【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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自分に打ち克つ新宿配信 後編

 

 薙刀で心臓部を貫かれる。

 

「今のは見えたな」

 

 先端から放たれたビーム光線に顔が焼かれる。

 

「なんで避ける方向バレてるんスか?」

 

 目にも止まらぬ斬撃で肢体が切断される。

 

「範囲がクソ」

 

 接近され、構えていた武器ごと真っ二つに横に両断される。

 

「動きが見えてきましたね、次は当たりません」

 

 伸縮し、伸びた切先が額を貫通する。

 

「遠距離もやれますと」

 

 :なんでまだ生きてられるの? 

 

「死なないって決めたから。死ぬほど痛くてもあたしは死なない」

 

 長嶺コトコは元FJKの1人である。

 FJK所属のメンバーは各々が個人のチャンネルを持っているわけではない。4人で1つのチャンネルを運営していたのだ。

 のっぴきならない事情からFJKは解散することになり、配信活動に専念できるものが実質1人になってしまっていた。

 それが、長嶺コトコ。とはいえすぐに配信することはなかったが。

 

「んでもって消費早すぎ、ペースが早すぎるって感じスな」

 

 :削られすぎやー! 

 :無理して突っ込むの心臓に悪いからやめてね

 :なんで四肢欠損してたのに五体満足に切り替わってるんですか? 

 :だってヘラクレスだしな

 

 解散してから数年が経過した頃、ようやく彼女の配信は始まった。

 とはいえ年数が経過すればするほど名前は忘れられ、やがては存在が記憶から消えていく。

 FJKというブランドは人々の記憶に強く残っていた。それは解散した原因が最も鮮明に残されていたこともあるが、それ以上に実力派なうえに若く、明確に強いと評価されてきたからだ。

 一重に魔力を用いて強力なダンジョンを攻略してきただけではなく、四人でのトーク、雰囲気が視聴者にとってウケていた。

 同時接続数のアベレージは一万人程度。決して低くはなく、高すぎないそれなりに人気のある配信者のグループであった。

 

「うーん、薙刀の攻撃パターンが多いっスね。なーにが岩融(いわとおし)っスか。近代武器の塊ですよあれ」

 

 :ビーム、斬撃、伸縮、貫通効果、武具破壊効果、あとなに? 

 :武器を持つ本人の機動がキモい

 :弁慶ミサイルもついてるからな。胸元からエネルギー波も打てるぞ! 

 :ダンジョン攻略しに行けよ。サボんなよな

 :あれ暴走してんだよな、一応

 :してるしてる。弁慶、人間、襲わない

 :コトコは人間じゃなかった……? 

 

 復帰配信でついて来た視聴者は五百人程度。

 感想としては“意外と多かったな”。

 視聴する配信者を選択できる中、自分の配信を選んでくれることはどうあれ嬉しい。

 コトコの配信のウリは丁寧な解説と、迫力のある戦闘の二つであった。

 本人は丁寧な解説を心がけているというわけでもないし、FJK時代は作戦参謀として役割を担ってたからそれの延長を口にしているだけである。

 コトコ以外の三人が考えなしに突撃しがちなので、自分がやらなければ全滅すると思って頭を使い始めたらしい。

 無理を押し倒すこともある。

 作戦に則って行動すればそれが通ることもある。

 その快感を求めて立てることもある。

 ただ、それ以上に四人でいる時間が好きだった。好き勝手遊んで、派手に戯れて、空想を現実のものとして。

 

「バカみたいに強いじゃないっスか」

 

 終わってしまったものは振り返ることしかできない。乗っているエスカレーターは先が見えず、下に戻ろうとしても戻った感覚はいつまで経ってもやってこない。

 

「──まぁ負ける気はないんスけども」

 

 死んだと思っていた親友と再会し、歯車が再び回り始めた。熱が呼び覚まされた。

 だから彼女はこの場にいる。どんな姿になろうとも、自分が死ぬその日まで信頼できると言い切れる親友が手を取って連れて行ってくれたから。

 

「というわけで、そろそろ手を貸してくれないもんスかねぇ……」

 

 :まだ無理そう

 

「ほならもうちょい頑張りますかね」

 

 今の平均視聴者数は1000人程度。

 500人いた元々のファンからさらに増えてこの数字。

 そこから弁慶と戦っているという話題から少し乗っかり39000人。合計50000人。

 名前を知るものは彼女の功績をあげている。

 名前を知らないものはその強さに驚いている。

 そうして彼女の名前は覚えられていく。

 

 

「状況を確認するっスよ」

 

 戦闘を開始して15分が経過した。

 ヘラクレスを装甲として纏った長嶺コトコは弁慶との空中戦に挑むことになる。

 ヘラクレスは強力な武器を持てるのに加えて、魔力が尽きるまで致死量のダメージを受けても身体が再生する性質を持っている。

 このため、長嶺コトコは不死身の身体をもとに、相手の戦闘パターンを把握するという手で行くことにした。力押しで勝てない相手だと判断した際によくやる彼女の手法である。

 

 :薙刀一つでここまでやるとはね

 :やるね、彼

 :今んとこ勝ち筋見えてますか? 

 

「攻撃を当てれればいけそうなんだよなぁ……」

 

 :当てればなんとかなるってこと? 

 :ほんとでござるか? 

 

「ほんとで候……と言いたいところ……」

 

 依然として空中戦である。

 脚が立てる大地なんてものはネオ新宿の舞台には存在しない。あるのは広大なフィールド。

 ただ弁慶と戦闘するためだけに生まれたような空間でしかない。

 

「半分まで減ってきたしとりあえず突っ込むっスよ〜!」

 

 :慎重に扱え! 

 :あなた今岩盤にぶち込まれてますよ

 

「傷は回復しても体力回復しないからきちぃ〜!」

 

 壁際からエネルギーを回して再び飛ぶ。

 手には金色の棍棒を。両手に支えて飛んで行く。

 弁慶の行動はすでに終わっている。こちらが動き出すと同時に薙刀は振られ、その勢いで前方コトコ方面に空気の刃が飛んでいく。

 避ける、動く、当たらない。

 動きを読み切っている。弁慶が速度を上げてもそれに対応できている。

 避ける、動く、当たらない。

 コトコは確実に消耗している。けれどもそれが様子として見えない。斬撃の雨を目で見て少しの動作で避けて回る。

 肉薄。接近に成功。武器と武器が交差する。

 腕元についたブースターが起動し、人間の振るうパワー以上の速度で棍棒が振られた。

 見てから反応する弁慶。薙刀の先端を押し当てて拮抗──火花。

 混じり合う金属の音。押し負けることはないとの判断をお互いに。そのまま果敢に突っ込んでいく。

 

「……」

 

 恐れはない。

 死に対する恐怖はあれど、抵抗感は10年前の出来事から薄れている。

 定めた二つの目標。友達を助ける。人生をめちゃくちゃにした奴を殺す。

 三人で決めた大目標。達成するまでくたばることは許されない。

 ロリコほど無謀のままに突っ込んで勝利を収めるというスタイルは取れない。自分らしく、無茶な時には無茶をして目標達成に向けてロードマップをただ歩いてある。

 だから、長嶺コトコは死なない。

 死ぬことを自分が許していない。

 逃げることも許されない。

 背水の陣。一歩下がれば奈落の穴に落ちる崖側を三人で横に並んで歩いている。

 ひとえにプライド。ぐちゃぐちゃに、めちゃくちゃにされた恨みを果たしたい。

 いるだけで不愉快になるモンスターがまだ生きているのだから、お礼参りに行きたいだけなのだ。

 だからコトコはまだ死ねない。

 過去を乗り越え、打ち勝つその日まで死ぬことが許されない。

 

「読まれていると思いますが、上に回避します」

 

 風の刃が通り過ぎ、先ほどまでいた崖際は引っ掻かれたような深い爪痕が残されていた。確認するまでもなく、音で衝撃が判断できる。

 

「!」

 

 すでにコトコより上の位置から薙刀を構え、刺突を仕掛けようとしているのは弁慶であった。弁慶の特徴は無尽蔵なエネルギーと強大な戦闘能力が挙げられるが、そこに加えて相手の力量、癖、戦闘時の判断を解析、分析を進めている。

 知識が求められる二択の問題を100%当ててくる。勤勉に確実に勝つための手段を整えてくる。

 反応し棍棒を当てて対応するコトコ。力の差は感じられない。差は武器の性能にあった。魔力で生み出された武具は空想の産物からだ。消えずに留まることもあるが、破壊される時は破壊される。

 弁慶の持つ岩融(いわとおし)はかつて魔力で作られた武器だ。モデルを作り上げ、魔力を注ぎ、オーバーフローして自壊しないように。

 状況に合わせて戦闘スタイルを変更できるように趣向を拵えて。その結果刀身が伸びたり、先端からエネルギーを放出できるようになったわけだが。

 だがそれでも数年前の武器。持続性があれど、パワーは常に成長している人間には劣る。

 劣るはずだ。

 

「いよいよ棍棒を破壊されたら笑えないっスね。自力で武器を改造するなんてどこで覚えたんだろ」

 

 かちあわせた棍棒が破損し、破壊された。

 効果を付与したとしても、実際に発揮できるかは本人の力量に依存する。

 これまでと同じように回避してから武器の再生を狙うのか。視聴者はそう反応しようとして。

 

「あえて受けます」

 

 :は? 

 :え? 

 :無謀? 

 

 視聴者からの驚きをよそに胸元に薙刀が接触し、先端からエネルギー波が撃ち放たれた。即死不可避の攻撃。胸元に空洞が開いていた。

 けれど長嶺コトコは生きている。そうして身体を押し寄せて、穴が空いたままにも関わらず彼女の勢いは止まらない。出血は、ない。

 ヘラクレスをその身に降ろした彼女は魔力が尽きるまで生きることができる。最悪、回復アイテムを飲み尽くしてゾンビ戦法も取れる。

 

「ここまで実質の死を迎えておいて言うのもあれなんスが、攻撃を当てられずに終わるってのが一番良くない。

 捕まえられたっスよ。あたしの腕からお前は逃げることはできない。これは定められたルールである。必中の槍を躱す術は貴様には与えられない。

 神霊機構(メタモルフォシス)──混合(マージ)──アテナ・スケール」

 

 ヘラクレスを軸に形成された金属のボディ。色が切り替わる、黄色と黒を中心とした色合いは黄色と白色に。

 ゴツゴツとした、自分の身体以上に大きいパワードスーツから打って変わって、身体全体を覆うのではなく、身体の一部を覆うアーマーへ。

 腰元はまさかのミニスカート。ただし鋼鉄。緑と白が織り混ざったチェック柄は可愛らしい。

 

「!」

 

 危機を予知した弁慶がコトコに捕まれた腕を振り解くように抵抗するが、離れない。

 薙刀を持っていた手である。空いた手でコトコ本人に直接殴りにかかるが、ダメージを与えられてはいない。

 腕と手が磁石のようにくっつき、ボンドで設置面が固められたかのようにしっかりと固定されていた。

 

 :アテナなっつ! 

 :これすき

 :28がする格好か? これが……

 :制服じゃん

 

 上装甲はセーラー服だ。頭には兜が付いており、まさしく神話の世界に生きた一人の女性がそこにいる。

 空いた片手には武器が生まれようとしている。迸る光の本流を唸らせ纏わせ、やがてそれは一つの形を成す。

 

「受けてみろや我が絶槍!」握り、金属音をドローンが聞き取った。確かな質量を帯びたそれ、カメラを介して見た目でも、ありふれた力を待っていると判断が付く。

 顔を目掛けてそれを投げ下ろした。同時に固定していた手を離して、足裏から空気を吹かせて後方へ避難する。

 

 :やったか!? 

 

 轟音。煙が吹き上がり、影をも覆ったそれは弁慶の状態を見ることができない。

 

「……まだダメっスね」

 

 :コトコ、それ……! 

 :腕が! 

 :弁慶の腕だろ

 

「あいつ片手無理やり切断しやがったな?」

 

 胸元に刺さってる弁慶の腕を後ろに押して身体から離す。同時に身体が再生した。

 ヘラクレスの権能はすでに消費し切った。持久戦はもう見込めない。コトコは弁慶の片腕が握っている薙刀を手に取った。

「これで抵抗でもしてみようか」なんて言葉を添えて煙の先にいる弁慶に視線を向けて──

 

「は? キモすぎだろ」

 

 切り離された片腕部分。

 電線やモーター等の部品が本来入っている箇所。

 煙の先から現れた隻腕の弁慶にそんなものは露出していなかった。見えたのはモンスターと見紛う緑色に変色した獣の腕であった。

 

 :機械とモンスターの子供やん!キモ!w

 :中に人がいるんかあれ

 

「なおさら確定じゃないっスか。カメラの見えないところで弁慶は破壊されて、その身体をモンスターが乗っ取ったってことが」

 

 :元からモンスターの線は? 

 

「解体しないとわかんね〜!」

 

 空いた手には盾を構える。それで万全とは言い難いが、無理を効かせるラインにすでにもういない。弁慶の薙刀を持ち手本人以上に扱える気はしなかったが、自分が出力させた武器よりも強いということはなんとなくで理解していた。

 

「まぶしっ」

 

 :なんの光!? 

 :すまん急に目の前が見えなくなったんやが

 

 発光する弁慶。その右手には見たことある武器が手に取られていた。

 

「あいつあたしの棍棒を真似しやがった! 魔力を使って、武器を作りやがった!」

 

 :く、くる! 

 :つよそう

 

「──!」

 

 :獣の咆哮!? 

 

 空気が震える。身体が振動する。脳が揺れる。

 錯覚を覚えてしまうほどに、モンスターとして本領を発揮しはじめた弁慶がこちらに迫ってくる。

 手に持つ棍棒はコトコと同じように黄金色の輝きを放つ……なんてことはなく、黒く染まり切った、見ているだけで不愉快になるような色合い。

 それでも禍々しさは漂わせていた。加えて──

 

「モンスターのように凶暴で! 機械らしくこちらの動きをちゃんと解析してやがる! 

 なんでさっきからあたしと目が合ったんだこわいこわいこわい! 心理戦!? 機械と!?

 ボードゲームがめちゃ強いAIに勝てる奴なんて一握りなのに!? 馬鹿なんじゃねーの!?」

 

 :お前その中に入る気でここに来てんだろうが! 

 :最初からわかっていたことやろがい! 

 :今更すぎるw

 

「10億じゃ割に合わねーだろうが!!」

 

 動きに荒さが増し、少し鈍くなったようにも見える。コトコは懸命に回避をしているだけだ。

 懸命にである。今でこそ攻撃は触れていないものの、少しずつ攻撃が掠りはじめている。

 コトコはコトコで相手の動き方を見て学び、それに応じた行動を取りたかったが、パターンが変質化したため、一から数え直しになっていた。

 弁慶の動きに変化はあっても、継続してきたものは今もなお継続している。

 

「──ッ、いって……」

 

 弁慶の剛腕から振るわれた一撃が頭を捕らえた。甲冑部分が吹き飛び消失し、頭が露出してしまう。脳を張られたことで視界が揺れて、平衡感覚が一瞬だけ失われた。

 隙を見逃さないのは当然のことで、怪人弁慶は棍棒を振り抜こうとしている。

 

「アイギスの盾……ッ!」

 

 振られたと同時にコトコを守るように現れる円型の壁にして盾。

 ただ振られただけでは盾は崩れない……が、亀裂を入れるのには十分な一撃であった。

 それで終わることがないのは当然のことであった。

 

「!」

 

 正面から盾と棍棒がぶつかり合う音。

 走っていた亀裂が加速して、二つに破られてしまう。

 

「吹き飛べァ!」

 

 破って突っ込んでくるのがわかっていれば、そこに向かって攻撃を置いておけばいい。

 横から一振りサイドスロー。弁慶に向かっていくのは数分前まで持っていた薙刀。

 弁慶の動作はすでに完了している。棍棒と共に腕は振り落とされている。無理やり上げようとしたところで間に合うことはないだろう。

 

「……これでも死なねースか」

 

 :額で受け止めてから左手で持ちはじめたぞ

 :受け止めた×

 :穴空いてんのにまだまだやる気あって草

 

 確かに薙刀の投擲によって頭を貫くことに成功した。

 成功しただけだ。弁慶本人はこれで止まらず、刺さった薙刀を手に待って二刀流スタイル。

 止まることを知らないらしい。

 

「手数が足りねー」

 

 :ロリコとツバサいてトントン? 

 

「トントン……、てか勝てる」

 

 :ツバサ、ネオミノタウロスとの戦闘で疲労困憊だけど

 

「ネオミノタウロスってなんだよ……。

「えー、ツバサさんに無理させちゃいけないし、ロリコさんと二人か……行けるかな……?」

 

「行けるだろ」

 

「うわぁ!? ロリコさん!?」

 

「きたよー!」

 

 ぶいっと言わんばかりのピースサインをカメラの前に晒す極悪違法ロリ。

 ロリコ・リコは参戦した。それなりに傷を負っているコトコを見て「平気か?」心配するように声をかける。「平気スよ」言い慣れているやり取りであった。

 空気を足場に腕を組んでいるロリコは弁慶を目の前にして「きも〜」なんて呑気に感想を漏らしていた。

 

「……ちょうどいいところに来ましたね。ロリコさん一人だけっスか? ツバサさんは?」

 

「ツバサちゃんはガチで疲れてたから帰らせたので私一人……と思わせて、なんとゲストが来てます!」

 

「え、誰……、……!?」

 

 疑問をぶつけたと同時に発砲音が鳴いた。

 近代武器の銃を使う人間はこの場にはいない。

 使う人間にコトコは覚えがあるが、そいつがこの場に来ているとは思えなかった。

 だから驚いた。

 

「あ、あ、あんた!? なんでここにいるんスか!? 仕事は!?」

 

 さらに上空にいたのは胸の下で腕を組んだ女性だ。

 社会人らしくきっちりと黒のスーツを着こなしており、すらっと柔肌が露出していた。

 しかし肝心の顔は仮面で覆われていた。

 さながら祭り会場の景品にありがちな、女児向けアニメに出てくる魔法少女キャラクターのお面をつけている──

 

「午後休」

 

 佐伯フルエンドがそこにいた。

 

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