【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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自分に打ち克つ新宿配信 前編

 

 :明らかに新宿駅じゃねーよ引き返そうぜ! 

 

「この場所が異変だらけなんスよ」

 

 小弁慶の部品をもとに生産元を探知した。

 長嶺コトコはそう視聴者に告げて行動を再開し、新宿駅の構内へ。

 人口の迷宮の中を下っていくと、地下のプラットフォームに辿りついていた

 

「穴がデカすぎる」

 

 さらなる迷宮への入り口が顔を覗かせていた。

 クレーターとまでは言わないが、落とし穴にしてはやけにでかい大穴が開いている。

 小弁慶の部品には魔力が通っていた。構造を解析、分析して最終的に羅針盤として作り替えた。そしてそれが示す先は穴の先であった。

 

 電気の通ってない道は常に暗く、ドローンの光を頼りにして進むことが多い。

 自分が生成した機械で視界を明るくして、先に進んでいく。

 

「なんなんスかね、ここ。何でさらに駅の中に戻ってるんスかね」

 

 目的地までの順路が見えないし、見慣れている景色──数十年前から張り替えられていない広告、本来登るはずなのに下る方向にしか行き場のない階段。それも複数。

 もともとあったものをコピーして、それを適当に貼り付けて再現したかのような、そんな風景。

 

「おまけにモンスター」

 

 魔力の消費を避けるために両手に武器を取り出してさっさと処理。

 目の前のモンスターがどういう形状で、どういう攻撃をしてくるかなんて気にせずに、時間短縮のために次を行く。

 羅針盤の示す先は目の前にある階段ではなく、少し進んだ先にある階段を指し示していた。

 

 :これ間違った道行くと詰むやつ? 

 :ループ的な

 :抜け出せなくなるやつ

 

「羅針盤なかったら詰んでるじゃないっすか〜! クソゲーですよこれ!」

 

 :小弁慶の部品を素材にしないといけない時点で難易度が上昇するわ

 :これ他に進める方法あるの? 

 :運だけマンは進めるんじゃない? 

 :いないんだよなそんな奴……

 

「まぁでもいいじゃないっスか。次からはあたしの配信をカンニングすれば先に進める……はずだと思うんで」

 

 :自信を持て

 

「い、いや。今どこにいるかわからんから……」

 

 そう言いながら降っていく。

 降っていって、また階段……と思った矢先に人影が4つ。人の形をしているだけで厳密には人ではない、人の形をしたモンスターだろう。

 人影には、色が付いていた。赤、青、緑、黄でそれぞれ。

 敵意はないらしい。訝しみながらコトコは近づいてみる。当然手には武器を構えながら。

 

「赤は嘘をついている」

 

 黄が言う。

 

「……お?」

 

 近づくと同時に脈絡のない言葉を発し始めた。

 意図が読めないため、他の色のついた人影に近づいてみる。

 

「青は正直もの」

 

 緑が言う。

 

「3番線の階段を下れ」

 

 赤が言う。

 

「黄の話すことは嘘である」

 

 青が言う。

 

 :うわめんどくさ

 :この中の誰か真実を言ってて、その先に進めってことね

 

 4人のうち正しいことを話す者、嘘をつく者。彼らの言葉から真実を見極めて、先に進む。

 それがこの新宿ダンジョンのギミックらしい。

 とはいえ──

 

 :いや、きつくね? 

 :新宿駅まで向かうという選択がそもそも正しいんか? 

 

 上層と位置付けできる新宿地帯がそもそも広い。中層に進む道は何個かあると踏むべきだろう。

 ロリコ・リコ、ツバサが進んだ道は中層、ないしは下層に向かう前までの道の一つであったが。

 新宿内にあるモンスターや、地点ごとに置いてあるヒントをもとに行動するというのが流れの一つ。

 ダンジョンを生成した元ボス、ミノタウロスの意図ではあるが。

 弁慶は容赦がないため初っ端から小弁慶を出して篩にかけてくるのでタチが悪かった。

 

 

「あ、羅針盤が指す方向と赤い人が言った方向が同じスわ」

 

「…………」

 

「ごめんて」

 

 :こいつらもちゃんと落ち込むんだ……

 

 本来は道標となる存在がこの場にいる。

 ただ理不尽を押し付けてくるダンジョンではないらしい。

 ダンジョンらしく、ゴール向かうまでには正しい順路があり、その順路を通らせるためにヒントを与えてくる。

 誰が、どういう目的でそう設定したのか。これらを考える界隈はなくはないが、少なくともロリコ一派は興味がなかった。

 

「気分的には攻略サイトをカンニングしてる感じなんスけどね。あるいは、運営の想定していない攻略法、的な」

 

 :あとでナーフされるやつじゃん

 :意図せぬ挙動やめてね

 

 ヒントを無視してはたまに聞き、敢えて間違えた方向に進んでみる。

「うーん、モンスターハウス」入った瞬間に部屋に閉じ込められて、空間が割れてモンスターの大群が突っ込んでくる。「雑魚しかいないんスよね」一言添えて、腕を組む。後方に浮かぶ機械の銃から放たれるはレーザー光線、四方八方。やがて殲滅。

 

「これ道間違えすぎたら疲労が蓄積して終わりっスね。まぁ逃げれるだけマシか……」

 

 :帰還の宝玉便利すぎね? 

 :ダンジョン登場以降常に使われるマストアイテムだぞ。信頼度が高い。

 :逃がしてくれるかは別だけどな! 

 

「まぁここまで来る奴に弱い人はいないと思うっスけどね」

 

 来た道を引き返して、相対するのは4色の人型モンスター。そして壊れたラジオのように同じ言を繰り返す。

 従う。進む。入り組んだ道に切り替わるが、やることは変わらない。なぜ駅の中を降ってるだけなのに、階段を下るまでの道がぐちゃぐちゃな場所を歩かなければならないのか。

 そうこう文句を言いながら数分後。

 

「羅針盤ぐるぐるし始めてワロタ」

 

 階段を下っていくうちに、たどり着いたフロアのから先に進める方向が一箇所しかなかった。

 

「ここが終着点ってことでいいんスかね〜」

 

 :いいと思いますよ

 

「じゃあそう言うことで」

 

 靴と機械音声の音と共に、一箇所しかない階段を下っていく。そうして見えた光の先。

 

「なんもねーじゃないっスか!」

 

 目の前には土地と、果てなく続く黄色の空が広がっていただけだった。

 新宿ダンジョンに侵入してから見慣れた光景である。

 いや、これで終わりなわけがないだろう。

 そう思い、崖際まで歩を進めた。

 

「は?」

 

 視界の先、主に下には街並みが広がっていた。

 新宿の街並みと遜色ないそれは、コトコの思考に混乱を招く。それは当然、視聴者にも。

 そして目の前には浮いている瓦礫の地平。

 

 :はずれ? 

 :流石に草

 :時間の無駄じゃねーか! 

 

「とりあえず街ん中見てみればいいんじゃないんスかね」

 

 そう言いながら背後で浮かべていた機械ユニットの形を変えていく。

 飛行機の羽のようにエンジン部分の付いたそれは背中に装着されて、そのまま飛行を開始した。

 空中から眺める名前のわからない街並みを見ていく。

 やたらと大きいビルの群。デカデカと面積を確保して、今も排気ガスを空中に散らしている工場、今日の朝にも見たことのある駅──

 

「は? ここ新宿?」

 

 :新宿ダンジョンの地下が新宿って何かのギャグ? 

 :知らん場所もあるけど

 :ここを新宿2としよう

 

「……呼称はネオ新宿ってことで」

 

 :なんでや

 

「疑問が先に出るってことはラグでもあるんスかね? 聞こえませんか、何かが揺れる音がしてるっスよ」

 

 大地が震えている。新宿の街並みとしてようやく認識できていた、その地平が真っ二つに割れていく。倒壊する様子なんてなく、張り付いているそれはさながらジオラマのようだ。

 

 :そんなことある? 

 :えぇ……? 

 :こんなダンジョン、見たことない……

 :初見で行けなくはないけど驚きで思考持ってかれそう

 :やっぱクソだね、ダンジョンは

 

 そして現れるは白亜の身体。

 数十年まえと寸分違わず、汚れのない機械のボディはむしろ輝きを増しているようにも見えていて。練り上げられている魔力は遠く離れた距離からでも理解できるほどに強さの輪郭をはっきりと認識できる。

 

「参った。あれちゃんと強いっスよ」

 

 :弁慶が弱いわけないだろ! 

 :強火も見てるな

 :強い以外の印象がねーもんそいつ

 

 緑色の機械の瞳がこちらを捉えていた。

 身体中を走る赤い線が躍動し、加速する。

 弁慶が飛び出た大穴から何かが飛んできて──それを掴み、こちらに構えた。

 

「薙刀? ……岩融(いわとおし)ってわけか?」

 

 刃先が刀のように長く、柄は槍のように長い。二つの要素が混ざり合った武器こそ薙刀。

 逸話上の弁慶が最も得意としていた武器である。

 

 :あれ本物じゃね? 

 :重要文化財なのですがそれは

 

「武器が本物か偽物かなんてどーでもいいっスよ。一番重要なのは──こいつをしばけば10億貰えるってことだけ! 神霊機構(メタモルフォシス)

 

 降ろす、機械の体に神と謳われた名前を降ろす。決められたプログラムに則って、身体が構築されていく。

 パワードスーツのように、長嶺コトコの身体を覆ったそれは彼女の身長よりも少し大きくデザインされている。それでも身体にフィットして、自在に動かせることができる。

 黄色と黒の2色を織り交ぜて、動力源たる魔力が躍動しているのか、心電図のように一定周期で走っている。

 機械らしくゴツゴツと、けれどどこかすらっとしたような体型で。

 

武神(ヘラクレス)!」

 

 黄金色の輝きを放つ武具が生成される。

 弓が、剣が、斧が、棍棒が、盾が。

 逸話に倣って自らアレンジを施した武具。剣と盾を手に取り、背中部分からジェットを排出。

 勢いよく突っ込んでいく。

 

 :強い!硬い!速い!のやつじゃん

 :耐久戦の時毎回これじゃん

 :初見殺しを解析できる時間が取れるからな

 :こりゃ負けへんな

 :勝ったな! 風呂食ってくる

 :コトコの10億で死ぬまで家に篭りたい

 

「1秒で12回殺してきた奴のこと思い出すから変なフラグ立てるのやめてね!」

 

 :えぇ……

 

 10年以上前最も強い武装がヘラクレスだった話だが。とはいえ今は違う。

 銀の剣を弁慶に向ける。柄には神話になぞられて細かい紋様が浮かんでいた。それを、横一線。空間ごと切り裂くような一撃は空気を割いて、斬撃と共に弁慶の元へ突っ込んだ。

 

「──!」

 

 機械の排気音。それはコトコではなく弁慶の方から、脚を曲げて腕を引いて、突く。

 何かのパフォーマンスと見紛うような清廉な動き、その一突きで、空気が弾ける音がした。

 

「割と力を込めたんスけどね。動きが速いってより、決められた動作をこなしただけみたいな。

 だから無駄がないんだろうな。うへ〜……! これちゃんと強いやつじゃないっスか〜! 助けてロリコさ〜〜ん!!」

 

 :あいつ今都庁の地下だぞ

 

「都庁の地下ってなに!?」

 

 :地下でネオミノタウロスにノックアウトされたぞ

 

「は!? ちょ、今知りたくない情報すぎる!」

 

 :でもツバサがなんとかしたぞ

 :ロリコ殴られて壁にぶつかったのに傷がなかったからな

 

「じゃあヨシ!」

 

 そうこう言い合いをしているうちに弁慶の麓まで近づいていた。「──うお!」瞬間に薙刀の穂先が顔部分の装甲と擦り、破損。

 空中を飛んでいるにも関わらず、たった一瞬触れただけでも重みを感じるような一振りだった。

「速い!」そしてブレる。しならせた鞭のように、材質の硬さとは程遠い幾重にも重なる薙刀に咄嗟に剣を当てて返す。

 弾け、ない。重みをより強く感じる。ヘラクレスを装甲として身に纏ったコトコのパワーは、本人が設定している機構の中でもトップに位置するように配分しているが、それ以上の力を感じた。

 

「これ! 正面から武器をぶつけたら破壊される! なんだあの剛腕!?」

 

 :どんな感じなん? 

 

「中に響かせてくる! 押し合いになったらほぼ確であたしが負ける!」

 

 :えぇ……

 

「でもぶつけます」

 

「!」

 

 穂先の正面からぶつかれば間違いなく剣は割られる。考え方を変えて、割られてもいい武器なら、正面から剣以上に衝撃をぶつけられる武器ならばどうだろう。

 試したくなった。命が尽きない限り、初見殺しを超えるクソゲーでもないと判断できた今なら軽々しく命を捨てることができる。

 距離を無理やり離して、戦闘態勢を変える。

 剣が消失して、武器が切り替わる。変えて黄金色の輝きを放つ棍棒を両手に持つ。

 

「こいつ相手に盾とか構えてたら一撃で割られますよ。こういう時はパワーですパワー。力こそすべて」

 

 :この思想ならロリコが完成するわな

 :基本ゴリ押しだしな

 

「お、そっスね」

 

 改めて接近──試みようとしたところで弁慶からの猛追、コトコと同じように背中部分からジェットが排出されているはずなのに音が聞こえない。

 隠密機能に優れているとはデータベースに残されていたが、いざ目の前にすると判断が少し遅れてしまう。

「だからなんだって話っスけど」それでも腕を振り終える動作は完了している。弁慶が己の薙刀を、コトコより上の位置から突き落とすように突っ込んできたところを先端、打撃部を押し当てて抵抗する。

 

「は?」

 

 コトコがデザインした棍棒は金属や魔力などある程度織り交ぜて、あくまで創造した範囲で使われていそうな素材を入れて生成している。

 自信作だった。発展させたメイス以上にパワーを持ち、地面に触れればすべてひび割れるようなパワーを生み出す、コトコ本人にとっても革命的な武器であり、メインウェポン。

 武器の力に引っ張られながらも、けれどコトコ本人が振うことで真価を発揮させる。

 要は一番の得意な武器である。だが。

 

「こいつ、まだ上が──」

 

 弾かれ、前面装甲が顕になった。

 だけれど弁慶は動きの反動なんて関係なくそのまま薙刀の握る部分を変えていた。槍投げを行うスポーツ選手と同じように握られたそれは、予備動作なんてものは何もなく、力押しにも関わらず、けれどなんでもないような面をしながら。

 長嶺コトコの身体を穿ち、貫いた。

 

「ッ!」

 

 空の上から弾き飛ばされ、背中から追突した箇所は先ほどまで自分が立っていた新宿駅の崖側付近。

 ドローンが追いついてくる。おい、大丈夫か、生きてるか。無機質な機械音が心配してくる。

 

「ヘラクレスは死なない。厳密に言えば致命傷を負ってもあたしに魔力がある限り再生して生きていられるって意味ですけれど。

 あたしの命はこの一つのみ。転生なんて奇跡、起こることはまずあり得ない。しかし参ったこの調子で来られたら10分持つかわからんスね。

 とはいえ、負ける気はまだしないので全力で抗うっスよ」

 

 貫かれた箇所は空洞が生まれている。

 けれどもそれはすぐに修復されていく。木々が成長し、その根っこが大地に紐づくように強固な身体として再生した。

 

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