【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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冒険者ランクSSSのプロが送る新宿攻略配信 後編

 

 大久保公園を目指した理由は拠点を作るためにあった。

 10年前のデータ上ではこの公園にはダンジョン内で生成される魔力が集中して集まっていると見られたからだ。

 いくら古いデータとはいえ、けれどまともな情報が他にない以上は頼りにしたくなるものである。

 

 だからそこを拠点として作り、行動範囲を増やすためのポイントとして配置しようとした。

 裏を返せば、そこはモンスターが集まりやすい場所とも言えただろう。

 侵入地点から距離があり、なおかつ戦えるものが準備を整えられる状態で挑む場所としてプランを考えて、それを説明していた。

 

 誰も知らないのだ、侵入した時点で知らない場所に飛ばされることなど。

 とはいえここに集うはダンジョン潜入歴が長いものが多い。ノウハウがある。蓄積されたそれに伴い、手荒い歓迎を丁重に迎え撃っていた。

 

「モンスターが、多いんだっての!」

 

 舞台は変わらず大久保公園。

 上空で輝き続ける太陽の光を浴びながら、身体の中で魔力を巡らせて相対するモンスターの群れを薙ぎ倒していく。

 

「そいっ!」

 

 ツバサが鉛筆を投げつけた。

 ターゲットの脳天目掛けて飛んでいったそれは、瞬きを許さぬ間に小鬼の額に到達、そのまま突き抜けて消失した。

 両手で構えていた鋏を分断させた。二刀流、鋏の原型を留めない形で首元を切り裂く。

 血、血、血。

 返り血が飛んでくる。汚れを気にするような格好をしていないが、付きすぎるとそれはそれで匂いが残って後々困る。

 

 :後ろ来てるぞ! 

 

「!」

 

 カメラは上空からツバサの姿を映している。

 俯瞰視点。視覚の範囲外、だから視聴者の目線でカバーを行う。

 有効な手段ではあるが、コメントが送られない配信もあるため、ある程度の年季が入った配信者のする行動であった。

 

「感謝!」

 

 腰を捻って一回転、つま先に力を入れながら鋏の大きさを変えていた。回転と同時に見えるのは短剣をこちらに向けているゴブリン。

 手首をスナップ。反射的に動くゴブリン、軌道に合わせて弾こうと試み──短剣が破壊された。そのまま貫いて、首元に刺さって絶命させる。

 

「……?」

 

 首元に穴が空いても、こちらに敵意を向けている。そのまま殴り掛かろうと地面を蹴っているがこちらに到達する前に地に伏した。

 

「即死じゃないのか?」

 

 :ゴブリンって強いけど弱いんだよな

 :群れだと強いやつな

 :1個体で見ても肌も固くないし剣で斬りかかれば普通に死ぬしな。

 

「なんか硬く感じるんだよね」

 

 :気のせいじゃね? 

 

 だといいのだが。

 状況は変わらない。潜入して数分が経過してもモンスターは一向に減る気配はない。

 モンスターハウスとはいえど、限度がある。

 無限にモンスターが湧くことはない、これは通説。

 常識が効かない可能性は常にあった。

 

「こーれ飛ばしすぎると他の人に迷惑かかるな。武器使いの厳しいところですね」

 

 :メリケンサックで殴ってるあいつ死なんか? 

 :ホルモン武田は傷を負うたびに力が増すから放っておいていいよ

 

「いいんだ……」

 

 :人の心配をしている余裕、ある? 

 

 冷静で、しかし冷たいコメントが耳に入ると同時に影が走り始めた。

 岩鳥が岩を落とした。ただの岩とは言わず、魔力を帯びたこれは鉄球以上に固く、落下と同時に大きくなってくるので脳天にあたれば即死もの。

 ロリコ程、脚に自信があるわけでもない。

 面で攻めてくる範囲攻撃になると、回避しきれない場合がある。

 

「避けるのはいいけど、その隙を狙われるのは良くないよな。モンスターもろともじゃん仲間意識とかないんだろうな。

 てかデカすぎ、他の人も巻き込まれるな、なんだこれ。ボクこんなの知らない。岩鳥にしてはやけにデカいと思った。こいつらこのダンジョンに合わせて強化されてる」

 

 :つまり? 

 

「気を抜けば死ぬ」

 

 :いつもと同じやろがい! 

 

 なぜ気づかなかったのか。

 答えは簡単だった。

 

「ほんまごめん。ボクたちが強すぎて気づかなかったんだよね」

 

 :強いならそれでヨシ! 

 

 言葉に合わせてというわけではないが、他の配信者は常に動いている。

 それは見せ場を作るためかもしれない動きだ。目的は弁慶を倒すことにあるけれど、それでも知らない誰かが目の前で死ぬことだけは許されることではない。

 

「ここは任せるべきかな?」

 

 だから勝手に動く。打算があろうとなかろうと。

 単純に、自分が死ぬ姿をネット上に公開したくないし、見せ場を作るために動いている。

 あとはコメント欄が普通に盛り上がるから。

 

「おお」

 

 :おお

 :おお

 

 そうして巨大な岩石は見事に他の配信者が粉砕していた。

 一瞬お前も行けや、というコメントが目に映る。「すまんて、この間に岩鳥殺すから」そう声を落としつつ、目線を上空に移した。

 

「──ま、配信する色々理由はあるんだろうけど。基本死にたくないよな、ボクもそう思う。

 しかし沸き過ぎ、モンスター。これじゃ弁慶を見つける前に体力切れちゃう。このままトンズラしたいところだね」

 

 :韻を踏むな

 :鋏この場だと使いにくくね? シャーペンにすれば? 

 

「いいね、それ採用」

 

 鋏を消してシャーペンが手元に現れる。

 手で握るにしては少し大きめのサイズ。握りしめるというよりも、握れるほどの大きさ。

 上下に振って芯をだした。言い換えれば、それは刀身。黒く、しかし先端が尖ったそれは一つの武器に置き換えることができた。

 

 :レイピアひっさびさに見たな

 :鋏で切った方が早いから使わなくなりがち

 :不遇文具じゃん

 

「い、いや、ちゃんと強いから。強過ぎて出番を無くしてただけだから、ほら、この通り!」

 

 :岩鳥の腹にクレーターみたいな穴が空いてるんですがそれは

 :ただの刺突じゃねぇぞ! 

 

 空気が押し出された勢いから、ぽっかりと穴が開く。ツバサの体格は大人にしては子供とほとんど同じと言ってもいい。

 魔力で補ってはいるものの、魔力を無視した場合の身体能力はどこまで行っても子供のままだ。

 食事をしても、栄養を蓄えても。身長が伸びないままであった。

 遺伝から来るものかは不明だが、小学生と間違えられることには変わりはない。実際、何度職質を受けたことか。

 

「お、やるぅ!」

 

 上空にいる岩鳥が、様々な属性を帯びたモンスターが駆逐されていく。

 しかし減る気配がない。太陽の輝きが増しているようにも感じて、体力の減少を如実に感じてしまう。

 

「と、いうことで。なんでモンスターが湧いているのか、ポイントみたいなのがあればい・い・ん・だ・け・ど……? お?」

 

 :あのゴブリン首の穴空いてね? 

 

「なーんだ、ネクロマンスだったか。話が早いね」

 

 想定していたのは二つ。

 一つはネクロマンス。陰でこそこそ隠れるモンスターがモンスターの死骸を操って攻撃を行うというもの。

 もう一つは無限沸き。単純に減らないということ。この場合は撤退敗走からの弁慶狙いのスニーキングミッションが始まる。

 どちらにせよ面倒だがネクロマンスの方が対応が楽だった。

 死体を操るモンスターが近くにいる。そいつを殺す。これだけで解決する。

 他の配信者もそれに気づいたらしく、血眼になって死体を操るモンスターを探し始めていた。

 

 :伝書鳩パタパタで草

 :そらそうよ

 

「ネクロマンスが出来るモンスターは限られてる……はず。ゴブリンが多いからゴブリンメイジだと思うけど」

 

 剣や弓ではなく杖を持ったゴブリンのことを指す。

 

「しかし見つからないな。空中で周りを見てたけどいない……」

 

 :姿を隠してるとか? 

 :魔力感知どうですか? 

 

「混線してるからきちー!」

 

 :どうせ通ってるのは1匹だろ源泉を探そうぜ

 

 えらい言い振りだがとはいえ的を得ている。

 実際その手の手合いはそういう対応の仕方がセオリーだった。

 

「でも本当に感じないんだよな! 隠すのが上手いみたいだ!」

 

 スティックのりを生成して死体に取り付けて接合させる。もはや戦う理由はない。損耗を避けるにはこれが一番速かった。

 

「遠隔で操るにしても近くにいないと効果は発揮されないはずなんだよな。純粋に物量が多いんだからその分守らせてるように見えるけど」

 

 :バスケットコート側モンスター多くね? 

 :出口付近もいるな

 :あいつ戦わなすぎじゃね? 

 :太陽輝きすぎじゃね? 

 

「……あの人確かに変だな?」

 

 珍しくステゴロで戦ってる人がいる。

 周りにドローンは飛んでいない。別の手段で撮影しているかもしれないが。言葉にするならば戦意が足りていないように見えた。

 確かに襲いかかる鬼や鳥を倒してはいるが、それだけだ。

 

「てかあいつ誰だ? ……こういう時佐伯ポプラとかいれば楽なんだろうけどな、眼がいいし」

 

 :あいつ今海外だぞ

 

「少し近づくけどさぁ……」

 

 感覚的な話ではあるが、生気を感じない。

 こそこそ近づいてみるが、やはり戦っているふりをしているようにしか見えなかった。

 というか、

 

「そういうふうに思わされていたのか?」

 

 隠れるのが上手いとは思わない。

 考えていることがあっていればなかなかに姑息だなとは思うが。

 

「いつもの三角定規! 人間以外ならなんでも拘束できる優れもの! 飛んでけ!」

 

 縦に回転しながら投げられたそれ、その人間は反応に遅れたようで、ワイシャツ部分と三角定規が接触し、巨大化した。

 

「ビンゴ! やるじゃんお前ら!」

 

 :実際認識いじられたら側から見てる俺たちがなんとかしないといけないしな

 :オラッ!催眠! 

 :効かねェ!ここにいないから! 

 

 無線の電話で流れる声が本人の声ではないことと同じだ。

 魔力を介さない電子の声では視聴しているものたちに効果はない。

 有効なのは視覚から作用する攻撃だが、ドローンはこの時自動的にカメラを閉じるか、フィルターをかけるためよっぽどでない限り無効化される。

 催眠と洗脳で苦労させられた過去があるからこそ、ドローンを制作するメーカーには必ず取り付けるようにさせている。

 

「正体を表せ!」

 

 飛んで行く鉛筆。けれど固定された定規から無理くり抵抗して回避を許してしまう。

 正体がバレたから隠す必要がなくなったか、黒い煙を吹き出して成人男性ほどの姿の、肌を緑色とした鬼が現れた。

 ゴブリンメイジと呼ばれる個体がそこにいた。

 杖を持ち、死体を操る。下卑た笑みを浮かべながら杖をこちらに向けている。

 

「気を抜けば認識をいじられる。人一人を完全に操るほどの力はないみたいだけど、軽い洗脳をしてくるのは厄介」

 

 :ほなどうすんねん

 

「さっさと殺す方がいいに決まってるよなァ!?」

 

「死ねーッ!」過激な言葉を吐いて鋏を投げ込むツバサ。その動きに合わせる前にゴブリンメイジは杖を天に翳した。

 瞬間、公園内にいたモンスターは全て液体と化した。「は?」それが誰の声だったかはわからない。液体と化した元モンスターの残骸が一つに纏まろうとしている。

 そして形を成そうとした異物と鋏が接触して、溶解する。

 

 :グレイテストゴブリン! 最強と謳われるゴブリンじゃねぇか! 

 :おいツバちゃんやべーぞ! 

 :弁慶がしばいたやつじゃね? 

 :流石に逃げるべきだと思うんだが

 

「…………」

 

 自然と距離を取っていた。真ん中に陣取っているメイジとグレイテストの二匹。

 その周囲を囲むように配信者の集団が武器を構えて出方を伺っている。

 グレイテストは身長を3mを超える巨人だ。身長ほどの大きさの大剣を担ぎ、それが一振り空を切れば飛ぶ斬撃と化す。おまけに硬い。

 純粋にパワーがあり、頑丈であり、倒すのに苦労がかかるAクラス級のモンスター。

 けれど目の前にいるそいつは身体中が傷だらけで、いつの間にか出血している中、血が染みついている箇所がある。

 

 そしてそれを操るメイジ。何より厄介なのは、今まで戦ってきたモンスターが記録されているデータよりも力があったということ。

 

「A+級はあるんじゃないか? 逃げていい?」

 

 :だめです

 :言うてこの場にいる面々で力を合わせれば勝てるんちゃうか? 

 

「まぁパッと見、A+級の配信者しかいないからワンチャンあるか……? 幸いなのはグレイテストが死体であることだし、不幸なのは操ってるのがメイジということだな」

 

 一部コメントで流れ始めているが、目の前にいるグレイテストゴブリンは弁慶が一度倒した個体となっている。

 行動パターンはある程度把握している。

「勝てないことはないと思う」そう言葉に残して再度魔力を走らせたところで──

 

 異物が胃から込み上げてくる感覚がした。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に口を押さえて、膝から崩れ落ちてしまった。

 太陽の輝きが鬱陶しい。

 上手く動かせない。脳みそがシェイクされたみたいに目眩さえ覚えてくる。

 太陽の輝きで体力が消えていく。

 

 :どうした! 

 :しっかりしろ! 

 :これまずくね? 

 

(……太陽! 何も考えられてなかったけどあれはただの太陽じゃない!)

 

 視界にとらえられない日差しは肌を介して身体の中に侵食しているようで。

 

(毒みたいなものか? 上手く力を発揮できない、拒絶反応が出てるのかこれ。光の中に変なものが混じってる気がする、発声もできない)

 

 声を出すことすら難しい。

 肌が照りつく。この光が死に直結することはない。時間が経過すれば解決はしていくだろう。

 だが、目の前のそれは歯茎を最大限見せて、大剣を持って腰を捻り、構え始めた。

 

(うわやべ、手に力が入らないから帰還の宝玉に手を伸ばせねー)

 

 こんなところで死ぬんかな。

 どうやら周りの配信者もツバサと同じ状態らしく、誰も抵抗しようにも身体を動かすことができない。

 

 終わり? 

 誰もがそう感じ始め──

 

「──全てを諦めてる奴この場にいる!? いないよね!?」

 

 その声はこの場で伏していたものではなかった。

 子供の声、甲高い声でけれどどこかで聞いたことのある。

 公園で遊んでいる子どもの声だ。日常の中で生きている、守られる対象である子どもの声。

 響く、響く、目を向けることはできないが、耳を傾けて聴くことはできる。

 

「弁慶倒さないかんのにこんなところで死ぬ!? ざっこ♡ 配信やめて職に就いたら?」

 

 生意気な言葉遣い。

 けれど実力は確かなもので、高難易度と指定されているダンジョンを何度も攻略している実力派の少女。

 けれどどこから声が? 

 そう考えたところで、目の前が少し暗くなった。

 同時に身体が動かせるようになった。上空を、仰ぎ見た。

 

「私が理解(わか)らせるよ。この場においての最強が私だからサ。新宿に爪痕を残してやる」

 

「ロリコ・リコという名前をね」

 

 振り切られていた斧。その後方には真っ二つに斬られている太陽。

 金色のツインテールが揺れている。

 ジュニアサイズのデニム、英語のロゴが入ったシャツ、その上を羽織る上着。

 

 少しファッションを意識し始めたロリコ・リコがこちらに向かって落ちていた。

 

「間に合ったね」

 

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