【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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2112年のアーカイブ②

 

「一撃当てれたら負けを認める、二言はないな?」

 

「ありません」

 

「楽勝だな」藤原楓はそう言いながら所定の位置にまで移動する。

 とある都内のダンジョンのその最奥にて、決闘が行われようとしていた。

 藤原楓とサクラ・ソワレの2人による決闘である。ルールは単純なもので、制限時間5分以内にサクラに一撃攻撃を当てること。当てることができれば楓はダンジョン発生予測ポイントを得ることができ、負ければ配信者として共に活動を開始することになる。

 対するサクラはニコニコとほほ笑んでいる。まるで自分が負けることを考えていないような、そんな顔つき。

 

「審判として判定させていただきます。長峰コトコと申す者です」

 

「八百長したらしばく」

 

「楓さん、あたしが八百長しようものならサクラにしばかれますよ。勝負は公平に見るんで安心してください」

 

「ほんとかぁ~?」

 

「ほんとほんと」

 

 軽い言葉並びだがコトコの眼には既に彼女の魔力によって生み出された機械が装着されている。

 効果は簡単に言えば、人の動きをより正確に捉えるというもの。配信はしないが映像は撮る。判定に備えてだ。

 ぽつんと1人、佐伯フルエンドは後方で腕を組んで様子を眺めているのみである。欠伸をかもうが気にする者はいない。

 

「両者準備はよろしいっスか~?」

 

「あぁ」「えぇ」

 

「じゃあ今からコイン弾くんで、それが地面に落ちた瞬間が開始の合図ということで」

 

「では行くッスよ~!」そう言い切った瞬間に指を動かす。

 コインが舞う。視線がコインに集まる。表と裏が回転しながら落ちていき──地と接触する。

 最初に動いたのは藤原カエデだった。

 

爪先(トーシューズ)

 

 言い終えると同時に鉄が彼女の脚を覆う。

 生物のように蠢くそれは魔力。水のように流れるそれは形を変えて機械へ。

 足先がとんがっている。そして──前方に押し出されるように楓が高速移動した。

 踵の部分にもどうやら仕込みがあるらしい。瞬きした瞬間既にサクラの目の前にまで来ていた。

 殺す気満々と言わんばかりの動き。鋭く尖った爪先がサクラの額に接触しようとする。

 

「お?」

 

 接触した瞬間に、サクラの姿は消えた。

 消えたという表現をより正確にするならば、爪先が身体に触れようとした瞬間に消えて、桜の花びらが舞っていた。

 急ブレーキをかけるかのように動きを止める楓。瞬間後方から迫る気配を察知して後ろ足を動かした。

 金属音。楓の視線の先には彼女の鉄の脚と細長い剣、レイピアがお互いに音を立ててせめぎ合っていた。

 押し返せない。華奢な身体から一体どこに力を秘めているのか。そう考えざるを得ないくらい、楓はサクラの実力を評価し始めていた。

 同時に鼻をくすぐる香り。いい匂い。

 

「フローラル!?」

 

「あら、お嫌いですか?」

 

 戦意が欠けてしまいそうな気がするし、サクラはその周囲に花弁を散らせてニコニコとほほ笑んでいる。

 崩さない、崩れない表情。崩したくなる。

 花の香りがする方へ振りぬく。拮抗するレイピア。それでも無理やり、強引に押し通す。

 

「!」

 

「嫌いじゃないが、今嗅ぎたくないんだよ、な!」

 

 パキッと、チョコレートが真っ二つにおられるような軽い音。

 サクラの持つレイピアの刀身箇所が破損される。魔力によって形成された武器のため実害は薄い。

「獲った」確信を込めて楓は言う。そのまま振りぬいて首元へ。モンスターが相手なら間違いなく首が飛んで行く一閃。

 

「……」

 

 周囲を舞っていたサクラの花弁がひとりでに動き出す。

 楓の鉄の脚に吸い寄せられるように集まっていく。集まり、勢いが減速していく。

 首元まで動いていたその脚はやがて止まってしまう。

 

「あら、この程度でしたの?」

 

 煽るようにサクラは言う。

 仲間に引き入れたい相手に向けて話す言葉ではないが、その言葉が楓の心に火をつけた。

 

「上等だよ。その余裕そうな面を歪ませてやる」

 

「ふふ。楽しみにしていますわ」

 

 バックステップ。楓の攻撃範囲から逃げるように下がっていくサクラ。

 同時に手にはレイピアが。破損した箇所は既に修復されている。

 楓は思考する。

 

(周囲を舞う花弁を全て破壊しつつ、レイピアを折り、顔を歪ませる方法)

 

 楓の手札にあるのは脚を起点とした攻撃。

 回転すれば尖った箇所から斬撃が飛んで行き、縦に振り、横に振れば同じように一閃飛んで行く。

 追突。直線一気真っすぐ向かう行動。勢いがあり、何より破壊力がある。

 この場面において必要なのはパワーであると楓は考える。

 ゴリ押しと言い換えればそれが通るかもしれない。現状の手札だと攻撃をいなされて5分が過ぎてしまう。

 “舐めていた”。その事実を楓は認める。

 口だけのどこにでもいる配信者の一人だろうと思っていた数分前の自分をぶん殴りたくなる。

 

「うぉ!?」

 

「動かないのでしたら私から仕掛けさせていただきますが~?」

 

 花弁が散る、舞う。視界を覆う桜の花びら。

 纏まって動く姿はまるで生物のよう。おまけに匂いも付いている。

 思考が揺らぐ。戦闘時における判断能力が鈍る。

 そういう戦い方をしてくるのだなと、直感的に理解する。

 戦意を削ぎつつ、弱体化を促してくる。そして──

 

「このままでは5分過ぎてしまいますわよ」

 

 素早い。

 おまけに実力もある。

 滑走するように地面を滑り、渾身の一撃を喰らわせようと脚を上げる、失敗。

 流れるように脚とレイピアが交差する。金属音、金属音。同時に舞う火花。

 攻めあぐねる。決定的な一打にならない。

 サクラ本人もしっかり強い。

 彼女の目線は常にこちらを見ている。その目で捉えているのは楓の動きなのだろう。

 見てから反応されている。

 蝶のように舞う動きに、隙を付こうとしたところで差し込んでいる桜。

 優先順位を付けるならば桜の方だろう。

 

「でもこの考え方も誘導されてるような気がするんだよな」

 

 飛ぶ。

 地面を蹴って空中へ。ダンジョンの天井すれすれまで、前に身体を倒して空中を踏む。

 トランポリンを踏むかのように楓は勢いを付けてサクラ目掛けて飛んで行く。

 同時に回る。横に回転する動き。斬撃を飛ばすためではなく。別の物を身に纏うため。

「燃えてて草」コトコが呑気に眺める。「っぱ炎なんだよなぁ」フルエンドが感慨深そうに独り言を漏らす。

 縦回転、横回転、魔力を炎に変換し、脚に集中させる。

 

「吹き飛べッ!」

 

 衝突。轟音と共に煙が舞う。

 接触する寸前に楓は見えていた。周囲を舞っていた桜が蠢いて一つの塊になったことを。

 そして塊を無視してそのまま貫通させることができたことを。

 桜を貫通することはできた。

 サクラの身体に接触出来たような気はしなかった。

 

「まだまだ見せていただけますか?」

 

 首元にレイピアの先端が触れた瞬間に反射して後ずさった。

 それでもサクラの表情はニコニコとほほ笑んでいるし、衣装は何も燃えていない。

 周囲を舞っていた桜は消えている。審判(コトコ)に目をやるが接触はしていないらしい。

 歯ぎしり。身体に走る脱力感を無視するために、思考をリセットするために一度深呼吸。

 再度頭の中で戦略のプランを立て、立てながらサクラの攻撃に対応する。

 蜂のように突き穿つレイピアの刺突に、脚の先端をぶつける。

 距離を確保するために身体に鞭を打った攻撃。衝突によって地面がひび割れ欠けていく。

 

「ッ!」

 

 弾き、後ろに飛んで行くサクラを逃がさない。

 地面を滑って高速移動。動く場所はサクラの背後。

 花びらによる自動ガードが存在しない今、新しく生まれた隙である。

 その瞬間を見逃すほど、楓の思考は鈍っていない。

 穿つ。穿つ。穿つ。

 ミシンに付いた針がごとく高速で動く脚の付き。応じるサクラは手に持つレイピアで弾く。

 何度も見た戦闘の光景。だけれど見ている観客の二人は理解している。

 サクラが押されていることを。

 楓の実力は高難易度のダンジョンを1人で攻略できる程。攻略の仕方を把握することはできなかった。

 おおよその攻撃手段を知ることしかできていない。

 目撃情報、映像に残された情報。あったのは脚を用いて切り刻む攻撃。

 だから炎を纏って突進してくる技は当然初見だし、内心サクラは冷や汗をかいていたりもした。

 それでも踏ん張って突っ込んでくる楓。確実に負担が乗っかっているはずなのに表情からはそれが見えない。

 精神的余裕だけは見せておきたいので脚を弾いた瞬間から刺し込むように突きを入れている、当然避けられるが。

 

「……あ、思い出した!」

 

「どうした急に」

 

「藤原楓のことですよ! あたしテレビで見たことがあります! フィギュアスケーターですよあの人!」

 

「そうなんだ」

 

「すっげー興味なさそう!」

 

 長峰コトコは思い返す。

 深夜にぱっちり目を覚ましてしまい、やることがないなと冷蔵庫に入っていた麦茶をコップに入れて飲みながら、何も考えずにテレビを付けた日のことを。

 特集番組だったのだろう。ジュニアのフィギュアスケート、その選手権のダイジェスト。女性選手で1位だったのが藤原楓であった。

 ただ──

 

「楓さんが住んでいる所がいきなりダンジョンに浸食されたんですよ。それで行方不明になったって記事でも見ました」

 

「……楓はその生き残りってことか?」

 

 住んでいた街にいきなりダンジョンが発生することは珍しい話ではない。

 良くある話でもないが。規模が小さいものから大きいものがある。最大級を記録したのは新宿である。

 街中でダンジョンの発生、ないしモンスターの出現が確認された場合は自営として魔力を扱うことが認められる。

 それでも取り残されてしまうこともある。1人で生きることを余儀なくされることもある。

 

「私の話は今いいだろ! おい審判あと何分だ!?」

 

「! えと、2分!」

 

「120!? バカじゃないのバカじゃないの、加速するしかねェ!」

 

「まだ速くなるのか」

 

 フルエンドが感心を込めて言う。

 地面を滑る速度が速くなり、さながら分身して見えるかのよう。

「あら」刃こぼれするレイピアを見ながらサクラは次の手を考える。

 焦ってはいるものの負ける気はないが。一段階ギアを上げる必要はあった。

 時間の経過と共に洗練されていく動き。

 

「サクラっつったか。めちゃくちゃ強いじゃんか。なんでそんなに強いんだ?」

 

「理由ですか? 覚悟を固めてるから、迷う必要がないんですの」

 

 両親との約束があると桜は言っていた。

 澱みのない言葉は実力に現れている。ダンジョンに潜り、そのすべてを明かしたいのだろう。

 でなければダンジョンの発生地点を予測できる代物なんて開発できるはずがない。

 

「一応聞いておくが、さっき言ってた予測装置の話、いつ頃できたんだ?」

 

「? ……つい先日。ようやく完成しましたわ」

 

「もっと早く作れなかったのか?」

 

「そうですわね……。できなかった、とだけ言っておきます」

 

「──」

 

 歪む楓の顔。

 それでも淡々と桜は続ける。事実だから。

 

「事例がない、魔力を機械に変換させる、人工衛星と接続する。他にも要因はありますが、開発するまでに途方のない道のりと、金銭と、労力と、マンパワーの暴力を込めて長年かけてようやく完成しました。

 もう少し早く作ることが出来れば、救える命もあったでしょう。けれど、出来ないものは出来ない。現時点で持っている力を全部出す。その言葉を持って開発を続けました」

 

「……、わかった。くだらないことを訊いたな」

 

「いえ、必要なのでしょう。ところで良いのですか? 攻撃の手を止めてしまっても」

 

「そうだな……、あと一撃だけ行かせてもらおうかな」

 

「ふふ、では遠慮なくどうぞ。私は逃げも隠れもしませんわよ」

 

 真面目な人だなと楓は思う。

 やることを決めていて、最後まで貫く覚悟。同年代の人間でも同じような考え方を持つ人はいないだろう。

 数年前のことを回帰する。両親の教えを受けつつ、けれど同時にのめり込んだスポーツ──フィギュアスケート。

 楽しかったし、極めることにやりがいを感じていたし、続けていきたいとも考えていた。

 迷うことなく、壁にぶつかることもなくそのキャリアを歩むことが出来ていたとも思う。

 住んでいた街がダンジョンに浸食され、何もかも失ってしまった。

 生き残るために誇りだった脚を武器に生き残るために活動していた。

 恨みはある。けれどそれがどうしようもないことで、間が悪かったモノであるとも理解している。

 だから怒りを発散する目的も込めながらダンジョン内で生活し、移動していた。

 けれど、それも今日ここまでである。

 

(エトワール)

 

 輝く。

 文字の通り星のように煌めく身体。光で目を細めてしまいそうになる桜、その姿をしっかりと捉える。

 同時に構えるレイピア。刃こぼれしたままで、修復に力を割く必要はないとの判断。

 残り時間僅か。

 

 藤原楓の姿が消えた。

 

「!?」

 

 そしてサクラは肌で感じ取った。

 うなじ箇所にひやりとした外からの接触。

 鉄の材質。考えるまでもなく楓の物だろう。一撃入れられればサクラの負けというルールに則ってこの決闘は楓の勝ちに収まるだろう。

 

「いや、私の負けだね」

 

「……そっすね、うなじにそれを付けようとした瞬間に0秒。楓さんの負けっス。負けですけど……」

 

「わざとか?」

 

「さぁね」

 

 フルエンドの質問を楓は軽く流す。

 改めて、サクラが楓の方を向いた。

 

「勝負は私の勝ちという事で、これからよろしくお願いしますわ、楓さん」

 

「あぁ、よろしく頼むよサクラ、あと他の二人、名前なに?」

 

 こうして──サクラ率いる4人組の配信者グループ、そして後にFJKと名付けられる配信者グループの誕生の瞬間であった。

 

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