【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう 後編

 

「うげーっ、モンスターの大群じゃないですか。何がダンジョンの外にはモンスターが現れないだ。バチボコ普通に出てきてんじゃん」

 

 不満を口にしながら開かれた鋏の持ち手を握っているのは合法ロリ系配信者──ツバサ。

 深夜、自分で運営している切り抜きチャンネルに投稿するための動画の編集を行っていた時、お腹を空かせてコンビニに向かおうとした矢先の出来事であった。

 ロリコ・リコの一連のニュースは頭に入っていた。けれど今の自分に出来ることもなく、平常心を保っている。気分転換も兼ねて外出しているが、今の状況を見てしまえば頭も勝手に切り替わる。

 こういう時こそ配信をするべきでは? 今の状況を伝えるべきなのでは? 

 実際目にしたモンスターの数々は大群と呼べるほどに空中にたむろしている。存在しない空中から地面が生えるように現れて、空を飛ぶことが出来ないモンスターが地に足付けてこちらを見ている。

 今にも降りてきそうなこの状況。倒さなければ被害は大きい。

 そうして彼女はカメラを回した。

 

 :緊急配信と聞いて

 :うおw

 :なんですかこの状況は

 

「知らんけど外歩いたらモンスターいっぱいでヤバだから、配信を開始したってワケ」

 

 :どういうことなんだ

 :これ現実? 

 

「悪いけど現実。ロリコさんの配信見たかったんだけどな……」

 

 :二窓してるから安心しろ! 

 

「何に対する安心? 実況するのはやめてください。後でアーカイブ見るんだからよォ」

 

 創り出された鉛筆は火を噴いて天へと飛び立つ。

 えんぴつロケットを付け見ながらそのまま上空へと向かったツバサ、手を放して持っていた鋏をブーメランのごとく、力強く投げた。

 横回転、鋭利な刃先は首元を正確に捉えて跳ねていく。

 追撃。手を休めている暇もないほどに空中に空いた穴からモンスターが更に押し寄せてくる。

 左手には既に魔力を帯びたシャープペンシルが複数握られて、前方に飛んで行く。

 

「埒が明かないし、このままだと地面に真っ逆さまでワロタ」

 

「いや問題ないですよ。私がいますし」

 

「お?」

 

 :あ

 :でたわね

 

 見えない地面が生えてきた。表現するならこうだなと、ツバサは内心思った。

 足から着地したその場所。ビル群住宅街が往々に見えているはずなのに、見えない地面がそこにあった。

 指先で感触を確かめてみて、ひんやりとした感覚だけが残っていた。

 

「あー、ごめんねありがとう。とても助かりました」

 

 :外面

 :余所行きの顔

 :実家に預けてた猫

 

「いえいえ。これくらいなんとも」

 

 ツバサは顔を上げて、助けてくれた人物の姿を見た。

 見たことのある顔だった。というより、先ほどまでその顔が出ていた配信を見ていた。

 

「あ、佐伯ポプラさん!?」

 

「え? ……あ、あなた、蓬莱と新宿でロリコさんとひたすらイチャついてたツバサさんですか!?」

 

「どんな覚え方……?」

 

「嬉しいですね。こんなところで出会えるなんて。あとでロリコさんのことについて語らいませんか?」

 

「どういう誘い方……?」

 

 ツバサが把握している佐伯ポプラの実態は、淡々と丁寧に解説していくような分かりやすさを軸とした配信。

 炎上騒動まではたまに見ていたが、斜海(しゃかい)ダンジョンでの配信以降は見ていなかった。

 見ていなかったのでロリコを会話の中心に据えて話を進めてきた事実に一瞬怯んだ。

 

「ま、まぁ。コラボのお誘いはおいおいということで、今は目の前の現実に対応しませんか?」

 

「あ、そうですね。ダンジョン化してしまえば最悪ですからね。あの城はロリコさん()に任せて、私たちはやってくるモンスターをひたすらしばいてしばいてしばくだけです」

 

「この人こんな口悪かったか……?」

 

 :おい!ロリコの配信が今熱いぞ! 

 :FJK勢ぞろいでワロタ

 :サクラ10年ぶりに見た

 :生きてたんだ……

 

「え!? 最高じゃんやばすぎあのFJKが復活!? すみませんツバサさん、一回帰ってもいいですか」

 

「ダメでしょ。てか誰があの中入ったかあなた知ってて言ってるでしょ」

 

「てへ」

 

 冗談だとはわかっているが、どうにも会話のペースがつかみにくい人だなと、ツバサは嘆息した。

 

 

「配信の雰囲気はいつだって変わりませんわね。復帰早々、改めて挨拶させていただきます。サクラ・ソワレ。10年ぶりにインターネットに顔を見せましたわ」

 

 :うおおおおお

 :久々に見た

 :成長したな

 :胸でっか

 :生きてたんですか!?

 

 朗らかに、緩やかに。

 笑みを浮かべながら彼女は簡単な挨拶をした。

 彼女の存在を知っている視聴者にとって、最後の姿として見たのは攻撃を受けて四肢が吹き飛んでいる姿だった。

 そんな彼女が五体満足でここにいる。

 サプライズ演出にコメントの動きは加速していく。

 

「あなたは……私が殺したはずなのでは?」

 

「あら物騒。あの程度で死ぬほど人の身体は柔ではありません。早速ですが──(わたくし)に気を取られている場合ですか?」

 

「……? ぐっ──!?」

 

 既に動いていたのはロリコ・リコ。

 サクラに視線が行った瞬間を見逃さない。地面を滑走して後方へ移動、そのまま持っていた斧を力いっぱい振り抜いた。「かった」弾き飛ばすことが出来ただけ、致命傷を与えるには至らない。

 肌を貫いた感覚がまるでなく、横方向に飛ばした先に合った雪山にモンスターは飛んで行った。

 

「サクラ~!」

 

「あらカエデさん……ロリコさんって呼んだ方がいいですか? 改めて、久しぶりですわね」

 

「今はロリコだからロリコでいいよ~!」

 

 抱擁。憎たらしいほどにぶち殺したい敵といる空間で熱く抱き寄せ合う。

「身体の調子は?」ロリコの問いに「快調ですわ」ピースサインを添えて答える。

 10年ぶりに4人で集まったことなので、懐かしむように思い出話に花を咲かせたいところではある。

 

「その前にやるべきこと、やっておくっスよ」

 

「そうだな。ようやくこの機会がやって来たんだ。討伐させていただく」

 

 銃をいつも通り構え始めたのは佐伯フルエンド。

 本人も配信に姿を現すのは10年ぶりにはなる。実際は少し前にお面越しに姿を晒しているのだが。

 長峰コトコは既に臨戦態勢。金属で覆われた身体には既に電撃を迸らせている。

 

「ゼウスだかヘラだか言ってた最終奥義じゃん!」

 

「そうっスよロリコさん。今日ここで終わらせるんですから」

 

 ロリコが吹き飛ばした先、煙がたっている場所から飛び立つように黒い影が戻って来た。

 どんなモンスターよりも理解が出来ない存在で、異形の存在、その雰囲気に気圧されそうになる。

 

 :別枠で配信しませんか? 

 :ちなみに外はモンスターの大群で終わってます

 

「視聴者の皆様は安心して配信をご観覧なさってください。これより行われますわ──私たちの引退配信。そのメインは目の前のアレを討伐することなのですから」

 

 サクラを起点に桜が散り始めた。

 構わず、モンスターは口を開く。

 

「4人揃っての配信は10年ぶりでしたね。私も見ていました。あなたたちと戦った後、外の世界に出ていろいろと学んでから、すべて」

 

「こっわ」

 

「とてもうれしいです。帰って配信を見ていいですか? 死なずにずっと配信していてほしいです」

 

 :なんだこいつ

 :きしょ

 

「皆様もこうは思いませんか?」

 

 両腕と思われる箇所を横に広げて、そいつは語る。

 目の前にいる4人だけではなく、カメラの先にいる無数の誰かに向けて。

 表情が見えないのにも関わらず、興奮しているかのように喜々として。

 

「配信を見ることが好きです。けれど配信には終わりがやってくる。私はそれが嫌いです。だから永遠に配信していてほしい。だから私は生み出したのです。それが、藤原カエデの偽物。よくできていたでしょう?」

 

「あぁ。キモ過ぎて見てられなかったよ」

 

「ありがとうございますロリコ・リコ。誉め言葉として受け取っておきます。

 要はこういう事です。死んだ人、消えた人、いなくなった人、彼らを復活させてダンジョン配信をしてもらう。

 ダンジョンの作り方は分かりましたし、そのうちやってくるであろう現象も待てばいい。そしてその様子を見守る。良い考えだと思いません?」

 

 昨日の藤原カエデの思想と似通う部分があった。

 好きな配信者の配信を永遠に、好きなタイミングで視聴したい。

 アーカイブや切り抜き動画ではなく、配信し続けている時間がほしい。

 

「日常を過ごしていて、暇な時間はどうしたってあります。定職に付いていない人は今もそうでしょう。将来の見えない暗闇の中で不安に襲われている」

 

 :なんでこいつ急に俺らを刺しにきたん? 

 :ころせ

 :44444444444

 

「図星じゃんお前ら」ロリコが視聴者に追撃する。意味もなく、いつもの癖で。「だからこそ配信をしましょう」モンスターが気にせず続けた。

 

「不安を上から覆いかぶせて人から与えられる楽しいという感情に溺れたいとは思いませんか?」

 

「……要はずっと配信を見続けたいってだけっスよね。そこまで配信を見るのが好きなんスか?」

 

 コトコの質問に対して、肯定の意を示すように首を縦に振った。

 

「だって面白いじゃないですか。ダンジョンに限らずゲームでも音楽でも料理でも。知らない誰かを喜ばせるエンターテインメント。知れてよかったです。でも──引退していなくなってしまうのは悲しい」

 

「だから死人を復活させて永続的に配信させたいと思っているワケ? 昨日も言ったけどキモイからやめたほうがいいよ」

 

「なぜです? ずっと面白い配信が見れるじゃないですか」

 

 心底理解していないような顔をしながらモンスターはそう言った。

 4人は顔を合わせて、やれやれと言わんばかりの顔をしながら、代表してロリコが口にした。

 

「キモイだろ、普通に考えて。死んだ奴が生き返って配信するの。そりゃ炎上しようと犯罪しようと、好きでいてくれる人はいるかもしれないけど……それは別の話。死人を再利用するのはよくないよね」

 

「? 別にいいでしょう。死んでるんですから。再利用できるものは利用する。リサイクルの精神を説いたのはあなたたちでは?」

 

「そうか。見解の相違だな元会長、話はここまでだ。潔く死んでくれ」

 

 問答は以上。

 魔力を変質させてマシンガンを二丁生成したフルエンドが引き金を引いた。

 魔力を帯びた弾丸が真っすぐ向かって行き、そのまま縦に真っ二つに切り裂かれていく。

 

冬花(とうか)さん。私の大切な秘書を殺しましたね。回っていた動画を見ました。彼女には大変世話になったのです。最期を看取れなくてとても残念です」

 

「二人揃って配信を見て、ひっそりと暮らしていくだけなら何も起きなかっただろう。カエデの死体を利用したから私たちに見つかったんだ。馬鹿なんじゃないか?」

 

「仕方ないではありませんか。藤原カエデの配信がもう一度見たかったのですから。そしたらなんですか、転生者って。面白すぎます。だから姿を晒してでもロリコ・リコを研究したい」

 

 迫ってくるモンスター。目が合ったような気がして、4人はバラバラに散っていった。

 彼女達がいた場所には無数の斬撃による穴が突然発生していた。

 4人はそれぞれ動きながら、モンスターの動きを見極める。そのために誰かが姿を晒さなければならない。

 

「そのためのロリコ・リコなんだよなぁ」

 

「10年。転生してさぞや修行をしたはずなのに、また私の前に立つのですか? 足、震えてますよ?」

 

「ばーか♡ 武者震いだよ♡」

 

 滑走開始。魔力を通じてロリコは目を凝らす。

 同時に舞い散るは桜。当然──サクラの魔力が通った彼女の支援。

 桜に紛れて銃弾が飛んで行く。

 飛ぶ、飛ぶ。薄っすらと見えているのは風の刃。出所のモンスターは手をこちらに向けているのみ。地面を滑って時には跳ねて、モンスターの攻撃を避けていく。

 風に刃が通った先にある山が真っ二つに切り裂かれている。ロリコには当たらない。すんでのところでロリコの通り過ぎた後目掛けて飛んで行っている。

 当たれば即死、絶命に至る一撃が複数。

 だが当たらない。ロリコ・リコにとって、攻撃を避けることは造作もないこと。ロリコには数秒先の未来も見えている。いつまで経ってもロリコに攻撃は当たらない。

 不意打ちでやられた前回と状況が異なるのだ。

 

「ほっ」

 

 斧を投げた。ロリコよりも肥大で大きな斧、柄の先端にはチェーンが付いていた。

 ロリコの意思によって動くそれ。対象のモンスター目掛けて走っていき、巻き付いていく。

「お?」身動きが取れなくなったモンスター。ロリコは既に斧から手を放している。

 

「あざっス、ロリコさん! 1億ボルトのパンチを喰らえッ!」

 

 上空で待機していたのは長峰コトコだった。

 右手に貯めていた電流をモンスター目掛けて、神々しい槍を投げていく。

 雷と見紛う速度による一撃。

 これで倒したとは誰も思ってはいない。追撃に動くのはいつだって佐伯フルエンドだった。

 

「吼えろ弾丸、燃えよ我が魔力。己の業に焼かれて朽ち果てるがいい──シュート!」

 

 その弾丸は細長い。針のように、けれど太く。

 螺旋を描いて進んだそれは黒焦げになっているモンスターの身体目掛けて命中していく。

「ぐ」これには応えているらしい。追撃の手を止める理由はない。

 

「変化」

 

 サクラの声だけが響いた。

 モンスターの周囲を散っていた桜の姿が変化する。

 全員が同じ人間に──サクラ・ソワレに姿を変えていた。

 

「桜花爛漫」

 

 突撃するサクラの大群。手に持つのはレイピア。

 久方ぶりに生成したが、サクラの手にはすっかり馴染んでいた。

 10年ぶりに握るのにも関わらず、10年前と変わらずにダンジョン内を駆けている。

 モンスターが生み出したダンジョンに入る前、コトコとフルエンドは復活したサクラの元に来ていた。

 リハビリがてら身体を動かし、準備が整えてから、勝てる算段を付けてから4人はこの場に揃っている。

 身体を張って相手の攻撃を見極めることを決めたのはロリコだった。

 一度攻撃を喰らっているからこそ、そして残された昔の記録を見て脳に焼き付けているからこそ、自分以外に出来ないと考えていた。

 そして、何よりもFJKの中で最も脚が速いのだから。

 

「かなり、やりますね」

 

 風が舞った。四方一体に飛んで行くそれ。

 無差別に飛んで行き、分身体のサクラを引き裂き、拘束されていた鎖さえ解いていった。

 

「お前の攻撃手段なんだけどさ。手のひらから放出させるのって糸だろ。ワイヤーみたいに硬く、縦に伸びているやつ」

 

「……! よくわかりましたね」

 

 モンスターはそう言いながら、こちらに見えるように手を重ねて、そのまま縦に開いた。

 何かを伸ばしているかのような動作。確かに指、手のひらにはきらきらと何かが輝いているように見える。

 けれど、それだけではないのだろう。

 

「その糸、触れている生物が持つ魔力を操作することが出来るんだろう。だから魔力をゼロにしたり、死体に残った魔力を用いて好き勝手出来たんだ。お前の性質か何かか?」

 

「……本当に、よくわかっていますね。そうです。私はこの糸を使ってカエデさんを蘇生させました。まぁ魂がないので、機械で代用しましたが」

 

「じゃないと説明が付かないだろ、死体を復活させてんだから。適当に考えていたところもあったけど、お前の声で判別できてよかったよかった」

 

 言葉を交わすことでしか目の前のモンスターの心情を読み取ることが出来ない。何せ、全身が黒く、表情を見ることが出来ないのだから。

 恐怖で身体が支配されていても、頭を回さなければ勝てる場面で勝つことが出来ない。己の心を抑えながら、ロリコが改めて観察を行ったことで見えた成果であった。

 現に、モンスターの声には動揺が現れているかのように貯めがあった。答えるか答えないか、一瞬判断に迷ったのだろう。

 言葉で畳みかけれるなら、更に言葉で押していく。それがロリコ・リコとしての戦闘スタイルであった。だから言葉を続ける。

 

「加えて、攻撃には条件がもう一個あるだろ。それに──こっちの魔力を無視して貫通する一撃を放つんだ。魔力の消耗量はかなり高い、違うか?」

 

「違う、と言ったら?」

 

「やせ我慢♡ 胸に穴なんか開けて可愛いね♡ 目線だろ。手のひらを合わせた先に対象になる誰かがいないと飛ばせないんだろ。だから私に攻撃が当たらなかったんだよ。それとも……当てられないのかにゃ?」

 

「──!」

 

「さてはお前、力があるだけでまともな戦い方を覚えなかった雑魚だな? 魔力を回復させてから私たちに挑んできているんだと思うが、攻撃の仕方が甘いな」

 

「! このッ!」

 

「遅いっての!」

 

 見切っている。死をもたらす風の刃がロリコに向かって飛んでくる。

 けれど当たらない、当たらない。全て避けられている。「魔力の無駄遣い♡」ロリコの調子も戻ってきている。

 余裕が生まれればその分思考する時間が生まれてくる。

 慢心はしない。膝を曲げてさながらリンボーダンスをするかの構え。そのまま地から脚を離して、脚を交差する。

 モンスターと同様に斬撃が飛んだ。コトコの一撃程の火力は出ていない。けれども、モンスターの体力は消費していることが把握できた。

 

「血が出ていますわね。魔力で固めていた強化が緩んでいませんか?」

 

「グッ」

 

 サクラが近づいてその様子を見つつ、レイピアで突き刺す。

 首元を突き刺してはいるものの、それもまた致命傷には至らない。だがレイピアの勢いに押されて身体が地面に付いた。

 胸に穴をあけて、血を吹きだしているのみも関わらず。

 魔力があって、体力もあって、火力もある。

 足りていないのは──戦闘経験。

 

「最ッ悪だ。こんな奴に私は殺されたんか。泣きそう、いや泣いた。配信を見ているだけで自分が強くなったと思い込んでいるだけのザコじゃん。当たらなければどうってことはなかったな」

 

「このッ!」

 

「あぶなっ」

 

 ロリコの身体が縦半分に切れた。

 切れたと同時に桜の花びらが散った。

 

「分身……?」

 

 気を取られた瞬間を見逃す者はこの場にはいない。

 「重力波(グラビティ・ポイント)」コトコの言葉と共に天から重力の波動が流れていく。

 押しつぶされるような感覚に加えて、「追撃だ」フルエンドによる攻撃。追尾するように一人でに動く炎を帯びた弾丸が、地面に身体に対して負荷をかけるかのように続く。

 

「ここに来るまでにいたモンスターの方がもう少し知性を感じたな。こんなのも見破れないなんて──サクラ」

 

「お任せを」

 

 ロリコの持つ巨大で肥大な斧。

 サクラによる付与。上から覆いかぶさるように桜がくっついていく。吸着した箇所から魔力が分け与えられ、力が増していくのを実感する。

 

「コトコ」

 

「おまけもおまけ。最後はロリコさんに譲るっス!」

 

「フーちゃん」

 

「過去を燃やせロリコ。終止符を打つのはお前だ」

 

 機械が舞う、炎が吸い寄せられる。

 斧に集約された各々の力を基にロリコは歩いていく。

 膝をついて、身動きが取れそうにないモンスターに向かって。

 

「私が斧を武器として選んだ理由は言ったよな? この斧で私を殺したヤツをグチャグチャにするためだって。

 だから脚を使ってトドメを刺してやらない。お前はロリコ・リコによって殺されるんだ。藤原カエデによって殺されるんじゃない」

 

「何を、言っている?」

 

「今の私はロリコ・リコなんだ。藤原カエデはもう死んで、どこにもいない。これはケジメなんだ。過去への清算。だからロリコ・リコ(わたし)は配信を始めた、お前を見つけるために」

 

 そのための手段は斧だった。

 藤原カエデの名前が話題に上がらなくても、誰かが台頭してくるだけ。

 切り替わるように、役割が変化するように、配信者の好みも移ろっていく。

 藤原カエデとの繋がりが薄っすらあったとしても、本人であると確信できた人物はどこにもいない。

 それでもロリコは人気を博すことが出来た。目の前のモンスターからダンジョンを自由に動き回るためのライセンスを貰い、S級の証明さえもらった。

 

「やっぱお前の思想はキモイよ。私が転生していなくても、きっと3人がお前を殺しに行ったさ。もういいんだ。私がいなくなっても、別の誰かによって誰かの生活は勝手に変わっていくんだ」

 

 視聴者のことを気にかけることはある。

 質問箱を設けて答えてみたり、雑談の最中にコメントを拾い上げたり。そこからの会話で人に何かしらの影響を与えることがあるだろう。

 そうなるとわかって配信者は話しているわけではない。自分がそうだったから経験談として話しているだけなのだ。

 ロリコのスタンスは変わらない。好き勝手暴れまわって自由にダンジョンを動く。

 藤原楓としての思想は変わらない。ダンジョンなんてものは早急になくなった方がいいと思っている。

 けれどなくならないものだから、誰かの役に立とう。配信で点と点が繋がって、自分も居心地のいい空間で生きることが出来た。

 幸せな夢だった。ロリコ目を閉じて、そう思った。

 

「ここで終わらせよう。……ざぁ~こ♡ あんなに粋がってたのに今どんな気持ち? 惨めだね♡ 死んだら?」

 

「これは何が行われているのですか?」サクラの疑問。「ロリコさんは勝ちを確信した瞬間モンスター相手にひたすら煽るんス」コトコが補足する。「なぜ?」サクラの疑問は止まらない。

 その光景を見ながら「アレはともかくモンスターに言葉は通じてるのでしょうか」サクラの疑問は考察に変化した。「奴のこれを目当てに見に来る者も多い。コメントを見ろ。加速してるぞ」フルエンドはそう言いながらスマホをサクラに見せた。

  「楓は恥ずかしくないのかしら」サクラが抱えた当然の疑問。対するコメントからの返答は、口を揃えて“もう慣れている”だった。

 勝敗は決した。転生後10年にも及ぶ、自分への復讐が今日、ここで終わる。

 

「私を研究したいとか言ったな? 逆だよ♡ お前の死体をこっちが研究するね♡ どんな痴態が見れるのかな~? ロリコ楽しみっ!」

 

「同じ年齢ですわよね?」サクラの確認に一同頷く。

 単独配信のスタイルはロリコが一から考えている。本人の見た目、言動、実力を持って違法スレスレのサイトで配信をして、地位を得てきた。

 ロリコは斧を天へと掲げた。4人分の魔力を帯びた一つの大きな斧を見て、モンスターは数秒先の未来を理解してしまった。

 

「くそっ、身体が、動かな──」

 

「これにて終焉とさせていただきます。お相手はこの私ロリコ・リコと!」

 

「長峰コトコ!」

 

「佐伯フルエンド」

 

「サクラ・ソワレですわ」

 

「4人! FJKの面々でお送りしました! さよならオラ吹き飛べ死ねェ!」

 

 首が跳ねた。腕が飛んだ。脚が切断された。

 それは藤原楓がかつて味わった痛み。金切り声を上げて叫ぶその姿は見るに堪えない。

 

「イキってるだけのザコで草。もう一度言うけどなんで私こいつに負けたんだろ……。まぁいいか、全部終わったし」

 

 死体は動かない。

 ダンジョンは主の死に反応して崩れ去ろうとしている。

 現に空間内が地震でも起きているかのように揺れていた。

 

「帰りましょう。4人で、いつかの放課後のように。また楽しくお話でもしながら」

 

 サクラの言葉に、ロリコは自然と笑顔が漏れ出た。

「早く来るっスよ!」「早く帰るぞ」

 コトコとフルエンドの二人の声に「っせーな! ったく……」嬉しそうに返答する。

 そうして、配信は終了する。

 

「ご視聴ありがとうございました……ってね」

 

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