【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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ポプラしばく③ ~草生えぬ~

 

「【飛翔】【固定】【継続】。飛びます」

 

変わらずポプラは顔色一つ変えずに詠唱を唱える。

 ロリコも負けじと自分に対して魔力を流す。

 宙に浮かせてた身体をさらに継続させる。

 ポプラにとって同時運用はお手のもの。

 歪んだ空気をロリコに当てつつ、自身は回避のために魔力を動かす。

 魔力の運用に長ける、というのは頭の中で描くイメージがより鮮明だということ。

 自分の好きなものを投影するのが魔力であり、言葉に魔力を乗せて扱えば己が好きな形で生み出すことができるだろう。

 当然その強度は本人の強さに比例する。

 先刻の白骨鯨との戦闘で生んだ壁が破れなかったのは、単純にポプラの実力が優っていたことを意味するのだ。

 

「しゃらくさいね!」

 

 見えなかろうが知ったことではない。

 あるって言ってるのだからそこにあるのだろう。腕を伸ばして横に大振り、風を帯びた斬撃とポプラが生み出した弾がぶつかり合って、衝突する音が聞こえる。

 相殺されたらしい。

 地面の上に背中から乗っかって、ググッと体重を乗せた。

 すでに飛行しているポプラを追うにはこの手が速い。

 

 :ロリコは下からしか攻撃できないの草

 :上から一方的に攻撃できるけど大丈夫そ? 

 :おいちゃんと勝てるんだろうな

 

「勝てるに決まってるだろ! 賭けは100%私の勝ちにしてるよな!?」

 

 :8:2でロリコが2

 :草

 :俺はロリコに入れたぞ!

 :お前らなんでロリコの配信見てるの…?

 

「薄情者ーッ!」

 

 言い終えると同時に跳ね上がった。その声色に落ち込んでいる様子はなく、むしろ息巻いて目の前にいる学生を倒そうと意気込んでいたりする。

 空中から見下ろすポプラに向けて斧を生み出して投げていく。

 右手、左手。生んでは投げてを繰り返す。

 正確無比の腕と魔力で補う投擲は有効打に繋がることはないし、当然だが外すことの方が多い。

 視界を埋め尽くすため。もしくは攻撃の起点にするためか。加えてロリコは上昇しながら絶え間なく、反撃させまいと果敢に攻め込む。

 ポプラの選択肢を増やすために。投げ込まれた斧には電気が走っているか、鎖が繋がっていないか、それとも別の何かが混じっていないか。

 情報量を増やしていくことで勝機を生み出そうとしている。

 

「佐伯ポプラには弱点があると思っていて」

 

 聞こえるかもわからない声を自分の周囲を飛ぶドローンに向けて、続けてこう話す。

 

 詠唱は三つ並べて真価を発揮するっぽい。

 だから口にする前に面で叩き込めば意外となんとかなる。

 私はそう思ってます。

 

 有言実行。そのために上に飛びながら腕の力だけで斧を飛ばしている。

 だんだんと近づいていく。その間に、腕からの投擲に加えて一瞬、足の指で挟んでいた斧を宙に放ってから蹴り飛ばした。

 その一瞬の動作に目移りが出来ないほど、ポプラの目の前には斧が舞っていた。

 

「こんちくわーっ!」

 

 すれ違おうとする。

 

 下からくる斧に対して壁を生やして防ぎつつ、横にも伸ばして展開するため詠唱を重ねがけしている。

 生成する範囲を自分で決めるため、咄嗟の行動には反応が遅れる。

 これをロリコは弱点だと指摘する。

 

「もうこんばんはの時間ですよ」

 

 すれ違った。

 目線が合った頃にはロリコの右手に斧が握られている。

 背中から跳ねていたのに気づけば空中に立っているかのような動作で、存在しない大地の上を踏んでるかのように構えている。

 腰を捻ってはサイドスロー。直線に投げ込むつもりだろう。

 

「【拡大】」

 

 すでに生成された壁に性質を付与して範囲を大きくする。

 壁の範囲はそこまで大きくない。人1人被せて、その横に少し伸びているだけ。

 使い勝手の良し悪しを判断するなら悪いのだ。

 なぜならその壁はしばらく維持されるから。

 四方八方塞いで仕舞えば身動きが取れなくなる。解除することが可能でも、解除した後の動きまで思考が働いてしまう。

 足元を防いでいた壁を正面にまで伸ばした。

 下を塞ぎ、横は開き、上も開いている。

 彼女は飛翔している。逃げようと思えば逃げれるだろう。

 好きなものを生成できる。一見強いように見えるが、使い方を誤れば敗北までの道は近くなる。

 

 どこから飛んでくる。

 右か、左か。それとも──

 視線は右手に集中している。腰を横に捻って渾身の一振りが飛んでくるだろう。

 投げ飛ばしてくるか、斬撃を放つか。

 それとも雷を帯びてくるか。

 

 目線を離さない。離そうとしないのは後手に回ることでしか対応ができないと判断したから。

 何が来ても対応できるようにするなら壁を前方に押し付けた方が動きとして強いはず。

 そのまま上空まで拡大すれば、ロリコの行動範囲も削ることができるはず。

 

「【放──】」

 

「いいの? こっちに押し付けて」

 

 言葉が止まった。

 右振りの動作。左に回転しながら小ぶりの斧がポプラへ向かって飛んでいく。

 電気を帯びていた。空中移動の際にサイクロプスのアクセサリーから魔力を通していたと判断する。

 ポプラはコッソリではあるが、ロリコの様子をしばらく視聴していた。

 電気を帯びた一撃。火力の塊。いかに壁を強固に作り出したとしても、反映されるのは己のステータスから。

 ロリコの火力が上回っていれば当然貫かれる。

 信頼するのはどちらか。

 ポプラは一瞬だけ考えて、自らが回避することを選択した。

 

「へぇ? 避けるんだ?」

 

 言葉を回して相手の様子を伺うはロリコ。

 直線による一撃と、なおも下から飛んでくる斧に対して上へ移動しようと判断した。

 

「っ!?」

 

「ごめんね? 私足癖悪いからサ。間違えて武器を蹴り飛ばしちゃうことがあるんだ──ところでこっちばっか見てていいのかにゃ?」

 

 頭を情報で埋め尽くせ。

 処理速度を遅くしろ。

 行動パターンを一つに絞りこめ。

 存在しない手数を意識させろ。

 

 ロリコの戦略の根底はこれら。

 ポプラに行動を起こさせたくない。

 口元が開けばそれだけで吹き飛ぶ恐れがある。

 

 ポプラはそれをしてくる。ポプラの本気はこんなものではない。何度も配信を視聴し、心の奥底で尊敬している配信者の一人として見ている。

 敬意をもって相手をしている。ダンジョン配信というカテゴリで対人戦を行う事はそこまで珍しい話ではない。

 ダンジョン攻略程目立ったコンテンツではないものの、死なないという保証を付けつつ自らの力を存分に振る舞い、格付けを行おうとする人種は確かにいる。

 ルールを定めて行うこともあるが、今回は何でもありなのだ。

 ポプラの攻撃の仕方次第では自分が一瞬で敗北する恐れがあった。だから逃がさんと言わんばかりに追撃を行う。そうして動きを止めようとする。

 

 空中から飛来してくるはロリコが蹴り飛ばした斧。飛ばす前との違いは大きさ。

 上がりきったタイミングで、降ると同時に巨大化して落ちてきた。

 サイクロプス戦で使用した同じ不意打ち投げ斧は回転を増しながらポプラのいる方角へ落ちんとする。

 正面は投げ込まれた斧が。

 空中は落ちてくる斧が。

 下方は自らが生成した壁が。

 

 左右に動くよう選択を迫らせる。

 押し込まれた壁は横一線、巨大な長方形で押し潰そうとしてくるだけ。今の上昇速度なら回避は余裕だろう。

 

(どうなる?)

 

 ポプラに対して敬意を持つ以上に、ロリコはポプラに期待をしている。

 自分が死んだ後、ダンジョン配信界隈で目まぐるしく活躍したのが彼女だと思っているからだ。

 派手な戦い方、土壇場での選択、丁寧で分かりやすい解説。

 配信者の見本とも言えるだろう。見た目も可愛い。

 強者として誰もが認めている。

 自分がそれに挑む。力を図る機会としても意味がとれる。だから楽しみにしていた。

 そして、もう一つ。派手な戦い方を主軸としていた炎上前の戦い方が脳裏に焼き付いている。

 ロリコが常に警戒しているのはそっちの方。本音を言えばその目で見て真っ向から立ち向かいたいところだが。

 

「【縮地】【透明】……【飛脚】」

 

「はん?」

 

 ポプラの魔力運用方法は、言葉の頭にこれから行うこと、生成するものを置く。そして後ろに効果を付与していく。

 飛翔を固定したのならしばらく飛行を可能にし、大気を凝固すると宣言すればその大気は凝固する。

 

 つまり、頭と次の言葉だけでも形としては成り立つ。

 最後に貫通や継続をつけることで追加の効果を付与するのだ。最後の言葉はあくまで追加効果。

 追加しなくても別軸で運用することはできる。

 

「!」

 

 ポプラの姿は消えた。

 押し込んできた壁は真っ二つに、空中から落ちてきた斧は空を割いて下に落ちていった。

 蜘蛛の糸が裂かれて、着地する大地は完全に消え去った。

 

「場所を変えましょう」

 

「……いつから後ろに?」

 

「そんなことはいいじゃないですか。それよりここは狭いです。……とても戦いにくい」

 

「なにそれ、言い訳?」

 

「ここで大技使ったらロリコさんのこと消し飛ばしちゃいますよ。捕獲できないじゃないですか」

 

「あはは! おもしろー!」

 

 無邪気で生意気な子供を演じているが、内心ひやりと汗をかいた。

 ポプラがダンジョンの解析を進めるなら大技を使って被害が大きい技を打ってこないと踏んでいたからだ。

 ダンジョン内で、最速で敗北宣言をさせる。

 第一目標として内心立てていたが失敗した。

 

「帰還の宝玉。効果は存じてますよね。設定したポイントにいかなる場所からも帰還できるアイテムです」

 

「おにーさんたちがよく使ってるよ。会社からすぐ帰るのに便利だーって」

 

「コストパフォーマンスに優れてますからね」

 

「で、どこに帰るのさ」

 

「この海域の上です」

 

「へぇ。ダン管じゃないんだ」

 

「連れてってもすぐに逃げられそうなので。悪い子には何が悪いのかを理解させるのが早いかと」

 

「うーん、正解!」

 

 光が周囲を包んだ。ドローンごと巻き込んで、別の場所へ。

 視界を白で包み込み、次に見えたのは黄昏の空。

 日は落ちようとしている。それほどまで長時間配信していたらしい。

 存在しない地面に足を踏んだ。

 地団駄を踏むように強度を確かめる。

 

「【アクリル】【強固】【透明】……ようこそ処刑場へ。シンプルに作ってみました。範囲は大きいし、そう簡単には壊れませんよ」

 

「匠のこだわりを感じるね。真下が渦じゃん。割れたら死ねるね」

 

「割れやしませんよ。ロリコさんが鯨と戦ってる間に置いておきました」

 

 その言葉が保証になるかはさておき。

 透明な大地はどこまで広がっているかはわからない。

 行動範囲が増えた。攻撃パターンが増えた。

 割れやしない、と発言できたということは、ポプラが本気で魔力をぶつけても簡単に割れないと言っていることと同じ。

 

「まずいぽよね」

 

 :まだやってて草

 :これ無理ゾ

 

忘れかけていた視聴者の言葉で思考がクリアになる。

息を吐いて改めて集中。負けるという情けない姿を、これ以上見せてしまう前にロリコは視聴者に向けて、胸を叩いて言う。

 

「まぁ待とうよ。なーに勝算はあるさ。ロリコさんに任せなさいって」

 

 :ない胸張るな

 

 斧を生成。ただしいつもと形状を変える。

 持ち手は細長く、刃は一面のみ。ロボットアニメに出てくるような黒くゴツく、刃先が光ったアクスを手に持った。

 

「【絶斧(ぜっぷ)】【龍の爪】【獣の牙】……あなたの得意で戦いましょう」

 

 ポプラがよくやる詠唱だった。

 剣や槍をはじめとした武器に、自分が屠ったモンスターの力を効果として付与する。

 名前を隠してもくる。対人戦に置いては有効だろう。魔力がイメージを反映するなら、頭の中で描いておけばどれでも生み出せるのだから。

 厄介なことにポプラが倒してきたモンスターは数知れず、とはいえ龍や獣になると絞ることはできる。

 

 :早かったり尖ったりしてそう

 :小学生並みの感想しか出てこない

 :中二病歓喜の言葉並び

 :ポプラちゃん若干中二病だから……

 :若干?

 :速さ自慢のロリコさんもこれは無理やね

 

「お前らどっちの味方なの?」

 

 :ロリコに決まってるだろ

 :言わせんなってーの

 

 ロリコの表情は崩れない。

 強がりではない。ここからでも勝てると踏んでいる。踏んでいるから、いつもと変わらず斧を構えた。

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