【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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2124/08/01 配信外

 

「遊びに来たぞ姫宮ァ!」

 

「お待ちしておりました、楓様、星夏(せいか)様」

 

「ちわーっス」

 

 某所に位置する豪邸の扉を蹴り破って中に入ったのはロリコ・リコ。

 姫宮、と呼ばれたハウスはこの行動に慣れている。蹴り破ったはずの扉はすでに修復されていた。

 なお、星夏はコトコの本名である。

 メイドに案内されるがまま、大理石調の床の上を二人は歩いていく。

 

「ロリコさんへの理解度の高さが伺えるっスね」

 

「私のためにわざわざ蹴破れる扉作らせたの、私が一番意味わからないよ」

 

 配信外、ツバサと分かれてからほんの数時間。

 今日の配信は終わりを迎え、明日以降に備えるべく、やってきたのは旧友の住まう家であった。

 

「あ」ロリコが階段を登り終えて、左にある扉に目を向けて言葉を漏らした。

 

「サイクロプスちゃんのアクセサリーってもう治ってる? 見てきていい?」

 

「かまいませんよ」メイドが言う。「あの人苦手なんスよね」コトコが声を落とした。

 

「なんでよ、あいつ賢いじゃん」

 

「拘りがあるから嫌なんスよね〜……」

 

 パァンッ! 強盗よろしく勢いよく開けた先で目に入るのは研究室だった。

 小学校にある理科室レベルマックスと形容しても良いほどに、使用用途のわからない瓶や液体が棚の中に仕舞われていた。

 

「よっす先生! 私のアクセサリー完成した?」

 

「ちっ」

 

「出会い頭で舌打ちするのやめてくんないかなァ!?」

 

「誰が先生ですか。こんなクソガキを入学させた覚えはないですよ」

 

 先生と呼ばれる女性は姫宮家に仕える研究者である。コトコよりも歳が若い。なんでも才能があるからここで研究しないかと誘われてここにいる、とロリコは把握している。

 

「というか、ロリコくんさァ……」

 

「あっ」

 

 何かを察して一歩下がるコトコ。

 

「1日で何とか使えるようにしろと頼むのは1億歩譲ってよいとして、ズタボロに返すのはどういう了見なんです?」

 

「いやーっ、鯨が思ってたよりしぶとかったのと、ポプラちゃんと戯れてたらこうなっちゃったんだワ。とほほ……」

 

「それで?」

 

「やっぱ水の中に行くってなると弱点突きたくなるものじゃない? 先生もそう思うでしょ?」

 

「そこを譲ると言ってるのですよ。その分データは取れましたし。ただ」

 

「はい」

 

「スク水、作る必要ありました? わざわざお金もかけちゃってさ」

 

「…………」

 

「あなた、結局攻撃全部避けるからいらないですよね?」

 

「や、だってガルカガの魔力再生効果が欲しかったし……」

 

「スク水である必要ありました? 貴重な不死鳥の素材をスク水にしろって言われたの、生まれて初めてです」

 

「そりゃそうっスよ」

 

 飛んでくるヤジ。

 

「アクセサリーだとサイクロプスちゃんでスペース喰うし、指輪とかブレスレットにするにしても小さいし……というか、他に何か案があるの?」

 

「ふむ」と先生と呼ばれた女性は付けていた眼鏡をクイっと押して間を貯めてから真剣な面持ちで口を開けた。

 

「ビキニじゃダメだったの?」

 

 そこかよ、とコトコは内心思ったが黙った。

 ガサガサ動く草の中をわざわざ突いてクマを出現させる必要はないのである。

 

「え、恥ずかしくない?」

 

 こいつ感性どうなってるんだ、とコトコは内心思ったが黙った。

 13年に及ぶ付き合いの長さ、加えて脳が子供に寄っかかってることもあるのでなにも言わないことにした。

 

「ロリコくんさァ。スク水にしとけばロリコーンからお金をたくさん貰えるという発想を根底に据えて発注したよね」

 

「はい」

 

「はっきり言って、“浅い”よね」

 

「なん、だと……?」

 

 机に置いていたリモコンを操作して空間上にディスプレイを表示させた。

 円グラフや棒グラフに美少女キャラが表示されるが、書いてある内容はさしてどうでもよいことである。

 強いて言えば、今時の創作物で少女キャラクターがどのように描かれているかを示したデータである。

 

「ロリコくんソーシャルゲームやんないしアニメ見ないから知らないと思うけど、今時のロリキャラはフリフリな水着しか着ないよ」

 

「んなアホな!? それじゃあ一人でスク水ならいけるって考えてた私がバカみたいじゃん!」

 

「そうだと言っているが? その手のスマホは何のためにあるんです?」

 

「う、うゆ……」

 

「だから確認したんだよ。ほんとにこれでいいのかって」

 

 実際確認はされた。

 口でスク水の名前は出したがコメント欄でビキニがあーだこーだ書いてあるのも見た。

 ロリコからの返答はスク水一択であった。

 というより、ネットであれこれ調べてもっと可愛らしいものを着るという選択肢は確かにあったが、恥ずかしいので選択肢から外しただけである。

 スク水ならば着たことあるし、動きやすいからという理由の一点張りである。

 

「水着を着た子供の画像なんて二次元しかないんだからそこを意識すればよかったのに、変にリアリティを求めるから……」

 

「うゆ……」

 

「ロリコくんは存在しているようで存在していない妖精みたいな扱いされてるんだからそっちに振り切ればよかったのに……」

 

「確かに……」

 

「あとビキニならデザインに幅が広がるよね」

 

「幅……?」

 

 思考から抜け落ちたという感覚すらない。

 発想になかったという声だった。

 その声に、先生は嘆息をつきつつ解説していく。

 

「年齢、シチュエーション、色、体型着こなしそれら全て含めて数えきれない属性。それらを無視してスク水をぽんだし。あとなんですかあの名札。殴りますよ」

 

「た、体罰反対……」

 

「誰が先生ですか」

 

 ハァと一息付いて、さらに続ける。

 

「センスは自分の感性が現れるものです。それから逃げればなにも残りません。今着ている服の方がロリコくんのことをよく考えられている」

 

 打ち上げ後、服を返そうとしたがそのままいただいてしまっていた。

 感謝の言葉を述べつつ、とはいえ着替えるにも時間がないため、ツバサが選んだ服のままここにいた。

 

「相当好かれてますね」

 

「…………」

 

「無知な子供からファッションモデルの子供くらいには昇格してますよ」先生が加えて言う。ロリコにファッションの知見は皆無だし、見ている視聴者も男性率が高く、ダンジョン攻略と買い出し以外は配信に入り浸ることが多いため知識が薄い。

 頼れる同級生もファッションのセンスはない。

 

「…………」

 

 あ、これ自分も刺されてるなとコトコはなんとなく自覚したため、目線を逸らして先ほどから閉口していた。

 是非もなし。

 

 ツバサはロリコのことを好んでいるという証拠なのだろう。好きな人の可愛い姿が見てみたいという現れ──

 

「ん? ということは普段の私はセンスが皆無って見做されてるってこと?」

 

「そうだぞ。おい聞いてんのか育ての親」

 

「すみません……」

 

 いよいよ刺されたので目を伏せる。

 

「ま、あなたはまだまだ子供ですからね。これくらいの選択ミスは許しますよ、これくらいはね。これから学んでいけばいい」

 

「せ、先生!」

 

 ガシッと右手で握手。

 なにを見せられているんだあたしは、とコトコは腕を組んで内心思った。

 

「アクセサリーは完成させました。リチャージ機能はもうないです。好きに使ってね」

 

「先生大好き! ちゅっ!」

 

「児童ポルノで捕まるからマジでやめて」

 

 しっしと手の裏を振るう先生。

「あ、それと」机に置いていた袋をロリコに向かって投げた。難なくキャッチ。

 

「ちゃんと薬飲んどけよ。無茶してるんだから」

 

「先生愛してる! んちゅ……」

 

「もしもし警察スか? 目の前で事案が」

 

「おい止めろよ親代わり」

 

「止めてるじゃないスか」

 

「直接!! 止めろ!!!」

 

 

「桜は息災ですか?」

 

「えぇ、なにも変わらず」

 

 先生の研究室を出た後、外で待機していたメイドに案内されて敷地内を歩いていく。

 広い室内から外に出て、さらに歩いた先には病院が見えていた。

 国が運営している、一般的にはダンジョンを攻略する冒険者向けに建築されていた。

 メイドが受付と会話を交わし、3人分のネックストラップを付けてから裏口から入って階段を下っていく。

 リノリウムの床の上、けれども階段を踏む足の音しか聞こえていない。ひんやりとした空気が保たれていた。

 山頂に登って、その場で新鮮な空気を吸い込んでいるのではないかと錯覚してしまうほどに、息をしていて苦しくはならない。

 

 降りた先でさらに室内を歩いていく。広い空間に移動した。明かりが付いている。

 医者がいる。誰かの名前が載っている扉が幾重にも並んでいる。患者の姿は見当たらない。

 

 ロリコとコトコに会話はない。目的地に近づくにつれて、頭の中で沸騰して出てくる言葉は塞がれていた。

 そうして、広々としていた空間内を歩いた先で、一つだけ様式の異なる扉が現れる。

 扉の脇にメイドが留まり、電子ロックを解除した。そして手を重ねて待つ状態。目を伏せており、何をするかを委ねている様子。

 

「……」

 

 ロリコがノックをした。

 先ほどまでの礼儀とは程遠いクソガキ仕草とは真逆に、礼節を弁えた振る舞い。

 誰も驚くことはなく、淡々とそれが終わるのを見守っていた。

 

「失礼します──っと」

 

 声のボリュームは落としてない。

 小さな頃から発声練習は欠かさなかったので強弱の調整は可能。「久しぶりだね」ロリコが扉を開けて、先に進むと、まず目の前にカーテン。

 その先で黒い影が写っていた。

 

「その声は、え、誰です?」

 

「元藤原楓だよ。今は宇賀神リコだけど」

 

「あたしもいるっスよ、桜さん」

 

「ふはっ、知ってますよ」陰の女性が懐かしむように口にする。「カーテンを開けて顔をお見せくださいな」促されるように、ロリコはカーテンを開いた。

 

「……元気してた?」

 

 患者衣を着ているその女性の目は覆われていた。包帯で覆われているはずなのに、確かにこちらの姿を認識していた。

 そのことはもう、ロリコとコトコは知っている。

 

「ええ、それはもう」

 

 シーツの上に髪の先が置かれていた。電光灯の光で茶色の髪が輝いているように見える。傷んだ様子が見えない。常に清潔感が保たれている。

 

「治った右手の調子はどう?」

 

「まだまだですね。ようやく箸が持てるようになった程度です。力の入れ具合がわかりませんね」

 

 姫宮桜は元FJKの4人目である。

 

「欠けたものを埋めていく治療はやはり慣れませんね。脚も、腕も、ようやく治ってきたのにこの様ですか」

 

「……そんなことないんじゃないんスかね」

 

「前例がないから、私がそう思うだけなんですけどね」

 

 人語を話すモンスターと相対し、初めに藤原楓が惨殺された。

 

「一般的な人は腕や脚を無くしても、内に流れる魔力を元に治療ができます。ですが私は──その魔力の根本から破壊された」

 

 逃げ切れる直前になって、3人の目の前に現れたそいつは、何もかもめちゃくちゃにした。

 

「0を1にするのはどこまで行っても困難を極めます。もう10年、窮屈ですよ」

 

 二人は五体満足に帰れた。

 残りの一人──桜はそうではなかった。

 実家がいかに太くても、親族も親戚もいない桜の家には、お金はあれど限界がある。

 

「治せるといっても限度がありますし、お金がどこまで行っても足りなくなる。全て治そうとして100億円。途方もない」

 

「10年弱でコトコが気合い入れつつ私を育成して、裏方のアレはコソコソ地盤を固めつつ。50億を超えるのに10年はきついよ〜!」

 

「でもロリコさんが表舞台に立てばその分お金は増えますからね。だからうんちぶりぶりカス機関に一人行った彼女に感謝しないといけないっスね……」

 

「こら、はしたないですよ星夏」

 

「えへへ」

 

 結論から言えば、桜は四肢欠損に加えて失明している。

 得体の知れない異常なモンスターに襲われた結果もたらされた悲劇。生きているだけで不思議だと言われていた。

 ただ斬られたのなら治療に時間はかからない。

 魔力を介する治療なのだから、流れるそれを操作しつつ調整を施すだけなのだから。

 

 根本から切られた桜は別である。

 身体の中で流れていた魔力という概念を切断されたのだ。

 魔力を持たない人間が、魔力を介した治療を行う。だから、時間と困難を極め、人員の足りなさを痛感した。

 

 治すにはお金がかかる。

 いかにお金をたらふく稼げるようになった環境といっても、時間が当然かかる。

 桜の家に治す力はない。国営の病院で治療を開始して10年。

 

 手っ取り早く、早いうちに稼ぐならやはり──配信。

 故の、ロリコ・リコ。

 働き口のない子供が唯一お金を稼ごうとするならばダンジョンの攻略、そして配信。

 

 彼女には経験がある。

 技術がある、力がある。情報を持っている。

 新たに生まれて得た力で対抗するために、10年をすでに費やしている。

 桜は治療に専念しつつ、出来る限りのサポートを回す。その分の治療費をロリコ達が稼ぐ。

 それはFJKの面々が責任を果たすための行為でもあるが、桜の家には頼れるものがいないことにも起因する。

 だから稼ぎ、桜が回復して今までの生活が出来る環境のまま復活してほしい。

 また配信をしてくれるかは別として。

 

 視聴者を惹きつけるほどのインパクトを。

 そして長い間見てもらえるように行動を。

 視聴者の機嫌を取るために安価を取るし、企画は作るし、最終的に収益になればそれでよい。

 

 whip!はロリコたちにとっての救世主でもあった。

 面白そうだからokと軽口叩いた責任を取る気のない責任者には感謝しかない。

 そも、ダンジョン配信とはそういうものである。とはいえ死ぬ気はさらさらない。

 

「魔力も戻ってきましたが、10年前には程遠いですね。ようやく誰がいるのかくらいは分かったというのに」

 

「私を初めて認識した時一番狼狽えてたよな」

 

「友達が死んでて嘆いてたらこれになってましたと、誰が信じますか」

 

「そりゃそうだ」

 

「そりゃそうスよ」

 

「あと星夏が育ててるとか言い始めた時は気が狂ったのかと……」

 

「いや……私たちの中でまともなのあたししかいなかったし……」

 

「は?」

 

「え?」

 

「いや、姫宮家におんぶに抱っこすぎるのはちょっと……」

 

 仕事でも、義務でもない。

 ロリコが、楓が、FJKが。

 それをしたいから配信をする。

 お金はほしい。理由は好きな人を助けられるから。

 いつかは叶う目的であると理解している。

 自分たちをこんな状態にしたあのモンスターをそれ以上に野放しにすることはできない。

 10年は、長いのだ。

 戦えるようになるまで、10年という歳月は。

 幸かはわからないが、その日以降人語を話すモンスターの出現状況は確認されないのだが。

 

「楓さん」

 

「ん」

 

「配信は楽しいですか?」

 

 目が点になり、破顔。

 

「楽しいよ」

 

 それはこの世界に連れてってくれた恩義。

 生きてて希望を見出せずにいた少女を引っ張ってくれたからこそ、掛け値なしに助けたいと思うのだ。

 

「桜ー? あたしも楽しいぞー?」

 

「あなたは私以上に私のことを理解しているでしょう? 何が言いたいかくらい言わずとも」

 

「言葉が欲しいんスよ、こういうのは」

 

「ならここにいる二人に向けて言いますね」

 

「ありがとう」ただ、それだけで良い。

 ただ、磨かれ、築かれた友情が、何年も紡がれていた。

 それだけの話なのである。

 

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