。

 応じる言葉は少し弱く聞こえたが、これから行うことは目に見えている。「まぁいいや。あとで文句の一つでも言ってやろう」言い終えてから改めて息を吐いてポプラを見据えた。

 

「じゃあ改めて私の自己紹介しようか。ホイチューブで私を見てる初見の人にも向けてね」

 

 規制のされていない、本物の姿がホイチューブ上に映し出されている。

 考慮すること? 何一つない。彼女はいつも通りに配信をするだけだ。

 

 扉の前で仁王立ち。

 腕を組んでは顔を厚く、口角を釣り上げて見下すかのように。

 ない胸が強調されることはないが、着ている服がスク水なのでそれらしいものは浮かんだ。

 

「やっほー♡ ロリコ・リコでーすっ! 趣味はダンジョン配信! 専ら初見攻略を掲げてるよ! 配信歴は3ヶ月くらい──

 ずっとダンジョン配信をして日銭を稼いでるよ! いぇーい!」

 

 ピースサインを描いて可愛らしくアピールした。その光景に、どこか恐怖を覚える視聴者がいたりする。

 

 現代日本において、ダンジョンが現れたのは100年ほど前だ。当時は免許なんてものはなく、魔力という概念に触れ始めた時代。

 何もかもが試行錯誤。力の使い方を誤れば、誰かが簡単に死ぬ。地球に生きる人類が突発的に身につけた力が台頭し始めた頃だ。

 

 技術は革新化した。

 魔力によって生成された物質は残り続け、エネルギーの代用として役立てられた。

 ダンジョンが現れた頃は近代兵器を用いての戦闘が行われていたと言われている。

 無駄に終わったが。魔力を帯びない鉄の兵器ではモンスターを討伐することは叶わず、当時の人々は窮地に陥った。

 だからこそ力の扱い方を学び、深めることによって人々は進化した。

 魔力に適合し、力を自在に操り、モンスターを狩る。絶え間なく増え続けるダンジョン、各地の対応に追われながらも攻略者として集まった者は冒険者と呼ばれ、攻略を繰り返した。

 

 ただ、年齢に制限はなかった。

 子供でも力の扱い方さえ理解すればモンスターを一撃で葬ることができる。

 下手な大人よりも柔軟な発想で効率よく攻略が進むモノだから実践に使うことが許容されていた。

 当時は難易度で括ることもできないくらいに情報が足りない。だから戦力を存分に注ぎ込んだ。

 

 時には全滅することがあった。

 大人も子供も関係なく、戻ってこないという報告だけが回ることがあった。

 映像にとどめるにしても持ち帰らなければ意味はない。守り抜かなければ意味はない。

 攻略の最中を中継し、攻略が一度失敗しても次に繋げられるように試みた。

 

 全滅を機に医療に力が回った。

 魔力による人間の進化は大きい。

 どこが進化したか、一番を上げるならば誰もがこう言うだろう。

 

 欠損した箇所を治すことができるということを。

 指も、腕も、足も、光も、触覚も、聴覚も。

 魔力を介した治療によって、心臓がとまらない限りは元に戻すことに成功した。

 とはいえ、治療側には負担がかかるので、ライセンスを持っているものと、相当の金額を支払われるものにのみ限るが。

 

 そうして攻略が突き進んだ。

 トライアンドエラーを繰り返し、攻略が断念された箇所、余裕な箇所と区分が続々と生まれていく。

 

 全滅と攻略を幾度となく繰り返し、難易度の区分けが固まった。

 そうして子供を戦力として換算するのはいかがなものかと、その声がやっと通るようになる。

 

 繰り返し続けて50年近く。

 

「法整備が果たされて、ライセンスが発行され始めて、安全面が保障されてようやく確立されたのが──ダンジョン配信。

 ライセンスを獲得できるのは18歳から。最初は15歳くらいだったけど。それまでに学校に通う子供たちは己が持つ魔力の使い方を学び、自衛する手段を確立していく。

 初めてダンジョン配信の概念が生まれた。華麗な技を見せたり、最速最短攻略、高難易度ダンジョンの攻略とかね。

 ギルドに所属したり、事務所に所属したり、あるいは個人で活動したりしてね。ダンジョン攻略が多角化されて、挑まなければ安全が保障される高難易度のとこなんて誰も行かなくなった。

 ここだってそう。横土(おうど)桜火(おうか)だって、放っておいても危険がないから行く必要がないからね。攻略の優先度としてはかなり低い。

 子供たちは寄りつくことはない。だって危険だからね。そういうふうに教育されるさ」

 

「だからあなたが活躍されると困る人がいるんです」

 

 ポプラが口を挟んだ。

 ロリコの語る内容に嘘はない。

 普段のおちゃらけた子供らしい言葉並びはそこにはなかった。淡々と、大真面目に語っている。

 ダンジョンを配信するというエンターテイメントは安全という土台の上でようやく成り立っている。

 実力、医療、情報。統合されて齎された安心があるからこそ視聴が可能となる。

 

「配信サイトはライセンス持ちしか基本見ませんから。検索しようとしなければ基本的には出てきません。ですが、ロリコさんは目立ち過ぎです。さすがに」

 

「サンキューwhipって感じ〜。あそこ運営してるの日本じゃないからさ。いかに規制を走らせようとしても知らないふりして逃げれるもん。ホイチューブはAIゴリゴリに走らせたり注釈付けて誤魔化してるもんな」

 

 ホイチューブを運営しているのは日本だ。

 日本で最初にダンジョンが生まれ、高頻度でダンジョンが増えたこともある。

 理解度も対応力も最前線を突き進んだ。配信を許可していたのも真っ先にそう。

 

「日本が私の存在を許すわけないじゃんね。一応知ってるからね? 日本が他の国に私のことをなんて言ってるか」

 

「彼女は18歳です。魔力で見た目を偽ってるだけです」

 

「それなんてエロゲー? って感じだよね!」

 

 あはは! と、少女は笑った。

 その時に18歳になる学生全員にライセンスが交付されるようになる。自分のステータス、魔力量、諸々記載されたライセンスを。

 

「でも日本は私を止めなければならない。だってそうでしょ? 実際10歳なんだから。本物の子どもがダンジョン配信を行うことを認可しているとレッテルを張られたくないからね」

 

「そう。あなたはライセンスを持っていない。死んだらそこで終わり。部位を欠損しても治療を受けられない可能性がある」

 

 そのためのノーダメージ配信。

 死ねばそこで終わり。死んでしまえば日本は子供をダンジョンに潜らせて配信させた挙句、ろくな治療も受けられずに死なせてしまったと言われるようになる。

 

 立場が危うくなるのだ。それだけは避けたい。

 故の苦しい言い訳。

 

 見た目は18歳です。

 魔力によって生まれた兵器です。

 見た目が子供なのは相手が油断するからです。

 

 通るか通らないかで言えば五分五分。持って行けたのはロリコの実力が伴っているからと言える。

 誤魔化しが効いてるのは、現代ファンタジーと化した世界の中で“なくはない”と思考させる力をロリコが持っているからだ。

 

「あと8年待てなかったのですか?」

 

「待てないね」

 

「それは血縁者がいないからですか?」

 

「いやほんと詳しいな。それが原因で学校に通えないとかはあるけど。理由はそこにないよ」

 

「お金が欲しいから?」

 

「それは二番目の理由なんだよね! 生きて暮らすためには自分で稼ぐのが一番!」

 

「なおさら保護を──」

 

「でもそれじゃダメなんだ。あくまで二番目の目的なのだから。私は……」

 

「ただ、単純に」一度言葉を止めてロリコのドローンに目線を向けた。

 数ある視聴者の中、その人に向けてか。ただ一人の人間に対して宣言するように、口にする。

 

「復讐したいんだ」

 

「……誰に?」

 

「言葉が通じるモンスター。知らないとは言わせないよ」

 

 コメントの流れが一瞬止まった。

 ガヤガヤと言葉を並べている中で、一瞬だけ止まった。

 

「10年前だよね。とある4人組の配信者グループの、メンバーの1人が惨殺される光景が映ったのって」

 

「…………」

 

 10年前に行われたダンジョン配信。

 とある女子高生の4人グループの攻略の姿。

 当時彼女らは優れた実力を持っていた。下層を難なく突破し、時には誰もが攻略に叶わなかったダンジョンさえも攻略せしめた集団だった。

 

 人の死は突然だ。

 いつも通り攻略配信を行い、配信場所として桜火ダンジョンに決めて、光景をインターネットに映した。

 最下層に向かう直前にそれは現れた。

 黒く、人の形をしているのにも関わらず、姿がまるで見えないモンスターを。

 記録には残っている。確かに日本語を口にしてから交戦が行われたのだ。

 

「グループ名はFJK。そのうちのメンバーの1人、藤原カエデが死んだ。彼女の仇を取りたいから、私はここにいるんだ」

 

 藤原カエデとは、ロリコの前世の名前のことである。

 本名だ。配信者には配信者として名乗るハンドルネームがあるが、ロリコの前世、藤原カエデの名前はそのまま本名だった。

 昔死んだ自分のことを言っている。

 

「よく知ってます。見てました。その配信」

 

「怖かったよね。言葉が通じるモンスターが突然現れて身体を八つ裂きにしちゃててさ。見てられないよ、本当に」

 

 ロリコは自分の死に方を知っている。

 足を斬られ、腕は砕かれ、腹には穴が開き、最後には首が跳ねられていた。

 自分の死に様は頭に何度も流れたし、なんならその光景を客観視もした。

 

「あなたにとって藤原カエデさんはなんなんですか?」

 

「大好きな人だよ」

 

 自分のことである。

 交友関係があるのではなく、本人そのもの。

 昔死んだ自分のことを言っている。

 

「見つけて殺すんだ。彼女の代わりにケリをつけて、残りの余生のために安心感を得るんだ」

 

「だからあなたはダンジョンに潜るのですか?」

 

「そ。攻略されてないところばっか行くのはそこにいるかもしれないからだね。とはいえ、たまに息抜きするけど」

 

「安価配信とかね」ロリコはポプラとの巡り合わせに偶然性を全く感じていない。

 安価で決めるのは自分だし、コメントしたタイミングで斜海ダンジョンが選ばれたのも偶然の範囲。

 確定した後は別だ。ロリコの光景は全世界に公開されているし、今もなお視聴者数は増加し続けている。

 

「止まる気は?」

 

「しつこいな。ないよ。例え私のせいで知らない誰かが死んだとしても……て、いうかさ」

 

「ここ数年で子供が死んだニュース、そもそもないよね」淡々と言葉を並べた。

 己が負けないためには自分自身が知識を持っていなければならない。

 活動を進める中で今回みたいに止めにかかる人間が現れることは想定済みなのだ。

 

「日本は優秀じゃんね。危険区域に子供をいっさい行かせてないもん。ダンジョンに潜れるのは18歳からのルールを誰もが守れてる。

 誰かが自分の力に過信しても、教師がその上で止めてくる。素晴らしいね。安心という地盤は固められているよ。

 子供たちがダンジョンに行くことはもうないさ。ま、冷静に考えてみても、子供がダンジョンに潜ること自体があり得ないんだけどね」

 

 だから見た目は18歳と言い張られているのだ。一方的な信頼によって初めてロリコが立つ舞台が整っている。

 

 佐伯ポプラは言葉に詰まっていた。

 目の前にいる子供は確かに齢10歳の子供だ。

 ただ頭が回っている。

 お手製のスク水で魔力を回復させるためなのもあるが、目の前にいる彼女は自分を目の前にして余裕さえ感じているように見える。

 

 言葉の裏で何かを仕組んでいるのでは、と。

 可能性が一つ浮かぶと連鎖的にそれが増えていく。

 彼女には捕獲命令が下されている。

 秩序を保つためが第一、面子を保つのが第二。

 日本の、ダンジョン管理機関の特命。

 ポプラにとっては巻き込むなよと一言言いたくもなるが、受けてしまった以上は仕方がない。

 ロリコと同じように人の作為を感じることもあるが、気にしたところで今は関係がない。

 

 とはいえ、ポプラはポプラで止めるべきであるとは考えている。

 それは当然、子供が危険地帯を渡り歩いていることもあるが、単純な理由が根底にある。それが説得の材料になるか訊かれれば、ないとも言い切れる。

 

 これ以上の会話は無駄だ。

 弁を回してもロリコ・リコという少女は今後もダンジョンに潜り続けるだろう。

 

 この先は戦闘行為に発展する。教鞭に立つ大人のように、成人した1人の大人として子供の過ちを止めて、理解させるのが早い。

 何が仕組まれているのかがわからない。

 ならば戦闘のペースを先に握らせてもらおう。

 そこまで考えて、ポプラは閉口していた口を開いた。

 

「これ以上言葉は無用みたいですね」

 

「わかってくれた?」

 

「はい。でも一つだけ、最後に訊いてもいいですか?」

 

「なにさ」

 

「宇賀神リコさん」

 

 その言葉に反応したロリコの目は見開いていた。

 

「えなんで今本名だしたの?」

 

「ロリコさん、あなたの出生は? 記録に残ってないんですよ。あなたが生まれたという記録が」

 

「…………」

 

 少女の見た目をした何かが、斧を構えた。

 グリップを握り締め、自分よりはるか大きい斧を正面に向けて、しかしとぼけた顔をした。

 

「う、うゆ?」

 

「可愛い。違う、小首を傾げて可愛くしないでください。確かに血縁者はいないですが、あなたが生まれた記録はないんですよ」

 

「…………」

 

「配信で孤独アピールしてたのが裏目に出ましたね。本当は何者なんですか?」

 

「…………」

 

(転生者ですって言った方が早いかもしれないが)

 

 何がどうなって、何に転生したのか。

 はっきり言うことはない。

 人語が理解できるモンスターの存在が確認されているからが理由。

 そいつがこの配信を見ている可能性を潰せない以上、変にリスクを背負うのは勘弁したい。

 見つけて殺すのは目標だが、その動機を晒すわけには行かないのだ。

 姿を晒して公開処刑を目標にしているのに、こちらを捕捉していれば逆探知で捉えることができるかもしれないのに。

 それに、仮にあれこれと転生事情を話してしまうと後が面倒そうだから話す気にはなれない。少なくとも多数の人間が見ている前では。

 

 ロリコ・リコがどのようにして生まれたのか。

 知っているのはこの世界においてロリコを含めて4人だけ。

 口にするわけにはいかない。

 言えないで納得できる者はロリコを除く全員には通用しない。

 深く息を吸い込んでから、言葉を並べることにした。

 

「勘違いさせたくねーから言うけど、私が生まれて10年なのは間違いないぜ?

 冗談みたいな話だけどな。

 ただ、私の生まれについては、ちと言えねーな。

 でもポプラも、お前ら、それで納得しねーよな。

 この先は……そうだな。私を負かしたら話してやるよ。約束してやる。

 これ言ったら引退ものなんだけどな。でもいいわ。

 ここで勝てなきゃ私はあいつには勝てねぇ。だから引退含めて勝負を受けてやるさ。

 それでどうだ?」

 

 不屈。彼女の心はどこまで行っても折れることはない。一度敗北を経験したからこそ、言葉を強くしている。

 こんなところで負けるようでは標的に勝つなんてできないからだ。

 

「……そう言うと思いましたよ」

 

「……じゃ、始めよっか♡ 楽しみ〜! ポプラさんの戦う姿、間近で見たかったんだっ!」

 

 

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