:ロリコ的に一番魔力の使い方に長けてるのって誰?
『使い方に長けてるのは……佐伯ポプラ』
それはとある日の雑談配信での話題だった。
『なんで上手いかって? 見た方が早いよ』
マウスを動かして検索エンジンへ。そのまま佐伯ポプラで検索を開始した。
:というなんで普通にホイチューブを開けるんですかね……
:アカウントの年齢って誤魔化し効いたっけ
『コツがあんのよ、コツが』
実際は前世の自分……藤原カエデのライセンスで誤魔化してるだけだが。
解説の動画から攻略の切り抜き動画が並べられている。適当な動画を見つけてそれを流した。
『特徴はやっぱり詠唱だよね』
:あれどういう理屈なん?
:真似しようと思ったけどできなかった
言葉を3つ並べて、並べた言葉を目の前に出現させている。
たったそれだけの魔力の運用方法。
“絶剣”“分身”“追尾”
『やってることは簡単で、頭にまずは出現させたい物質。後ろ二つの言葉で性質を付与しているのさ』
言い終えると同時に空中に無数の剣が出現した。クイっと。手首を前に動かすだけでそれらは前へと進んでいく。
『何が強いって役割を終えた後も残り続けるんだよね。壁は残る、剣が地面に放置されたら手に取って斬りかかれる。しかも自分にだって性質の付与は可能。……なんだこいつ』
……設定完了。“魔眼”起動します。
『魔眼はよく使ってるよね。相手の魔力の動きを捉えているらしいよ。私だったら両手に魔力が集中するから、このあとこいつ斧を作るんだなってバレるね』
:なんでそんな詳しいの?
『本人が言ってたし……。あと戦い方の参考になるかなって何回か見てたし……』
:なった?
『なるわけないだろ』
:草
:そらそうよ
『広範囲に攻撃できる、いわゆる魔法みたいな攻撃だってできるからな。火力も乗っかってるしね。頭の中で描くイメージがそれほど鮮明なんだろうね』
:ロリコとどっちが強いの?
『んなもん決まってるだろ』
「私の方が強いってことがさァ!」
語気は強く。猛々しく気炎を吐くのはロリコ・リコ。飛び出した地面は抉れ、蜘蛛の糸が張り巡らされた空間から切り裂きにかかる。
容赦はない。決闘はすでに始まっている。
ロリコ・リコの事実上の引退をかけた決闘だ。
舞台は変わらず
地面は崩れて無くなったものの、佐伯ポプラが生成した蜘蛛の糸が張り巡らされている。
周囲は上から下へ水が流れている。
勢いはあるものの外傷に至るほど強くはない。
蛇口で捻った水が流れてくるほどの強さ。
だから人が水の先に張り付いていても、切れる心配がなかった。
飛び、空中からロリコは攻め込む。
トランポリンのように跳ねたそれだが、性質を変更して足が張り付くようにしているかもしれない。
かもしれないを、幾度となく潰していくことがロリコの勝ち筋になるだろう。
ロリコの攻めパターンは斧を持って突撃だが、佐伯ポプラは真逆だ。無数の攻撃パターンを有する。
それが実現できている理由は一つ。
「【大気】【凝固】【貫通】……向かって」
空間が歪んだ。
姿は確かに見えないはずなのに、捻れて何かが固まっているように見えた。形がないのにも関わらず、さながら銃弾のようにこちらへ向かってきている。一つに構ったそれ、確かな重さを持つ銃弾と斧が追突する。
「ちゃんと重くて草」
言葉は軽いが身体に感じる重さは本物だ。
弾かれて、飛んできた位置に戻ってしまった。
「【秘剣】」
舞台は変わらず蜘蛛の糸の上。
足の裏が張り付く可能性を考慮して飛びつくように向かっていく。
「安心してください。動きを止めることなんてしませんよ?」
「クソガキだから信頼できないのさ」
「なんだ、クソガキの自覚はあるのですね」
「子供らしく大人は信用できないって言っとく?」
「地図見ながら攻略した口でですか?」
「よく見てるねぇ!」
剣と斧が交わった。
火花が散る。体重を乗せて剣を破壊するように突き進もうとする。
ポプラの表情は変わらない。喜怒哀楽のどれにも当てはまらない無を貼り付けた顔をしながら、モンスターと同じように処理しようと試みている。
「うお」
力任せに弾かれた。
秘剣と呼ばれたそれには何らかの効果が付与されている。両足から糸の上に着地。上下に動くが、しかしへばり付くような感じはしない。
とは言え安定しないフィールドだ。
ボヨンボヨンと跳ねながら出方を窺う姿に緊張感はまるでない。
ロリコの武器は斧。斧以外の武器を使用する気にはならない。相手を舐めているからとか、そういう理由ではなく、単に使いたくないだけ。
糸の上を自在に動くはポプラ。地面の影響をまるでもろとも受けてはいない。
前傾姿勢でこちらに突撃してくる。
明らかに浮いている。地に足を付けずにこちらに向かってきている。
右手に持たれた秘剣を突き刺すために腕を曲げ、ターゲットであるロリコを捉えるように左手を前に置きながら。
おまけに──―速い。後方に跳ねて飛ぶにも、体重を乗せて上へ移動するにも間に合わない。
移動して回避すればどこかに風穴が開く。
相手の狙いをその目で捉えて回避しなければ。
「あ」
呼吸を吐くように出た言葉は、秘剣が光を帯びたと同時に発声された。
糸が足に重なった。
「っぶね!」
背中から落ちるように上体を曲げた。剣が見えない。細く輝くその剣は、確かに目の前に存在しているのに目で捕捉できない。
細く、研ぎ澄まされた光の刃。おそらく【光源】【貫通】の二文字の言葉を付与しているのだろう。
こと対人戦において、ポプラの戦闘スタイルはそれなりに強い。言葉を並べることが攻撃手段だが、言葉に嘘を混ぜ込んで相手の選択肢を増やすことができるからだ。
そして、即座に詠唱、生成、攻撃までの3つの動作をスムーズに円滑に行えるのがポプラであった。使いこなせるのも本人のセンスによるだろう。
咄嗟に両手に斧を生成して交差させた。
作り終える頃には秘剣が降ろされる。
糸の反動で身体が前に動く。グッと、落とし込んでから跳ねていった。
斬られる可能性は確かにあった。ロリコ自慢の武器が配信歴の浅い最強を名乗る女性に負けるはずがないので、斧で受けることにした。
それが通った。内心でヒヤリと汗をかきながら口を回す。
「間に合ったね」
「今のは自信があったのですが……ッ!?」
「衝突した魔力と魔力。どちらかの力が強ければ壊れるのが普通だけど……驚いた。互角だね」
:鯨戦で消費し切ったはずでは?
:回復済みなんだろ。お手製水着で
:絶対互角じゃねーだろ
:詠唱しても内容の理解が出来るしな
:ロリコが優勢かー?
茶々を聞きながす。
糸の弾力を利用してそのまま倒れ込むように再度体重を乗っけた。
斧で挟み込み、斬られない確信があるからこそ、強引に押し込む。対抗して相手は押さえ込まれようとしてくる。これは想定内。
「伸びるね♡」
「……!」
斧の先が伸びた。正確に表すなら、柄の部分が伸びていった。伸ばしすぎるとしなれて扱えなくなるが、伸ばすことに意味がある。
ギロチンよろしく、このまま挟み込むことで剣の破壊ひいては距離を取らせる。
「おっきくするね♡」
わざわざ宣言する。
ジャンケンにて、何を出すかを宣言してから行った経験があるだろうか。
片方がグーを出すと決めて始めれば、もう片方はパーを出してそのまま受け止めるか、こちらもグーを出してチョキ読みの行動が取れるだろう。
あるいはさらに裏を取るか。ここまでいけば普通のジャンケンと変わりないが。
ここにおいて、対面でのジャンケンは性格による読み合いが発生する。
グーを出すと決めたならばグーを出す者。ズラしてチョキを出す者。
一方的にお互いを知っていれば、根拠のない確信によって次の動作が定まる。そして勝つ。
シンプルに相手から見た自分の選択肢を増やすことに専念している。
同時に、相手の行動パターンを削いで、ロリコの知識の中にいるポプラの形に当てはめていく。主導権を握り続けない限り、勝機をつかむことが出来ないと踏んでの判断だった。
だから子供らしく、小賢しい手を使うのだ。
伸ばして大きくする。
シンプルな言葉と、言葉の通りに肥大化する斧。
ロリコのちっちゃなおててでは握ることはできないだろう。
離す直前に腕を交差させれば良いのだから。
斧は水元まで延びようとしている。
ここにおけるポプラの選択肢をロリコは読む。
宙に浮いて押し込む動き、浮いているポプラの顔は一瞬だけ歪んだ。
首元の横には大きく伸ばした斧がある。
「今!」
握れなくなるほど己が大きくなった瞬間交差させていた腕を横に解こうとする。
秘剣は折れた。このまま戦闘不能まで持ち込む。
「【縮地】」
上へ飛んだ。
斧の攻撃範囲から外れる。肥大化させた斧は置物にしかならない。役目を終えて消え始めた。
倒れ込むようにロリコは進んでいたので、お腹から糸の上へダイブすることになったが、構わない。むしろ読めていた。
ダイブ、空中で体勢を立て直しから跳ねてポプラの元へ向かう。
「そうだよね! 上に行くよね! 強引に守っても同じことが続くだけだし、効果付与は間に合わないもんね!」
「【魔銃】」
「……どっちだ?」
魔獣か、魔銃か、別の何かか。ポプラの描くイメージに即座に回答を出せる自負はある。
ポプラが何かを召喚する姿は見たことないが、出来るかできないかで考えれば出来るとロリコは踏んでいる。
知識の範囲ではあるし、ポプラの戦闘パターンを配信を通して何度か見ているからこその自負だ。
知らない攻撃ならば当然思考が挟まってしまう。
魔銃だと確信したのは口にされてから2秒後。
1秒前にそれは完成している。
日本製でも海外製でもない、おそらくポプラが考えたデザインの銃。イラストを配信上で描くのがポプラのスタイル。
日によっては視聴者が案を出した武器を自ら生成することもあった。
白を基調として花柄が付いている。可愛くない機能を付けながら。
現代社会において銃に意味はなくなった。それ以上に強い力を誰もが持っているからだ。
おまけにやろうと思えば自分で作れる。市場における価値は低くなった。
いかに火力に優れていても、自分で作った方が速いと判断される場合もある。需要は減った。その代わり買う手段は増えた。
構造を理解していなくても、こういう存在だよねとポプラが認識する限り、引き金は勝手に引かれる。
銃が生成された。上空一面を覆い尽くす雲のように現れた。銃身が勝手に傾けられて、どれもがロリコに向けられている。
「あ、それ普通に困るやつ」
虚空の彼方。空気が歪んだ。
電撃走らせ螺旋させ、畝るように現れるのは銃弾それも無数に。
ロリコは顔を上げながら向かっていた。跳ねると同時に生成したのはいつもの両刃斧。
かぶを引っ張る童話のように、存在しない地面の上に足を固定して、大きく振り上げた。
「それっ!」
風が巻き起こる。銃弾と追突して勢いが衰える。
ここにおける攻撃は防げた。
ただ大振りをしてしまった。大きく動けばその分隙が生まれてしまう。
「今回は間に合いませんでしたね──―【かまいたち】」
気づけば彼女が背後にいる。
【魔銃】、【瞬足】、そして【かまいたち】手のひらに現れる風の刃をロリコのうなじに向けた。
「う」
横に捻るように身体を動かし、出したくもない可愛くもない声が漏れた。
視線の先にはロリコ自慢のブロンドヘアが切られていた。
「私の自慢の髪の毛が……!」
「たまに見るポニーテールが好きですよ」
「私はツインテが好きなんだけどね……! いいじゃん、上等だよ。ラウンド2と行こうか」