【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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ポプラトリップ ~突発決闘編~

 

「藤原カエデは私にとっての原点なんですよ。学生時代の青春そのものです」

 

 :今も学生だろ

 

「今も学生じゃないの?」

 

「……いつまで経っても変わることのない、色褪せない存在ということです。

 それを言えば、カエデさんこそ見た目が記憶と記録のもとの変わりないじゃないですか」

 

 舞台は変わらずアメリカ海岸部。リングの上で日本人同士の決闘が行われている。

 その様子は海外で主流となっているプラットフォームで配信されており、ポプラの個人配信でも流れている。

 既に配信タイトルは変わっており、SNS上での宣伝も欠かさない。同時接続者数は右肩上がりに伸び始め、コメント欄は加速した。

 

「まぁね」

 

 :まぁね? 

 

 カエデが続ける。

 

「コールドスリープみたいなものさ。身体がばらばらになるくらいに惨殺された後に拾われてね。その後時間をかけて身体を治していったのさ」

 

「あの人は……私にとっての恩人さ」カエデが嬉しそうに続ける。

 腕を組んで、何かに思い耽るその様は、やはりポプラが知っているような姿。

 

「そこから10年近く経ってようやく復帰できるようになったってワケ」

 

「……FJKの皆様には伝えなかったんですか? ご自信の復活を」

 

「まぁな。サプライズ……ドッキリさ。みんなこういうの、好きだろ?」

 

 :嫌いではない

 :たまに見るけども

 

「最終的に笑顔になれないドッキリなど滅べばいいと私は思ってますし、泣かせて終わるドッキリは好きではありません」

 

 あくまでポプラの持論である。

 とはいえ、言葉の並べ方、話す際のリズム、仕草。

 藤原カエデ本人と言わんばかりに、生存しているという事実を全面的に主張してきている。

 だからこそ、ポプラの中で疑心の根が生まれて、芽吹こうとしてきているのだが。

 

鋭脚(ハイヒール)

 

 詠唱──覆っていた鉄が形状を変えて、つま先部分に刃が形成される。

 手が出るよりも先に動くのは彼女の脚である。

 

「話しはいったんやめね? そろそろ動かないと外野がうるさい……しッ!」

 

 横一線。斬撃となって飛んで行く三日月の刃。

 

「見えてますよ」

 

 既に上空へ退避しているポプラ。空中に浮遊することはリング外に出たと見なされないため、使い得であった。

 予備動作に入った段階で避難を済ませている。

 ポプラがカエデに対して持っているアドバンテージを上げるならば、それはポプラがFJKを追ってきて得た知識だけである。

 知っている名前が出てくれば解答が即座に脳裏に浮かんで対応にすぐ動ける。

 

「【収束】」

 

 対象を定める。魔力を込めるのは見渡す限りに存在する空気。

 ポプラの言葉一つで渦巻くように、空気が固まり始めた。

 見えない弾丸は確かに存在する。

 

「【流星(シューティング)】」

 

 言葉を添えて空気の弾丸がカエデに向かって前進し始めた。

 

「【追尾(ホーミング)】」

 

「わぁ、何でもできるんだなポプラさんは。当たったら怖いし跳ねちゃお」

 

 空気を足場に退避行動を取り始めるカエデ。

 ポプラがカエデに出来ることは初見殺しを押し付けることだ。

 相手の動き方を知っているならば、その上で選択肢を狭めていけばいい。

 だから──カエデがこの盤面で上に行くことは読めていた。当然、この先の行動も。

 

「次にカエデさんは回転してこちらに斬撃を多く飛ばしてきます」

 

 :マジ? 

 :本当に回ってて草

 :空気弾が帳消しされてますよ

 

「消えていいんですよ。理由は今から私も消えるから」

 

 :は? 

 

「【位置交換(エクスチェンジ)】」

 

 カエデの刃が四方八方に飛び回る。リング外に飛んだ刃は魔力により障壁によってそれ以上は飛んで行かない。

 ひとしきりに回転──フィギュアスケートの選手のようにくるくると回り続けるスピン。

 回転しながらもカエデは前方を正しく認識している。

 

「あれ、いなくなってる」

 

 刃が弾を切った感覚がカエデの中に通る。

 ポプラに接触した感触は感じない。死なない程度に手加減して放ってはいるものの、万が一切ってしまえば問題にはなる。

 このためリング内で使える魔力量には制限が掛かっている。

 ……それでも行動の押し付けを行わない限りカエデには勝てないとポプラは踏んでいる。

 

「【雷の矢(ライトニング)】」

 

 背後から電気を帯びた弓を構え、矢を放とうとしている。

 ポプラが放った空気の弾丸。そのうちの一つと位置を入れ替えてそのまま姿を隠す。

 回転が止んだところで攻撃態勢を取った。ただそれだけ。

 

 :やってることおかしいって

 :俺こんなのできねーよ

 :見てるだけで頭が痛くなりそう

 :頭おかしいよ

 

 誉め言葉である。

 

「穿て」

 

 弓を引いた。一直線カエデの背後に向かって直進するのは光の矢。

 流れ星と見紛う一閃に、カエデは一瞬だけ背後に目をやった。

 そうして、そのまま流れるように再回転し始めた。たった一回転ではあるものの、つま先にある刃は雷の矢と捉えていた。同じ回転でありながら、けれどつま先は輝いている。

 それは魔力によって生み出された光であり、咄嗟の判断で生み出したもの。衝突し、矢を打ち消す。

「おお」カエデは一息吐く。ペロリと舌で乾いた唇を吹いて、捕食する側としての自覚を再度自分に持たせる。

 

 :消されてますけど

 :なんだこいつ

 :化物? 

 :あの人何者なん? 

 

「ちゃんと反応できるんだ……流石はカエデさん、あの頃と何一つ変わってないや」

 

 :感心しとる場合か

 

「まぁ待ちましょうよ。……ここからは近接戦になりそうなので目を離さないでくださいね」

 

 :マ? 

 

「【高貴なる我が誇り(ネオ・エスペランザ)】」太陽のように輝きを放つ剣がポプラの手の中に納まる。

 同時に飛ぶようにやって来たカエデの脚、反応して改良したエスペランザを押し当てる。

 火花。同時に零れる刃。削れた箇所から魔力で補填する。ゼロ距離密着している位置関係。再生成を行う余裕はこの場にはない。

 背中を打ち抜くのが一番マシだった。ポプラは内心そう思う。

 試すように放ったこの場における全力の動き。避けられないであろうと放った攻撃は確かに避けられた。

 当時のままの実力に、それ以上に力を身に付けて配信界隈に帰って来たカエデ。その目とポプラが合う。

 

「……」

 

 その奥底にある違和感は、確かに存在していると、ポプラは再確信する。

 交差。交差。剣と脚が交わる。距離は取らない。白熱する動作に観客が湧いている中。

 ポプラの耳についているイヤホンに音声が入って来た。

 いつものリスナーの声ではなく、知っている女性の声だった。

 

『聞こえてるっスか佐伯ポプラさん。……、あ、反応しないでください。聞こえてるなら片目を閉じてください』

 

(……夏星(せいか)さん!? というか無茶言うなこの人!)

 

 表情に出さないように。

 内心で思いながら一瞬だけ片目を閉じる。ほんの一瞬の動きであった。

 おまけにカメラに向けてウィンクしている。単なるファンサービスにしか見えない動きだった。

 声の主は星夏こと、長峰コトコであった。コメントの声が聞こえなくなる代わりに、コトコの声が耳に入る状況に変わった。

 

『よし、聞こえてますね』

 

(聞こえてるけども!)

 

「カエデさんは相変わらず好戦的ですね。戦闘スタイルが前と変わりないじゃないですか」

 

「慣れ親しんだやり方こそ一番なんだよな」

 

 すまし顔で、表情を変えずに腕を振りながらカエデの脚に対応していく。

 眼で追いながら、けれど耳に聞こえてくるのはコトコの声。

 どういう流れからポプラが装着しているイヤホンに接続してきたかは不明だが、今は考えないようにする。

 

『申し訳ないんスけど、目の前の藤原カエデの魔力を採取してほしいんスよ。毛とか血があればいいんスけど』

 

(すごい物騒なこと言い始めた。毛か、血……? え、なんで?)

 

『ぶっちゃけて言いますが、目の前の藤原カエデは偽物です』

 

「……」

 

『ポプラさんならもしかしたら気づいてたんじゃないんスか? その瞳で』

 

「どうした? 考え事かポプラちゃん」

 

「いえ。見惚れていただけです」

 

「へぇ? 嬉しいことを言ってくれるね」

 

 :お? 浮気か?

 

 剣を無理やり大きく振りぬいて、そのまま距離を取り始める。

 仕切り直し。そして見やる。

 精巧で、本物で、10年前と変わらない藤原カエデに対して、3年間の付き合いである長峰コトコは偽物だと言い切った。その言葉を咀嚼して、ポプラは改めてカエデの中身を見てみる。

 魔力を介して映る藤原カエデは、ダンジョンが現れてから観測された人間と同じように魔力を全身に張り巡らせて、やはりと言うべきか脚を中心に強く、魔力を巡回させている。

 人間にしかまるで見えないそれだが。頭の部分だけが。人間の脳みそと同じように見えていて、時折機械的に何かを更新しているかのように動きを止めている。

 

『すみませんがお願いします。今そちらに向かっているんであとで合流しましょう。ポイントは──』

 

(不法入国?)

 

 まぁいいか。そうと言わんばかりに息を吐く。

 とはいえ、ポプラはポプラでやりたいことは済ませた。

 カエデの力を図りつつ、その正体を暴きたい。疑念として持っていたものは確信となった以上、長居すれば得たいのしれない何かに襲われてしまう可能性もある。ただで死ぬほどポプラは弱くはないが。

 

「素晴らしい動きです。感動すら覚えました。画面の前で見た光景と変わらないそのお姿は私の青春でした」

 

「……? 何が言いたいの?」

 

 ポプラの本心からの言葉に、カエデは一瞬対応に困ってしまった。

 

「思い出は所詮思い出。積み重ねていけばそれは礎となり、そうして今を築いていく。

 掘り返されたとしても揺らぐことが無ければよいのですが、後ろを見てみると以外とそうでもないこともある。

 思い出なんてそういったもの。けれど確かに、あの日の私は大層に笑っていた。

 それだけでよかったんですよ、私は」

 

「【噴射(ジェット)】」言葉を最後に添えて急接近。急速に迫ってくるポプラにカエデは反応することに一瞬遅れてしまう。

 カエデは水着を着こなしている。肌を大きく露出しており、その身体にポプラは触れる。

 変わらない。人間のものと変わらない。変わらないからこそ同時に恐ろしさを感じてしまう。

 左手を肩に置いて「【吸収(アブソーブ)】、【(ニードル)】」小声で聞こえないように、そして意識を向けさせないように、カエデの顎に親指と人差し指を置いてグイっと上に挙げた。

 

「好きですよ、カエデさん」

 

「!?」

 

「でもここで終わりです。用事を思い出したのでここで降参します。お疲れ様でした」

 

 吸い取りが完了して、左手を戻す。

 両手を上げてサレンダー、観客と、視聴者からの声は困惑の一色で染められている。

 関係ない。ポプラはやりたいことを済ませた。

 

「さようなら。またどこかでお会いしましょう──【幻影(ミラージュ)】」

 

 蜃気楼のようにゆらりと揺れて、佐伯ポプラは後にした。海上のリングには何も残っていない。

 ポプラの魔力も存在も。

 藤原カエデは──怪訝そうな顔を一瞬しながらも、ポプラに触れられた肩の部分を摩り……。

 

「気のせいか」

 

 何も違和感を持たないまま11連勝を達成し、そのまま決闘に身を投じ続けていた。

 身体に馴染ませるためには戦闘を重ねることが一番である。

 そう教えられたからこそ、アメリカの大地に足を踏み入れたから彼女は対戦を重ねている。

 

 

「うわ本当にいる」

 

「うわってなんスかうわって」

 

 海岸部より少し離れた郊外の建物にて、見たことのある顔が確かにいた。

 長峰コトコである。

 既にポプラは配信を切っている。情報の露出を防ぐべく、魔力で結界を貼りながら。

 

「ぶっちゃけロリコさんに行かせたかったんですけどあの人パスポート持ってないですからね。海外に行くにしても手続きに時間を取らせるのはマズい」

 

「差し迫った状況ですか?」

 

 顔見知りではある。

 姉は元FJK佐伯フルエンドであり、その幼馴染が彼女である。

 何度か家にまで足を運んでおり、その際に顔を合わせていた過去を持つ。なお、そこまで会話を交わしたことはない。姉が離席している時に少し会話をするような、それまでの距離感。

 こくりと頷くコトコ。その額には汗と、焦燥感がにじみ出ている。

 

「これでいいんですよね」

 

 急ピッチでこしらえた試験管のような円筒のケース。その中で蠢くのは人間の血。そして結晶。

 魔力を一つの塊として象られたものであった。

 

「マジで大助かりです。報酬はこれです」

 

「え、なんですかこれは」

 

 手渡されたのは封筒。

 お金か? 一瞬そう思いながら中を開いて触れてみる。

 紙の感触ではなかった。次に浮かんだのは写真であった。

 

「涎を垂らしながら寝ているロリコさんの写真っス」

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

「この人こんなに大きな声出せたんだ……」

 

 ガッツポーズ。その様子を見てドン引きするコトコ。

 こほんと咳払いしながら「とにかく」仕切り直すように話を戻した。

 

「ロリコさん含めあたし達は藤原カエデを追わなければなりません。そのために未だ配信をしてるんですから」

 

「あのカエデさんは偽物、それでいいんですよね」

 

「はい。カエデはあの時死にました。そして──」

 

「……ロリコさんの正体って」

 

「……大きな声で言えるもんじゃないんスよね。このせいであの人今大暴れしてるんですから」

 

 想像できなくない光景。

 配信を一度休止にしないといけない、ある意味追い込まれた状況。

 

「それでなんかわかるものが出てこないと一生暴れ散らかしてしまいそうだったんで、本当に助かりました。

 ようやく、ついにやって来たんですよ」

 

「……」

 

「あたし達と、カエデと、サクラをあんな目に遭わせたクソモンスターを──見つけて殺すときが」

 

 悪趣味な死体遊びをこのままさせておくわけにはいかない。

 そう言い切ったコトコの眼の奥には覚悟の表れとも言える炎が揺らめいていた。

 

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