【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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2112年のアーカイブ③

 

「藤原楓です。九州の方から来ました。よろしくお願いします」

 

「う、うわーッ! もう転校してきてるーッ!」

 

「声でか」

 

 席は神木さんの隣。そう教師に言われたので、楓は早速空いている席に向かう。神木とは長峰コトコとして活動している配信者の本名だった。

 桜と楓が戦ったのが一週間前。そこから週が明けて月曜日。姫宮家があれこれと手を回して、藤原楓は学業に復帰した。幸いにも頭の出来はそこそこあるため、勉学に対する不安はそこまで感じていなかった。

 家庭の事情がどうだとか、教師が楓の事情をそれなりに話していることに加えて、元々それなりに名前が知られていたこともある。とはいえ──

 真っ先に反応した神木星歌(かみきせいか)、またの名を長峰コトコとの知り合いであると教室内で広まった。

 どういう関係かを訊かれるのは自明の理である。

 教室内が何かとうるさいが無視して楓は進む。前の座席に座る桜に目線を合わせて、一瞬微笑んだ姿は見逃さない。

 

 一週間の間に行われたこと。

 簡単にまとめてしまえば、楓は姫宮家にしばらく暮らすこととなった。

 舞台は東京。住まいがない楓は淡々とダンジョンに潜りつつ、食はモンスターで誤魔化しながら転々と移動してきた。

 あれやこれやと動き回っていく内に身に付けていた魔力を上手くコントロールできるように、時には遠方にあるダンジョンに潜るために魔力を利用して高速移動したりだ。ダンジョン外での魔力の利用は基本禁じられているが、生きるためなので仕方がない。バレなければ起きていないものと同じであるの精神だった。

 資料を集めて、根回しを行い、あれよあれよと楓が暮らすための土台が形成されていく。

 数か月ぶりに入った風呂に涙を流したのもつい最近の事である。

 空き部屋を拠点としつつ、さぁダンジョンに行こうとしたところで桜に止められて。

 流石に学校に通えと詰められてここに至る。

 

「シャーペンとか2億年ぶりに握ったわ」

 

「冗談だよな?」

 

「半分冗談さ」

 

 半分は本当なのか……と冬花――佐伯フルエンド――は思いながら。

 朝の一幕はこうして終わり、休み時間で楓が他のクラスメイトに質問攻めに遭うのを見ながら、やはり桜は微笑んでいた。

 

 

 昼休み。いつもの3人グループ1人加わることになる。

 藤原楓である。姫宮家から頂いた昼食に舌鼓を打っており、他の物音を気にしていない様子である。

 

「グループ名を決めます」

 

「どうした急に」

 

「デジャヴ?」

 

 発端はいつもの通り桜である。

 グループメンバーに楓が加わったことでダンジョン攻略に拍車もかかってくるだろう。

 求めていた火力枠である。正体が藤原楓で、おまけに屈指の実力者。僥倖である。

 ここはグループの結束力を固めていくこと、そして活動名を視聴者に定着させること。

 4人で配信を行う以上、いつもの3人組でダンジョン配信の雰囲気から切り替える必要がある。

 これまでの配信タイトルは“花のJKが行くダンジョン配信part○”だ。○には数字が入る。

 実力に加えてJK補正と可愛さ。この三つが今視聴者を定着させている要素と言えるだろう。

 別問題、配信を行う以上はやはり会話を回さなくてはならない。身内ノリには限界がある。

 許容できるほどに定着できているのなら問題はないだろう。10年以上配信してようやく達する境地である。

 

「新しく4人で配信することになるのですから、一新する必要があると思いませんか?」

 

「んまぁ、確かに?」

 

 滔々と続く桜の言葉に真っ先に反応するのは星歌である。

 冬花は適度に言葉を置きつつ、たまに理解に苦しむワードを置いておく。

 そして議題の種である楓は満足そうに飲料を口に入れて目を閉じていた。

 

「ですのでグループ名を作りましょう。“花のJK3人組”は、インパクトはあっても名前を憶えていただけたともいません。今いる登録者からさらに増やすには、覚えやすく、真っ先に見ていただけるような方が必要なのです」

 

「なるほど。名前の候補とかあるんスか?」

 

「JK軍団」

 

「訊いたあたしが悪かったっス。この話辞めましょう」

 

「何故……?」信じられないような表情をして桜はよよよ……と俯く。

 そのまま流れるように昼ごはんを進めていた。

 

「まぁ待て星歌。ここは私が──」

 

 冬花が一手指す。

 眼を細めながら、期待してはいないが「聞くだけ聞いてやるっス」と星歌は念のため訊ねてみる。

 

Quatre étoiles (キャトル・エトワール)

 

「覚えたてのフランス語を使うのやめてください」

 

「ありえん。なぜフランス語がバレた……?」

 

「何年一緒にいると思ってるんだこいつ……」呆れた言葉を置いて星歌は腕を組んで、静寂。

 静寂を破るのは基本的に冬花から。とりあえずの案出しで行けそうな名前を羅列して、とりあえずメモを取る。

 やはりJKの文字は入れたい、4人組らしくわかりやすい名前がいい。女の子らしさを出したい。フランス語禁止。

 かっこいい名前禁止。あれこれ言いながら、一声。矢を放つような一閃が走る。

 

「じゃあこういうのは?」

 

 楓はJKの文字を丸で囲みながら、JKらしさと4人組であることを強調するための名前を提案する。

 楓は幼少の頃を思い返す。テレビかスマホか、どこかで得た情報を基に口にする。

 

「FJKって知ってる?」

 

「なんスかそれ」

 

「昔の女子高生が使ってたんだ。Firstだか、Finalか、どっちで使ってたかは知らないけど──その意味を含ませつつ、四人組ということでfourを仕込ませる……それで“FJK”どうだ?」

 

 楓の言葉に3人が目を合わせる。

 言った本人は言い終えた後の静まりに対して少し緊張感が走る。

「……やっぱ今のなしで」恥ずかしくなって目を逸らす。頬が紅潮として、体温が上がっているように感じる。

 

「いいじゃないスか“FJK”他の候補より断然いいっスよ。少なくともJK軍団よりかは」

 

「星歌ー?」

 

「待て楓。かっこよさが足りない、ここは一つ──」

 

「……かっこよさはいらない話してなかった?」

 

 やんわり楓が冬花の言葉を止めつつ、桜から感じる圧力に星歌は目を逸らしながら。

 

(わたくし)も賛成ですわ。これより私たちは“FJK”として活動していきましょう」

 

 そう言いさっそく名前を設定し直す準備をする。チャンネル運営を重荷任されている冬花に任せながら、勝手に変な名前を付け加えないかを確認しながら。

 次回の配信の予約枠を作成しつつ、着々と藤原楓の配信者デビュー、その幕が上がろうとしていた。

 

 

「活動名はどうしましょうか」

 

「……活動名?」

 

 桜の言葉に楓が反応する。

 放課後の時間、桜の家にある配信部屋に4人で集まるとすぐに桜がそう切り出した。

 すぎにはピンとこなかったものの、芸名のようなものかと言葉を置き換えて楓は理解した。

 

「本名じゃダメなの?」

 

「顔出しはともかく名前くらいは隠しておきたいものなんスよ。そのあたりはちゃんと保護してくれるんで」

 

「ふぅん……」

 

 そういうものなのか、知らなかったな。楓はそう思う。

 顔を出して、姿を見せて、生の姿をインターネットを通じて世界中に向けて発信して。

 場所によっては収益化が通ってお金がもらえて、視聴する人が増えて行けばその分有名にもなって。

 ダンジョンの攻略が進めばその分情報が広がって、モンスターを狩る姿、まだ発見されていない財宝の数々、見たこのない景色を映すことが出来る。

 未知の世界だ。空想の世界として描かれていた世界観が現実となって、見たことのない世界を求めている人が増えていった。

 危険はある。それ以上に童心がくすぐられる。

 だから誰もがダンジョンに足を運ぶ。死人は基本的に出ないし、重症を負っても治せるくらいには医療は発達している。

 

「だから君達も別の名前を名乗っているのね」

 

「そうそう! 神木星歌があたしの本名ですが、配信上では長峰コトコとして名乗らせていただいてます」

 

「なんでそう言う名前に?」

 

「え、語感とフィーリング?」

 

「疑問形で返されるのか……」

 

 一週間姫宮家で過ごすことになり、与えられたスマートフォンから情報を得ながら。

 これから活動をともにする3人組についても調べていた。

 チャンネル名は“花のJK3人組”。登録者数は1万人。活動開始はそこそこ前。配信に対する知識がほぼない楓だが、1万人の数字を見る限り上澄みなのではと考える。

 上澄みがさしているのは伸び率と定着率だ。

 登録したところで見られなければ意味はない。配信を開始して真っ先に見られることに意味がある。

 そして視聴して、面白いと感じさせなければならない。至難であった。

 活動をするために必要な別名儀が必要になる。視聴者が見て、覚えやすい名前である方がいいが、まずは興味を持たれるところから。

 3人はそんな考え方から好きに名前を設定していた。

 

冬花(とうか)さんは──」

 

「冬花でいい」

 

「……冬花はなんで“佐伯フルエンド”なの?」

 

「かっこいいから」

 

 訊くまでもなかった。

 

「で、サクラ・ソワレね」

 

「好きなんですの、夜が」

 

「へぇ。私も好きだよ、夜」

 

「名づけは冬花がしてくれましたわ」

 

 ソワレはフランス語で夜を意味する。

 感性がいっしょなんだなと、3人に対する理解が深まっていく。

 別名儀の由来を聞いて、少し唸る。腕を組んで別の名前について。

 昔テレビに出演していた時に芸能人に囲まれており、彼らは本名ではなく別の名前で仕事を全うしていた。

 ある意味一つの仮面。仕事をする時の自分として励んでいるのだろう。

 では自分の場合はどうなのだろう。楓は少し考えてから答えを出す。

 

「藤原楓のままでいいかな」

 

「その心は?」

 

「心もクソもないけどこの顔は既に世界に知られているからな。強いて変えるなら下の名前をカタカナにするとか──」

 

「ではそれで」

 

「え」

 

「あなたは今日からFJKの藤原カエデですわ。行きますわよカエデ、ダンジョンに!」

 

「早い早い話が早い。桜って毎回こんな感じなのか?」

 

 こくりと頷く幼なじみ。

 配信部屋の中を桜は動き、パソコンを起動させてモニターを通じて3人が見れるように操作をする。

 映されたのはここ姫宮家を中心に広がった地図と、ダンジョンの位置が描かれていた。

 レーザーポインターで黒い箇所を桜は差しながら「ここは既に攻略済みのダンジョンですわ」と、軽い解説を添える。

 話に聞いていたダンジョンの発生地点を予測する装置である。

 

「大規模なものはなくて、発生頻度もそこまで高いわけではありません。月に2~3個日本にダンジョンが発生していると思っていただければ」

 

「そのペースだと日本崩壊してそうだけど」

 

「ダンジョン内はある意味異空間。こちらの常識なんて通じませんわ。あまり考えないことをお勧めします」

 

「いいのかその発言」

 

「私たちの技術の限界ですわ。出来ないものは出来ないと言った方が先に進めるでしょう」

 

 感情の話を持ち込むことはない。

 ことダンジョンにおいては事実を認めてから行動を取るようにする。

 姫宮桜はそういう人である。その上で全部を出すのだ。

 

「こことここにダンジョンが発生する。……だいたい2週間後でしょうか。それまでに攻略済みの難度の高いダンジョンに行って、カエデさんの紹介と行きましょう」

 

「どういう風に?」

 

 冬花が問う。

 聞かれた桜はニンマリと口角を上げて続けた。

 

「今一番難易度が高くて、既に攻略済みのダンジョンと言えば? ……はい星歌さん」

 

「え゛……、毒森(どくもり)?」

 

「そうですわね。辺り一帯が毒の海、毒の森、毒にまみれたモンスターしかいないダンジョンですわね。そこ、行きますか」

 

 毒森ダンジョンは名前の通り全てが毒で構成されているダンジョンである。

 安全地帯を抜けたら最後、その後は全てが毒、毒、ポイズン。入り口は穴と魔力による膜でふさがれて、その毒が外に回ることはない。

 最近そこを攻略した配信者が現れた。

 全身毒まみれの姿が映っていた配信であったが本人は毒に対して耐性を飛び越え無効化出来るように念入りにお金と準備を整えてから攻略。そのまま持ちうる実力で最後まで攻略した内容。

 かなりの時間を弄していたが注目度は高く、チャンネル登録者数が伸びたとか。

「毒は星歌がなんとかできるとして、どういう風に攻略をするんだ?」冬花の問いに「RTAですわ」桜がノータイムで答えた。

 

「攻略に1週間をかけていた配信でしたわね、あれは。なかなかスリリングで楽しめましたわ。でも今の私たちなら──3時間以内で行けますわね」

 

 RTA。ダンジョンに潜ってから攻略し終えるまでの時間を競う意味でここでは使われている。

 根強いコンテンツだ。ダンジョン内のモンスターがリポップするという性質があって初めて生まれたコンテンツ。

 例外として都市を侵食するようなダンジョンの場合はボスクラスのモンスターを討伐した後はダンジョンとしての機能をなくすことになるため、どこかで忽然と生まれたダンジョンに潜ることで成立するものである。

 そしてその桜の話を聞いて「本気かよ」楓の漏らした言葉に「本気ですわ」ノータイムに自信満々に桜は答える。

 方針は固まり、ダンジョン最奥までのルートを確認しつつ。

 

「初見で攻略できないダンジョンを、攻略された後に行くメリットを考えると、モンスターの素材の収集だったり拾い忘れを探したりするものですわ。モンスターは時間の経過で復活するんですもの。だから最速で攻略するという試み。私もやってみたいと思ってましたの。私たちならできると思っていますが、皆さんの意見は?」

 

「まぁ行けるんじゃないんスかね。楓がいるなら」星歌が答える。「そうだな」冬花が続けて言う。

 3人は攻略できると踏んで結論行こうとしている。楓はそんな3人を見つつ、「じゃあ行ってみるか」彼女たちが出来るというのならば、出来るのだろう。そう考えて応じる。

 かくして準備期間を定めて毒森を攻略する段取りが進んでいった。

 

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