【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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斜海(しゃかい)ダンジョン行くぞ!② ~謎解きはマジでやめろ~

 

 降る。降る。

 潮の香りが強くなっていく。太陽の輝きが落ちていき、視界の先が暗くなっていく。

 ドローンが光を照らした。

 ロリコの足裏からその先をはっきり捉えたそれは急降下でその後ろを追っている。

 

 下りる。下りる。

 魔力を通した眼で、ロリコは見やる。

 視界の先、サイクロプスの電撃で切り開いた穴の先。

 底が見えた。底と表現するよりか、海水の表面と表現した方が良いか。

 

「サイクロプス、嘘だよね?」

 

 深海まで貫けると思っていたが限界があったらしい。

 アクセサリーは輝きを無くしてリチャージ期間に入っている。

 今すぐ使うことはできない。

 

 加速する。加速する。

 重力に抗うことはできない。

 そのためロリコは策を練る。

 海水の中で呼吸することはできる。

 自由に動き回ることは少しできない。

 武器をかざすことは難しいかもしれない。

 

 やらない理由にはならないが。

 

「着水!」

 

 飛び込み台から入水するかのように侵入した。

 

 :88.40

 :84:20

 :90:30

 

 穏やかな侵入だった。

 静かに音を立てて、海の中から深海に入っただけなのに波紋が広がっている。

 次いでドローンも侵入。どこかのCDジャケットのようなポーズを最終的に取っているロリコが映される。

 

「おっは〜」

 

 :なんで喋れてるんですか? 

 

「ヒント、魔力」

 

 使い方は自由定期。

 浮いて入る。宇宙空間を自在に動き回るような感覚か。

 ロリコとしての経験はないが、前回の経験が生きている。

 斜海ダンジョンの記録はなくても経験で補う。

 初見攻略だからこそ経験値が生きる。

 2周目の人間だけができる荒技とも言える。

 佐伯ポプラは初見で適応できたらしいが。

 

「ほいっと」

 

 小さく斧を生成した。

 木こりが持つようなサイズの斧だ。

 ロリコの腕程度の大きさと長さしかないそれを手にバタ足を行う。

 いつものビッグサイズの斧だと動きにくい可能性があるからこその判断。

 

「ん?」声と同時に斧を縦に構えた。刹那、刃の先に魚が丁度衝突して真っ二つにそれは切れた。

 先端が棘のように尖っているが小さいサイズの魚だった。カジキのように伸びてはいるが、しかし小さい。

 

「こーれ構えてなかったら風穴空いてたね」

 

 :こっわ

 :ひぇっ

 

 気を抜けないのがダンジョン探索。

 今回は広い深海の中にいる。

 渦の中身、奥にあるのは渦の壁。

 それ以外はただの広い空間、モンスターからは格好の的になっている。

 

「考えてる間に突撃されてもヤだね。下に向かうね」

 

 さらに下へ向かっていく。

 突撃してくる魚を除いて、近づかなければここにいるモンスターは攻撃してこないらしい。

 ロリコの存在を認識していても、魚の形をしたモンスターは悠々と泳ぎ回っている。

 群れを成してか、それとも孤独に泳ぐか。

 周囲に目を向けると巨大なモンスターだっている。

 サメを想起させるようなモンスターだ。気づかれないようにゆっくりと下っていく。

 

 ところどころでモンスターの死骸のようなものが見えていた。

 先ほど襲いかかってきた魚も含めて、何種類かが横たわって浮いている。

 佐伯ポプラの攻撃による影響だろう。タイムラグが1日ある。ロリコよりも先に進んでいるに違いない。

 時間の経過によってモンスターはリポップする。繁殖能力を有してはいるが、ダンジョンの特性なのか、無からモンスターが生えてくることもしばしある。

 

「お」

 

 深海に地表のようなものが見えた。砂浜の様な地面が視界に広がっている。

 そのわきには廃れた建物が並んでいた。その周りをモンスターが緩やかに泳いでいるがこちらに襲いかかる気配は見えない。

 二足で立ってみる。表面には諸々と、草臥れた道具が埋まっている痕跡が見えていた。

 モンスターか、あるいは人間が住んだ跡か。判断は不明だが、生活の跡のようなものは見えた。

 朽ちた家具、荒れた木材。海に沈んだ街を想起させるが、とはいえここはダンジョン内。

 

「ダンジョン化した場所が元々は海に沈んでたのかもね。時代考証とかする気ないから無視するけど」

 

 :ヒントになるからしとけ

 :見ろよ

 

「見ませ〜ん」

 

 無視。

 攻略の糸口になるかもしれないが無視。

 視聴者とのやり取りでよく見られる光景。

 慣れてる人間同士のコミュニケーション。

 ロリコはただやりたいことをやるだけの子供にしかすぎないのだ。精神も含めて。

 

 正面泳いで進んだ先、巨大な建築物が目に映る。

 凸を逆さにしたような形状だった。

 海底ピラミッドのイメージが浮かんだが、逆さのため微妙に繋がらない。

 寂れて、錆びれたその建物にロリコは近づく。

 

「うおっ、でっか……」

 

 感想を漏らしつつ、入り口付近の扉と思われるものに近づいた。

 掴む部分はないが、開いた形跡が見えている。

 

「先駆者もここから入っていったんだろうね。跡、残ってる」

 

 砂地が削れた跡。入り口をここだと断定。

 取手のようなものはないが近づいて引っ張ろうとしてみる。

 

「開かない」

 

 巨大な斧を生成して叩いた。

 

「壊れない。……詰んだ?」

 

 :近くに石碑ありますよ? 

 

「なんか近くに石碑があるような気がするんで、そこに向かいます」

 

 不承不承ながら誘導されてそれらしきものを探して……見つける。

 粘土板やロゼッタストーンの類の石碑だった。

 言葉が記されていた。

 

「…………」

 

 ここで問題が生じる。

 石碑に記された文字が日本語であるはずがないのだ。

 粘土板ならばシュメール語のように。ロゼッタストーンならさらに3つの言語のように。

 ロリコはその文字を見たことはある。読めないだけで見たことはあった。

 前世の経験を補ってもカバーは効かない。魔力で身体能力を向上できても、知力を上げることはできないのだった。

 

 彼女は前世にて、チームを組んでの攻略をしていた。

 役割をあげるならアタッカーのポジション。

 戦略の組み立ては任せるし、謎解き系統も任せる。

 

 要するに、苦手分野なのである。

 

 ダンジョン特有の言語について。

 未開の言語ではあるものの、ダンジョン探索中に発見された異物から解読が進められている。

 コンピュータを介して情報が伝播していき、ダンジョンの謎の解明へと繋がる。

 佐伯ポプラの配信内でもその石碑は映されている。

 全ての言語が解読されているというわけではないが、意訳として発信させることはできる。

 ポプラはネット上のつながりから、有識者とのコミュニケーションを図りつつ、持ちうる知識から正解を引き当てて建物内に侵入した。10分で。

 

 AIによる発展もさることながら、情報さえ集えば回答は割と早い段階でやって来る。

 魔力による技術向上により更なる発展を迎えたそれは解析速度を早めていく。モンスターも、遺産も関係なく。

 

 それはそれとして。

 

 :応答しろ

 :ロリコさん? 

 

「すぅー……」

 

 深海で深呼吸。

 腕を組んで3分ほど思考。記憶の中を探りに探る。

 引っかかったのは謎解きを全て人に任せている自分の姿だった。

 ろくに成長しないな、と思いつつもこれが自分だからと割り切る。

 

「すんません。助けてもらってもいいスか」

 

 前世の語彙が出てくるほどの緊急事態なのだろう。

 クソガキ仕草をする余裕もなかった。

 しょうがねぇな……。ったく……。などと有能腕組みお兄さんたちが後頭部を掻きつつヒントコメントを発信していく。

 9割は佐伯ポプラの回答からの引用だが。

 ロリコに配慮して回答を送らないのは優しさかもしれない。

 

 コメントの流れを見ていく。

 小学生でもわかりやすい、ひらがなを交えた説明に感謝しつつ、書いてあることを理解した。

 

「なるほど宝探しじゃんね。これヒントある?」

 

 :あるぞ

 :そこも教えたほうがいいか? 

 

 やることは簡単。

 石碑には3つ穴が空いている。

 嵌めるためのオーブを見つければ開きますということ。

 居場所のヒントも石碑には記されている。

 読んで内容を理解すれば、配置場所が把握できる安心設計だろう。

 

 :ポプラはそこ10分で越したぞ

 :ここで3時間

 

「まぁ待とうよ……、10分? 緩いな。私ならもっと早く終わらせられる」

 

 :無理ぞ

 

「ので……、1個目の場所教えてもらってもいい?」

 

 :なさけな~い♡

 

「謎解きだけは勘弁してください」

 

 :慣れない敬語やめろ。教えてやるから

 

「っす。アザス……感謝の神、アザース……」

 

 情けないお願いではあるが、蹲っても仕方がないので素直にしおらしく頼む。

 テンポを重視してはいるが、攻略のヒントになるようなものは求めることはない。

 基本的には自分の力で攻略していくのがロリコのスタンスだ。

 今回はお手上げだったのと、時間を使い過ぎるとポプラが攻略してしまう可能性がある。

 それは自分にとっても、視聴者にとっても面白くはない。

 タイムアタックはすでに始まっている。

 24時間遅れのマラソンの、その差を埋める戦いなのだ。

 

 視聴者に懇願して一個目のオーブの居場所のヒントを得る。ピンときたロリコはその場へ急ピッチで向かっていった。

 その居場所とは───

 

「サメちゃんさんこんちくわ〜! 球を置いてけェ!」

 

 相対するのは先ほど見かけた巨大なサメだ。

 

 :メガロドンやん

 :絶滅しているはずでは? 

 :親戚……ってコト? 

 

 メガロドンは全長15mほどある巨大なサメだ。

 見つけるのは容易だった。

 上に向かって泳いで行き、声と共に先制攻撃を仕掛けにいく。

 

 今回のロリコはいつものスタイルとは異なり、小柄な斧を手に構えている。

 両手に構えて大振りするのも手だが、深海で動き回ることになると、普段とは動作が少し遅れてしまう。

 魔力でラグをいかに埋めようとしても、数秒の違いが生死を分つ。

 

 投擲も戦法の一つにはなる。

 魔力を帯びた斧ならば海水の影響を受けずに進めることができるだろうが、持続できるかと考えると、ロリコにはすぐに結論が出せなかった。

 

 だからいつも通り突貫工事。

 突っ込んで、おろしにかかるゴリ押しプレイング。

 

「速っ!?」

 

 ロリコの魔力を感知して、即座に距離を置かれてしまう。

 近づこうとした瞬間からこれだ。

 サメの嗅覚は人の約1万倍あるとされている。

 ロリコは別に臭いというわけではないが、海水内における異物ではある。

 嗅ぎ慣れない侵入者の存在にはすぐに気づいていたことだろう。

 

 近づかなければ襲わないように、モンスターとしてその役割が植え付けられている。

 メガロドンはオーブを守る一匹の守護者として存在している。

 

 :サメは感覚が良くてな。嗅覚もそうだし、水の振動だとか、電気信号を感知できるんよ。

 :サメ博士も見てます

 :まるでサメ博士だ……

 

 おそらく、それらの本来のサメの要素に加えてモンスターとして進化した器官も有しているのだろう。

 現状逃げ足が速いことしかロリコは理解してないが、速度で負ければ足元から喰われてしまう。

 

「!」

 

 いつも通り速攻で決めるか。

 戦略を頭で練ったところで灰色だった身体が赤色に変質していく。

 臨戦体制といったところか。

 

「おぉ〜見てよあれ。歯をパクパクとカスタネットみたいに叩いて尖らせちゃってサ。今から何を食べる気なんだろうね」

 

 :お前や! 

 

「上等♡ 生物としてどちらが上か、格の違いを理解(わか)らせないとね♡」

 

 ロリコもスイッチを入れつつ斧を構えた。

 次の瞬間にはこちらに突撃してくるのだろう。

 

「魚が遠距離から攻撃してくるとは思わないよ。ビームとか来たら少しは考えるけ、ど!」

 

 思考を口にしつつ、メガロドンの突撃を回避することなく、衝突するタイミングに合わせてサイドスイングをお見舞いする。

 鼻に当てることができたのは運もあった。

 鋭利な刃がそこにぶつかるも、それが致命打に繋がったかは不明だ。

 口が開き、目が閉じている。

 捕食対象としてみなされているらしい。

 

 忘れてはならないが、今ここにいるのは海中。

 ロリコは海水の中で自在に動き回れるが、速く動けるわけではない。

 脚に自信があっても、メガロドンの体長から繰り出される突進を回避するには間に合わない。

 

 押し負ければ四肢が吹き飛ぶかもしれない? 

 何もしないよりはマシだろう。

 鼻と斧が衝突し、余波が生まれてロリコが後方に動かされてしまう。

 身体に影響が出てこない、むしろ使った分のエネルギーが補給されているようにも感じた。

 

「ガルカガいつもありがとう!」

 

 再生力がウリのスク水がロリコに力を与えている。

 身につけたアクセサリーの、サイクロプスを素材にした首元のアクセサリーが光を帯びる。

 

 :ロリコォ! 海中で雷でも起こしたら感電しちまうぞ! せめて離れろ! 

 :離れたところで意味ないんだよなぁ……

 :やめろバカ! 

 :アホ! 

 

「使わないよ! あとバカって言ったやつ名前覚えとくからな!」

 

 :アホ! 

 

「アホもダメ! 雷を借りることだけがこのアクセサリーの特色じゃない!」

 

 身体が光る。

 飛ばしたサメの方に向かいつつ、前方に目を向けていく。

 視界のその先でメガロドンが突っ込んできている。

 戦法に変わりはない、変わり映えもしない。

 それ以外の攻撃方法が出る可能性は検討しない。単に浮かばないから。

 

 佐伯ポプラならば華麗に、優雅に、鮮やかに殲滅せしめただろう。

 ロリコ・リコは丁寧さとは真逆の力押ししか戦略の根底にないので今回も殴りにかかる。

 

 生物の本能が働くならば、勝てないと踏んだ相手には即座に逃げるべきなのだ。

 しかしメガロドンはモンスター。怪物、異形の存在、生態系として未解明のアンノウン。

 襲いかかるのが本能。

 思考を介さないその動きに反応できないわけもない。

 

 ただし、速度が伴わなければならない。

 メガロドンの体長は15mを超え、横幅もある。少なくとも海中で横に避けることは出来ないほどのだ。

 

 近くの遮蔽物を利用する。それも一つの手だ。

 反撃の起点になるならマシだが、そうはならない。

 生物として成長しきった感覚器官はロリコの位置を特定し、赤みを帯びた肉体で遮蔽物を粉砕し、貫き瀕死まで追い込むだろう。

 移動する時間がそこまでない、遠距離で攻撃する手段が無に等しいため、その策を切ることはなかった。

 

 だからロリコは一点集中。

 光迸らせたその肉体で、真っ向に立ち向かう。

 二撃一殺。一手目で技量を測ったロリコの判断に、間違いはないと自分で確信を持つ。

 データのない相手だからこそ、速攻を叩き込む。

 

 確信の根拠はアクセサリーにあった。

 魔力でコーティングしたさらに内側、海中に漏れ出さない範囲でアクセサリーから流れる魔力が循環する。

 身体能力の底上げを目的とした利用。

 能力が二つあるならば、一つは雷の放出、一つは身体能力の向上にある。

 

 サイクロプスの特性……、上げるならば速度にあった。

 ロリコは把握してないが、解析されたサイクロプスの情報には常に雷の性質に似た魔力を走らせているとの項目がある。

 俊敏に、機敏に、敏速に。攻撃に対しては即座に反応を、距離を取られたら迅速に詰めよう。

 サイクロプスの攻撃本能としてそう育まれていた。

 故の速度だった。敗因はそれらの魔力を放出したことにあったが。

 

 突進してくるメガロドン相手に、さながら打席に立った野球選手のように構えて、ミートに合わせてカウンター。そのまま真っ二つが今回の狙い……。

 

「って思ってたんだけどや〜めた! 私もこのまま突撃しま〜す♡」

 

 楽しいことを、面白いことを考えたらそれをすぐに実行したくなるのが子供だ。

 

「突撃してそのまま2枚におろすね♡」

 

 悪知恵を働かせた子供のように軽く言う。

イタズラを思いついたら実行。

 やりたい遊びが浮かんだら友達を誘って実行する。

 後先なんて考えない、だって今やりたいから。

 武器を片手に、死を恐れずに彼女は加速する。

 側から見れば残像が見えるほどの速さでバタ足をしている様子が映っているのだが。

 

 :ここ素材

 :背景が全部青だから切り抜き余裕やん

 :スク水も青だから透けるんだよなぁ……

 :攻略するまで配信止まんないから今のうちに切り抜くべ

 

 衝突5秒前。小柄な斧を持つ手で持ち方を変える。腕を広げてもう片方の手でそこを抑える。

 巨大な斧では意味がない。速度が減衰し、力も低減してしまう。

 

 衝突3秒前。メガロドンのやることは変わらない。尖らせた歯が大きく見える。口はすでに開かれており、突き進めば右腕が無くなってしまうだろう。

 

 衝突1秒前───ロリコは加速した。

 視聴者が幻視したのは人魚だった。

 フィンキックと呼ばれる技術がダイビングにはある。利用するのは推進力だ。

 腰から全身を波打つように動かして、速度が加わっていく。

 膝を曲げず、姿勢を整えて、足首にスナップを効かせる。

 

 差が生まれる。勢いがどちらにあるか。

 軍配はロリコに上がる。

 開かれた口の右側から、ジャストミートに斧をぶつけて、そのまま横一閃。

 

「どやっ!」

 

 血が溢れる。海水が赤く染まっていく。

 腑に異物が見えた。球体であるそれをロリコは手に取る。「なんかぬるぬるしてるな」心底嫌そうに彼女は言う。

 目を細めていう姿をカメラに撮られたところでゴホンと咳払い。そのままVサインを掲げた。

 

「ま、いいや! この調子でやっていきますよ〜!」

 

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