【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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2112年のアーカイブ⑤

 

「配信ってよくわからない」

 

「と、言いますと?」

 

 FJKとして4人で活動することになって数ヶ月が経過したある日の事。

 長峰コトコ──神木星歌と、佐伯フルエンド──重木冬花(かさねぎとうか)が試験の補習によって帰りが遅れている中での二人の帰り道。

 夏の暑さをウザったたしく感じながら、コンビニに立ち寄って買ったアイスを口にして。

 藤原楓は姫宮桜に対して自分が抱き続けた疑問をぶつけた。

 

「いろんな人のダンジョン配信を見たんだ。面白いと思うものもあれば、よくわからないものもある」

 

「例えば?」

 

「自分にとって面白いと思っていないもの……、そうだな。モンスターの倒し方を派手に決めたり、視聴者と喧嘩しながら配信したり、危険を顧みずダンジョンで生活していたり。他の人が楽しんでいるそれを、自分が楽しめていない」

 

「そんなものですわ」

 

 きっぱりと答える桜。

 

「別にダンジョンに潜るだけなら配信する必要はありません。法律で義務付けられているわけではありませんから。……未開のダンジョンはともかくですが」

 

 ダンジョンをエンターテインメントとして捉え始めたのはほんの数年前からだ。

 安全という基盤が確立されたうえで行えるからこそ楽しむ余裕が生まれている。

 翻って危険地帯として見られる未開地のダンジョンは記録に残さなければならない。踏破されれば得た情報を基に攻略体制が確立されていくというもの。

 楓が見ている配信は基本的に誰かが攻略した後のダンジョンだった。

 配信を見ている側からすればダンジョンに対する知識を持ってコメントを送るものもいるし、配信者と感覚を共有するかのように反応を楽しんでいる。

 

「配信は自由ですわ。もちろん限度はありますが。瞬間瞬間を楽しんでいく。ダンジョンに行くこととは別に、(わたくし)がダンジョンに潜っている理由はそこにありますわ」

 

「どういうこと?」

 

「映像に残していれば、思い出話にも花が咲くというものでしょう?」

 

 姫宮桜には両親がいない。

 もう一人──姫宮家が抱えている専属の先生と呼ぶ人物が主に運営を担い、ダンジョンについて日夜研究を行っている。

 記録に残しておけば情報として残り、そして自分が輝いている瞬間を客観的に見ることが出来る。

 

「最高の瞬間は現時点──全盛期の自分でなければ表現することが出来ない。生き続けている限り私は常に全盛期を迎えていますわ」

 

 過去、FJKとして名乗る前の“花の女子高生3人組”時代の配信アーカイブを当然楓は見ていた。

 感想としては、つまらなくもなければ面白いと言えるほどのものではなく、見ていて飽きないというものだった。

 何かの作業中に傍目で見ることが出来るような感覚を覚えていた。

 3人の内誰かがオーバーなリアクションを出せば声に反応して目をやって、そこから起こる光景に対して感想を抱くことになる。

 

「見ている側だって自由なんですから。配信者を叩く人、純粋に応援したい人、彼氏面したい人。……それもひっくるめて作り上げていくのが配信であって、面白くしていくのが配信者ですわ」

 

「私を入れた理由ってそこに関係するの?」

 

「なくはないです」

 

「なくはないのか」

 

「火力不足をよく指摘されましたし、三人で行くにしても限界が見えていました。コトコ──星歌への負担が大きいんですもの。それはそれで面白いのですが、泣かれてしまいまして」

 

 一番最初の毒森ダンジョンを攻略した後の事を楓は思い出した。

 コトコに手を掴まれてブンブンと上下に振って感動しているような姿。

 理解が追い付かなかったがそういう事だったのかと、楓は一人で勝手に納得した。

 

「楓さん、評判がいいんですのよ? 派手で見ていて飽きないだとか」

 

「そうなの?」

 

「あら、ご自信の評判をお調べにならなくて?」

 

「変なコメント見たら感情的になっちゃうから控えてる」

 

「お可愛い悩みですわね」

 

 気になって検索をかけてみたことはあった。

 選手の頃とはまた違う自分に対する評判を見て、自分の事を懐かしく思う人もいれば、いらないのではという意見もあった。

 桜から見てみればさして悩みにもならない声なのだろう。

 

「応援していただけるならばそれだけで嬉しいものです。承認欲求なんてのは自分のやりたいことの先に現れてくれるとなおいい」

 

「……」

 

「自分のやりたいことをやって賞賛の言葉をいただける世界、そう考えればよろしくて? だからこそ自由なんだと、私は思いますわ」

 

「そういうものなのか?」

 

「活動を続けて行けば勝手に理解します……あぁ、そうだ」

 

「?」

 

 何かを思いついたらしい。

 桜はこちらを向いて、にやりと口角を上げながら「この後お時間はありますか?」笑顔で楓にそう訊いた。

 楓は──真夏の太陽の下にいるのにヒヤリと鳥肌が立ったような感覚に襲われた。

 

 

「二人で楽しくダンジョン配信! 皆様ごきげんようサクラ・ソワレと申す者です。そして──」

 

「学校帰りに連行された哀れな女です。名前だけでも覚えて帰ってね」

 

「ちゃんと名乗りなさいな」

 

「藤原カエデで~~す」

 

 ダンジョンにやって来た。

 近場の既に攻略が果たされているダンジョンであった。

 難易度もそこまで高くなく、誰でも攻略が可能な場所だった。

 モンスターも強くはないし、攻略を行うにしても下に降りていくだけのダンジョン。

 面白みに欠ける、ダンジョンの存在する世界においてどこにでもある普通のダンジョンの一つだった。

 

 :なぜに二人

 

 配信開始して1分にも満たない時間の中、早速コメントが流れ始めた。

 単なる挨拶から始まって、拾えそうなコメントが次第にやってくる。

 

「コトコとフルエンドは少しばかしお勉強をする必要がありまして」

 

 :あ

 :かわいそ

 :テ、スト

 :頭痛くなってきた

 :勉強の話辞めてください

 

「仕方がないよな。だって学生なんだもん」

 

「学生相手に勉強の話をやめろとは……?」

 

 配信を行う以上、相応しい振る舞いを行う必要がカエデにはあった。

 サクラはほとんど素で言葉を並べている。だからカエデはカエデで言葉を置きやすい。

 配信内の雰囲気は人を定着させる要素になる。

 カエデは特に緊張していないが、未だにどういう風に配信を進めればいいのか把握していない。

 だからこそ、今日の会話を聞いてサクラはダンジョン配信を行うことを決行した。

 そして配信を開始する直前、サクラはカエデに助言している。

 

(自由にやれ、か。肩の力をもう少しに抜いて行かないと)

 

 思うところはある。

 カエデにとってのダンジョンはなければ良いに越したことがない存在で、モンスターは視界に入り次第倒し尽くしたいと考えている。

 

 自由とは何か。

 自由に繋がるものが何なのか。

 

「ま、なんでもいいか。サクラ、今日はどう進めていくんだ? 放課後いきなり連れていかれたから何の準備もできてないぞ」

 

 最低限服装を変えてはいるものの、何の準備も整えていない事もまた事実。

 サクラはその言葉を聞いて、変わらず笑みを浮かべながら続けた。

 

「どうにも、このダンジョンから別のダンジョンに移動してしまうワープポイントがあるらしくて」

 

「わーぷぽいんと?」

 

 :聞きなれない言葉が過ぎる

 :カエデさん固まってますよ

 :なんで配信してるんスか??? 

 :コトコも観てます

 

「あやば二人に言ってなかった。じゃなくて、ここは初心者向けダンジョンとして広く知られていますが、どうにも初心者向けとは思えないつよつよモンスターが蔓延っているらしくて」

 

 :例えばあそこにいる奴とか? 

 :全身が岩の怪物もいます

 :うわ。ロックボーイ

 :こんなとこにいていい強さのモンスターじゃないぞ

 

 ロックボーイ──全身が岩で構築された二足歩行のモンスター。

 特徴としてはやはり岩の身体。硬度が高く、魔力に対しての耐性をそれなりに持つ。

 ダンジョンに慣れ始めた人間がようやく挑むことが出来る登竜門のような存在として知られている。

 つまり、初心者が相手にするには早すぎる存在である。

 

「ふん!!!!!」

 

 紫電一閃。膝まで覆った鉄の脚がロックボーイを貫いた。

 スキップするように前方に跳ねていき、そのまま膝蹴り。膝の先の尖った鉄の箇所がそのまま勢いのままに貫いた。

「つよつよモンスターね。それも複数……」カエデは視線の先にいるモンスターの大群を見て一言。

 カエデはダンジョンに入ってから日が経ちすぎている。

 現在を生きている同年代よりも、ずっと。

 だから判断が早かった。

 

「ほっ」

 

 地面の表面を滑るように移動してから跳ねて、カエデはその姿をくらませた。

 カメラはその動きを捉えることが出来ない。

 同時に聞こえてくるのはモンスターの断末魔。サクラはその動きをしかと目で終えていた。

 動き、動き、蹴って蹴ってひたすらに。モンスターの身体を破壊しつくしていた。

 

「あそこ空間がひび割れてるけど。わーぷぽいんとってあれのこと指してる?」

 

「あ、はい」

 

「意外と近くにあるんだね~」呑気にカエデが口にする。

 視聴者は置いてけぼり……というわけでもなく。サクラが適度に解説をしていたのでなんとかコメントの流れを保つことが出来ていた。

 

 :ほんまに強いな

 :今までどこにいたんだこいつ

 :強さの秘訣は? 

 

「え、知らない。気づいたらこうなってた」

 

 :こわ~

 :もう少し自分に興味を持て

 

「え~……」

 

 強ければそれでいいと思っている。

 自分の姿を見直して欠点があればそれを改善していきたいとは思っているものの、撮影機材が強くなる過程の中で用意できなかった。

 既に戦い方の癖が染み付いてしまっているので改善につなげることができないのも課題として抱えていた。

「まぁいいか」とりあえず置いておいて躊躇なくワープポイントに首を突っ込んだ。

 

「全然別の場所じゃん」

 

「ここにワープポイントを発生させている元凶のモンスターがいるはずです。さっさとしばきましょう」

 

「この人配信している時たまに口悪くなるな」

 

 :いつもこんな感じだぞ

 

「そうなんだ」

 

 やって来たのは開けた空に岩盤地帯。

 そしていたるところにモンスター。今にも敵意を向けている。

「黙らせますか」何もない掌を口の前において、サクラは静かに息を吐いた。

 桜が舞った。吸い付くようにモンスターを目掛けていった花びらから対象のモンスターに引っ付き魔力を吸収。

 糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちていく。

 

「この人やってること怖くない?」

 

 :わかる

 

「あら。褒めても何も出ないですよ」

 

 :桜が舞ってますよ

 

「それはそうですわ。だって──元凶が来たのですから」

 

「ぅお?」

 

 サクラの視線の先──空中に向けてカエデも視線をやる。

 杖を持って膝を組んでいる骸骨が浮いていた。

 中身が空洞というわけでもなく、黒い物体が詰め込まれていて、得たいのしれない存在であるという事実に拍車をかけていた。

 

 :見たことない

 :新種か? 

 

「サクラ、見たことは?」

 

「ありませんわ」

 

 骸骨の持つ杖が光った。

 紫色に、見ているだけで不安を煽ってくるような色合いで。

「来ますわね」空間が割れる。無数の穴が現れて、その中から草の根が迫ってくる。

 

 :触手? 

 :えっど

 :捕まったら絵面がヤバくて草なんよ

 

「捕まるとでも?」変わらず桜が舞っていく。触手に付いたそれ。動きが次第に遅くなる。

 桜に呼応して動いたカエデ。回転するように斬撃を飛ばしていき、触手を次第に切り伏せていく。

 

「──」

 

 骸骨はその姿を見て戦法を変えることにしたらしい。

 次に穴から現れてきたのはゴースト。実体のないモンスターが襲い掛かる。

 特筆するべきは攻撃が基本的に通らない事。そしてこちらの身体をすり抜けて、直接心臓に手をかけて握りつぶしにかかること。

 

「うわゴーストじゃん死ね!!!!!! こいつ嫌い! 寝て起きた時こいつらに囲まれたの思い出して心臓跳ねたの思い出した!」

 

 珍しく吼えるカエデの姿。

 

 :これきらい

 :遭ったら逃げが正解

 :なぜ生きてる? 

 

「いや、私も一時期苦戦しましてね。逃げ回ってたものですよ。でもね──簡単な倒し方を覚えまして、いい機会だから本日は皆さんに伝授しましょう」

 

 :マジ? 

 :有料クラスの情報じゃね? 

 

「正解はゴリ押しです」

 

 :は? 

 

「と言っても基本的にすり抜けてくる相手に何言ってんだって感じですよね。でもこいつを物理的に接触できる瞬間があるとしたら……?」

 

 :あ(察し)

 :こわ

 :あたまおかしい

 

 現れた3体のゴーストが同時にカエデに迫ってきて──心臓に指をかけた。

 得体のしれない感触が3つ。それに反射的に動いて横に一回転。確かに響いた何かを切り伏せた感触。

 同時にゴーストの身体が真っ二つに分断された。

 

「これしか解答がわからないので正解はこれです」

 

 :そんなことある? 

 

「あるからそれでよしとさせていただきます」

 

 サクラがレイピアを携えてカエデのそばに。

 そうしてまた姿を消して、空中にいる骸骨の背後を取った。

 

「この手のモンスタ──―アンデットはコアを貫くに限りますわ」

 

 刺突に寄る一撃。穿った先は頭蓋の箇所。

 切先が骸骨を貫き、うめくような金切り声が響いて、首だけがサクラの方に向いた。

「あら」けれどサクラは焦っていない。レイピアから手を放して緩やかに地面に向かって落ちていく。

 サクラの視界の先に広がったのは、骸骨の持っている杖を切り伏せ、そのまま天に向けて脚を上げるカエデの姿だった。

 

 

「配信がよくわからないと言いましたね」

 

「言ったね」

 

 骸骨を倒してひと段落ついた。

 締めの会話を配信内で行い、終えようとしたタイミングでサクラが切り込んだ。

 

「配信は自由。スタイルなんて人それぞれ。では、なぜそれで人はずっと見続けているのか。答えは簡単ですわ」

 

「……」

 

「単純に好きなんですもの。愛とはちがう、純粋な気持ち。好きで好きで、たったその二文字で成立する。それだけでよいのですわ」

 

「そういうもの?」

 

「えぇ。何も考えずに見て、好きだと思ったらそのまま見続けて。それで終わり。余暇を埋めるような存在でしかならないのが配信ですわ。だからこそ自由に振る舞う。ただそれだけ」

 

 実感がカエデにはなかった。

 ドローンから流れる視聴者の声に耳を向けてみると、“そういうもの”であるという同意の言葉に満ちていた。

 

「今日のカエデさんの動き、見事ですわ。見ていてはらはらしましたもの。死なないとは思っていますが、経験が生きてますわね」

 

「ダンジョン暮らしが長ければ勝手に学ぶよ。みんなもやってみる?」

 

 :やんねぇよ

 :たはは……

 

 自由に振る舞い、相手を魅了する。

 好きだから見ているだけ。その中には複数の要因が込められているが、それを含めて人それぞれ。

 考えてみればシンプルなもの。どうぜならずっと見ていてほしいとも思わなくもない。

 かつての経験と紐づくような感覚がカエデにはあった。最初──フィギュアスケートを学んでいた頃の気持ちを思い出す。

 純粋に好きで、見てもらいたくて、貪欲に挑み続けてきた過去を。

 選手として復帰することも一時期は考えた。時すでに遅しと言えなくもないが、過去の動きを追うことになるだろう。

 過去の栄光なのだ。一部を切り取ることで生まれる最高の瞬間は、そのタイミングでこそ成立するもの。

 二番煎じも。AIによる再現も。所詮は過去の産物であり、本人を超えることができない。

 再現性のない瞬間を紡ぐ。それ故に人は引き付けられていく。

 常に前を歩き続ければ昔の自分と比較される。ただ、それは思い出として綺麗に保存されるだけなのだ。

 積み重ねの先に人に好まれていき、応援する者が現れていくのである。

 

「難しいね」

 

「まぁ、もう少し気楽に行きましょう。始まったばかりで──この先も続いていくのですから」

 

「そうだね」サクラの言葉を胸に落として。

 これから先どう過ごそうか、カエデはゆっくると悩んでいこう、そう決めたのだった。

 

 :ところでどう帰るの? 

 :ワープポイント消えてますよ

 

「え」

 

「あっ」

 

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