【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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ロリコ・リコが武器として斧を使い始めたたった一つのシンプルな理由

 

「長い夢を見ていたような気がします。こうして身体を動かせて、光が見える世界を観測できるだけで、生きていると実感が湧きます」

 

「……身体の調子は?」

 

「順調ですわ。10年前と何も変わらず。先生には感謝してもしきれません」

 

「礼を言うなら私以外にも言ってやれ。楓……ロリコくんは特に泣きわめくだろうさ」

 

「今すぐにでも会いに行きましょう。今は何を?」

 

「偽物の藤原カエデと戦ってる」

 

「あら。割り込んだら怒られてしまいそうですわね」

 

「子供っぽい部分が表面化されてるからな。どうする?」

 

「ここは任せます。カエデ……ややこしいですわね、ロリコさんなら勝ちますし」

 

「言い切るんだ」

 

「当り前でしょう。(わたくし)は少し身体を動かしてきますわ。横になっていた間いろいろ考えていたものもありますし。後は諸々の準備を」

 

「準備?」

 

「決まっているでしょう──配信の準備ですわ」

 

 

「私のこんな顔見たくなかったなァ」

 

 :ほんとに藤原カエデ本人なんですか? 

 

「本人だっての。今まで何見てたん? それに私の手に乗ってるこの顔見てよ。まだ生きてるぞ」

 

 :こわ

 :こっわ

 :どういうことなの

 

 ダンジョン記憶の迷宮その奥地にて。

 ドローンカメラが捉えているのは二人の人物。小学5年生の肉体でダンジョンにひたすら潜って配信をしてお金を稼ぐガチガチにして違法ロリ、ロリコ・リコ。

 そしてもう一人。10年前死んだと思われて、つい先日復活の狼煙を上げるかのように配信活動を再開した女子高生配信者、藤原カエデ……その偽物。

 偽物と呼ぶには厳密には異なる。死体である藤原楓の身体をいじくりこねくり回し、機械の脳みそを移植する事で再現された藤原楓だった。

 その肉体は地面に倒れ伏しており、首から上はロリコの手の上にのせられて、その顔はロリコを睨みつけていた。

 感触は機械らしく冷たい、視線の先にいる藤原楓の身体からは人間のように血が流れている。精巧な作りをした、つぎはぎの人形だった。

 

「きっも……」

 

 心の底からの本音をロリコは吐いた。

 少し考えるだけで吐き気がする。死体である以上煮るなり焼くなり好きにされても、死んでる以上本人が知る由もないので考えるだけ無駄だ。

 けれど違う。ロリコは転生者だ。

 元の持ち主である以上、暴れている自分の身体を見て破壊したいと思うのは当然の事。

 理由は当然、気持ち悪いから。

 

「知らない、私はこんなの知らない! 死者がモンスターとして生き返って! 私の元にやってきて! 聞いてない!」

 

「……」

 

 偽物が狼狽える。

 

 :キレてて草

 :カエデはこんなこと言わない

 

 外野の声が空しく響くが気にすることもなく怒声が続く。

 

「お前もお前だ。モンスターであることを隠してまで行動して! バッシングされる可能性だってあっただろ!」

 

「それは思った。だから私は基本的にダメージを受けないようにしてたんだ。だってガキの身体だからね。絵面的にまずいでしょ。モンスターってバレることよりそっちの方が怖かった」

 

「だったら──」

 

「でもね。新宿終えてから気づいたんだ。あ、別にこれ気にされることでもないよなって」

 

「は?」

 

 ロリコは視線をドローンカメラに向けた。

 近づけて、ディスプレイを投影させて、流れるコメントに目を向ける。

 

「お前ら。私がモンスターであることが分かったと思うけど。どうする? 殺しに来る? 私は別にいいけど」

 

 :いやです

 :やめてね

 :お、喧嘩か? 

 

「私のこと嫌いになった?」

 

 :いや? 

 :ったく……w

 :ロリコのことを好きになっていいのはおれだけだっつーの……w

 

「まぁ、別に視聴者ってそこまで気にしてないよなって。腹パンされた私の配信を見て思ったんだよね」

 

 新宿でロリコは呼称“ネオミノタウロス”と呼ばれるモンスターに速さを入れ替えられて、そのまま不意打ちされるかのようにお腹にストレートを決められている。

 ロリコが恐れていたことであった。

 無敵無敗という箔が付いていれば視聴者も付いてくるという目論見が果たせなくなってしまうから。

 

「実際に付いてた私、ツバサちゃん、切り抜きのコメント見たけど。腹パンされた事実よりもその後のツバサちゃんとのコンビネーションが評判良くてね。私が気にしてたことなんて視聴者から見ればどうでもよかったみたい」

 

「何が言いたい?」

 

「簡単な話さ。私がモンスターでも、本物の幼女でもなんだろうと。好きだから見てもらえてる。それだけで十分だったんだよ。あとは好き勝手自由に振る舞うだけ。簡単な話だろ?」

 

「……なおさら、好きな配信者の姿をずっと見たいものだろ」

 

「まぁ言いたいことは分かるよ。しょうもない原因で消える好きな配信者を何度見たことか。でもいいんだ。消えたままで。

 過去は過去だからこそ、好きでいられた事実に満足できる。復活して“なんか違う”ってなったら私は恥ずかしくて前を歩けん」

 

 ロリコ・リコが復活した藤原カエデの配信を見て、始めに思った。

 なんか違うな。

 傍から視聴している形は10年前に見た本人そのもの。けれど違和感を感じるし、何より姿はそのまま。

 懸念される点、考慮しなければならない点は複数あるだろう。

 ただ──

 

「久々に見て思ったのは……藤原カエデはFJKに所属していた時の方が輝いていたし、その頃が一番好きだったって思った。

 その頃の再現を持ってくるというアイデアは認めよう。でも気持ち悪いのでやめてください」

 

「なっ──」

 

「というわけでさよなら! 何が嫌で自分の顔を自分で潰さないといけないんだ!」

 

 :かわいそ……

 :生きてればそういうこともあるよ

 :一度死んでるんだよなぁ

 

 視聴者のスタンスは変わらない。

 ロリコ本人と会う機会なんてものは──ダンジョンに潜らない限り──なく、イベントを特に開催するわけでもないので、どこまで行っても傍観者にしかならない。

 配信はエンターテインメントでしかない。コメントで茶々を入れるコミュニケーションもエンターテインメントとして彩られる一つの物語にしかならない。

 空いた時間でなんとなく見るような日常の選択肢であり、自分と関わらない箱の先の存在。

 ロリコ・リコはモンスターだ。

 配信モンスターという意味ではなく、正真正銘のモンスター。

 けれど視聴者は知っている。

 命を張って誰も入ったことのないダンジョンに小さな身体で侵入していき、そのまま攻略する姿を。

 小学生がモンスターを狩るという、どこにも存在しなかった配信に釘付けになって今もまた配信を覗いている。

 本人の正体なんてどうでもよく、過去に何があったかなんて関係なく。

 面白いし、好きだから視聴する。

 ただそれだけの事であった。

 

「消え失せろッッッ!」

 

 首を天にぶん投げてそのまま斧を生成。

 流れるようにスイングを行って──斧は空を切った。

 

「あ?」

 

「ごめんねロリコ・リコ。今これを破壊されるわけにはいかないんだ」

 

 声がしたのは後ろからだった。

 振り向いて、真っ先に目が入ったのはアロハシャツ。

 身長が高く、身体つきが女性。恐る恐る顔を見るために首を動かした。

 見たことのある顔だった。サングラスで目元は隠されていたが、確かに見覚えがあった。

 

「それに、君が最も殺したい相手は私だろう?」

 

 森野メメと呼ばれる者がいる。

 ダンジョン管理機関の現会長。就任はほんの数年前。

 ロリコ・リコとして転生して修行している間に名前を聞くことがあったし、友人の口からも出たことがった。

 その本人がこの場にいる。

 手に持つのは首から上の藤原カエデの頭部。やがて頭部は音もなく消えていった。アイテムを用いてどこかにでもしまったのだろう。首から下は動くこともなく地に付したままだった。

 いつの間にかそこにいた、彼女のその姿を見て、ロリコは真っ先に言葉をぶつけた。

 

「てめェか私を殺して好き勝手したのは。そこにいろ? 今から八つ裂きにしてやるから」

 

 自分がこの後殺されるとはつゆにも思っていない、藤原楓を殺害し、姫宮桜を再起不能にしたモンスター。

 森野メメは不敵に笑みを浮かべていた。

 

「こわ」

 

 呑気に言葉を漏らして余裕綽々。

 今からロリコに殺されるという自覚がないらしい。苛立ちを募らせたロリコが地面を蹴って突っ込んだ。

 その手には先ほど生成された斧。構えは既に完了している。

「忘れたのかい?」森野はそう言いながら手を前にかざした。

 

「君の死因は私の攻撃によるものだ。このまま突っ込んでいけば二の舞になるよ?」

 

「だから?」

 

「え?」

 

「なんで生まれ変わった私が脚だけに限らず手で斧を持って戦う手段を鍛えてきたと思う? お前の顔をグチャグチャに潰すためだよ!」

 

 考えなしに見えても頭の中で策をこねくり回しているのがロリコだ。

 森野による攻撃。不可視の斬撃が舞う。

 

「!」

 

 飛ばした先にいるはずのロリコの姿が見えなくなった。

 次に気配を感じたのは背後。急いで振り向いてみれば身体に雷を纏わせている。

「サイクロプスか……」チャージをすでに終えていた。高速の刃が森野の元に迫る。

 クリーンヒット。明らかに、ロリコの感触に伝わったのは肉を引き裂いたような感覚。

 けれど、効いているようには見えない。

 途方もなく身体が頑丈に感じるし、同時に自分が疲弊しきって思うように力を出せていないと感じ、ロリコは歯噛みした。

 

「躍起にさせてすまないね、疲れてるのに」

 

「お前人をイラつかせるのが好きだな?」

 

「まさか。私は人の反応を見るのが好きなだけだよ?」

 

「反応?」

 

 横に真っ二つ。腰から上の森野の分身が言う。

 戦意を感じ取れない。ロリコは武器を構えつつも話だけは聞いてやることにした。

 話す内容が気に入らなければ細切れにする算段であった。

 

「10年前。ロリコ・リコが転生する前の藤原楓と相対して──私は感動したんだ。初めて遭遇した人間が、自分の死を顧みずに、死を恐れずに果敢にも私を相手に戦いに挑むその姿に」

 

 続ける。

 

「人間に興味を持って、配信という文化を知った。モンスター(わたしたち)を相手に戦う姿を世界中に公開し、人を集めて楽しませて、あるいはお金を稼いで」

 

 続ける。

 

「次第にのめり込んでいって。一緒の時期に生まれた仲間と学んで、理解して、やがては地位を得て──ダンジョンを配信する君達の姿を見続けていく。そうして思った。引退はクソだなって」

 

 :急に口が悪くなった

 :言わんとしていることはわかるよ

 

「だろう? そこで回収した死体を動かそうと考えたんだよね。弁慶を基盤に今回動かしたのは藤原カエデというわけさ! どうだった? 復活して嬉しかったろう?」

 

 :しね

 :きもい

 

「? 色眼鏡をかけていないかい? 初めての復活配信は賛の声が多かったように見えたけど」

 

 :ロリコの正体が分かってからは別だろ

 :理解はするが理解はしたくない

 :444444444444444444444

 :失せろ

 

「えぇ?」

 

 途中からコメントと会話し始めた森野を見ながら、ロリコはため息をつく。

 戦意が削がれてしまうが気を取り直して言う。

 

「お前……人の反応を見るのが好きって言う割には感情を読むのは苦手だろ? どんなに無機質な声でも奥にいるのは人間。生きている人間なんだ。キモイと思ったらキモイって思うにきまってるだろ」

 

「バカな。喜んでもらえると思ったのに……」

 

 :はよ殺せ

 :というかなんで姿見せたんだよ

 

「え? だってそんなの──目の前で転生者なんて存在が現れたんだ。研究すれば死んだ配信者が生き返って配信活動を再開してくれるかもしれないだろう?

 だったら行くしかないじゃないか。好きな人が復活するなんて甘美な響き。誰だって研究したいと思うけど。

 姿を見せるのはリスキーなのは承知している。でも今がチャンスだし、背負ってでも姿は見せる。

 それに壊されそうな弁慶も回収しておかないと。サブプランに移行しちゃったけど残しておけば今後何かの役には立つさ。

 なーに、ダンジョン管理機関の会長は今日でやめだ。人間らしく好き勝手振る舞うサ」

 

「モンスターがよく言うよ!」

 

「それは君もだろう!」

 

 上半身が浮いた。

 斧が空を裂き、舌打ち。追撃に動こうとしたところで切断されたはずの下半身が次第に動き始めた。

「キショ」斧を動かして刃を飛ばしてみるもひらりひらりと避けられてしまう。

 

「ロリコ・リコ。さっきから簡単な技ばかりだね。藤原カエデ戦で力を使い果たしたかな? 使い慣れたサイクロプスもチャージ期間に入っただろう?」

 

「……」

 

「沈黙は肯定と読み取れるな。喋りなよ、配信者だろう?」

 

 森野の言うことは正解している。

 身体中に蝕むように痛みが走っている。

 それでも気力で身体を動かして、目の前のターゲットを殺さなければならない。

 軸はブレない。やってきたチャンスは掴まなければならない。

 

「君は私を殺したい。私は君を捕獲したい。……君が配信の世界に現れた時と同じ状況だね」

 

「それで?」

 

「私の元に辿り着けたら相手をしてあげるさ。最近ダンジョンを作ってね。お披露目とさせていただきたい。でも簡単に行かせたくないんだよね。今一方的にボコボコにしたところで、まあつまらないし」

 

 何もないところから杖が現れた。

 ロリコはその杖を見たことがあった。10年前。サクラと二人で侵入したダンジョンにて。

 ワープポイントの先にいた骸骨が持っていた、別空間から攻撃手段を運んできた杖。

 

「第一関門という事でモンスターの大群を呼び寄せよう。死んでくれればそれでヨシ! そのための準備をするために時間を稼いだところはあります」

 

「……!」

 

「というわけで帰らせていただく。ちゃんと帰っておかないと弁慶の脳を手元に置いておけないからね」

 

 杖が光る。

 周囲一帯に穴が開いて、流れ落ちるようにモンスターが降って来た。

 同時に森野の姿が見えなくなる。気配すらも感じない、本当に撤退したらしい。

 大地が揺れるほどに埋め尽くされるようにやって来た大群はどうやら調教されているようで、誰もかれもが殺意をロリコに向けていた。

 

「まずっ──!」

 

 ロリコが反応するよりも先にモンスターの大群が動き出した。

 逃げるためのアイテム──帰還の宝玉はドローンカメラに抱えさせていた。

 距離があった。

 黒い影が周囲を覆って逃げの一手に遅れてしまう。

 戦いは選択肢になかった。疲弊した身体ではジリ貧になる。逃げる以外に選択肢を持つことが出来なかった。

 蠢くモンスターの大群はやがてのしかかるように、ロリコの元へ向かって、視界が真っ暗になって。

 戦う手段を取るために斧を持とうとして、間に合わないのではないかと思考が過って。

 一瞬だけ目を閉じた。

 

「【凍てつく大地(世界よ、凍って)】」

 

 聞き覚えのある声が、ロリコの耳に入った。

 

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