【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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2124/09/09 配信外

 

「何もないとは思わなかった」

 

 大手町某所にあるダンジョン管理機関。

 その地下。研究室にて机の上に脚を置いてタバコを吸い、後頭部に両手を重ねている一人の女性がいた。

 名前を重木冬花(かさねぎとうか)。10年前に佐伯フルエンドという名前で活動していた配信者である。

「おもんね~」小言が止まらない。机の上に広げられているのは少し前に討伐された弁慶の部品の残骸。

 その部品を調べるために用意した計測器なりノートパソコンなりと様々な道具。

 魔力の痕跡を探って、力を与えたモンスターが持つ魔力と合致させて追跡を行う。それが目的の根底である。

 だが、何もない。機械の身体、扱っていた武器。魔力は籠っている。でもそこから発展しない。

 

「ぐるぐる動く」

 

 部品を基に作成したのは一つのコンパスであった。対象を感知すればその方向に指針を指し示すというもの。

 方向を示し、所持者に対象の位置を特定させる、そんな革命的な道具。

 元はモンスターの素材採取を効率的に行うために作成されたものである。モンスターの居場所の特定が早まればその分時間が短縮されるので、今でも重宝されるマジックアイテムだった。

 動きはする、けれど止まらない。対象となるモンスターを感知できない。

 作り方を間違えた気はしない。なんなら開発した人間に意見を訊いたりもした。

 

「作り方を間違えたか? いや、そんなことナイナイ。昔同じの作ったことあるのに……なんでぇ? 

 え、いることは示してるんだよな? でも止まらないってことは、え、なに? 妨害? それは困る。

 困りすぎてやばい。あ煙草もない。死? やば、ウケるいやウケない、え終わった?」

 

 見えない何かに妨害されているように見えていた。

 見えている事実を目視したくないので現実逃避で独り言を漏らしていた。

 直視した瞬間暴れてしまう。1週間費やしておいて成果が出ないのはマズい。上司に詰められてしまう。

 額にいやな汗が流れてきた。見えている未来に作っていた真顔が崩れそうな気がした。

 おまけに──

 

「このままだとまたロリコが暴れちゃうよ……やべ~~」

 

 藤原カエデが復活したというコメントが流れてからのロリコの行動を思い出す。

 

『んちょっと悪い! 急用が出来たから配信やめるわ!w』

 

 文字に起こせば単芝が生えている軽快な言葉運びだった。一瞬漏れ出た低い声に続く言葉、そして配信を切る。

 気になって桜の家に足を運んでみれば、案の定である。

 おもちゃコーナーの前で買いたいと母親にせびる子供のようにじたばたと暴れており、そのロリコを羽交い絞めする形で抑え込んでいるコトコ。そしてその様子を見ながら頭を抱えている先生。

 地獄絵図である。大声で叫ぶものだから屋敷内ロリコの声で占められていた。

 ひとしきり暴れた後に使われてない個室を借りて『少し寝る』一言残してロリコは姫宮家の部屋に籠った。

 丁寧に声明文をも作り、作った後で抱えた感情を発散している最中である。

 その間出来ることをしようと各々で動きだし、コトコは痕跡を探すべく新宿を探索、フルエンドはアイテムの作成であった。

 ロリコが暴れている理由を当然ながら理解している。

 藤原カエデ(自分)の身体を好き勝手に使われているのだ。気分が悪いで済むことはなかった。

 このためコトコはカエデが最後にいた新宿でしばらく過ごしていたのである。

 共闘していた他配信者にも話を訊いていた。FJKの古参ファンもいた。昔の動きそのものだったと口を揃えて彼らは言う。

 

「なんでこうなったんだか」

 

 7日前のことだ。

 自分の妹である佐伯ポプラが旅行先のアメリカで復活した藤原カエデと対決をしていた。

 藤原カエデは藤原カエデで個人でチャンネルを動かし始めていた。

 元FJKの肩書は流石に付けていないが、とはいえ持ちうる実力でダンジョン攻略に勤しむその姿に注目が集まっているのもまた事実。

 

「…………」

 

 そして思う。

 昔カエデを殺し、サクラの身体をぐちゃぐちゃにしたモンスターは繋がっているのではないかと。

 転生の前例はある。けれど死者蘇生は聞かない。

 自分で見たことがないから認めてはいない、というのもあるが。やっていることは悪趣味極まりない。

 なによりあの時、時間を稼ぐと言って帰ってこなかったカエデが今生きているかのように活動しているのだ。

 死者蘇生なんて芸当、例え自由にモノが扱える魔力があったとしても、忠実に動かすなんてことはできない。

 それは単なる人形遊びにしかできない。生きている人間と同じように思考し、身体を動かす姿はまさしく本人そのもの。

 だからこそ気味が悪い。気味が悪くて吐いてしまいそうだ。

 

「だが、進展はある……あってくれなきゃ困る」

 

 自分に言い聞かせつつ、コンパスをポケットに入れてフルエンドは研究室から出た。

 エレベーターに乗っかって、向かう場所は外、近くのコンビニ。

 タバコの買い足し、そして物の受取である。

 藤原カエデと偶然接触したポプラはコトコの指示を受けて血と魔力の採取に成功していた。

 考えていること、あの藤原カエデがモンスターか別の何かによって動かされているのならば。

 力を与えた存在に辿り着ける可能性は高い。

 コトコには予め補助パーツとして後付けできるデザインで作ってほしいとは指示している。

 それがどう転ぶかは不明だが、転んでくれなければ次への一歩が進まなくなる。

 

「絶対同じだろ。同じじゃないとこんな悪趣味なことしない。

 だってあの時カエデは死んだんだから。遺体の回収はできなかった。

 最後に向かった星夏(せいか)が発見したのは遺体じゃなくて──」

 

 昔の記憶であり、今もなお鮮明に残っている出来事。

 そして覚悟を固めた日でもある。

 振り返り、再度気を引き締め直そうとしたところで。

 

「お疲れ様です」

 

「……お疲れ様です、冷長(ひえなが)さん」

 

 コンビニに向かう途中、そこにいたのはダンジョン管理機関会長の秘書を務める女性──冷長。

 顔を何度か合わせたことがある。何度も会話を交わしたことがある。会長室に入室する時決まって彼女がいる。

 現職の会長が就任すると同時に就職してきた女性であり、それ以上のことは知っていない。

 会長の仕事をサポートしているのだろうな、程度の像であった。

 

「どうです? 何か進展でもありましたか?」

 

 冷長が訊ねる。

 

「いえ、特には」

 

 いつもと変わらない表情で答える。

 内心は焦り一色だが。

 

「そうですか」

 

「……」

 

「……」

 

 会話が続かない微妙な距離感。

 3人グループで会話の中心となっている存在が離席した時の雰囲気のそれであった。

 

「ところで冷長さんはここで何を? 休憩ですか?」

 

「まぁ、最近頑張っている重木さんに差し入れでも入れようかと思いまして」

 

「……ここのところよく来てくれますよね」

 

 内心“暇なのか?”と思っている。

 

「別に暇というわけではないですよ」

 

「まだ何も言ってないですよ」

 

「言ってるようなものですよ、その顔を見ていると」

 

「う、うゆ……」と小さく言葉を漏らしたところで冷長から送られる視線も、淡々と続く言葉が変わるわけではない。成果が出なければ出なかった理由を問いかけられるだけ。改善手段を考えて次につなげるようにするだけ。

 出なければ一生同じことを言われるし、評価が下がり続けるだけだが。

 佐伯フルエンドのダンジョン管理機関における立場は別に弱いというわけではない。

 年を重ねるごとにその分の責任が被さり、それに見合った分の給料が支払われているだけ。

 どこにでもある企業。やることが多すぎることと、求めている要求値の高さに辟易するだけだが。

 余談だが、離職率はそこそこある。

 佐伯フルエンドが就職先にダンジョン管理機関を選んだ理由は単純である。

 ここにいればそのうち、10年前に遭遇した因縁のモンスターの情報が得られるかもしれないということだ。

 役割分担。長峰コトコはダンジョンに潜りつつ、ロリコの成長を見守る。

 佐伯フルエンドはダンジョン管理機関に就職し、情報を獲得する。

 就職するまでに嫌な思いをしたことは数知れず。緻密な戦略を持って見事内定。

 覚悟を貫くにはそれ相応の気力が必要であると身に染みて学んでいる。

 そしてそれも、もはや佳境。

 

「調子なんていつだって出ないもの。焦っている時に初めて実力が現れるというものです」

 

「なんですかいきなり。経験談ですか」

 

「そうです」

 

「そうなんだ」

 

 フルエンドが就職した時に転職してきた女性が冷長である。

 年齢に差はあれど実施上の同期。距離感が微妙なまま過ごしてきている。

 

「私も昔は焦り散らかしたこともあったものです。最終的には事なきを得ましたが、今にして思えば経験してよかった出来事です」

 

「そういうものですか」

 

 フルエンドが最後の一本になるタバコを咥える。

 電子タバコの甘い匂いが散漫とし始めた。冷長からの抵抗がないため話す時はいつも吸っていた。

 

「過去は礎になりますが、煌めく思い出になるというもの。その輝きを永遠に保つこそが人間らしさだと私は思いますけどね」

 

「ふーん」と軽くフルエンドは流すが言いたいことは分からない事ではない。

 綺麗なままでいたい、保ちたい。そのままの状態でいたい。

 よく考えていたことだ。ずっとこのままであればいいのに、そんな子供の様な感情。

 

「そうはなれないのが大人だと思いますが」

 

 遠い目をしながら、青空を見ている。

 遠い過去に思いをはせて、はせたところで変わらない光景が広がるのならば。

 殻を破って無理やりにでも歩き続けるほかない。

 

「子供らしくいたいんですよ、私も会長も。ところで進捗は?」

 

「ゼロです」

 

「次の人事考課が楽しみですね」

 

「たはは……」

 

「あと休憩はほどほどに」

 

「はい……」

 

「それでは」そう言い残して冷長は立ち去る。

 子供のままでいたら拳が出て喧嘩に発展するだろうが、大人なので手は出なかった。

 人波に紛れて消えていく姿を見ながらフルエンドは思う。

 結果が出たらさっさと辞めてしまおうと。

 

 

『いやー待たせて悪いスね』

 

「本人じゃないんだ」

 

 合流ポイントとしてもらった座標に辿り着いてみれば、何もなかった。

 人気がない路地裏の行き止まり。目の前にブロックの壁があるだけ。

 だが佐伯フルエンドが姿を現してから、迷彩化していた機械の身体が露出し始めた。

 人型のそれは小弁慶を想起させる身体だが、全く別の魔力で運用された機械であった。

 

『しゃーないじゃないっスか。アメリカからポプラちゃんと帰ろうとしたらいきなりモンスターが現れて追いかけてくるんですもん。なーにがダンジョンにしか発生しないですか、外国は魔境じゃないっスか』

 

「ダンジョンでなくても新宿のようにダンジョンに該当できるポイントはあるからな。……お前は平気だろう、妹は無事か?」

 

『b』

 

「サムズアップじゃなくて」

 

『んなことはいいんスよ。囮を出しっぱにするのもキツイんスわ。早くこれを役立ててください』

 

 そう言って小型機械は胸部を開いた。

 USBメモリのような形状をしたそれはフルエンドが持っているコンパスに接続できるように作られている。

 アメリカでモンスターから逃げなら開発しつつ、時間を稼ぎながら分体を生み出し、用意していた飛行機に乗って移動しつつ、途中で追いかけてくるモンスターもポプラと迎撃。それの繰り返し。

 空中にもダンジョンが存在しているためダンジョンから飛び出てはぐれたモンスターが襲い掛かってくることもある。だから空中戦を行う者もいるが……別の話である。

 

「じゃあさっそく接続してみよう。反応があればそれでよし。なければ私の首が飛ぶ」

 

『Welcome to 専業 world』

 

「もう配信で食い始める年齢じゃないんだが」

 

『ダンジョンに来いダンジョンに』

 

 USBメモリの端子をコンパスに接続──羅針盤がぐるぐると動き始めた。

 そしてコンパスから溢れ出る魔力。新宿で大暴れした弁慶の装甲と、今活動している藤原カエデの血と魔力を練り混ぜた機械。

 頭の中にモンスターのイメージが投影される。居場所が直感的に判断できる。

 そうしてコンパスが座標を示した。投影された姿は人型で、3人。アロハシャツ、スーツ姿、見知った背丈。どれも見覚えがあった。

 スーツ姿に関してはつい先ほど会話を交わしてさえもいる。

 

「ダンジョン管理機関を座標は指してる──そして、私の頭に浮かんだモンスター像は人型で……見たことのある3人だ」

 

『うち一人は偽楓として、他二人は知り合いですか』

 

「そうだな。片方はついさっきまで話してたな。人の言葉を使えるんだ。人間社会に溶け込んでいてもおかしくはないよな」

 

『軽いホラー? この時間からのホラー助かる』

 

 特段──思い出というものがあるわけではないが。

 探しているものがそうだとしたら、きっとそうなのだろう。

 成果を示せと言っているのなら、その答えを提示してやろうと思う。

 ちょうどいい機会がたった今生まれた。

 

「まぁ、いい加減転職しようかなと思いまして。叩きつけたかったんだ、退職届。自分が辞めるのも悪くないが、嫌いな奴を辞めさせるのも悪くはない」

 

『いい顔し始めましたね。手がかりも見つかったし、ロリコさんも笑顔になれそうっス』

 

「ちょうど成果が欲しいと言ってたし、さっそく──」

 

「──珍しく悪寒がしてみれば」

 

 冷たい声。

 振り返ってみれば見たことのある顔。

 

「探知の指針……作っている最中のはずでは? それも弁慶の部品のみでは完成なんてしないはず。何をもって私を指し示したのでしょうか」

 

 冷長がため息をついて、フルエンドに問う。

 

「今から答えてくれるとありがたいのですが?」

 

「冷長さん。今から飛びますよ、首が」

 

「……? それはどちらの意味で?」

 

「もちろん、両方です。当然あなたの」

 

 佐伯フルエンドの手には既に銃が握られていた。

 

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