【悲報】ガチロリ、ダンジョンで配信してしまう   作:油性

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斜海(しゃかい)ダンジョン行くぞ!⑤ ~好きとかどうこう言ってる場合じゃないよ!~

 

 崖の上だ。真っ先にロリコはそう口にした。

 休憩を終えて、水面の先にあった地面の上に立っての感想だった。

 周囲、水が流れている。上から下へ。文字通りの滝のように流れているそれは、逃げ場所が今立っている地面にしかないと思わせてくる。

 前方最奥、あからさまな扉がある。きっと、ここを守るボスがこの後現れるのだろう。

 下には地面がある。そこまで広くもない円形の造られた大地。

 聳え立つような形でポツリと置いてあった舞台だ。周囲の水流まで地面が伸びているわけではないため、落ちたらそこで人生が終わってしまう。

「ん~」と身体を伸ばし、そのまま首を左右に動かす。

 

「滾ってきたね」

 

 隠しきれない興奮が言葉に現れる。

 その雰囲気が映像越しに伝わるのか、画面の前の視聴者も待ち侘びている。

 このあと現れるボスモンスターに。

 

 地面を蹴って飛ぶ。

 距離があった。先ほどの地点に戻るには簡単ではない程の。易々と戻らせてくれるとも限らないが。

 くるりと回転して、華麗に着地。

 いつも通り、右手には斧を構えて戦闘態勢を取った。

 

「!」

 

 同時に前方から黒い巨体、その影が姿を見せる。

 正面から見た感じ丸まっているような物体。

 また人の顔か? 嫌悪感が募ったがその気分は現れたモンスターの姿を見ると同時に霧散した。

 

「ほげっ……」

 

 鯨だ。

 黒く濁った瞳がこちらをはっきりと捉えているように見えた。巨体にして巨大。海中ではないのに浮いている姿が気色の悪さを引き立たせる。

 大きさだけで見れば、さながら戦艦だ。身体の中に武具の類が仕込まれているのではないかと警戒してしまう。

 

 :これ突っ込んできたら終わらんか

 

「はわわ……」

 

 :鯨のデカさに言葉が出なくなっとる

 

「私は今から目の前の可愛い鯨ちゃんを倒さないといけないの……? 地獄?」

 

 :かわいい……? 

 :でかいだけやんけ

 :見た目は鯨なんだよなぁ……

 :わ

 :うっさ

 

 咆哮が響いた。

 鼓膜が揺れるような錯覚さえ覚えるような叫び声。水が波紋を生み出し、ロリコが立つ地面は削れようとしている。

 削れたそばから再生している地面を視認しつつ、ロリコは戦意を固めた。

 ただの咆哮程度で吹き飛ばされることもなければ、物怖じしないのがロリコ・リコ。

 

「まずは一撃……ッ!」

 

 大地を蹴って肉薄する。腰を捻って魔力を流す。クジラはそこそこ、ロリコより上の位置にいた。飛び降りた崖際よりも少し下くらいの位置に留まっている。

 秘策のアクセサリーは使わず、実力を図るための一撃を行おうとする。

 身体が回転する。風を切り裂き、追突のタイミングに合わせてぶつけた。

 

「おっも……ッ!」

 

 特に反撃されることもなく、一撃与えることに成功した。しかし、響かない。

 身体が波打つように揺れ動いたように見えたが、致命傷を与えているようには見えない。

 

「でも傷は残ってるんだよな」

 

 ぶつけた箇所を注視する。

 斧で刻んだ一撃、横一線、弧を描くように生まれた傷からは血が出ている。

 それだけだ。

 血が出ているからなんだと、言わんばかりにピンピンと目の前の生物は攻撃動作へ移行した。

 

 :どんな感じ? 

 

「硬いってより純粋にタフネスって感じ。HPだけが高いみたいな」

 

 :サイクロプスパワー通ると思う? 

 

「わかんね……3割乗せで使ってみればって、あっぶな!」

 

 口元から放たれる魔力を帯びた一撃。

 それは水泡。ただ大きいだけの水滴がロリコの頭上から落ちてきた。

 

「得体のしれない液体なんて触れたくないよ~! スク水だけ溶けたら終わりだし」

 

 :あたりに行けよ

 

「芸人だと思われてる?」

 

 先ほどまで立っていた大地は溶けて消えている。波立つこともなく。地面を削り取り、あるいは地面に吸収されていった。

 触れたら即アウトのオワタ式は常で変わることはない。

 

(困ったな)

 

 弱音は口にしない。

 戦力を図るつもりでいたが、鯨側からむしろ計っているように見える。前回のサイクロプスと同じだ。子供という器だからこそ、サイクロプスは油断をかましてくれたが、今回はその辺りの判断はしてくれないらしい。

 目の前に殺すべき相手がいるから殺す。

 楽して殺すか、全力を持って殺すか。鯨は決めかねているのかもしれない。

 

 先ほどの水泡だってそうだ。

 大地全体に覆い被さるような一撃が来れば、防げずそのままゲームオーバー。即死が確定する。

 

 してこないことに理由と、希望を見出すべきか? 

 ただ舐められているだけか? 

 

「それはそれとしてむかつくな?」

 

 ロリコは短気だが、戦闘の際は筋道と戦略をそれなりに立てている。

 テンポは重視する。初見の相手は力量を測って攻略時間を逆算するし、ダメージだって受ける気はない。なんやかんやで最終的に勝つように臨機応変に動き回る。

 

 今回は後方から佐伯ポプラが迫ってきている。

 悠長に戦っていては追いつかれて、協力プレイと洒落込むことになるだろう。

 

(その展開は最終手段)

 

 なくはない一つの戦闘プランとして残しておく。

 視聴者が求めるのは、本来なら学校に通っているくらい、小さな子供が凶悪なモンスター相手に無双する姿なのだ。

 熱心な視聴者でも1〜2時間経過までは見れる。3時間目に入るとスマートフォンや別タブを開いてSNSを開く可能性すらある。

 作業用BGMにするのは構わないが、全員がそれだと癪に触る。

 

 時間をかけ過ぎた場合の選択肢になるだろう。

 他に選ぶ手段がないのもまた癪だが。

 結局のところ、いつも通り時間との戦いなのだ。

 

「広範囲攻撃を警戒しながら、攻撃を続けるね♡」

 

 荒野の大地を進むうさぎやカンガルーのようにすばしっこく移動する。

 鯨は巨体だ。口から吐き出してくる攻撃ならば、物理的に当てられない位置に移動すればいいだけの話。

 鯨の真下へ移動した。腹は暗くて何も見えないが、赤い線が走っているように見えた。

 よくよく注視する。魔力を介した瞳で。

 

 ロリコの考えた通りならば、真下ならば鯨の攻撃範囲から外れるだろう。しかし───

 

「腹には魔法陣で草」

 

 線が変質する。心電図のように動いていたそれが円を描き、一つの紋様を形成した。

 同時に発光、赤き輝きは青く変容。

 

「うわやっべ! 逃げます!」

 

 戦闘時特有の猫撫で声を出す余裕がなかった。

 気づけば後方へ元の場所へ戻るように飛び退いていた。働いた直感を頼りにしつつ片足から着地、目を擦りながら手に持っていた斧を投げつける。

 縦に投げたブーメランのように軌道を描く。

 

 腹から描かれた魔法陣による攻撃動作が完了した。それは雨だった。

 豪雨だ。さながらマシンガンのように尖ったその雨は、ロリコの投げた斧を削りに削って破壊し、そのままロリコの真下まで移動しようとしている。爆撃のそれと大差ない。避けることに精一杯だ。

 

「げぇっ! 地獄のシャワー!?」

 

 :なっつ

 :もうサマーシーズンですね

 :文字通りの地獄

 :スク水着てるし、ここは実質プールだった……? 

 

「うお、おおお!」

 

 水泳の授業を体験してきた元小学生なら理解が早い。勢いよく射出されたシャワーだが、しかし人に傷を付けるには十分な威力だ。洗い落とされるのは汚れではなくて人間である。肌の肉を削らんと勢いよく放出されている。

 わーきゃー騒げるほどの余裕は持てない。殺傷力のあるシャワーなどただの兵器にすぎない。

 

「く、空中へ!」

 

 地面を抉るほど強く蹴ってジャンプ。チラリと後方を確認。シャワーはすでに止まっており、鯨はこちらをじっと見ている。

 飛び出してきた入り口はすでに閉じられており、立っていた場所が唯一の避難場所としてのみ、存在意義を務めていた。

 

「うっさ!」

 

 鯨が吼える。

 頭部から水が噴き出してきた。

 呼吸だ。人間と同じ哺乳類として、鼻から空気を吸い、息を吐き出す。その際に、周りの海水が飛び出しているように見える……というのが鯨の主な特徴だろう。

 ただし目の前にいるのはモンスターだが。

 噴き出してきた水に何か仕込まれてもおかしくはない。

 

 地獄のシャワーの再来か? 否。吹き出された水には魔力が込められており、やがて球体として形を成し始めた。

 水が層となって、ミルフィーユ状のように階層を分けてそれは回転している。今朝方飛び込んだ場所と同じような渦だ。それも2つ。

 

 :まわってらぁ

 :こーれ当たればひとたまりもないです

 :ロリコさんこんなところで負けるんスか? 

 

「は!? 負けてないが!?」

 

 :声でか

 :早く移動しないとあれぶつけてきますよ? 

 

 思考を巡らせる。

 確かに接触すればタダでは済まないだろう。

 触れなければいい……とは思うが、思えるだけまだ余裕がある。

 行動の際に水球が動いてくれば、それだけで回避行動を求められてしまうし、迂闊に近づけば広範囲攻撃で押し潰される。

 

「遠距離からちまちま削るしかない?」

 

 :俺は何時間も付き合うぞ! 

 :好きに戦え

 

「むぅ……仕方ない、ので。もうちょっと動き回ってみるね……」

 

 :なんで? 

 :結局近距離に持ち込むのか……

 :何が仕方ないの??? 

 :なぜ突っ込めるのか

 :勝てる気がしないんだよなぁ

 

 突飛な行動に草を生やしてくれるだけマシなのだろう。それだけロリコが負けるビジョンが見えていないことの証左なのだから。

 戦闘が始まって10分も経過していないのだ。

 大掛かりになるのなら、行動パターンを見極めて覚えたほうがロリコにとっては早かった。

 

 再生した大地を走る。

 まずは正面の顔へ。初撃と同じ位置に向けて斧をぶつけようとせんとする。

 水球が動いた。空気中に延蔓する魔力の流れに乗っかって、水球らしく円を描きながら進んでくる。

 

「遅いっての!」

 

 当たらなければどうということはない。

 戦術の基盤には常に回避行動。先ほどまで走っていた地点と接触し、大地を飲み込んだ。

 

 ロリコが走る地面は○の形をしている。

 その上を鯨型のモンスターが躍動する。

 その外を走りながら攻撃、着地、攻撃、着地を繰り返す。削れた地面は数秒後に再生してくれるため、その部分だけは温情を感じた。

 逆に言い換えれば、苦しめて殺してやるという気概を感じること他ないのだが。

 

「距離が離れてたら覆い被さる形で水の塊。さらに離れてたら水球、腹の下は地獄のシャワー……へぇ……」

 

 再度腹の下へ。動きに反応して紋様が魔法陣の形として変化しようとしていた。

 その動作を見て、ロリコの口角は釣り上がりった。

 

「作り直しちゃうんだ? あっははっ!」

 

「おせぇ!」乱暴な言葉を元気よく発声した。魔法陣が出現するよりも早く叩き込むことに成功した。目視で血の噴出を確認し、そのままさらに前方へ走り出した。

 

 円の際。鯨の尻尾が見える箇所。もう何度地面を蹴り上げたことか。膝を曲げて飛び上がって、そのまま鯨の尻尾へ向かって着地する。

 常に上下に移動していたそれだ、下から上へ動いたタイミングでさらに上へジャンプする。

 視聴者の声すら届かないような距離まで移動し、いつも通り斧を生成した。

 

 いつも通りじゃない点が一つ、電気を帯びていることにある。

 新しく買ってもらったおもちゃで遊ぶ子供のように、何度も、何度もそれを使用する。

 

「突撃〜!」

 

 放出するわけではない。武器にそれを流して相手にぶつけるだけだ。

 目標は鼻先。それなりに厄介な水球を生み出している部分に向けてぶつける。

 

 降下したタイミングで鯨は息を吐いた。

 体内に溜めていた水が凝固し、水球になろうとする。

 本来の鯨とは異なり、海水を吐き出しているわけではなく、中に貯蓄している水のようなものを空気と一緒に吹いているらしい。

 

 激突までには時間があった。

 水球はその間に完成された。

 

「関係ないんだよね!」

 

 声と共にロリコは水球を切り裂き、鯨の鼻先へ激突した。

 傷なんてものはない。水球に接触する事なく、真っ二つへ切り裂きそのままの勢いでぶつけた。

 

 悲鳴をあげている。一撃が大きかったのか、鯨はその巨体を大きく動かして頭上にいたロリコを振り払った。

 そうしてロリコはスタート地点へ戻った。

 

「行動が遅いな、あいつ」

 

 視聴者に向けて投げかける。

 

 :やっぱり? 

 

「うん。私の行動を見てからしか攻撃できてないんだよね。だから水の球とか作って置き攻めしようとしてたんじゃないかな?」

 

 :ほならロリコさんの勝ちは見えたのも当然すな

 

「いや〜私が疲れたら多分死ぬね。あそこにいる間はずっと走ってないといけないし、一撃叩き込んでもすぐ起き上がってくるもん」

 

「ほら、見てよ」指差して視聴者に視線を促せる、

 カメラもロリコを映さず鯨を捉えた。

 殺意を向けられている。じっとりとこちらを目で捉えて、今にもぶつかってくるのではと恐れてしまう。

 

「まだまだ元気そうだね。そんな強くないかも」

 

 :ほんとぉ? 

 

「体力があって攻撃力高くても当たらなければ意味ないもーん。私の勝ちったら勝ちなんだから」

 

「大したことなかったな」勝利が目に見えてきたのか、余裕を吐いてとどめをつけようと次の手を考える。

 

「うお」

 

 :うお

 :うおw

 

 吐いたのも束の間。

 鯨が全員を震わせて、なおも咆哮を続ける。

 水を吐き出してくるわけではない。鼓舞するための咆哮であった。

 その後、くるりと身体を回転させて滝の中へと帰っていった。

 

「……?」

 

 :? 

 :定時なので上がりますね! 

 :新卒か? 

 

「いやどっちかっていうと生え抜き……あ、もう戻ってきた。わっすごい! パワーアップしてる♡」

 

 :盛り上がってきたな。

 

 目に見えて分かる、立ち上る魔力の本流。恍惚そうに笑みを浮かべてロリコは鯨を見やる。

 紫色のオーラのようなものが走っている。

 黒く混濁とした瞳はじっとりとこちらを見ている。

 

 開口。

 開かれた口元には魔法陣が描かれていた。

 真ん中に髑髏のマークが浮かんでいるように見えた。お前の未来がこうだと、予見しているかのような顔をしていた。

 魔力が込められている。一つに固まり、収束しようとしている。

 

「あっは♡」

 

 ロリコは斧を再度生成して決着を図ろうとする。

 異なる点が一つ。斧には鎖がついており、後方には分銅がついていることだ。

 

「今晩は鯨の唐揚げじゃーっ!」

 

 決着は近い。

 後ろから近づいてくる足音に目を向けず、ロリコは再度飛び立った。

 

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