【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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2112年のアーカイブ①

 

「やっほーみんな。ロリコだよ~!」

 

 :よぉ

 :うーす

 :配信復帰速いね

 :うおw

 :やぁあああああ!! 

 :おはようございます

 

「おーおー、視聴者数の伸びがいいな」

 

 :あのメッセージはどういう意味ですか? 

 :殺害予告? 

 

「殺害予告なわけないじゃん! まぁ、なんて言ったらいいかな。わざわざ配信を開始した理由にもなるんだけどさ」

 

 :? 

 :??? 

 

「配信タイトル──【凸撃】藤原カエデをしばきにいこう! なんて書いてますが、まぁなぜ私がここまで藤原カエデさんに執着しているか、知っていただかないと。

 配信は視聴者と一緒に作っていかなきゃね。というわけで、ちょうどいい場所に藤原カエデさんがいると知ったので、来てみました」

 

 :どこで知ったんだ?

 :藤原カエデさん配信していませんよ

 

 ──周囲に広がるのはガラスの空間。

 そのすべてがロリコ・リコのその身体を映している。

 配信非推奨ダンジョン、記憶の迷宮。先に進めば進むほどに、ダンジョン内で歩く配信者の頭の中を読み取って、体験と経験を視覚化して目の前に移すというもの。

 危険性は薄いし、モンスターもほぼいない。

 だがその先に奴はいる。懐に忍ばせたコンパスが、藤原カエデの魔力を感じ取っている。

 探知機能は健在で、眼を閉じるだけでその存在を肌で感じ取ることが出来る。

 奥地で腕を組んで待っている奴の姿が。配信を回していない理由は分からないが、とはいえそこまで考える必要はない。

 ロリコ・リコが今いるのはその入り口。

 金髪のツインテールはいつも以上に綺麗に靡いており、来ている衣装は体操着だった。

 体操着だった。やる気の現れなのだろうか。胸元にはひらがなで“ろりこ”とペンで書かれている。

 そして額にはハチマキ。それも赤い。

 

「記憶の迷宮で配信する人って基本いないんだよね。だって恥ずかしいもんね。見せたくもない自分の過去を公開する羽目になるんだから。でも私はいいかなって。というか、しとかないといけないかなって。こんなことをしてくるんだから、行かざるを得ない。止められても私は行く」

 

 :う、うにゅ? 

 :何が言いたいん? 

 

「皆さんこぞって言うじゃないですか、ロリコ・リコって何者ってさ。いい加減教えようかなって」

 

 :は? 

 :これマジ? 

 :キターーーッ!! 

 :どわーw

 :く、くる

 

「隠したり匂わせたりしていればそのうち来るかなって思ってたんだけどさ、繋がりがあるならそれは好都合。面白くなってきたんじゃないかな」

 

 眼を閉じて、改めて息を吐く。

 本音を言えば恥ずかしいし、正直見せたくはない。

 見せるくらいなら引退をしてもいいと思っていたし、配信せずに向かえばいいと思っていた。

 けれども、それで視聴者は納得しない。

 そして自分も納得しない。

 

「じゃあさっそく行こうか。これからみんなに見せるのは──

 一人の女が死んで、一人の女が生まれ落ちるまでの話」

 

 

「火力が足りませんわ」

 

「は?」

 

「いきなり何を言ってるんです?」

 

 都内の学校内、その教室にて。

 太陽の輝きが窓を貫通し、暑さに鬱陶しさを感じているような時間帯。

 昼休み、姫宮桜(サクラ・ソワレ)は同じグループ内の仲間、重木冬花(佐伯フルエンド)神木星歌(長峰コトコ)に向けて文脈もなしに口にした。

 いきなり始まったため、ご飯を食べようと動かしていた手の動きが止まってしまう。

 

「確かに今のままでもダンジョン攻略はすんなり行けますでしょう。星歌さんが突っ込んで、(わたくし)と冬花が後方で支援する。黄金パターン、という奴ですわね。でも星歌の負担が多すぎますわ」

 

「い、いやー、あたしはそこまで負担を感じてないんスけどね。最近はとーかちゃんと考えた技をひたすら試して、おまけに倒せるものですから楽しくって仕方がない」

 

「そうだろう。私が考案した完璧(パーフェクト)な魔力の運用方法──神の名前、その性能を身に機械に変質させて身にまとう。いい考えだと思わんか?」

 

「いいとは思いますけど、神様の名前を口にするのはちょっと恥ずかしいんスけどね」

 

「それですわ」

 

「え? 口にすること?」

 

「そこではなく」

 

 喧騒に包まれている空間ではあるが、どこにでもある日常の光景。

 ダンジョン配信は一般的なコンテンツとして普及され始めた初期の段階。

 魔力を通したドローンが流通し始め、専用の電子端末、アプリが普及され、カメラと魔力があればダンジョン内でも配信できる環境が整備され始めた頃。

 ダンジョン内に入るにしても、年齢制限は当然ある。15歳。最低でも15歳から配信は可能だ。

 昔名残、ダンジョンが発生し始めた段階に子供と共に攻略を進めていた背景があるからこその年齢設定なのだろう。

 実際安全性が保障されているダンジョンで配信を開始している同年代の若者は多くいる。

 申請すれば危険性が伴うダンジョンにも潜ることが出来る。

 3人は相応の実力を持っていた。

 持っていたからこそ、停滞感を感じていた。

 

「星歌の負担が多すぎて、不測の事態に陥った時、私たちがそれに対応できるか、という話をしているのです。死にたくはないですからね」

 

「……死なないでしょ。そりゃあさ? 未踏のダンジョンに行くことはあっても、それは事前情報を貰ってから言ったりするじゃないスか」

 

「それでも、私はあなたたちを失いたくない」

 

「桜……」

 

 姫宮桜は中学生の頃に両親を失っている。

 不慮の事故でいなくなってしまい、姫宮家は先生と呼ばれる使用人が一人で稼働させている。

 桜に意見を求めつつ、情報共有をしつつ、判断を行う。

 桜が学生生活を自由に送ることが出来るのは先生の手腕あってのことである。

 ダンジョンの研究に勤しんでいた二人だった。

 ダンジョンについて知識を深めていく内に攻略を考えるようになっていった。

 その過程で二人と出会った。互いが幼馴染で、ダンジョンの攻略と配信に興味があった二人。

 友情はあった。一緒に過ごし、時間を共有するうちに芽生えた。

 そうして高校生になって、攻略配信を開始。

 チーム名やグループ名などはなかったが、実力のあるグループとして知名度が向上していった。

 チャンネルの登録者数は3万人を超え始めたが、まだまだである。

 

「ではどうするんだ? 火力があって、私たちと同じ年頃の配信者を探すという事か?」

 

「冬花。その考え方で間違いはありません。そして1人、候補として見ている人が私にはいる」

 

「おお」

 

 星歌が言葉を漏らす。

 真面目な話に耳を傾けながら昼食を進めている。

 

「最近噂になっている子がいるんです」

 

「噂?」

 

「そう──先生がおっしゃっていたのですか」

 

 桜は語る。

 急速に増え続けるダンジョン。初めて観測されたはずなのに、奥地まで行ってみれば既に攻略された後が残っている。

 メモ書きの様なものが残されており、書いてある内容は大まかな攻略情報。

 そして壁には目印になっているのか、孤を描いた傷跡が残されている。

 ……そう話しながら、桜はスマホを取り出した。

 

「つい最近、その攻略者の姿を映像に捉えたものがいましたの」

 

 その人は服をボロボロのローブのようなもので隠しながら、空中を足場にしながらしめやかに攻撃をしていた。

 打撃音が響き渡る。モンスターの苦しむ声が聞こえる。攻撃を鮮やかに避けて、そのまま流れるようにカウンターをぶつける。一種の競技の様なものに見えた。美しさを採点できるならば高得点を与えられるような。

 顔はフードで隠されているが、一瞬だけ剝がれる瞬間があった。

 ヘアゴムで結ばれたポニーテールに、女性らしい顔つき。同年代の女性であることに変わりはない。

 

「このダンジョン、近場ですわ」

 

「!」

 

「そしてこの配信は昨日行われた。もしかしたらまだ近くにいるかもしれない」

 

「まさか……」

 

「えぇ。見つけて仲間にしますわよ」

 

 言い切った桜は満面の笑みを見せていた。

 やると言ったらやるのが桜なのだと二人は既に知っている。

 今日の放課後にでもう行動開始だろうか。

 

「すでに先生に頼んで潜んでいる場所の目途は付けていますわ。放課後にでも行きましょうか」

 

「行動が速い」「行動が速すぎる」

 

 

「奥地まで最短で来たと思ったのですが」

 

 サクラがそう口にした時、目の前には巨大な蛇がぐったりと倒れていた。

 その頭の上には一人の女性が座っている。

 

「誰だ?」

 

 低い声だった。当然ながらの警戒。

 鋭い目は三人を捉えている。

 

「ひぇ~~! あの人本当に誘うんスか!?」

 

 サクラに向けてでかい声で確認するコトコ。

「やると言ったらやるのがサクラだろう」フルエンドが代理で答える。「めちゃくちゃ怖いんスけど!? 大丈夫!?」なおも再確認するコトコ。

 

「当然ですわ」

 

 不敵に笑うサクラ。声の主に向かって一人でさらに歩を進める。

 都内少し離れた山間地、その穴の中はダンジョンとして存在している。

 攻略はまだされていないことと、最近発見されたダンジョンであること。難易度不明のため話題になってはいた。

 ただ──目の前の人物がすでに最奥で攻略を終えているため、その話題もすぐに風化することになるだろう。

 サクラたちは今配信をしていない。

 

「配信者ではないのか?」

 

「配信者ですわ」

 

「そうか。申し訳ないがこのダンジョンは私が攻略し終えた。注目を浴びたいのなら別のところに行ってくれ」

 

「攻略が目的ではなくて」

 

「?」

 

 指を指すサクラ。

 

「目的はあなたですわ」

 

「私? なんだ、縄張り争いでもしていたのか? 知ったことではないな。ダンジョン(こんなもの)さっさと攻略した方がいいだろう。

 ……配信者同士で攻略するダンジョンを決めるなんて話を聞いたことはあるが、お前らもそれか? 恨みなら買うぞ。かかってこい」

 

 ダンジョンを攻略するにあたって、当該地区に属する冒険者ないし配信者のうち、誰が先に攻略を開始するかというもの。

 ダンジョン管理機関が定めている取組だとか、法律が関係しているだとか、そういうものではなく。

 勝手に決めているだけ。単純な話、最初にダンジョンを攻略する者にはその恩恵が与えられる。ダンジョン内に落ちている財宝、純粋に数多の人からの注目。

 そして攻略しきったものはその功績が評価されてさらに上位のダンジョンへの攻略権を与えられる。

 はたから見ればくだらないものかもしれないが、ダンジョンの配信や攻略で生計を立てている人たちにとっては重要な事柄である。

 

「これ直球ストレートで誘った方がいいだろ」

 

 フルエンドの言。サクラの後ろで様子を見守っているコトコが赤べこのごとく首を縦に振っている。

 視線の先の仲間を見て、「そうですわね」一言置いて改めて少女に向けて言う。

 

(わたくし)たちと配信しませんか?」

 

「は? ……は?」

 

「あら、聞こえませんでしたか? ではもう一度、一緒に配信しませんか?」

 

「違う。言っている内容は理解している。私を誘う理由を理解していない。……同情か?」

 

 “同情”なんて言葉が出てきた理由は彼女の衣装からだろう。

 或いはすでに誰かに言われたか。確かにボロボロの衣装でダンジョンを転々と攻略し続けている少女の姿を見て、声をかける目的として考えるかもしれない。

 

「いいえ。実力を買ってですわ。私はどうしてもダンジョンを攻略したい、攻略しなくてはならない。そのために一人だと力が足りないから三人。でもそれでも足りない。だからあなたを誘うのですわ」

 

「攻略しなくてはならない? とんだ使命感で笑っちまうな。理由は?」

 

「両親に向けて残した約束だから」

 

「──」

 

「亡くなってはいますが死ぬ前にそう私は言いました。口にしたのですからそれを果たしたい。人間らしい理由だと思いません?」

 

 姫宮桜はダンジョンが好きだ。未知の世界が広がっており、自分の知らない世界を目で見て耳で聞いて手で触れていくことが好きである。

 姫宮桜は配信が好きだ。何百年と続く文化はダンジョン配信として発展し、自分でもやってみたいという考え方と、自分ならばどうするかと思考する文化が芽生えた。

 より身近な場所で人の生活を観測することができ、その人の思想、人間性、倫理観、あるいはその他を垣間見ることが出来る。

 過去に何を抱えて、それをひた隠しにして人前で笑顔を振る舞うその姿。

 炎上しようがしてなかろうが見ている人間にとっては関係ない。その人を見て面白いと素直に思えてしまう。

 そう考えてしまえる配信という文化を好んでいた。

 

「それで、私か?」

 

「えぇ。どうですか?」

 

「断る……と言いたいが、単に断ったところでお前が帰るとは思わん」

 

「そうですわね」

 

 予想通りの言葉。

 起きる展開として予め聞かされていたフルエンドとコトコは内心でガッツポーズを取る。

 

「決闘でもしましょうか。勝ったら私たちと配信。負けたら何もせずに帰りますわ」

 

「私のメリットが無さ過ぎるな。なんか寄越せ」

 

「今後発生するであろうダンジョンの発生場所のポイントでどうでしょう」

 

「……!?」

 

 姫宮家にはそういう機械がある。それは最近完成したものだった。

 宇宙から魔力を通じて地球を観測し、魔力の波を捉えて発生場所を特定するというもの。

 世界で1台しか存在しないものであり、姫宮がダンジョン攻略において最前線を走っていた理由の一つでもある。

 

「受けてやるよ、お前名前は?」

 

「今の私はサクラ・ソワレと申しますわ、あなたは?」

 

「藤原楓だ」

 

「……藤原楓?」どこかで聞いたことがある名前なのか、コトコは首をかしげる。

 思考の海にコトコが入る中、決闘の理由が定められ、そうして始まろうとしていた。

 

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