~重要なお知らせと毒森最速攻略配信~
:う~す
:よぉ
:朝早いね
:なんですかこの配信タイトルは
:重要なお知らせってなんスカ
「皆さんごきげんよう。元花のJK3人組ですわ。今日から活動名を変えますわよ」
:元て
:そんな急に
:理由は?
:てか連絡先交換しません?
:てかどこ住み?
:プロダンジョン攻略者ですわ。アドバイスなら任せてください
「求めてませんわ。……まぁ、新メンバーが一人増えますので3人組から4人組へ変えていこうかなと」
:!?
:!!!!
:マジ?
:急で草
:ここなんかいい匂いしない?
:男挟むのやめてください
「心配せずとも女性ですわ」
サクラの言葉によってコメント欄が加速する。現在の同時接続者数は1000人程度。
休日の朝、そして登録者数から見てかなりの人数を持っている。
舞台は毒森ダンジョン。名前の通り全てが毒で構成されている危険地帯である。
存在自体はダンジョンが観測された時から存在している。知らない人もそこまでいない危険ダンジョンの筆頭。
少し前に攻略が果たされた。技術と魔力と時間をかけた攻略で、その配信の様子は当然世界中で拡散され、急上昇枠へ。配信を開始すればとりあえず見に行ける程度に知名度は伸びていった。
そんな話もつい最近。
同じダンジョンを攻略するにあたって、視聴者に与えたいのはインパクト。
故にここを選択。本当は早い段階で初見攻略を済ませたかったがテスト期間中に攻略が果たされたので何か文句を言うこともできなかった。
「新メンバーはこの方っスよ~! はいどうぞ!」
「こんにちは~!」
:顔見れねぇじゃねぇか!
:誰!?
:どなた!?
コトコの声に応じて現れたカエデは出会った時と同じボロボロの装備。
顔は隠され、服もローブで覆われている。
顔を既にインターネット上に公開しているスポーツ選手ではあるものの、とはいえこの姿の方が知る人ぞ知る存在として認識できるだろう。
:ダンジョン荒らしじゃねこいつ
:配信せずにひたすらダンジョンを攻略しているあの!?
:存在してたんだ
:本人!?
「本人だよ~」
:本人だった
:じゃあ本人か
:脚での攻撃が主だからそのうちわかるだろ
「え、私ダンジョン荒らしって呼ばれてたの?」
「みたいだな」
カエデの疑問にフルエンドが答える。
掲示板、SNS上にてその存在について議論はされていた。
主に戦闘面と攻略スタイルについてだが。モンスターを倒しているならその様子を見せろという言葉が多かった。
片っ端からダンジョンを攻略して回り、モンスターを狩りつくして神出鬼没。
ようやくカメラで捉えて見えたのは脚で大型のモンスターに一閃キメている瞬間であった。
攻撃対象のモンスターも強いモンスターとして登録されていたので何者なのか話す人は多かった。
「やだな~。生きるためにダンジョン内で寝食過ごしてただけだってのに」
:寝食?
:こわ
「モンスターも不味くはないからね。おすすめは──」
「まぁ待ちましょうよ。一旦話を先に進めません?」
「あ、あぁ。そういう感じね、了解了解」
コトコに話を止められる。
おいおい話題として出していけばよいのだ、そういう話は。
無言のまま配信が進んでしまうことを一番恐れているサクラの方針であった。
:配信慣れしてないのな
「彼女の顔はおいおい見せるとして、今日は毒森を1時間で攻略するぞ」
:は?
:またフルエンドの虚言か?
「3時間じゃなかったっけ……?」
「諸々考慮した結果1時間で行けることが分かりましたわ」
「えぇ?」「えー?」
カエデとコトコが今日初めて聞いたような反応をする。
実際聞いていなかったので内心ビビり散らかしている。
サクラのに対して正気かこいつと視線を向けながらも、大口叩いたフルエンドはつらつら言葉を並べている。
「ついぞ最近攻略された毒森。解析が進んでも難易度がバカ高いことは視聴者のお前らも重々知っていることである。だが今回我々はそんなバカなお前らでも簡単に最速で攻略できる方法を編み出した。今回はそれをお見せしていこうと思う」
:なんだと
:バカって言われた人がバカなんだが
:見せてみろや
「めちゃくちゃバカ連呼してるけどいいの?」
「配信開始は毎回あんな感じです」
「そうなんだ、そういうノリね」
カエデはカエデで慣れていかなくてはならない。
配信の雰囲気は当然として、もう一つは三人の雰囲気に。
友人関係としては時間をともにする中である程度把握してきたが、ここ配信においてはまた違う。
まず第一に名前。咄嗟に本名を出してしまいそうな気がするが、そこだけは絶対に抑えなければならない。
そして戦闘スタイル。ざっくり本人たちに教わりつつ、本人たちの切り抜きを視聴する。
コトコは機械類を纏いながら火力を押し付け、その後方で姿を隠しながらフルエンドが銃を持ってサポート。
手の届かない箇所で攻撃を入れながら支援に入るのがサクラ。
ざっくりとした理解である。カエデの役割はコトコと同じ火力の押し付けである。
自分を探していた理由を問うたところ、“モンスターを倒せるのはいいが時間をかかるのをどうにかするため”とのことだった。なるほどそれで自分か、そうカエデは納得した。
「ざっくりどんな感じに攻略するかと言うと──まぁ見た方が早いよな。私が解説しながら先に進んでいくぞ。画面右上にタイマーが映っているのが見えるな?」
:そのためのタイマー
:え、マジでやるの
:正気かよ
「正気ですわ」
「ボスもこう言っていおられる」
:サクラ、嘘だよな?
大口叩くのは今に始まったことではないし、無理をこなして成果を常に得ている。
そこに不満はどこにもないし、返って楽しんでいたりしていた。
サクラは出来ないことは必ず言わないと知っているからだった。
「ではさっそく参りましょうか。コトコ、頼めるかしら」
「ほい、
言い終えてコトコの身体に機械が覆われる。
随分大層な名前だなと、カエデは思い、戦闘スタイルについて確認をしている時にコトコに問うた時があった。
名前を仰々しくした理由は、と。返ってきた言葉は“当時の幼馴染の影響を受けたからっス”だった。
その時のコトコの声が小さく、哀愁が漂っていたことは忘れない。染みついた方法の方が動きやすいのでそのまま言葉に応じて魔力を動かすように意識しているとのことだった。
「タイマー動かすぞ。効果付与がなされたタイミングで計測開始だ」
「っしゃおらあああああ行くっスよおおおおおおおおおおおおおお!」
:コトコ声でか
:スイッチ入った時のコトコは強い
:ダンジョン荒らしの実力を早く見せろ
カエデ、サクラ、フルエンドにかかる魔術。
効果内容はシンプルに毒無効。毒森ダンジョンに対して最も有効に働く力である。
とはいえ無効化したところで攻略できなければ意味はない。その実力を持っているのかどうか、視聴者が期待する箇所でもある。
同じように毒森ダンジョンを攻略しようとして撤退する人間は何人もいるし、その度に毒に対する耐性を付けてから行く。マストだ。
誰もが最初にやることだからこそ、ここでタイマーが起動する。
「はい、よーいスタート」
フルエンドの一声に応じて駆ける。真っ先に動いたのはカエデ。その次にコトコ、サクラ、フルエンドの順。
洞穴を空中から地に向かって踏みつけにかかるように落ちていく。
その様子を捉えている1台のドローンカメラ。インターネットの上に公開されて世界中へ。
“ダンジョン荒らし”の名前は広がっていたらしい。同時接続数は、勢いはないものの着実に増えていった。
落ちていくうちにやがて光が見えてくる。
──解析によって得た情報は頭の中にすべて中に入っていた。
「着地しにくっ」
地面に着地、同時にその感想。
地面とは言うが、実際は毒沼だ。底があるから脚を付くことが出来る。耐性がなければ衣類は溶けて骨が露出してしまうだろう。
そして正面から見える光景。見える紫色の粉、言うまでもなく毒。そして広がる森林。葉の部分は全て紫色一色に染まっていた。
上を見る。同じように落ちてくる仲間を見ながら空にぽっかり黒く空いた穴のみがある。
3人が地面に付いたのを確認。前方に向かって迷わず進んだ。
:はっや
:サクラたちおいてけぼりだぞ
「織り込み済みですわ」
「進行方向は分かっているので奥地に向かって進んでいきます。いかに見えているモンスターと接敵しないかがポイントだ」
フルエンドの解析を添えながら進んでいく。
毒森ダンジョンは迷宮のように進路が複数あるタイプのダンジョン。
道に迷えばその分タイムロスになる。分かればかからない。
「おっ、早速出ましたね。ポイズンドラゴン。正解の道を走っていると出てくる3匹の門番のうちの1匹です。毒によるビーム、毒による波状攻撃、あと石化。てんこ盛りですね」
:なんで毒100%のダンジョンで石化も対策必要になるんだよ
:ボスの影響定期
:こいつ倒すのにすっげぇ苦労したゾ
:初見攻略者も見てます
開けた箇所にやって来たと思えば出てくるのは門番ポジションのモンスター。
4人の侵入を確認した瞬間に入って来た道が途絶える。逃げる場合は外から持ってきたアイテムが必須である。
顔を上げたカエデ、真っ先にドラゴンの形相を見て、体勢を崩した。地面から脚を離して尻餅を搗くかのように動く。しかしすでに上がっている金属の脚。
毒なんてもろともしない銀色の輝きが光って、ブレた。
同時に空を走る幾数の斬撃。ドラゴンが反応するより先に目元を貫いた。
「──!」
雄叫び。耳に響く叫び声をもろともせず、カエデに呼応してフルエンドが装備を切り替えていた。
便利なことに、毒耐性の効果はしばらく保っているらしい。
「――
「とまぁ、見ての通り真っ先に潰すべき目を出だしから攻撃します」
:待って早い早い早い
:コトコのアッパーカットが決まってら
:桜で再生が止まってる!
:毒で桜が止まらないのずるくない?
:フルエンドお前出番は?
「うにゅ?」
:おい
:サボるな
「いやあとで出番あるから。……初動を止めればこっちのものなのであとは火力を押し付けます」
「──
以前サクラと決闘した時に見せた炎を纏った一撃。
体力をそこそこに消費する動きだが最速攻略を行うため無理を通す必要がある。
1日に5回は打てるくらいには鍛えて、5回の回数制限があるほどに抑えているパワーアタック。
脚がドラゴンに触れた瞬間に轟音がマイクを捉えた。
煙に包まれると同時に、入り口を塞いでいた結界が解除された。
:つっよ
:は?
:こっわ
:え?
:ごめん何が起こったのか教えてくれないか
「何って……、サクラが飛び散ったドラゴンの毒を桜でせき止め、コトコが拳で頭蓋をかち割り、最後に彼女が上から全てを貫く蹴りをかましただけだが……?」
:解説しっかりしろ
:ポイドラそんな弱かったっけ
:A級だぞ
:うお……w
:笑えて来たな
「残りの門番モンスター、首無し毒騎士、ポイズンスライムも同じ流れになる。テキパキ行くぞ」
:もしかしてダンジョン攻略って複数人推奨?
:もしかしなくても→そう
:友達いないんですがそれは
:募集してるところあるからいけよ……
サクラに桜。駄洒落のように言いまわし、器用に動かしているそれ。
弱点は炎で焼かれることではあるし、毒に触れれば当然溶けるだろう。耐性が付いているので問題はない。
桜が触れた箇所から対象の魔力を吸い取り、使用者に還元されていく仕様である。
便利だとカエデは思う。一つにまとまれば盾にもなるし、攻撃に転ずることもできる。
じわじわと削り取っていく戦い方は長期戦には向くが、配信には向かない。
:やるね
コメント特有の上から目線。
見えている作業は流れ作業だ。再現性は極薄だがある。
重要なのは連携だ。
複数人で攻略を行う以上、仲間の行動の邪魔にならないように、そして仲間のサポート、意図を読み取って動かなければならない。
配信を見ている限り、視聴者からの評価は概ね好評。バックサポートに従事しているフルエンドはコメントの流れを見る。
視聴者数が急激に伸び始めた。伸び率が高すぎると購入を疑われるがそんなことはない。
並行してSNSを確認。注目を浴びているワードはやはり“ダンジョン荒らし”。
本人の攻略風景が本格的に映るのは今回が初めてだ。気軽に見に来る人もいるだろう。どの人たちにファンになってもらうのが今回の目的の一つ。
配信は滞りなく進んでいく。奥地に進み、容赦なく飛んでくる、降ってくる毒をもろともせずに進んでいく。
首のない毒騎士は戦闘早々に武器である剣をへし折り、流れで鳩尾箇所を追撃、そこにコトコ、サクラが猛追。
ポイズンスライムも開始早々に膝をキメて、散った分体を桜で止めてコトコの範囲攻撃。
流れ作業は鮮やかで、見ていて飽きることはなかった。
スーパープレイ。知識のないスポーツの動きを疑問を感じずにただ眺めれることと同じ。
各々の視聴者がどういう感想を抱いているかは分からない。けれど伸び続けている視聴者、登録者数を見ていればいい傾向にあるとは分かった。
「見えてきたな。今回のボス。アシッドメデューサ」
:もう石化に動いている!
:初動潰しを潰しに来るのか……
:そういうのもあるのか
「この後援軍がボスの生死に関係なく突っ込んでくるので私が潰します」
言い終えてハンドガン。それも二丁。
デザイン担当は妹。花柄がキュートだった。
「腐食作用を働かせても餌になるだけなので炎で焼きます」
:このチーム燃やしてばっかだな
:サクラと相性悪くね
「って思いますわよね」
:うわでた
:なぜ聞こえてる
「あら、皆様のコメントはすべからく耳に届いてますわよ~」
:ひぇ
「フルエンドが忙しくなるので私が解説を始めますわ。……、と言っても、もう終わる頃でしょうが」
「
「任せろ!」
:カエデ?
最奥に付いたら名前出していいとは指示されている。
フルエンドのサポートが走る。上空、地中から迫りくるメデューサの子どもの蛇。顔を出した瞬間から潰しに回っている。
カエデが引き付けている間にコトコが武器を作り始め、そしてその準備が終わる。
カエデがローブを脱ぐ。その姿が公開される。
来ているのは動きやすい運動着、足元は当然魔力で構成された金属の長靴。空中に向かって動くカエデ。その勢いに黒く伸びたカエデの髪が靡いている。
スポーツ選手という事もあって無駄な筋肉が付いていない。削ぎ落された肉体に美が宿っている。すらっとしたその姿見にコメントの流れは加速する。
夜空で落ちていく流星のように動き、上体を変える。身体の向きを変え、空に向かって蹴りを打ち込むかのよう。
オーバーヘッドキックが行われようとしていた。ボールの代わりになるのはコトコが作った武具──
星のように輝く槍。その先端がメデューサに向けられている。
「月光」
言い終えて、蹴る。
勢いを帯びた一撃はメデューサ目掛けて一直線。避ける動きが間に合わない。髪の毛部分の蛇が伸びてその一撃を止めようとする。
「無駄だよ」空を蹴っての二撃目。槍の柄の部分の最後方石突に向かって更に押し込む。
叫び声、それも無数。それぞれの蛇が痛みをこらえきれていない様子。
だからなんだ。そんなものは関係ない。そう言わんとばかりに、カエデは押し込んだ。
「これでフィニッシュ、いかがでしょう。……では改めて」
「新メンバーの藤原カエデと申します。そして──この度FJKの一員として活動することになる。よろしく頼む」
「よろしくお願いしま~す!」「よろしく」
「……そういうことで、よろしくお願いしますわ」
FJKの開幕配信は好調の兆しを迎えていた。
この配信を皮切りに、4人は躍進していくことになる。