【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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ロリ in 新宿 ~10億獲るまで眠らない女~ ③

 

「聞きたかったんですけど」手を繋いで走りながらツバサはロリコに向けて質問をした。「何かな?」前を向きながらロリコは答える。息切れはしていない。

 

 駅方面に向かいながらも都庁方面へと走りを進めていく。周りを見てみればモンスターと交戦している配信者をちらほら見かけた。

 人の死体は現状見えてない。順調に進んでいるのかもしれない。

 

「なーんで新宿ってダンジョン扱いされてるんですかね。ボクら歩いてるの普通に倒壊した街の中ですよ」

 

 :手を繋いでることちゃうんかい

 :シッ。手を繋いでから気分が良さそうだから黙っておくのよ

 :ロリコのチャンネルでロリとロリが手を繋ぐ光景を見られるとは思わなかった

 :ロリ(本物)/ロリ(偽物)

 :偽物が本物に敵わないなんで道理は存在しないが? 

 

 新宿の街並みはかつての景観とは様相が異なっている。倒壊したビル群。コンクリートの上に飛び散ったガラス、破損して動かなくなった車両。

 そしてその周辺を飛び交う謎の丸型の物体。

 輝いて見えるし、攻撃してみても感触がない。

 黄色の空は明るくなることも暗くなることもない。まさしく異世界の様相。

 

 見ているだけで気分を不愉快にさせてくるような、そんな不安を煽る色合い。

 デス太陽のように身体に影響をもたらすことがないだけ幸いだが。

 

 さらに見上げれば瓦礫やビルの残骸が空に浮かんでいる。あの上に弁慶がいるかは定かではないが、何がいるかは確認しておきたくはなる。

 

 現代にある都市がダンジョンとして変質した。

 一般的な考えならばダンジョンは地下の遺跡や洞窟の中など、降った先に存在することが多い。

 ならば、新宿がダンジョンとして呼ばれる所以はどこにあるか。

 

「カテゴリは不明だよね。空間転移がそこかしこに仕掛けられてるから迷宮? それとも実は地下都市があったりしてね」

 

「ありえる話ですね。というか、侵入した途端から知らない場所にいるの、冷静に考えて怖くないですか?」

 

「数年で培ってきたノウハウが通用しないから難易度不明なんだよね。やる気沸かん?」

 

「沸きます。てか報酬が足りなさすぎてむしろ上げろって言いたくなりますね」

 

「いいね。あとでごねるか」

 

 :わるいかお

 :目の前で人が消えたぞ! 

 :ドローンも飛んでるのどういう技術? 

 :魔力で動かしてるから運用者のそれに連結して飛ばされてるんじゃないの? 

 :なる

 

「……大丈夫なんですよね?」

 

「さぁね……って言えるほど薄情でいたくないな。おにーさん達どう見えてる?」

 

 :ドローンが追えてるから生存確認はできてる

 :多対一の時は速攻で逃げてる

 :同じ空間内でしか移動されてない

 :今飛んだ奴は速攻で逃げてた。分が悪かったっぽい

 :10億獲りたいだけなのにここまで厳しいことあるんだ

 :当然なのでは……? 

 

「ふーん。手を繋いで走るのは正解拓だね。何かあってもずっと一緒だよ? ツバサちゃん?」

 

「えまってごめん嬉しすぎて死にそう可愛すぎ、キレそう」

 

「なにがなにでなに?」

 

 顔を赤くしては毒を吐く光景に少し寒気が走ったような気がしたが、季節は夏。気のせいだろう。

 

 :迷宮の由来って駅からじゃないの? 

 

 新宿駅。

 かつては多くの路線を携えていた日本における交通機関の中心ともいえた存在。

 重なる再開発工事、複雑化していく構造、階段を登ったのに目的の場所じゃないから、なぜかもう一度降る必要がある。

 いつのまにか違う線路のプラットフォームに付いてる。

 あと単純に広い。後付けで通路を増やしすぎた結果、揶揄される形でダンジョンと呼ばれたりしていた。

 今は地区内全域がダンジョンである。

 

「実際歩いてただけで変な場所に飛ばされるから間違いではないよな」

 

 ロリコはそう結論付けて、視聴者に語りかける。「人が作った話が発展してダンジョンに変化したりしてな」10歳らしからぬ言葉にツバサは小首を傾げて「どういうことです?」と、言葉を向けた。

 

「いや何、噂話だの、残した伝承だのなんだのでモンスターとかダンジョンが出来てるんじゃないかってネットでよく見かけるからさ」

 

 :陰謀論? 

 

「かもね。ゴブリンなんて最初は民話だしなんなら妖精だからな。生物として成立しててもルーツがどこかは知らないとさ。弱点を見つけて殺すに殺せないよね」

 

「…………」

 

 この人意外と真面目な話するんだなって感心よりも怖いが勝った。

 なんなら少し引き攣った。

 

「殺したい奴がいるからそう分析してるんです?」

 

 聞いてはいけないことかもしれなかったが、知りたくて聞いてしまった。ボリュームは小さく、恐る恐るといった形。

 ツバサは先月のロリコの斜海ダンジョンの配信を視聴している。

 1から100まで画面に張り付いていた訳ではないが、佐伯ポプラとの問答の中で出てきた言葉は頭の中に残り続けている。

 

『復讐したいんだ』

 

『……誰に?』

 

『言葉が通じるモンスター。知らないとは言わせないよ』

 

 齢10歳の子供が目指す最大の目標。

 お金を稼ぐことよりも優先している事柄。

 異常な思考を持っているからこそ本当に子供かどうかわからない、なんて話もしょっちゅう。

 

「手癖なんだ」

 

「手癖?」

 

「ちょっとダンジョンにいた時間が長い時があってね。楽して殺すためにあれこれ調べてたんだよ。生態から伝承、行動パターン、生息地域とかね」

 

 現代ダンジョンにおいて、創作以上に優れている点は情報網が大きいという点だろう。

 誰かが接敵していれば映像を通じて解析が進み、攻撃パターンとして当てはまる箇所を発見することができる。

 日本にいなくても海外にそれがいればそのデータが拾い出されて、対策を打つことができる。

 

 常にメタゲーム。ただし人間側が圧倒的優勢。

 ならばその逆は。

 解析には時間がかかるし、その上で圧倒できればそれが一番なのだろう。

 藤原カエデが接敵したそいつは人間に対する理解を進めており、その上で蹂躙を実現させた。

 両極端なシーソーゲームを避けるために必要なのだ。

 

「まぁ、負けたくないんだよな。単に私は──おっとモンスターか。避けられなさそうだね」

 

 目の前にいるのは毛が生えている人柄のモンスターだ。剣を携えて、こちらの姿を捉えたらしく、足早に向かってくる。それが5匹。

 

 :コボルトじゃんね

 :毛が赤いな。新種か? 

 

「ゴブリンもいつもより強かったんだっけ?」

 

「少し身体が硬く感じましたね」

 

「じゃあこういうことで、新宿ダンジョンの影響で凶暴化したってことで」

 

「手、離すね?」繋いだ手を離して斧を生み出した。少し寂しそうな声を出した気がしたが「この後もう一回握るからさ」フォローを怠らなかった。

 

 ツバサが武器を作る間にはすでにロリコは斧を振り構えている。

 普段通りゴリ押し、それでも目を見張る部分はあった。

 姿勢が低い。

 コボルトはロリコよりも背丈が高い。必然ロリコが上を見上げる形になる。

 膝をかがみながら猪突猛進。けれど目線は常に正面。ツバサ目線からは見えてないが、配信内で何度も見ている動きなので漠然としながらも確信はあった。

 

「ほっ」

 

 歩幅を切り替えていた。

 伸ばしていたものを縮めて、左側から踏み込み始めだと思ったら右側に移動している。

 どうやらコボルトが腕を振るおろす動作よりも速いらしい。剣が空を割いた時点で、すれ違い様にロリコは腹から切り崩していた。

 

 :鮮やか

 :見事

 :棒立ちでいいのか? 

 

「あごめん。見惚れてたわ」

 

 そのまま流れるように残り4匹のコボルトを切り崩していく。武器を持ち、ツバサが構える頃にはすでに戦闘は終わっていた。

 血を払うかのように腕を振る。コンクリートには赤い血が。目の前には地に付したコボルトの死体が。

 可愛さなんて言葉はどこにもない。ただの戦闘マシーンがそこにいた。

 

「ごっめーん! 一人で突っ走っちゃった!」

 

 てへぺろーっと効果音が聞こえるかのように、舌を軽く見せてツバサを見ていた。

 

「ん゛ッ!」

 

 悶絶。

 

「次から一緒に戦いません?」

 

「身体へいきそ?」

 

「へーきへーき」

 

 子供に引っ張られている大人の構図だが、実際のところ手玉に取られている。

 ロリコはわかっていて……やってはいない。普段から、培われていた気遣いをただ他人に向けているだけである。

 28歳の大人ではあるものの、見た目は10歳の子供。目に映るのは可愛いキッズでしかない。

 

 手を繋ぐ理由はワープを対策するためである。

 ロリコはスキンシップを取ることを好んでいるため、一人ではない時はべっとり甘えたがる。

 手を繋ぐ理由? 分断対策だが? 

 至極通る理由だった。

 本人のテンションが上がるので止めるものはいなかった。

 

 :弁慶と接敵@kotoko_nagamine

 :は? 

 

「は?」

「は?」

 

 途端に雰囲気を壊す無慈悲な機械音声。

 打ち込んだのは長嶺コトコ。音声入力を使用したらしい。

 走りを進めてた足を止めてしまった。

 

 :ほんまや戦っとる

 :コトコ優位で草

 :10億おめ

 

「わかった、今すぐ向か──」

 

 :来なくていい走って先行け@kotoko_nagamine

 

「は? なんで?」

 

「弁慶がロリコさんを狙わないのに不満を持ってますよ! 行かせましょうよ! 

 

 :弁慶の首筋に型番を発見子機と見られるっス@kotoko_nagamine

 

「子機ィ?」

 

 製品を制作した際に割り当てられる番号。

 弁慶の様相はネットにすでに流れている。全身隅から隅まで何で出来て、何を持っているのかは調べれば見ることができる。

 弁慶が製造されたのは1体のみである。

 

 :どういうこと? 

 :コトコの配信見てるけど弁慶にしてはやたら小さいし強さもそこまで感じない

 :単にコトコが強いってだけでは? 

 :03って書いてあるのですが……

 :最大でも子機が3体いるってコト? 

 

 つまり、弁慶は10年の間で自分の身体を分析し、新宿内のどこかで生産できる工場を生み出し、そこから自分の分体を生み出した。

 そう考えることができる。

 

「どこで作ってんだあいつ、子供を」

 

 頭の中で考えをこねくり回してみる。

 新宿近辺に建造されている可能性。

 身体が魔力で構成されているから機械部品は偽物である可能性。

 その情報が誤りである可能性……これはないが。

 

 :あ、撃墜した

 :コトコつよ

 :製造元探すからあとよろしく@nagamine_kotoko

 

「撃墜? 随分弱いんだな?」

 

 淡々と流れる報告。

 配信の一部と見られる切り抜きが即座に作成されていたのでそれを見てみる。

 槍を持ち、白き機械の身体で肉薄するこじんまりとした弁慶の姿と、機械の装甲で全員を覆い、拳銃のようなものを両手に迎撃するコトコの姿が目に映った。

 空中戦を行なっているらしい。ビルの上で戦っている光景があった。

 そして数秒後、弁慶の刺突を受け流し、腕を掴んでコトコは弁慶を逃さず、そのまま心臓部に向けて銃撃、発砲。

 

 動力が心臓部にあるため、明確に急所を狙っていく。

 そのまま弁慶は機能停止した。

 

「ずいぶんとあっさりだ。これ10億にカウントされるんですかね」

 

「よくて1000万じゃない? 強さによりけり」

 

 :夢がない

 

 10年来の親友の言葉を受け取って、走りながらも検討が続いていく。

 そうこうしていくうちに都庁が目の前にまで迫ってきた。

 聳え立つは役240mほどの大きさの庁舎。

 倒壊も崩壊もしていないが壁は崩れて風化している。入り口は壊されて開かれているので、侵入は簡単。

 

「そういえば、なんで都庁にこだわってたんですか?」

 

「弁慶がいそうなのと、見つけたい相手の情報があるかもしれないから」

 

「え、初耳」

 

「ここ昔はダンジョン管理機関があったんだよ。大手町に今あるのは移動したからさ」

 

 10年前は都庁内にダンジョン管理機関が存在していた。

 一番最初にその部門が確立された場所がここ都庁である。情報の発信から管理に至るまで全てここで行われていたのだ。

 ピンときたツバサが手のひらに拳を置いて「あ、あー! ありましたねそういえば!」と、思い出したように言った。

 

「ま、何かしら情報があったら嬉しいってのと──」

 

 :なんか空明るくね? 

 :く、くる

 :一瞬見えたぞ! 

 

 轟音と共にコンクリートの大地は割れて煙が周囲に散った。

 機械音。熱を噴き出して冷却を行なっているのか、ダンジョンには似合わない現代兵器による機動音が耳に残った。

 すでに武器を構えている。ツバサはシャーペンを。ロリコはいつもの斧を。

 

「守りに来ると思ったんだよな、最初は。なんか重要そうな情報あるからここをダンジョンにして、籠城してくるんじゃないかって。

「でも子機が出てくるなんて話聞いたら最初に脅威があーだこーだ言ってたの意味ねーじゃん」

 

「……確かに子機ですね。知ってる弁慶よりも背丈が小さく見えます」

 

 蠢く影。煙から飛び出してこちらに突進。

 速い、がロリコ程ではない。手に握られている細身の刀が見えて──―金属音。狙いはロリコ。

 

「いきなりかッ!」

 

 :他の配信者も小弁慶と戦ってるぞ! 

 :略称小弁慶でええんか? 

 :がんばえー! 

 

「呑気だなぁこいつら!」

 

 そんなコメントにレスポンスを送りながら、ロリコの横からシャーペン携えて小弁慶へと突っ込むツバサ。部品と部品の間を狙いにかかる。

 刀と斧は交差して拮抗した状態。突発的な一撃に少し後ずさったロリコは体勢を立て直して、切り崩されないように維持。

 その意図を汲み取ったツバサは右脇から攻めていく。

 

「!?」

 

 が、膝部分のユニットがパカリと開き、そこから小さい棒が噴き出て小弁慶がそれを掴んだ。

 さながらアイスクリームのコーンに似た形状のそれだが、握ると同時に刀身が顔を出した。

 

「二刀流!?」

 

 体勢をとるために一度距離を置いて、入口を守るように武器を構えるは小弁慶。

 

「何が弁慶だお前名前詐欺だろ! 武蔵! お前今日から武蔵な!」

 

 青く輝く二双の剣がこちらに向けられていた。

 

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