【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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冒険者ランクSSSのプロが送る新宿攻略配信 前編

 

 “そんな発想だから、あなたはいつまで経っても子供なのですよ”

 

「…………」

 

 最悪な目覚めだ、と自室天井の白い壁を見ながらツバサは思った。

 舌打ち。眠気が未だにあるが、どうにも頭が冴えているように感じる。

 

 日付は8/28。新宿攻略日であった。

 陽の光が強く感じた。時刻は午前4時半。早めに寝ていたが寝付けが悪かったらしい。

 集合時間は10時と知らされている、がツバサは都内に住んでおり、新宿からはさほど遠くない距離に住んでいる。時間への余裕があった。有り余るほどに。

 

 二度寝をしても問題ないだろう、と思って目を閉じた。

 全然寝られねーな、死ねよ。すぐに思考を改めた。

 仕方がないので、かけていた布団を蹴り飛ばして、むくりと上体を起こした。ガンガンに効かせたエアコンの冷風が肌に通って少し寒い。

 ベッドから離れて歯を磨き、顔を洗う。

 

「朝食……」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら移動。

 整然とした部屋を歩く。障害なんてものはない。前日のうちに用意していた菓子パンを口にする。

 味は普通。甘みが広がるだけ。

 

 スマートフォンを起動した。

 ホイチューブ上の自分のアカウントを見てみる。

 登録者数は5万を超える程度。他と比べれば多いように見えるが、しばらくこの数字で停滞している。生放送の視聴回数、アップロードされた動画も一定数からはみ出ることがない。

 言い換えれば固定客がそれだけ付いていることを意味し、新規が増えてないことも意味する。

 

 自分の予想していないタイミングで再生数が跳ね上がることもある。先日のロリコとのコラボがそうだ。

 合法ロリと違法ロリの異色のコラボレーション。それの影響で登録者数は少なからず伸びてはいる。

 

 お金を目的として配信をしているわけではないが、多くの人に見てもらいたい。

 健康で文化的な生活を送れているとはいえ、欲張りたくなるものである。

 

「弁慶倒したら登録者数2倍は増えないかな」

 

 インターネット掲示板、SNSで自分の情報を探ってみる。何割かはロリコの話題に添えてツバサのことが綴られている。

 概ね好評。嬉しさが勝る。自分にとって──大人としてどうかと思うが──憧れの存在として見ているため、純粋に喜ばしいものであった。

 血生臭いコンテンツはあれど、けれど華がある。技で魅せて、強さで魅せていけば自ずと人の目に留まり続けるのだ。

 

 そうニマニマしていたところで通知がくる。

 単なるトークアプリの通知だ。開いて、送信者の名前を見た。

 

「!」

 

 先日連絡先を交換したロリコからであった。

 ロリコとコトコは新宿に参戦する予定を立てていた。

 どこかで合流するとまで、話を進めていた。

 好きな配信者と共に行動できる。その事実だけで鬱屈とした気分が飛んでいった。

 何が来た? 今日は頑張ろうみたいな話だろうか。

 何が来ても尻から天井に飛べるくらい喜べるだろうとツバサは考えていた。

 

『ごめん! 新宿に行くの遅れるわ!』

 

「うそやん」

 

 目の前にあったテーブルに頭から落ちた。

 

 

 買い直したドローンの調子は好調だった。

 専用アプリと接続して、音にズレがないかを確認する。「あ、い、あ」ボリュームも確認する。

 配信中に音が大きいと指摘が何度か来ることはある。

 自動的に調整していても、視聴者が不快に感じてしまうことはある。予め行うことをツバサは習慣としていた。

 

「……ここだね」

 

 渋谷区の、新宿との境目にてツバサはそう口にした。

 時刻は9時。早く来すぎたかと杞憂していたが、周りには似たような格好をした冒険者と配信者で固められていた。

 目の前にはこの先新宿区の看板が。その先は薄い壁で閉ざされており、先が見えない。

 

 言い換えれば結界。こちらからは進入可能。出られるかは不明。カメラを一度送り込んで破壊されることはしばしば。

 調査のために人を入れて、帰らないことも多々。 面白で訪れた配信者が命を落とす話もあった。

 新宿から帰還したものは口を揃えてこう言う。

 “知らない場所”だったと。そうして封鎖された、ランク付け不可の危険な場所だからと。

 そんな場所に彼らは挑む。

 

 集合場所は1箇所ではなく4箇所で。中野区と千代田区、豊田区も含めてだ。

 参加人数をツバサは把握していなかったが、SNSを見ている感じだとかなりの人数が集まっているといえた。

 

 危険を顧みない10億争奪戦。

 力量を把握しているもの。そうでないもの。

 自分の実力を試したいもの。あるいは別の目的を持つもの。

 各々が目的を持ってこの場にいる。

 どこかで見たことあるような顔が、常に周りにいた。

 

 その対象にはツバサも含まれており、視線がこちらに向けられることもあった。

 とはいえ、関係はないが。

 

(とりあえず笑っとこうかな)

 

 好きな配信者ならば配信外でも常に笑っているだろう。不定に笑みを浮かべながら、その時を待とうとする。

 

 ハンティングが始まろうとしていた。

 新宿攻略戦線は、簡潔に言えば弁慶を倒して新宿を解放しようというもの。

 新宿はダンジョンと化している。大元のボスはミノタウロス。巨体にして巨漢。巨大な斧を振り回し、ビルを薙ぎ倒す姿を印象に持つものが多い。

 それを下したのが弁慶。当時の最新兵器らしく、持ちうる手段を用いてミノタウロス含めた全てのモンスターを殲滅した。

 戦闘終了後に暴走し、新宿を占領するモンスターへと変貌。向こう数年はボスとして位置している。

 なお暴走の原因は不明。

 

 新宿がダンジョン認定されたのも随分前、街中にモンスターが突如として現れ、しかし新宿という枠組みから出てこなかったからである。

 ダンジョンが存在する都市、というわけではなく。街そのものがダンジョンとして上書きされたのである。

 当時は危険なモンスターが区域内に跋扈していた。

 避難のために時間は取られ、けれどその間に戦えるものが応戦していく。その循環を繰り返して数ヶ月。ようやく人一人いなくなったところで、対策会議が開かれた。

 数が多く、駅を根城にしたミノタウロスの影響ゆえか、どのモンスターも凶暴にして攻撃力が高く、下手を打つと殺される。

 

 そこで当時のダンジョン管理機関は提案した。

 人ではなく機械を。魔力を帯びたロボットに魔力を帯びた武器を持たせ制圧をしてもらおうと。

 国内外の専門家を集めて行われた一大プロジェクト。数多くの武器を扱ってほしいからと、そんな安直な理由で付けられた名前が“弁慶”。

 巧みに武具を扱い、モンスターをばったばったと快刀乱麻。さながらその光景はアニメーションを思い出させるような姿であった。

 自動操縦で動くそれは永久機関。止まることを知らないため、モンスターを倒すという命令を実行し続ける。そんな存在。

 

「よ〜っす」

 

 :よぉ

 :おはよう

 :一人だけ? 

 

「ロリコさんたち遅刻らしい。待機枠はあるよね?」

 

 :ある

 :本人もコメントで遅刻するって残してる

 :ここで逃げる方がロリコじゃない

 

「そりゃそうですよね」

 

 配信可能時間に入った。

 そこかしこの配信者が状況を説明しつつ、これからのことに対してあれやこれや、コメントを残している。

 イベント日だから視聴者数が上昇──するわけもなく、1000人いかない程度の人数が集まっていた。

 他の名の知れた配信者の配信に目を向けているからだ。

 

「ところでマイクとカメラの調子どう? 可愛い顔、見えてます?」

 

 :見えてるぞ! 

 :普段の3倍可愛いぞ! 

 

「でか〜」

 

 彼女の基準ではでかいらしい。

 カメラが捉え、映すツバサの姿を例えるならばファッションモデルに選ばれた女子小学生。

 竹下通りを歩いていたらスカウトマンに声をかけられて、スナップを1枚取られるような、少し背伸びした少女。

 

 日常感を出しながらも、これから行われる非日常感との間に生まれるギャップ。

 そして子供のような姿見を持って、合法的に子供が戦うエンターテイメントを確立する。

 それがロリコが現れる前のツバサの配信スタイル。

 

 これならば人の目が集まるだろうと考えた末の戦略であった。後に本物が訪れたことで視聴者を少なからず奪われていたが、けれども数字を保つことはできている。

 

「説明も終わったみたいだし、そろそろ行きますかー!」

 

 ふんがーっと言わんばかりに両腕を掲げて身長より少し大きい鋏を作り出した。

 持ち手を桃色に染めて、本来ならば指で挟む箇所に名札がついている。

 

 背中にそれを備え付け、開始時刻になると同時に駆け出した。

 

 :いってこい! 

 :首を切る姿を見せろ! 

 :死ぬなよ! 

 

「死にません!」

 

 さて。

 実に数年ぶりとなる新宿の姿がカメラを通して世界に配信されることになった。

 集まった配信者は数えるに100人以上。

 ホイチューブ含めさまざまな配信サイトではその様子を見守る視聴者の姿も多く、言い換えればその分収益が配信者にも、運営するサイトに還元されていた。

 

「弁慶を倒すのが1番の目的だけど、その後のことも考えると新宿にいるモンスターも全員倒さないとね」

 

 弁慶を倒した先にあるのは新宿の解放である。

 全員倒す。齎されるのは情報であり、最低限歩くための準備が整えられる。

 ダンジョンとして確立された場所だ。モンスターがリポップする可能性は十分にある。

 あるいは、弁慶を倒せばこの地域のモンスターが全て消えて、人が住まう大地に戻るかもしれない。

 

 だからこそ追加報酬が出てくる。

 ランクの高いモンスターを倒せばその分ポイントを加算。弁慶を倒した時点でのポイントを算出し、追加報酬が支払われることになる。

 Aランク級のモンスターを倒せば何百何千万円が与えられることになる。

 

 そんなかもしれないを追い求めて、新宿に侵入した。この先は原宿へ向かうまでの道。

 幼少の頃に車に乗せてもらって走った記憶がほんのりあった。

 しかし。

 

「は」

 

 間抜けな声を出していたのは、気づけば大久保公園にいたからだ。

 本来渋谷から潜入する配信者たちは、原宿を通り抜けて、大久保公園を目指す予定であった。

 周りのビル群は、しかし伸びた蔦で覆われており、照らされているであろう室内は暗く閉ざされている。

 

 そして、何より熱い。

 閉ざされた結界の中で、しかし燦々と照り焼くような太陽の輝き。ビル群より少し上の位置にあるそれ、気にするほどでもなかった。

 今のところ、身体に異常をきたすことはない。

 だからこそ、言葉として枷に嵌める前に悪寒が走っていた。

 

 :? 

 :なんで? 

 

「……なるほどなぁ」

 

 後方振り向けば先ほど入ってきた入り口が見当たらない。結界の内側の部分が目で捉えられない。

 支給されていた帰還の宝玉は3つ。保険のために多く持たされている。

 使えば帰れるのは先駆者の存在で実証済み。

 

 不可解。けれどそれがダンジョン。

 知らない場所であり、常識が通じない場所。

 

 :おい来てるぞ! 

 :モンスターハウス!? 

 

 四方八方、無から現れたるはモンスターの集団。空中から落ちてくるように、コンクリートの表面から沸騰するかのように現れるように。

 知らないモンスターの群れではない。その逆。

 

「うっわゴブリンじゃんきっしょ」

 

 異形の形を成した獣。動物という枠組みから変質したモンスターの群れは、確かにデータベース上に残された存在である。

 ヨーロッパの伝承として記されたそれだが、ダンジョンの存在が確認されて以降、存在が証明された存在となる。

 なぜ伝承として残されたかは不明だが。

 弓を構え、剣を携え、今か今かと殺意をこちらに向けている。

 さらに空中を飛び交うは、肌を岩に変質させた鳥である。すでに周りは包囲されている。

 

 :岩鳥も来ています

 :属性鳥オールスターじゃん

 

 最終目標が新宿の解放ならば、その周囲にいるモンスターも討伐しなければならない。

 報酬はその分弾む。出現したモンスターを倒せば倒した分だけ貰える金額は増えていく。

 撤退に追い込まれても残された情報に価値があれば、その分の利益を得ることができる。

 命をかけた仕事だ。命以上に価値あるものはない。だからこそ、その分金銭は放出されるし、それ以上に支払う必要性が出る場面が現れるのだが。

 

 戦えるものはこの場に数十人程度。

 何人かとは分断されているし、さきほどいなかった人物の姿が見受けられる。

 力自慢のものたちが、わんさかと。経験値を豊富に蓄えた配信者が。

 モンスターが武器を構えて動こうとしていた。

 カメラを構えたものたちが魔力を滾らせた。

 

 :パワーゴリラが動いた! 

 :夏生ツナもきてます

 :美大のタラバやん。生きてたんか

 :セッツ強くて草

 :なんでこいつら配信者の名前全員知ってるの…?

 

 どこかで聞いたような、聞いたことのない名前の面々が動き始めた。

 右を向けば肉体を変質させた大男が力任せにパンチを繰り出し、左を向けば太陽のエネルギーを吸い込んだのか、光り輝くレーザー光線を放つものもある。

 

 最新のマイクというのは便利なもので、持ち主の声のみを正しく捉え、それ以外の人間の声はシャットアウトしている。故に誰もが言葉を発している。

 今の光景を、状況を、正確に口にしていた。

 

 出遅れた、とまでは思わないが目の前にいる状況の処理をしなければならない。

 武器を構えたゴブリンが3匹ほどこちらをじっと見ている。手に持つナイフを、上に投げては持ち手で手に取り、いかにも今から殺しますよと殺意を向けている。

 

「じゃあボクも動くとしますか、弁慶を倒さなきゃ行けないのに、こんなところで足踏みするわけにはいかないよね」

 

 改めて、ハサミを構えなおそうとする。

 瞬間飛んでくる弓矢。最低限の動作で、動かなければ眼球を貫いていたそれを屈んで回避。

 

「いい場面だからカッコつけさせてよね」

 

 返しに右手で、拳の中で鉛筆を作り出して、指先に魔力を乗せてアンダースロー。

 風の影響を受けることもなく、洗練されている慣れた動作でブレることが一切ない。脳みそを突き抜けたそれ、緑の小鬼はすでに絶命していた。

 

「そこのけ、そこのけ──ボク様が通るぞ」

 

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