【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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ロリ in 新宿 ~10億獲るまで眠らない女~ ⑤

 

「突撃〜!」

 

 都庁内部に侵入。走り幅跳びを行うかのように飛び跳ねながら中に入って行った。

 この中に弁慶がいる可能性を念頭に置きながら散策を続ける。その気持ちで来たのだが。

 

「なんですか、これ」

 

 :なんもねーじゃねーか! 

 :都庁?ビル内?てかこれ

 

「後ろは変わらず黄色の空の中……間違えなく都庁の中ですよこれ」

 

「ライト〜?」

 

 ロリコの声に応じてドローンが点灯。

 次いでツバサのドローンも光を照らす。

 しかし、暗闇。無だ。受付デスクもなければエレベーターの一つもない、根本的に何もない空間がそこにはあった。

 張りぼてだ。上に上る箇所が存在していない。見た目だけが都庁であるにもかかわらず、得られる情報が何もないしかない。

 

「ここが都庁じゃない可能性?」

 

 :そんなことある? 

 :それがあるかも? 

 :こんなんもう異世界じゃんね

 :でも地面はあるんだな

 

「地面?」ロリコはそのコメントに反応して靴の先を地面に向けて、トン、トンと叩いてみる。

 マジックテープ式の靴は点灯し始めた。子供向けのアニメ作品とコラボしてる光る靴らしい。なお作ったのは先生であり、ロリコはこの作品を知らない。

 

「試しになんか投げてみますか?」すでに鉛筆を空中に浮かせながら待機しているツバサ。「よしいけー!」とりあえず大声出して了承。そして放射。

 

「…………」

「…………」

 

 :? 

 :??? 

 

 コツっ、コロコロ、そんな擬音が聞こえた。

 

「ずっと滑ってますよ、これ」

 

「……下に繋がってるってところか?」

 

 腕を組んで目の前の状況を口にする。

 

「ふぅん? ここから下に向かっていくのね、上じゃなくて。この調子だと下にあるのは駐車場じゃなさそうだな。ようやくダンジョンらしくなってきたな? 興奮するね」

 

 :異常性癖? 

 

「ノーマルだろ」

 

 なにもないダンジョン。整備されていない場所ほど暗闇が周囲一帯を支配する。

 斜海ダンジョンは薄暗く、けれど明るさを保っていたが、今回はそうではない。

 ドローンからの光しか頼りにならない。初見のダンジョンで、洞窟の中などを下る際にはあるあるなのだ。

 

「一応周囲に何かないか見ておくか」

 

 ライトで照らす範囲を広げる。

 斧を壁目掛けて壊す手段も考えたが、壊して倒壊下敷きエンドは避けたかったのでやめた。ロリコはそのまま移動を開始した。

松明(まつあき)とかあれば速かったんですけどね」まつあき派かよというコメントを無視するツバサ。入り口部分の壁際に手を添えながらロリコとは逆側に移動していく。

 

「…………お」

 

 やがては終わりにたどり着く。

 しかし壁だ。ただの壁。エレベーターらしきものはない。受付に該当するものはない。階段らしい入り口は見当たらない。

 

 :ここ本当に都庁? 

 

 何度流れたコメントだろう。すでに見飽きたため答えることすら辟易とするが、「座標的に間違いはないんよ」ロリコは特に苦にせず飄々と堪える。やがてたどり着くのは地下につながる階段のみであった。

 外から見た上の階層は全て、ハリボテであったが、入り口が何かしらの手段で隠されているとロリコは判断した。

 

「あるいは、弁慶を倒さんと開かないとかね。有り得そうじゃない?」

 

 そう結論づけて、目の前の階段を見つめる。

 この場でうろちょろしても時間を無駄にするだけだ。

 ならばさっさと先へ進んでしまおう。ツバサと目線を合わせて先に行くことを決める。

 

「階段でモンスターに遭遇するのが一番ヤなんだよな。狭いし戦いにくいったらありゃしない」

 

「正面に鉛筆投擲しながら進んでいきますね!」

 

「ん〜、助かる!」

 

「えへへ」

 

 :えへへじゃなくて

 

 と、いうことで侵入していく。

 土で掘られたような空間ではなかった。材質はセメントで固められた階段、おまけに螺旋状。何者かの手によって施行された階段がそこにあった。

 小さい手で階段部分に触れてみる。ゴツゴツとした肌触り、それ以上でもそれ以下でもない。

 先に進むにつれて風を肌に感じていた。この先は空間状になっていることだろう。

 

「どうする? この先新宿駅に繋がってたら」

 

「ワンデーストリートですか? なくはないと思いますけど」

 

「ワン……? うんそれ、多分それ」

 

「でもこんな通路知らないな……」

 

 記憶をツバサが思い返しているが知識にない通路である。インターネットから得られる情報が全て正しいとは限らないのである。

 適当に会話を交わしながら先を進んでいく。

 

「へぇ、意外とやる奴がいるな、どう戦うか見てみたいな」

 

 途中でもう1体の小弁慶が倒されたとの報告が飛んできた。これで3体破壊されたということになる。

 正体不明らしい。いつの間にか破壊されていた以外の報告がなかった。

 とはいえそれまで。

 これ以上に小弁慶が出現したという報告はなかった。そうして歩き続けること10分。意外に長かった。露骨に光り輝いた空間が先に繋がっているため、否応なく目を細めてしまう。

 

 :なんの光!? 

 :こんなピカピカに輝くことある? 

 

「秘密の部屋的な」

 

「あからさますぎませんか、それは」

 

 そうして明かりの先に目をやると、白いタイルで埋め尽くされた一本道の通路が広がっていた。

 やけに明るい。どこから電気が来ているのかわからない点で警戒度が上がっていく。

 奥に扉らしきものが見えた。

 

「扉の先が宝物庫とか? なんなんだここ、よくわかんねーな」

 

「先に繋がってる可能性もありますよ。この先に弁慶がいたりして」

 

 :小弁慶を生産する施設があったり

 :ここって本当にダンジョン? 

 :上がダンジョンって言ってるからダンジョンだろ

 :ほんとでござるか〜? 

 

「まぁ金貰えるならなんでもいいか。よし、先に進んでみ──」

 

 扉の前の床が開き、そこから一匹のモンスターが現れた。その動きに呼応するように一本道だ通路が横に広がっていく。「なるほど門番か」ロリコは納得したように斧を構えた。

 

「ミノタウロス……弁慶に破壊されたはずでは?」

 

 :破壊て

 

 黒い肌を主として頭部に大きなツノを生やしていたのがツバサが記憶しているミノタウロスだった。

 目の前にいるそいつの肌には白が混じっている。両手にはロリコと同じように巨大な斧を抱えていた。

 リデザインされたのかは知らないが、一つ言えるのは、知らないモンスターとして見た方が良いということ。

 

 :ミノタウロスってなんで新宿のボス枠だったん? 

 :元々は新宿駅の地下にいたんだよ、そこを中心にダンジョンとして階層が伸びてたんだよな

 :ダンジョン変質してんじゃんおもろ

 :僕のデータにないダンジョンだからその情報助かる

 :不思議のダンジョン? 

 

「ちなみに新宿駅って今どんな感じ?」

 

 :コトコが下ってる、ダンジョンらしく入り組んでるから地図を描きながらゆっくりと

 

「他の人は」

 

 :地上でモンスターの殲滅

 

「じゃあここでミノタウロスしばいて扉開いた先にいる弁慶を倒せばいいってわけだ。多分いるだろ。やることが簡単で助かるよ」

 

 思考を切り替える。持ち慣れた武器の感触を2人は確かめつつ、ミノタウロスが佇むエリアに侵入した。

 

「──!」

 

「うっさ」

 

 咆哮。白塗りのタイルが剥がれ落ちるほどのボリューム。耳は塞がない、武器を離せば殺されるから。

 

「ボクから狙うんだ? 舐めやがって」

 

 ミノタウロスが一歩、駆け出したと思えばツバサの目の前に。地に足をつけて、斧を両手に持って振り下ろさんとしていた。

 だが、見えている。ロリコは視界の端で動き始め、ミノタウロスは斧を振り下ろし──金属音。

 

「重いなこの野郎!」

 

 鋏の刃を開いて、小さな二つの腕で崩れないように体勢を保ち続けている。

 ビックマウスとはいえ顔には苦悶が浮かぶ。今でこそ拮抗していれば、数秒満たないうちに鋏は壊されるだろう。

 

「そのためのロリコちゃんってワケ!」

 

 雷を帯びた斧、いつものサイクロプスパワー。

 それも全開、全力フルパワー。横から撫で切るためにスイングする。

 

「!」

 

 流石に喰らうのはまずいとの判断か、振り下ろしていた斧と共に無理やり飛んで天井へ回避。飛び交う地面の残骸、煩わしいだけで外傷には至らない。

「逃すかッ!」振り終えた身体を無理くり動かしてロリコは追跡に動く。その背後で武器を持ち帰るのはツバサ、取り出すのはホッチキス。

 握ったところで、ミノタウロスの逃げ先、その目の前にホッチキスが現れてその口が開かれた。

 

「──カチャン」

 

 閉じられた。頭から潰される形でミノタウロスに襲いかかるのは圧力。上からツバサの魔力と共に圧力がのし掛かる。

「ロリコさんやばいです!」焦りながらツバサ。「こいつボクより強い、ぶっちゃけもう持たないです!」それでも報告は正確に。実力差を恨むことはない。難易度不明の新宿ダンジョンは今や魔窟。無理なら無理と判断して帰るのも手。

 

「十分だよ!」

 

 応えるのはロリコ。応援してくれる者のパワーを変換して押さえつけられているミノタウロスに追いつき、まずは一撃。

 

「クリーンヒットってところか?」

 

 確かに命中し、肉体を抉る感触はあった。

 しかし致命傷に至ったかどうか、自己判断だと仕留めた気にはならなかった。

 

 吹き飛ばされつつも途中で持ち堪えられる。

 そうして、再度ロリコの方向へ向かって動き出す。動き出しは遅い。ミノタウロスの名に恥じない巨漢に似合う敏捷性。

 相手に見境がないのか、ロリコに向けて腕を下ろす。

 

「甘いんだよなぁ」

 

 火花。金属と金属が混じり合う音。力任せに振るうミノタウロスに対して、身体ごと切断されないようにいなし続けるロリコ。

「こういうのはタイミングなんだよな」そう言いながら後方にいるツバサに視線を送る。意図を汲み取ったツバサの手には、すでに三角定規が握られている。

 

「動きが見え見えなんだよね!」

 

 目でミノタウロスの動作を確認してから斧を使わず、横に避ける。斧は地面に突き刺さり、亀裂が走っていく。

 同時に投げ出される三角定規、阻まれることは何もなく、緩やかにミノタウロスとぶつかる。

 肥大化して動きを拘束することに成功する。

 数秒後には破られるだろうが、数秒あれば十分である。

 

「チェストーッ!」

 

 掛け声と共に横に一回転。めいいっぱい力を込めてフルスイングを繰り出した。

 肉体にめり込む感触が斧を通じてロリコに伝わる。壁際まで吹き飛び、煙を撒き立てている。

 

「まだ来るか〜?」

 

「念の為セロハン飛ばしときますね」遠距離からの援護はお手のもの。戦闘スタイルは支援向きと専ら視聴者に揶揄われているツバサの攻撃だ。テープ部分が自動的に動き出し、目的地の方向向けて曲線描いて砂煙が散る場所へ。

 

「破られた……?」

 

 :見た目変わっただけでなんも変わらんな

 :ロリコいけー! ツバサがんばえー! 

 :女児も見てます

 :まだやってて草今どここれ

 :勘だけど、気をつけた方がいいかも

 

「ロリコちゃんもそう思う……うわ現れた。傷は? 修復してたらヤだな……」

 

 :うめき声あげてるわ

 :てかなんでこいつここにいるん? 

 :しらね

 :おおかた弁慶が蘇らせてなんか施したんじゃねーの、知んねーけど

 :弁慶そんなことできんの? 

 :できらぁ! 

 

「弁慶の手が入ってるなら何か仕込まれてそうだな……」

 

 ──ロリコ・リコには弱点がある。

 脚を用いた時に身体に痛みが入ることはあるが、それ自体はさした問題ではない。

 藤原カエデとして活動していく中で、自己の分析を行う中で明確に映し出される弱点。

 想像の域を飛び出せないこと。ギリギリありそうな攻撃手段を頭の中で描きながら行動を取るのがロリコの戦法。

 つまり、予想外の、初見の攻撃には判断が遅れる。見てから行動を取ることができるし、本人もその判断が一番楽だと考えている。

 

「何か仕掛けてきますよ……」

 

 斧を立てた。

 持ち手部分、取っ掛かりの箇所が地面に付くと同時に紫色の陣が描かれた。

 

「は、魔法陣?」

 

 言葉と共にハンドサイズの斧を生成妨害に動いていくのはロリコ。

 だが、間に合わない。ミノタウロスの斧を中心に、領域が広がった。

 部屋一帯を覆うように広がったそれ、同時に、ミノタウロスに向かって高速で飛んでいった斧の回転が減速した。

 

「……?」

 

 避ける動作をする必要もなく、ミノタウロスはただ歩く。呼応するように武器を構え直そうとする、ロリコ。ただ、いつもより自分の動きが遅れているような気がした。

 魔力を身体全体に張り巡らせようとしても、鈍い。

 

「そんなの聞いてねぇよ……!」

 

 ロリコ・リコの弱点は自分の想像の範囲からはみ出た初見の攻撃に対応できないということ。

 小弁慶から送られてきたデータは既にミノタウロスにインプットされていた。

 高速で動いて相手を撹乱し、力任せに見えつつ弱点を見極めて振り下ろす様。

 要は早いだけ。早いのなら遅くすればいい。

 ミノタウロスが生み出した空間は、場にいる者の速さを入れ替えるというもの。

 最も遅い者が最も速くなり、最も速い者が最も遅くなる。ロリコはこの場において一番にすばしっこかった。それが彼女の持ち味だから。

 

 気付いたとしても反応はできない。

 だからロリコは──咄嗟に斧を生成して盾にするように構えた。

 

「ツバサちゃん!」

 

「──へ?」

 

 ツバサから見えた光景、ロリコが斧を構えたその先でミノタウロスが斧を振り切らんとしていた。ミノタウロスの動きが見えなかった──目で捉えられなかっただけ──ため、状況に対する理解が遅れていた。

 だから目の前の光景に、自分の目を疑った。

 

「しばらく頼んだ!」

 

 声を残して、ロリコは後方に吹き飛ばされた。

 鈍い金属音と共に吹き荒れる風、そして衝突音。視線の先にいるロリコの姿は見えない。

 

「……ぇ」

 

 :あこれまずい

 :嘘だろ? 

 :ロリコが遅れた、だと? 

 :なんで?なんで?なんで? 

 :傷は!? 

 :斧とかちあった衝撃で飛ばされたから平気だろ、へーきへーにへき

 

 混乱する思考。混乱するコメント欄。

 目の前の状況の整理に頭が働き、無意識にこの場を離れてロリコのもとへ駆け寄っていた。ミノタウロスはその間動いてこない。

 それが何を意味するかは不明だが、今のツバサに並行して考える思考力はない。

 駆け寄る。外傷は……見当たらない。無造作に地面に置かれた斧で一撃を防いだらしい。

 ただ、それしかできなかったため、壁とぶつかった衝撃で気を失っているようだ。

 

「……、……、…………ふぅ」

 

 息を吐いた。

 思考を切り替える。この場をしばらく任された以上、ツバサは意地を張るしかなくなった。

 逃げることは可能だ。なんなら今すぐ逃げ出してしまいたい。

 

 けれどそれを許せるほど自分に優しくはない。

 インターネットでタトゥーが張られることよりも、この場を任された責任を果たさなければならない。

 

「ぜってー殺す」

 

 憧れた相手は子どもだった。

 彼女の言葉はツバサにとっての支えになっている。

 自分の心を救ってくれたからこそ、勝手に生み出された恩義を果たすべく、動く。

 

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