【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう 前編

 

 日付も変わって、月明かりが地上を照らす頃。

 配信の準備を終えたロリコはカメラに目線を合わせて手を左右に振りながら、開口一番に挨拶。

 

「こんばんは。引退配信です」

 

 :冗談もいい加減にしろよ

 :ポプラはどうした

 :よぉ

 :やあああああああああああああああ

 :元気そうですね

 

「隣で寝てました」

 

 :過去形

 :後ろにあるダンジョン進入禁止ダンジョンですよ

 :えっちなことしたんですか!? 

 

「してません」

 

 配信開始して早々の雰囲気はいつも通りだった。

 昨日、それなりに話題になるような爆弾をぶち込んだにもかかわらず、なんてことのないようにロリコは振る舞っている。

 そうして、空中の上に立って腕を組んでドローンカメラに目線を合わせながら、流れているコメントを聞いている。

 スマホで追いながら、反応をうかがいつつ続けていく。

 

「まぁ、この先にいるのは昔私を殺したクソモンスターなんですけどね。今のうちに殺しておかないと夜も眠れない。皆さんもそうは思いませんか?」

 

 :あ、はい

 :お、そうだな

 :なら仕方がないな

 :転生者さんこんにちは

 

 ロリコがいかに平静を取り繕っていても、内に秘めている感情が表ににじみ出ているようにも見えた。

 欠伸をかむこともなく、いたって真剣にまともな顔で。

 けれど表情は柔らかい。首を動かしながら視聴者が集まるのを待っていた。

 その雰囲気を察しながらもコメントを変わらず流し続けてくれている。

 配信は見られない限り始まらない。胸の内で感謝しながら、ゆったりと雑談を始めた。

 

「たまには人が集まるのも待ってみますか。10分後にはあの中に入る。その前に何か訊きたいこと、ある?」

 

 :藤原楓本人なんですか? 

 

「そうです。FJKを推してて今日ここに来てくれたのなら嬉しいね。……もしかしたら今日は同窓会が始まるかもしれませんよ」

 

 :マジ? 

 :今さらコトコとか来てもなぁ

 :コ、トコさん月1でやってくるじゃん

 :フルエンドさん来るんですか

 :サクラって生きてたんですか

 

「ま、おいおいね」

 

 :引退して逃げようとしてませんか? 

 :この配信が終わったあとどうするつもりですか? 

 

「んー、何も考えてないかな。私は別にまだまだできるしね、モンスター(この身体)だし」

 

 コメントが加速してきた。

 拾ってもよいコメント、拾っても話が発展しないコメント、単純な自分語り。

 配信の雰囲気を作る要素であって、個人配信を始めてから気にかけてることであった。

 視聴者数も増えてきた。注目が集まって来てるのは理解していた。ロリコは覗いていないが同時接続数は現時点で最も多かった。

 

 :ダンジョン管理機関が大炎上している件について何か一言ありませんか

 

「やっぱ燃えたんだ。モンスターと見抜けなかった。モンスターを代表として就任させた。自分で言うのもなんだけど擬態が上手かったんだろうね。それほどまでにダンジョン配信に惹かれてたんかな、知らんけど」

 

 :きもくね

 :しね

 

「きもいねー」

 

 :ロリコって殺されないの? 

 :一応モンスターってことでいいんだよな? 

 

「そうだよ。隠す必要もなくなったから改めて言うけど、私はダンジョンで生まれ落ちたモンスターで、その魂に入り込んだ異物だよ」

 

 :はえーすっごい

 

「私が討伐対象になるかどうかはダン管が声明を出すと思うけど、出される前に私はやりたいことをやる。消えるか消えないかはその後だね。みんなは、私に消えてほしい?」

 

 :消えるな

 :毎秒配信しろ

 :やめてください

 

「ふへへ。まぁ表に出るなって言われたら隠居するのも悪くないね。28歳なんだからそろそろ自立しないと……」

 

 :その身体って結局なんなの? 

 

「身体? あぁ、小学五年生のような風貌のモンスター。身体は成長しないし、死ぬまでこのまま。あぁ、成長しないって言うのは身長とか体重が増加するって意味の話。鍛えたらちゃんと強くなるよ。“雌餓鬼”だってさ。いいセンスしてるね」

 

 :久しぶりにメスガキって単語聞いた

 :普段の勝ち確煽りからして妥当

 :苦労したことは? 

 

「面接か? 強いて言うならモンスターとしての本能が走ることだな。無性に暴れたくなるんだよね。今も、そう」

 

 :こわ

 :勝ちを確信した時にモンスターに対して煽るのは素ですか?本能ですか?

 

 「は? 素でやってるに決まってるだろ。だって馬鹿にされながら敗北する時が一番悔しいって身をもって学んだからな」

 

 :28歳素面メスガキロール!?

 :ふーん

 :えっちじゃん

 :恥ずかしくないんか?

 :こいつマジ?

 :チャンネル登録しました

 :ポイント交換したらリクエストに応じていろいろやってくれるって聞きました

 :パンツ脱ぎました。寒いです

 

 「えっちなゲームで恥ずかしい声を出している声優さんが今さら照れるか? そういうことよ……と、いろいろ言ってる間に人が集まって来たね」

 

 :お

 :く、くる

 

 腕を伸ばして準備体操。

 両手をぐっぱと開いて閉じて、いつも通り斧を携えた。

「じゃあ行こうか」柄を肩の上に置いていつものようにダンジョン内に入っていった。

 一つしかない入り口はまるで誘導されているかのようで、製作者の意図が透けていたし、顔すら浮かんでいた。不快に思ったので首を横に振って立て直す。

 暗い暗い城の中。ドローンの光のみが頼りになる空間。

 地面と思わしき箇所に脚を置いた。石造りだ。爪先で叩いて感触を確認。

 

「昔こんな感じに罠を確かめてから歩いたらさ、落とし穴が作動してすっぽりハマって身動きが取れなかったんだよね。一瞬で破壊したけど」

 

 :中に触手はありませんでしたか

 :感覚は遮断されてませんでしたか

 

「エロトラップダンジョンじゃねンだわ」

 

 :知識はあるのか……

 

 都合の悪いコメントは無視して罠を確認するために斧の先で床を叩いた。

 確かめるのは音。空洞になっている箇所、魔力を寄せている箇所。確かめるために叩く。

 

「別にここから火を起こして焼いてもいいんだけど、この手のダンジョンって基本壊れないんだよね。一回試したけど無駄に終わった」

 

 :面白味がない

 :効率的に攻略する配信を見るなら動画で見るわ

 

「それはそう……お」

 

 光が見えてきた。

 同時に音が大きくなってくる。

 こじんまりとした空間、城の中なのに明かり一つもない、こちらを招くつもりもない作りの粗さ。

 少々苛立ちが募っていたが、ストレス発散の場がようやくやって来たらしい。

 中を覗き込むように見てみた。

 

「モンスターうじゃうじゃで草なんよ」

 

 :あれ外国産のモンスターじゃね

 :草

 :見たことあるやつもいますね

 :なんで喧嘩しないの

 

「調教されてるんじゃないんですか? 奥にいる奴に従ってるんでしょ」

 

 視界の先に広がったのは松明でともされた空間。

 電気が通っていないのに点灯しているシャンデリア。天井までは視認できない。

 階段、さらに先に続く通路。浮いているはずなのに下に続く階段。

 混沌としているが、一つ分かることがあった。

 

「入った瞬間に襲い掛かってくるんだろうな」

 

 二足で歩く羽の生えたトカゲ、首のない騎士、異形の怪物。形容できない生物。

 ロリコの存在に気づかないまま中を歩いているが、入ってしまえばすぐにロリコの方に目線を向けて襲い掛かってくるのだろう。

 

「とりあえず短い斧でも作ってぶん投げてみるか?」

 

 :芋るんか

 

「あんま消耗したくないんだよな。雑魚だったらいいけどなんかちゃんと強そうだし。帰りたいけど帰れそうにないし。でも仕方なし。

 最速最短──ロリコ・リコの動きを見逃さないでほしいな」

 

 言い終えて。カメラはロリコの姿を逃した。

 予備動作の何一つないその動き。配信が一瞬フリーズしたのではないかと疑ってしまうが、配信は至って平常。

 ロリコの耳にはもうコメントの声が入らない。既に城内に侵入している。

 動く、動く。手に構えているのはいつもの斧。脚に纏わせているのは転生する前から何度も使用していた鉄の脚。

 空間内に自由に動き回るのは一人のロリだった。

 誰もかれもが視線を負うことはできない。一つ、また一つ、モンスターの首が飛び散っている。

 

「お前らじゃ話にならんよ」

 

 広間に横たわるのはモンスターの死体。

 次第に増えていく数。返り血がロリコの肌についてさえいる。

 とにかくすばしっこく、相手がロリコの動きを捉えようとする前に事を終えてしまっている。

 

「次」

 

 カエデとしての戦闘スタイルを露呈するつもりは、ロリコとして配信し始めた当初にはなかった。

 理由は単純で、身体へのかかる負担を緩和するために、自分の身体に付けていた化粧が剥がれて、正体がバレてしまうからだ。

 配信を通じて大本を探さなければならない以上、真っ先に自分の正体がバレてしまえば元も子もない。

 今は違う。諸々判明した以上、そして視聴者がロリコが思っていたよりも寛容であったことが分かった。

 ならば留めていた力を解放したって問題はない。

 

 :ちゃんとモンスターじゃん

 

「そうさ。中に人間がいるだけのモンスターさ。さっさと次に行こ。もう戦う気持ちを我慢することができないから」

 

 :こわ~

 

 血の海を歩いて階段を上ってみる。

 あからさまに塞がっている道がある。斧で叩いてみる。破壊できない。

「どっかで見たような仕掛けだな」書いてある内情は単純なものだった。

 

「特定のモンスターを見つけてその首を示せってさ。簡単な内容で助かるよ。にしても──面白味がないな」

 

 :? 

 

「この後の配信の見どころ、私がひたすらモンスター相手に無双するだけだよ」

 

 

「ドラゴン! 黒いペガサス! クソデカゴブリン! だからなに!?」

 

「身体が液体で出来ている? で、それで私にどう勝つの?」

 

「鯨ァ! 久々だなお前! え? 死の淵から蘇ったってこと!? 種が割れてる奴に二度も負けるかよ」

 

 

「ね、言ったとおりでしょ」

 

 :モンスターの雁首揃えながら言われても

 

 広間に戻って来たのは1時間後の事だった。

 通路の先にひたすら入っては中にいるモンスターを殺し、それをまた繰り返す。

 

「なにが自主制作のオリジナルダンジョンじゃ。闘技場かなんかの間違いだろ。製作者センスないよ」

 

 批判も何度行ったことか。

 繰り返しの多いコンテンツで収益化が止められたらどうしてくれる。

 とはいえ条件を満たすことが出来ている。

 持ってきた首を扉の前に投げたところ何かに反応して先に進めるようになった。

 

「準備運動ってところかなぁ……」

 

 :なんで疲れてないんですか

 

「疲れる理由がないから」

 

 :なんなのこの人

 

 歩みを進めていく。

 振り返ることもなく、ただ真っすぐ。

 この先に自分を殺したモンスターがいる。

 頭に血が上るかもしれないが、最低限やるべきことはやる。

 刺し違えても殺す覚悟を持ってはいる。死ぬ気はないだけだが。

 

「昔っから星を眺める時間が好きでさ。ガキの頃はよくやってたのよ。ただ眺めているだけで楽しめる、身近にある綺麗なものを見る時間が無性に好きだった」

 

 :? 

 :;;

 

「一度死んでからは楽しめなくなった。理由は簡単。怖いから。いつかまた襲い掛かって何もわからないまま死んじゃうじゃないかって。転生したのはいいけど殺された恐怖は心の中に根付いてるものさ」

 

 珍しくロリコの心情が吐露される。

 藤原カエデ時代から、今のロリコの時代まで10年。長年見てきたものでも初めて見る言葉だった。

 

「それも今日で終わる。私は恵まれていたんだ。両親がいなくなった後に巡り合えた3人はかけがえのない親友さ。あいつ殺すまで諦めへんぞって言った私に付いてきてくれている。配信してなかったら涙が止まらなかったかもね」

 

 通路の先を抜けて、目の前に広がる光景。

 桜の花びらが散るようで、夏のようにさんさんと日差しが照らされているようで、雪の積もった道を歩いていく。

 室内のはずなのに外にいるような空間。

 その奥に一人、胡坐をかいて座っているのは人の形をしたモンスター。

 知っている姿だった。

 それはダンジョン管理機関の会長としての姿ではなく、一番最初に出会った時の姿。

 黒く染まり切った、おぞましい何か。

 会長としての姿で戦うつもりはないらしい。姿がどちらでさえ、殺す意思が潰えることはないが。

 

「戦う時の服装ってコト?」

 

「まぁ、そのようなものです」

 

 そのモンスターの手には脳みそが握られていた。

 妙にメカメカしいデザインのそれ。「弁慶のやつか?」ロリコはノータイムで浮かんだ答えを口にした。

 

「そうです。私の頭の中にこれを組み込んで、今回のダンジョンを製作するための知識を得ました。どうでしたか? 配信を見てましたが、私は楽しめましたよ」

 

 言って、モンスターははめ込むように頭に機械を置いた。

 泥の中に沈んでいくように組み込まれるその光景は何とも言い表せない気持ち悪さが漂っていた。

 

「カエデの身体を作り直すときもそうでした。刻んでしまった身体を修復し、脳を機械で代用する。まるで本人――AIとは良いものですね。

 人間は素晴らしいものを開発しました。映像データを取り込んで、身体と魂の記憶を読み取った結果あのカエデです。我ながら素晴らしい出来でしたね」

 

「……本気で言ってるならお前センスないよ。早く死んだら?」

 

「いつものように煽りながら戦えばいいのでは? もしかして私にビビってますか? それとも……恐怖で逃げ出したいのですか?」

 

 モンスターの言葉は正しい。

 トラウマとしての認識は薄っすらとあった。身の毛のよだつような存在に、脚をすくんでしまいそうなほどに。

 

「確かにそれもあるけど、それ以上にお前をぶっ殺したいって気持ちがでかいんだよな。それに──どんな時だって、私は一人じゃなんだ」

 

「ほう?」

 

 ロリコの後方から()つの影。

 見知った彼女たちの姿を見るだけで、ロリコの闘争心は増していく。

 

「準備があるから待っとけって言ったのにすーぐ突っ込む。相変わらずっスね」

 

「今更だろう。何年の付き合いだと思ってるんだ。そうだろ?」

 

 見知った二人に加えて、10年ぶりに見る、彼女の歩く姿。

 感動を覚えそうになる。けれども状況も状況。気を引き締め直して。

 

「そうですわね。この4人でダンジョンに入るなんていつぶりでしょう」

 

 長峰コトコ、佐伯フルエンド、そして──サクラ・ソワレがここにいる。

 4人そろって配信に姿を現すのは10年ぶりだった。

 

「チームFJK。久々の全員集合だ。みんなで盛大に、解散配信を始めよっか」

 

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