メガロドンをしばいてオーブを奪取。
残りの居場所を、解読を面倒くさがったロリコは視聴者に訊ねる。
掻い摘んで解説される。一つは廃墟内のどこかにあり、もう一つは埋まっているのだとか。
居場所のヒントは文面として石碑に記されてはいるし、ロリコを見ている視聴者もポプラの配信を元に指示を出せることになる。
ある程度のヒントを聞きつつ、なんとなく気になったロリコは視聴者に質問した。
「どんなの書いてあった? 原文は」
:廃墟の地、連なる誇り、天を貫く矛の内部に輝きはある
:日本語でおk
:?
「何言ってるのかわからんくて草。あの人これ解読して回収したのか……肝心の場所は───」
:右方向に剣山見えてますよ、行かないんですか?
:右の方向に視野を向けると……?
:おい! なんか右側に変なもん浮いてなかったか!?
「よっし、ごーごー! ライトにゴー!」
:発音がgm
「シャラップ!」
ロリコは基本的に指示されることを嫌う。
得意なカテゴリ……専ら戦闘に限ってだが。
頭を捻って回答することは時間をかけてしまうので好みではないのだ。
あれこれ考えていても攻略が進まないので大人しく従っていく。
特に敵の姿はなかった。
途中で遭遇したモンスターを、襲いかかっては切り伏せ、切り伏せてはビニールバッグに詰め込んでいく。
「好きな食べ物はタコなんだよ」
:どうした急に
:わかる
:俺も好き
「噛みごたえがある食べ物が特に好き。醤油をつけて食べるとSo Good……、気分が上がるよね」
:牛タンとか好きそう
:なぜ英語を引っ張るのか
「ふふ、気づきましたか……」
存在しないメガネをクイっと上げた。
探索時間が多くなるとロリコは視聴者に話しかける癖がある。
基本的に喋り続けたいのがロリコのスタイルなのと、見ている人間が飽きるのを恐れているためだ。
雑談が混じる。
ダンジョン攻略中なのに、自室にこもって会話するのと変わりがない光景。
「噛めば噛むほど旨味って名前の汁が出てくるじゃん? あれが特に好き」
無数のコメントが流れる中、拾いたいコメントだけは即座に拾う。
:でもわさびはダメだよね
「わさびぃ? 人間が食べるものじゃないですよ。あれを添えて食べて美味しいって言っている人間の感覚がわかりません。辛いを美味しいに変換しているの? ドM?」
:子供舌がよ
「子供で〜す……おいこら、お前ら揃って私を叩いたりしないの。ほら、手を挙げてみ? 雰囲気に合わせて食べれるアピールしてたけどほんとは無理な人いるでしょ?」
:えへへ
「えへへじゃなくて」
会話を進めながら目的の剣山へ。
そこ違う、そこ左、その前。視聴者のラジコンになりながらオーブを獲得して別の場所へ移動していく。
地中に埋まってるらしいが目印になる物体があるらしい。
迫りかかるモンスターに捌きながら移動しつつ、コメントと会話を重ねる。
「せっかく海中にいるんだからタコ捕まえたいんだよね。なんでいないの?」
:飯ってここで食えるんか
「わかんね。最悪目の前のモンスターを捌いて食べるかも……いや冗談冗談。流石にここでは食べないって」
:タコ……触手……閃きました
:ズボン脱いでます
「本人の見えないところでやってね? あっファンアートは#ロリコアートでいつも見てるからね。いつでも描いてね? えっちなイラストはあげないでね。割とマジで」
描かれるのは理解するが、インターネットの海には垂れ流すな。
口酸っぱく言っていることである。
ロリコは違法ロリだ。自分の活動に支障をきたす存在を許容しない。
「というか私は基本負けないからね。常勝無敗でいさせてよ。創作でも」
:未だにロリコの存在を疑ってる
:合法ロリであってほしい
:某国が開発したスーパーアンドロイドであってほしい
「とんだロリコンさんだね。ロリコン懲りろってね」
:ほんならお前も配信を止めてくれ。お前のせいでワイの性癖はぐちゃぐちゃや
:あなたのせいで性癖にロリが加わりました。どうしてくれる
:ロリコンこわ。行きつけの小学校に不審者の情報とか出てたし注意しないと……
「うるせ〜! 知らね〜!」
ロリコがする言葉ではないが。
移動して目印となる物体を発見した。
オーブを守るモンスターがいる気配もなく、ただポツンとそこに置いてあった。
「一番最初に行くところだったりする?」
:石碑を上から読むと真っ先に行き着くのがそこ
「じゃあ最後がサメちゃんだ。そこそこやるもんね、あいつ」
「じゃあさっさと戻るか」水中でくるりと回転して石碑の元へ帰っていった。
メガロドン戦からの経過時間は15分程度だった。
:ポ、プラより先に行ってたらここの攻略どうしてた?
「おにーさんたちの力を借りるに決まってるじゃん。言わせないでよ」
:ったく……w
「解読できるよね? ……おいコメント、止まらないの」
余談だが、佐伯ポプラのダンジョン攻略は寄り道することが多い。
近くに目立つモンスターがいれば狩りにかかるし、その方が見栄えが良くなることもある。
石碑に着くよりも先にメガロドンと遭遇して先んじてオーブを獲得していた。
だから攻略が少し早かった。
……というコメントを見て、ロリコは「ふーん」と内心に思う。
配信のスタイルは人それぞれだ。ロリコは早めに攻略する方が合っているから即断即決思考で動く。
好戦的な気質あれど、そこら辺を歩いている高レベルモンスターに積極的に挑もうとは考えない。
時間との勝負が含まれているから、というのが大きいが。
それとして「あの人水着で配信してないかな」と、邪な気持ちを込めながら石碑前に戻った。
「おにーさんたちありがとね。私こういう謎解き本当に無理だからさ」
親切に、丁寧にしてくれた人に感謝の言葉を。
自分一人で片が付かないなら人の助けを借りる。
普段のロリコからは見ないような仕草だろう。
彼女にはいくつも顔がある。
好戦的な顔があれば、時には子供らしく我儘を言い、あるいは素直に頭を下げる。
ギャップから人気を得ているのか、純粋な強さから人気を得ているのか、それとも単に外見が好まれているのか。
自分のプロモーションとして自己分析することはあれど、見るのはどこまでいっても他人。
この先自分が関わることのない他人だ。
好まれている部分を見つけて、その方向に尖らせているだけ。
それが見えているかはロリコには不明だが、今の視聴数は4万人を超えている。
コメントの流れも悪くはない。今の言葉に対する反応も良い。
:逆に何なら解読できるのさ
「え〜……、点字とかモールスとか? 触れても読めてもわかるよ」
:俺も点字はいけるぞ。先頭にシーラカンス、殿に鯨を添えてたわ
:ー・ー ー・ー…… ……ー・ー ・──ー・ ・ー・ー
「今でもすっごい見せてるよ? 指? それで開いたらBANされちゃうよ〜!」
目を
…………。
何も起こらない? 口にしようとしたところで、ガコンッという海中にはそぐわない音が鳴った。
その次にはズズ、と目の前の大型の扉がこちらに動こうとしている。
躍動している、オーブに呼応して魔力が溢れている。ギミックは解かれたのだ。
同時にロリコは予期する。
「吸いこまれるやつだこれ!」
吸引される。引き寄せられる。
ふわふわと浮いた身体で、抵抗することもなくなすがままに建物内に入れられてしまう。
建物の中身は暗くてよく見えない。
流されるような感覚と、何も見えない空間の中で水の勢いに乗っかって落ちていく。
後方にも顔を向けれない勢い。静かに扉が閉じられる音が聞こえていた。
そして音はすでに遠く、流れ落ちた先もまた海中の中だった。
しかし周りには壁がある。外にいた時にあった渦の壁ではなくレンガのようなブロックでの壁。
魔力でも流れているのか、やけに頑丈そうに見えた。
「浮上するね?」
頭の中で状況を整理しながら、今からすることを口にする。
壁際を掴んで陸地らしき空間に這い上がった。
明かりが灯っていた。
奥は暗闇で何も見えず、そこまで広くもない空間、後方からその上は先ほど落ちてきたところだろう。
水の流れはすでに止まっており、扉が閉まっていることを再認識する。
「休憩ポイントってところ?」
:ここから長そう
:絶対長い
:長い(確信)
:ここまでで1時間も経ってないんだよな
:ポ、プラってこの先にいるの?
:いるけど寄り道ばかりしてる
:寄り道しかしてへんなあの人
:目的が違うからな。調査兼攻略とただの攻略だと時間のかけ方が違う
:この先どんな感じなん?
:ずっと迷路
:まさしく迷宮。変なモンスターもいるね
場所が変わって、何人かの視聴者が見たことのある場所へ。コメント欄もそこそこ加速。
ネタバレ注意ってコメントを固定する。
普通に忘れていたので、ロリコは少し反省した。
ダンジョンには種類がある。
例えば、先日ロリコが挑戦した横土ダンジョンは100層ダンジョンと呼ばれている。
上層、中層、下層の3つに分類されており、上層は初心者にも優しい難易度、中層からは慣れた人間、下層からは一線級のレベルの冒険者が入れるようになる。
攻略後、映像解析が進めばモンスターへの対抗手段が確立する。今や横土ダンジョンも難易度は下げられ、何人かの配信者は下層での配信が行えるようになった。
言ってみれば配信するのに向いているダンジョンである。
上から下まで、自分がどこにいるのかがわかりやすいためだ。
今回は迷宮タイプ、ということになる。
どこまで続くかはわからない。敵の強さも誰かが行かない限りは判別を付けられない
かといって放置するのもできないダンジョン。
撮れ高を作れるポイントを上げるとして、真っ先に上がるのは───
「寄り道したら宝がありそうじゃんね」
財宝だ。
金銀を換金すればお金がわんさか手に入る。
金稼ぎを主な目的として活動しているロリコには嬉しい場所だ。
見つけては回収して、飽きたらボスをしばいて帰宅する。これが一番。
アイテムを使えば自分がいた場所を記録して、脱出することはできる。とにかく時間がかかるので配信する人間も少ないところだ。
「初見攻略ならではの醍醐味だよね〜」
モンスターのリポップはある。
財宝のリポップは含まれない。
冒険者はモンスターを素材に武具を揃えたり、あるいは金銭に変換できるが、稼ぎを重視するなら宝箱を拾いに行く方が早い。
特別な効果が付与された武器があれば、高値が付くような財宝。獲得して売り捌けば旨味を感じられる。
「テンションが上がってくるものですよ。あははっ!」
危険地帯に進んでお金を稼ぐか、上層で緩くお金を稼ぐか。人によってやり方は異なる。
だからこそ、未攻略のダンジョン攻略配信には価値がある。
ダンジョンを攻略する冒険者の、その攻略する姿を映像に載せれば自分の力がよく見えることになるだろう。
記録に残れば攻略法は確立するし、配信活動も幅が広がる。
初見で攻略しきれば財宝は独り占めできる。
故に、ダンジョン配信は二重に美味しい仕事。
攻略されればそれでよし、攻略後でも安心して配信できてよし。
死にたくないけど配信したい人からすれば、それでもよし。
ゲームの実況配信と似通う部分が多い。
初見で挑む冒険者に対して助言したり、あるいは一緒に体験を共有しようとする者。
見慣れた場所でいかに効率よく攻略しているかを参考にし、自分の経験に繋げる者。
今でこそエンタメの地位を得ているが、実態は血生臭いモンスターとの命の削りあいだ。
10年近く、攻略と解明が進んできたからこそ受容されていったのだ。ダンジョンに関連して大きな事件がしばらく起きていないこともある。
未踏破のダンジョンが攻略できれば国から報奨金だってもらえるし、上層で平和にモンスターを狩ればそれだけでもお金がもらえる。
それがダンジョン配信なのだ。
小型の斧から大型の斧へ。
背中に担いでいつものスタイル。
カプセルに入れてたビニールバッグからリンゴジュースを取り出して喉を潤した。
「んじゃまぁ次行きますか〜」
余裕綽綽、気分は上々。
佐伯ポプラが1日費やしてもいまだに攻略されていないということは、この先はさらに長いのだろう。
建築物の構造上、さらに降りることに違いはない。
「爆速で終わらせるね♡」
高らかに宣言し、歩を進めた。