【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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2124/09/09 今、緊急で動画を回しています。

 

『逃げるっス』

 

「逃がしませんと言いたいですが……」

 

「させると思うか?」

 

 ダンジョン外でも関係なく魔力を用いることはできる。

 法整備が施されており、使用する事は当然ながら禁止されている。

 ただそれでも例外は存在する。

 ダンジョン外にモンスターの姿が観測された場合、護身として使用することが可能になり、鎮圧のために利用することが可能という、簡単に言えばそんなもの。

 コトコの分体はスタコラと姿を隠しながらすでに消えていた。

 相対する冷長はじっと佐伯フルエンドのことを見て、ため息をこぼす。

 

「殺す前に訊ねておきますが、どこで手がかりを見つけました? 特定されるとは思ってませんでしたので、後学のために教えていただきたく」

 

「ま、私の妹が優秀だったってだけなんだ。それ以上はない」

 

「──……、佐伯ポプラですか。いつの間に彼女の血を吸い取っていたのでしょうか。あなたを殺した後に会いに行って訊いてみましょうか」

 

 トーンを落としたその声には悔いを感じているらしい。

 目の前の女が佐伯フルエンドとポプラが姉妹であると知らないわけではない。

 透けている意図に対して反応を示す必要はない。心の内で炎を燻ぶらせていれば、今はそれでいい。

 

「御託は済んだか?」

 

 親指を立てて、人差し指を冷長に向ける。

 自信の現れでわざと聞かせたのだろう。実際効いてはいる。

 だからこそ、冷静に立ち振る舞う。

 

「過ぎたことにもうあれこれ言うことはない。過ぎた思い出に馳せたところで、今さら何かが変わる訳ではないのだから。けれど──前に進むために、時には後方を見る必要がある。それが今日なんだ」

 

「そうですか。私としては、永久に最高の瞬間のままでいたいのですが。そしてそれを見るために動くことも──やぶさかではないんです」

 

 周囲の温度が下がっている。

 夏の終わりが見えない9月の上旬には似合わない温度。

 オフィスカジュアルに対応している、それなりに見栄えのある肌の露出した格好。

 流れていた汗が止まっていた。返って鳥肌が立ち始めている。

 冷えている。視線を飛ばした先で凍り付いた建物が見えていた。

 早々に決着を付けなければならない。

 

「シュート」

 

 指先に閃光。次いで走る弾丸。魔力で生成されたそれは実弾の様な形状をしている。

 あくまで形が同じというもの。そこに属性なり効果を付与するのは使い手の力量次第。

 1度では終わらない発砲。時を刻むごとに増えていく魔力の弾丸。

 魔銃(デス☆ガン)。学生時代に長峰コトコ(幼馴染)とノリで名づけた名前は既に身体に馴染んでいる。

 数週間前に久しぶりに扱ったそれだが、錆びること無く今も使用することが出来る。

 とはいえ、戦闘における勘は鈍ってはいるが。

 

「やはりあの日に新宿にいたのは貴女でしたか」

 

 弾丸が止まっている。

 彼女の身体の前で、形作られたそれは先に進むことなくその場でとどまった。

 螺旋を描いていた回転が止まり、周囲には煙のようなものが漂っている。

 その様子を見ながら次の策を頭の中で巡らせる。

 冷気。放出し続けているそれ、張られている結界で押しとどめてはいるが、結界が破壊されればその影響がさらに広がってしまう。

 内心で正体を確信している冷長の言葉に耳を傾ける。

 

「午後休を取るなんて珍しいなと印象に覚えています」

 

「プライベートの詮索辞めて下さい」

 

「ダンジョン配信に参加しているなら私達に見られても文句は言えないのでは?」

 

「あの人の事を言うなら、その人はお面を付けてましたよ」

 

 あくまですっとぼける。

 

「……まぁいいです。戦い方がまるっきりフーちゃんと呼ばれる人のそれですが、続けます。何故参加したのですか?」

 

「昼から飲むお酒ほどたまらないものはない。新宿配信を見ながら飲むお酒はうまかった」

 

「長峰コトコに手を貸すのは理解できます。

 ロリコ・リコはなんなんですか? どこに繋がりがあるんですか? 

 教えていただければ殺さずに済むのですが」

 

「何も知らないので殺さないでください。でもお前は殺す」

 

 差し出している指はそのままである。

 先ほど出した量で足りないのなら、それ以上に数を増やしていくのみ。

 

「退職します。理由は私情です」

 

 フルエンドの背後に広がる持ち手がいない銃の数々。

 増える、増える。狭い通路にも関わらず可愛らしい絵柄が付いた銃が増えていく。

 合図することもなく発砲。轟音が周囲で鳴いた。

 

「それを許すとでも? 逃がしませんよ」

 

 対する相手がモンスターである以上、多少の被害には目を瞑られるもの。

 単なる喧嘩では済まない傷跡がコンクリートに、ビルの壁に。ハチの巣のように穴が無数に増えていく。

 周囲から人の気配は失せていく。既に何者かが通報したのか、閉じ込めるように発生した魔力による結界が広がっている。長峰コトコによるものだ、冷長はそう思った。

 同時に思う。好き勝手にやっていいのだと。

 最終的な結果として、人間に擬態したモンスターを発見し、その場にいたダンジョン管理機関の職員が対処したと治まることになる。

 そのモンスターがどちらになるか。

 

「……効果は薄いか」

 

 目の前の冷長を見て漏らす。

 場所を移動し、道路の真ん中に退避していたらしい。ガラスで散らかった使われていないビルの一階を通り抜けて、人気のない町並みの中へ。

 

 増やした弾による影響は薄く見えていた。

 何も考えずに突っ込むゴリ押しにも限度はある。

 倒し切るにはさらなる工夫を加えるか、人の手を借りることが一番だ。

 人手を増やしたところで倒せる保証はない。逃がすわけにもいかないのでこの場で殺し切る以外の選択肢はない。

 弁慶戦で行った腐食効果を付与しても、氷相手にどこまで行けるかなんて火を見るよりも明らか。

 とにもかくにも──燃やす。

 

点火(イグニッション)

 

 タバコに火をつけるように、何かを点火した。

 そうして次に生み出したハンドガン。生成と同時に引き金を引き──発砲。

 

「!」

 

 氷の壁を通り抜けて、身体を貫通するかのところで凍り切った。

「次」そう言い残してフルエンドはさらに続ける。

 フルエンドの戦法上、相手に何かをさせる前に物量で押し切ることを得意としている。

 今回もその例に倣い、冷気で身体を守るならば、守るという選択肢を常に選ばせ続けたい。

 攻撃されたくない、されないのが一番であると本気で思っている。

 10年前から後方支援を中心に戦略を組み立てていた。

 その経験が今の土台を作り上げている。だからいつもと変わらない戦法を採っている。

 けれども、フルエンドはこうも思う。

 

 同じような攻め方を続けていても勝ち筋は見えてこないものだと。

 

冷瘴(れいしょう)──既に私の氷は周囲に広がっています。……肌で感じ取っているとは思います」

 

「……」

 

「だんだんと冷えていく感覚。理解できていないとは言わせません」

 

 言われた通り。身体の動きが鈍くなっているような感覚はあった。

 振ろうとした腕の動きが、魔力の流れを鈍く感じている。

 

「次第に身体全体が凍り付くことでしょう。私はただ待っていればいい」

 

「……」

 

「震えて言葉も出ませんか。なかなかに良い光景ですね。人の反応を見ることが私たちの生きる意味。あなたがこの先どう苦しむか、見ものですね。私も映像に残して酒のつまみにでもしましょうか」

 

 身体は震えている。恐れから出ているのではなく、純粋な体温の低下。

 鳥肌が止まらず、動いていた指が動かなくなっているよな気がする。

 先ほどまで出せていた銃が出せそうにない。

 

「……」

 

 このまま止まっていればやがて死に至るだろう。

 生命としての活動を終えてしまう。

 顔を動かせないが、視界に映る自分の肌。その上から白い膜で覆われている。

 なるほど動かせない。

 

(だからどうした)

 

「!」

 

 冷長は目を見開く。

 目の前に広がるのは炎で自身の身体を燃やしている佐伯フルエンドの姿だ。

 結界内全体を覆うように広がっていた冷気が薄まっていくのを冷長は察知した。

 

「生憎と、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。まだやるべきことが残っているからな」

 

 炎の中から姿を現す佐伯フルエンド。

 来ていたオフィスカジュアルが焼けてなくなったわけではないが。

 身体全体をさらに覆いつくし──やがては周囲一帯に熱気が広がっている。

 広がる、広がる。身体を覆いつくした炎はやがては離れて、塊としてひとりでに動き出した。

 

「知らない動きやめてください。FJK時代の時、あなたそんな芸当してなかったじゃないですか」

 

 表情には出していないが。

 焦りがにじみ出ているような、そんな声音だった。

 そんな姿を見て、腕を組んで不敵に笑う。

 

「後方支援に役割を振っていた頃だから当たりまえだろう。昔はもっと暴れ散らかしていたもんさ。この炎はその名残。血をたぎらせるんだ」

 

 魔力が鈍ってこようが関係ない。

 鈍っていない箇所から変換させて燃やし、その余波を全体に浸透させて魔力の流れを加速させる。

 佐伯フルエンドは魔力を基に銃を生み出すことが得意だった。

 撃ち放てるのは実弾ではなく形作られた魔力、その塊。

 ぶつければその分威力はある。けれどそれでは足りない。倒し切ることはできない。

 

「なぜそこまで頑張れるんです? 先の見えない道を歩くなんて耐えられる気がしない。いつまで続けるんですか? 凍って死んでしまいますよ?」

 

 バカにするように冷長は言う。

 名前の通りに冷ややかな目線をぶつけている。

 力の扱い方を学び始めた佐伯フルエンドが考えたのは魔力に属性を付与する事。

 放つことが出来る銃弾の数が多いなら、当てた分だけ効果があった方がいい。

 真っ先に考えたのは腐食だった。当たる度に加算されるそれ。モンスターの身体を崩し、致命傷を与える。

 上手くいくことが増えていいた。けれどそれだけでは足りない。

 鼻で笑ってフルエンドは答える。

 

「だから?」

 

「は?」

 

「先が見えないなんてものは関係ないって言ってるだろ、さっきから。歩き続けることに意味がある。最初から諦めて、全てを投げるなんてことは選べない……選ばせてくれない」

 

 眼を閉じる。

 呼び起こされる光景。

 ──覚悟を固めた日。

 

「好きだからやる。相手に見下されようが笑われようが関係ない。やりたいからやり通す。その覚悟を持っている。だから私は強いんだ。負けるという選択肢が最初から存在しないのだから」

 

「──! あっつ……!」

 

 求められたのは火力だった。

 長期戦を行えばやがては倒すことが出来る。その方向性に間違いはない。

 実際それで成功体験を作り続けた。

 グループを組んでからは話が別になった。

 なによりテンポを重んじるFJK、配信を通じてダンジョンの攻略風景を流す以上、視聴者に飽きを与えるわけにはいかない。

 火を扱おう。そう決めた理由は単純だった。

 好きだから扱えるようになろう。魔力を使えば火なんて生み出すことが出来る。それに、かっこいい。

 

「フルエンドさんのそれは魔力を凝縮した後で一直線に放つように使うはず。でも、あなたのそれは」

 

「サポートに加えて火力を求められたんだ。縁の下の力持ちとして稼働するには力を圧縮する方が速かったんだ」

 

 FJK時代、滾らせ迸る魔力を圧縮させて、弾丸として放つようにしていた。

 放たれたそれは炎に覆われて、命中した矢先に肌を貫いて、その箇所から発火していくというもの。

 身体全体を覆っていた炎は圧縮されない。

 フルエンドの身体を燃やしながら、炎の一部を帯びた魔力弾がひとりでに連射されていく。

 致命傷に至らない、ダメージにも届かない攻撃だが、鬱陶しく感じるには十分な行動。

 触れればダメージを負う。逃がさないための一手。

 佐伯フルエンド。炎の塊は動き出し、やがて彼女の背後に立つ。

 後方の炎は形を変えようとする。炎の周囲をさらに炎の渦が。そしてさらに外枠を覆うように銃口が現れる。

 炎が、今にも冷長に向けられようとしている。

 冷長は予期する。触れれば死ぬ。

 

「どれだけ魔力を走らせようとも、結局凍らせれば関係ない。凍てつけ──!」

 

 息を吐きだす。冷気を帯びた吐息。火力で押し返せば何も考えずに勝利を収めることが出来る。

 吐息は広がり、周囲一帯を凍りつくすように流れていく。コンクリートが、ビルが、みるみるうちに凍り付いていく。

 使い手の実力が上ならば、炎でも関係なく凍り付かせることができただろう。

 だから、相手が悪かった。

 

「凍らない……!?」

 

「凍るわけがないだろ。この炎は私たちの覚悟の現れなんだ。熱き血を走らせて、何も見えない荒野の上を歩くために燃え続けているんだ」

 

 そうして炎はゆっくりと前に行く。二重になった炎が交わる。

 炎の威力は増していき、視界全体を覆ってしまうほどに。

 

「シュート」

 

 一言。

 前進していった炎。

 それがやがて冷長の身体に触れて、そうして冷気は消えていく。

 

 

「死ぬ前に教えてもらっても?」

 

「……」

 

「ロリコ・リコの正体って何者なんです? あなたが動く理由はロリコですよね?」

 

「はっ。教えてあ~~げない。教えるわけがないだろ。誰に聞かれているか考えたくもない。仮に私がお前らの正体がなにか訊ねても答える気はないだろ」

 

「チッ。ちゃんと頭が回りますか。はーやだやだ。人間のフリして仕事し続けた末路がこれか」

 

「……秘書としての仕事をしていた記憶がないが」

 

「してましたが。けれどまぁ、いいです。あれこればれてしまっているのなら、こちらも手が打てるというもの。……ところで記憶の遺跡をご存じですか?」

 

「……配信非推奨ダンジョン。先に進む度に人の記憶を読み取り、その光景を視認化させる、プライバシー配慮の行き届かないダンジョン」

 

「藤原カエデはそこに向かっているでしょう。正体を気取られたのならば、ケツを追っている相手がいるならば誘い込めばいい。そうすれば、ロリコ・リコも藤原カエデを追いかけてきますもんね。

 ロリコ・リコには注目していたんです。だからいい反応が見れると思っていましたが」

 

「……」

 

「死ぬ前にロリコ・リコの正体を見て、確信を持ちたかったですが、もういいです。私は死にますし、後の事は彼女に任せます、か」

 

「安らかに死ね。転生しても人間に討伐されるモンスターであれよ」

 

「はっ、なんですか、転生って。そんなもの、フィクションの中だけ、ですよ……」

 

「逝ったか。……仕方がないだろ、あるものはあるのだから。ロリコは……、死なないしなんとかなるだろ」

 

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