【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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2114年のアーカイブ

 

 桜火(おうか)ダンジョンの初見攻略配信が始まった。

 FJKの活動が始まって3年が経過し、視聴する者の数も増加していった。

 ついぞ最近発生したダンジョン、未開の土地。一面に広がる草木が風で揺れ、火の粉が桜のように舞っている、

 火を帯びたモンスターが動いている。

 自分が燃えていることに気づいていない、生まれ持ってから燃えているモンスターが襲い掛かってくる。

 見たことのないモンスター、コメントを追っていけばその姿に畏怖を抱く者もいる。

 そして期待する声も現れていた。

 

「ザコがよ」

 

 刃が走る。

 真っすぐ飛んで行った空気の刃はモンスターに接触し、真っ二つに切り裂いた。

 力のあるモンスターであっただろう。もしかしたら苦戦する者もいたかもしれない。

 けれど関係ないと言わんばかりに、カエデは脚を振るった。どうやら絶好調らしい。

 3年の活動を得て口が悪くなったものの、配信に慣れたこともあってのびのびと活動できていた。

 問題発言をしてしまうことはない。炎上には気を遣う。

 

「あんまり先に進まないでくださいまし。コトコとフルエンドが遅れてしまいますわ」

 

「まぁまぁ。置いていくようなことはしないから!」

 

 サクラがそう言ってカエデの行動に待ったをかける。

 熱さに対する耐性をかけてはいるものの、実際に流れる汗と肌に感じる暑さには気怠さの方が勝ってしまう。

 現に後方二人はひぃひぃ声を出していた。

 真夏の太陽のごとく燦燦と照りつく日の輝き、どことなく太陽が近くにあるように感じた。

 

「お前もモンスターだろ!」

 

 空中に向かって二度三度。カエデはサッカーボールを蹴るかのように攻撃を飛ばした。

 攻撃を喰らった太陽は声にならないうめき声をあげながら崩れようとしている。

「デス太陽をご存じで?」サクラがカエデに向かって問いかける。

 

「この前配信で見た。予習済み。存在に嫌悪感を感じる、(うんこ)だと」

 

「あら。はしたない言葉並びですこと。口臭ケアをご希望で?」

 

 ダンジョンを潜るものにとって最もな武器は何か。

 情報である。

 どんなに優れた才能を持っていても、武勇に秀でていても、対策されてしまえば後手に回ってしまう。

 だからこそ初めてダンジョンを潜る配信者の存在は貴重なのだ。時によってはダンジョン管理機関から提案されることもあるが、自分から進んで向かうものはそうそういない。これもまた注目が集まる理由の内の一つ。

 残りは女子高生が配信しているという話題性、そして配信上で現れる本人たちの強さに起因した。

 

「脚が早いんスよあんたら! ったく! なんでこんなに暑いのに平気なんスか!」

 

「そうだそうだ」

 

「コトコのおかげで今日は調子がいいんだ」

 

「お、おぉ。対応に困る素直な言葉はやめてください。理由は照れるから」

 

「顔真っ赤で草」茶化すフルエンドの言葉に「暑いからなんだが!?」コトコがフルエンドの頭をはたく。

 ようやくいつも通りの配信上の雰囲気が戻ってくる。

 デス太陽と称する人の生命を奪うモンスターがいなくなった影響だろう。身体の中に走る魔力が活性化されていく。

 真夏以上の熱さにもろともとしない配信用のドローンカメラは滞ることなく4人の女子高生の姿を捉えている。

 現代の躍進した技術によって生まれたカメラはそう簡単には壊れない。

 

「ん?」

 

 カメラがそいつを捉えると同時に、カエデはそいつの存在を認識した。

 ダンジョン内を歩いて、現れたモンスターは基本的に火が関連していた。

 けれど目の前にいたそいつには何もない。

 黒よりも黒、未知の人型。人の形をしているだけで、目も口も耳もない、おぞましい存在。

 偶然その場にいたのかもしれない、こちらの姿を見て、そいつは動きを止めていた。

 物影から現れたそいつを見て。全身の産毛が逆立った。

 

「──」

 

 何より恐ろしいのは人の形であることだった。

 モンスターらしく見るだけで恐ろしい存在とはまた違う異質の存在。

 渦巻く嫌悪感から胃液がこみ上げてくるような感覚さえした。

 心臓の鼓動が加速する。加速は警鐘に切り替わろうとしていた。

 

「逃げ──」

 

 後方に向かって言葉を向けようとしたところで、何かが切れるような音がした。

 視線の先、自分の右足がなくなっていた。糸の切れた人形のようにバランスが崩れて、地面に接したカエデ。熱さよりも先に冷えるような感覚だけ彼女の身体の中に走っていた。

 綺麗に切り傷なんてものはなく、自分の目で確認するまで脚が切れていると感じることが出来なかった。

「あっ」間抜けな声だなと、カエデは出してからそう思ってしまった。目の前の状況に理解が追い付かなかったからこそ、そんな声が漏れてしまったのだろう。

 当然、カエデの背後にいる3人も、遅れて今の状況に対する理解が始まった。

 しかし、たった一声で状況理解がさらに遅れることになる。

 

『なんでここに人間が? 新しく出来た場所だろ、ここは』

 

 その言葉がはっきりと耳に届いた。

 当然、その声もドローンは聞き取っている。

 明確に日本語だった。流暢に、こちらの言葉を理解して、発声していた。

 同じ人間ではない、言葉にせずとも心で理解していまう。目の前にいるそいつはモンスターであると。

 そしておそらく桜火(おうか)ダンジョンには存在しないモンスターであると。

 コメントが流れていた。

 

 :逃げろ

 :逃げてくれ

 :まずいまずいまずい

 :やばいって

 

 無機質な声、けれど感情は一つに統一されている。

 見られたくないものがあるのか、目の前のモンスターは手と思わしき部分を顎に置いて考えているような仕草を取っていた。

 

『人間ってこんな脚が軽いのか。初めて知ったな、もっと知りたいけれど、今は殺さないといけないね。だってまだ始まったばかりなんだから』

 

 機械とは異なる感情の入っていた声だった。驚き、予想外。

 実際に想定していなかった出来事なのだろう。心底驚愕しているような言葉だった。

 右手を真っすぐ、五指をこちらに向けて何かを放出しようとしていた。

「!」真っ先に反応したのはサクラだった。いつものように桜の花びらが舞う。真夏以上の気温など関係なく流動するそれはいつも以上の速さで目の前の動きに対応しようとする。

 桜の花びらはやがてひとつに固まり、盾のように象られる。

 その背後でカエデは──回復に動くよりも先に次への行動を考えていた。

 

「綺麗に、なくなってる」

 

 痛みはあった、身体中に走る痛みは一瞬では終わらない。

 血があふれている。今の技術なら治すこと自体は難しいことではない。お金を積めば欠損をなくすことが出来る。

 だが目の前のそいつは、はたして逃がしてくれるだろうか。答えはNOであるとカエデは自問自答して、即座に別の行動に移した。

 なくした脚を埋めるかのように、魔力を無理やり動かしてこねくり回して金属を纏わせた。

 その中身は空洞であるものの、次第にカエデの血で埋め尽くされようとしていた。

 回復する手段はある。けれどそれは──回復が間に合えばの話である。

 

「カエデさん!?」

 

「カエデ!?」

 

 傷ついた脚から感じる痛みを無視して滑走を開始した。

 予見するのは己の死。動いた思考が示した結果は時間を稼ぐことだった。

 攻撃手段は分からないが、理解しているのは力の差が存在していることと、FJK4人全員を逃がしてくれるとは思えないという事。

 言葉よりも先に脚が出た。迅速果敢。痛みの電気信号が加速していた。

 桜の盾から飛び出すように空に移動し、そのままモンスターに向かって追突する。

 隙をつくことが出来たのか、カエデの視界に入ったのはモンスターが攻撃し終えた姿だった。

 

「逃げなさい!」

 

 サクラの声が響いた。

 焦りの滲む声は初めて誰もが聴くものだった。

「うそだろ」不意に漏れ出た言葉、盾をもろともせずに、はなから存在しないものとして見えない刃が直進し、その先にいるサクラの身体を裂いた。

 吹き出る血潮に反応してはいけない。既にモンスター目掛けて進んだ身体を止めてはならない。

 サクラの後ろで帰還の宝玉をもって駆け寄る二人の姿が見えていた。

 何かを叫んでいるのだろう。言葉は伝わっていないが何を言っているかは理解できている。

 故にカエデはこう言う。

 

「私が時間を稼ぐ! さっさと逃げろ!」

 

 吐き出すように出した言葉には力が宿っていなかった。

 絞り出すような声、切れたカエデの右足は桜火(おうか)ダンジョン内で走る火によって焦げ始めている。

 

『煩わしいな、あの声』

 

 変わらない動きで空中で逃げるように動いていたドローンが破壊される。

 だから接近することが出来た。更に空中から、天に左脚をかかげて頭をかち割らんとする。

『いい動きだ』それは賞賛だった。おそらく初めて接敵したであろう人間、予想もしていない動きに目を見張っていた。顔と思わしき部分は存在しているが、真っ黒な画用紙を張り付けたかのように目、鼻、口を視認することはできない。

 

『人間ってこんなこともできるのか、それとも彼女だけか?』

 

『まぁいいか。どうせ私には勝てないさ』そう言い切ってまた右手を掲げていた。

 カエデの左脚は鉄で覆われている。魔力を帯びた自慢の装備。

 衝突3秒前。そんなものは存在しないとばかりに、左脚が重みに襲われた。

 まるで鉄そのものを纏ったような感覚。魔力を制御して、身体を強化しているはずなのに。

 

「は」

 

 やがてその装備は剥がれて生身の身体になっていた。

 切断された右足はそのままに、左足に鉄なんてものは存在せずに。

 次にカエデの視界に映ったのはバラバラに、崩れたパズルのように崩壊していく自分の身体だった。

 

『よし、まずは一人、残りは……あ、いない。逃げられてる。……追うか? いやそれよりも気になることができたな。どうせこっちを見つけることなんてできやしないんだ。このまま逃がしておこう。不死鳥の様子も気になるな……』

 

 

 長峰コトコが桜火ダンジョンに再度潜り始めたのはカエデと別れたから数時間経過した後だった。

 サクラを病院に運び込んでからのことである。

 

「危険だ、行くな!」

 

「嫌です!」

 

 フルエンドの静止をもろともせずにコトコは向かって行った。

 確かに自分も殺されるかもしれない恐怖はあった。けれどそれ以上にカエデの安否の方が重要だった。

 全身で魔力を回して、すぐに逃げることが出来るように。災害のように発生したモンスターを、カエデが倒していることを願って。

 真っ先に見つけたのは焼け焦げになっているカエデの衣類だった。

 

「──!」

 

 まだ近くにいるかもしれない。

 探す。探す。ダンジョンの攻略なんて関係ない。走り回るモンスターなんて無視して走る。

 痕跡と思える物は衣服以外に存在しなかった。身体がない。

 連れ去られた? 逃げられた? 生きている? 

 

「そんな」

 

 脳内に駆け巡る様々な可能性。水たまりのように広がっている大量の血を見て頭が真っ白になった。

 

 死。

 

 自ずと理解してしまう。

 行方不明の線を考えたいが、出血量があまりにも多い。

 帰還の宝玉を使用して、最後に見えたカエデの姿。目を背けていたものをようやく思い出した。

 バラバラになった彼女の姿を。

 

「おぇ」

 

 込み上げてきた胃液を抑えること無く吐き出した。

 気分がすぐれない。今すぐこの場所から立ち去りたい。

 でも諦めたくはないのだ。

 

「せめて、あの時のモンスターを見つけて──」

 

 見つけてどうするというのか。

 勝てるビジョンがまるで浮かばない。なすすべもなくやられたサクラとカエデの姿を思い出した、その案を一瞬だけでも考えてしまった自分に嫌悪感を抱く。

 そうして何度も駆け巡ってさらに数時間。

 フルエンドからの連絡が100件を回った。都度都度生きていることは知らせているが、お互いに不安になっていることに変わりはなかった。

 諦めて一度撤退しよう。

 そう決めて帰還の宝玉に手を伸ばそうとしたところで、光を見た。

 

「……?」

 

 初めて見る光景だった。

 舞台は変わらず桜火(おうか)ダンジョンのままだというのに、燃え盛る大地と桜の花びらのように舞う火の中で起きる現象としては違和感を感じるのには十分な、異質な光景。

 光はやがて一つの形に変わろうとしていた。

 小さい。真っ先にコトコは思った。光が人の形に変化していき、コトコは警戒態勢を取り始めた。

 モンスターの仲間の可能性が高いから。実力の差は分からないが倒して手がかりを得なくてはならない。

 光はやがて収束していく。

 人の形をしているそれは衣類を何一つ纏っていない。

 金色の髪が風によって揺れていき、耳の部分に目が行った。

 長い。

 人間の部位としては伸びることのない箇所のため、モンスターの線を真っ先に疑った。

 やがてそれは目を開けた。

 

「子供?」

 

 一見すれば人の子に見えるそいつに恐る恐る近づいた。

 戦闘意思は見えていない。それでも警戒を解くこと無く、そいつに近づいた。

 目を覚ましたそいつは、何かを確かめるように脚を、手を動かして、そして近づいてきたコトコに目を向けて──

 

「……コトコ?」

 

「え?」

 

 長峰コトコの名前を口にした。

 

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