祠を壊されてしまったTS娘「おまえ、あの祠を壊したんか!?」 作:葛城
とりあえず、事前に残されていた資料を確認するために、改めて校内をグルグル見回ってみたが……結論を先に言おう。
(……ヤバい悪霊の類、マジで見つからないのだが?)
一筋縄ではいかないと想像してはいたが、ここまで手応えが無いとは思っていなかった。
例えるなら、何かすごいモノが入っているぞと言われた金庫を開けたら、中が空っぽだったかのような。
つまりは、拍子抜けであった。
もちろん、まったく何もなかったわけではない。
資料だけでなく、この学校に来た時にも感じていたが、霊的な空気が悪いのだ。霊的な空気とは、感覚的には澱んでいるような感じである。
普通は人の手が離れた廃墟や凄惨な事故や事件が起こった場所がそうなりやすいが、学校という場所も、実はけっこうそうなりやすい。
なにせ、学校にもよるが、100人以上の思春期の子供が一堂に会するわけだ。その思念の量は、けして馬鹿にできるものではない。
思春期とは、とにかく右に左に、上に下に、コロコロと心が動いてしまう時期だ。その時にしか分からない憤りやら何やらもあって、負の念を溜め込みやすい。
昔から学校にて怪談話が生まれるのも、そういった理由からである。
空気が悪いと、悪霊や怪異が発生したり、引き寄せたり、そういった悪い出来事が起こりやすくなるので、気付いた時点で要注意……なのだ。
実際、学校敷地内には、低級な悪霊……と呼べるほどではないが、とにかく、あまりよろしくない幽霊はけっこう居た。
でも、それだけだ。
空気の悪さに対して、あまりにも程度が軽い。
レベル50とか60とかの悪霊が出てきそうな気配がしているのに、レベル1か2ぐらいの悪霊しか出てこない……と言えば、想像しやすいだろうか。
今すぐどうこうするなんて不可能で、精神的に敏感だったり霊的に過敏だった……そういった子でなければ、まず影響は受けない、そういう程度の霊しかいなかった。
当然、『怪異』なんて悪い意味で上等な存在なんぞ、気配すらなく……ただただ空気が悪いだけという、なんとも肩すかしな調査結果であった。
(……マジで何もないじゃん)
パフォーマンスも兼ねて、神楽鈴《かぐらすず》(なんか巫女とかが持っているやつ)をシャランシャランと鳴らしながら練り歩いているが……あまりにも手応えが無さ過ぎて、彼女はちょっと困っていた。
なんでかって、こういう仕事は、とにかく目に見える形での成果を出さないと、依頼人が納得しない場合が多いからだ。
なにせ、霊的存在自体が、そもそも一般人のほとんどは目視できない。
カメラなどで映る場合もあるけど、波長とタイミングが合わなければ映らないし、デジタルカメラなんて使おうものなら『カメラに細工しているんだろ?』と言われるのがオチである。
だから、目に見える成果が欲しいわけだ。
根本的な解決には至らなくとも、だ。
とりあえずは、やれるだけの事はやったぞ……といった感じの成果さえ見せたら納得させられるので、とにかく、悪霊はどこだと探し回っている……わけなのだが。
『──え、あれ、本物?』
『──小さい巫女さんだけど、子供なの?』
『──なんか、ガチの霊能力者らしいぞ』
『──さっき流れてきたけど、本物らしいよ』
騒いでいるのは、彼女の姿をジロジロと眺める生徒たち(あと、一部教師)だけで、肝心の本命は沈黙を保ち続けるばかりであった。
まあ、生徒たちが騒ぐのも致し方ないのだ。
何故ならば、彼女の容姿は実に目立つ。
単純に顔立ちが整っているだけでなく、単純に子供にしか見えないからだ。事情を知らなければ、巫女のコスプレをした小学生にしか見えないので、本当に仕方ないのである。
あと、今どきは学生ほどSNSを使いこなしている。
休み時間のたび、様々なアプリを通じてあっという間に生徒内の間で拡散されてゆき……放課後になる頃には、すっかり彼女は有名人になっていた。
「う~ん……どうしたものか……」
まあ、そのおかげか、彼女の行動を見て先生を呼びに行く……なんて行動を取る生徒が居ないのは、せめてもの救いではあるけれども。
『ポポポ……さっきからペタペタ子供たちの額にお札を張っているけど、どうして?』
「いちおう、悪い空気にあてられてしまっている生徒がチラホラいたからね」
『ポポポ……最近の子は軟弱だわ。健全な筋肉には健全なるパワーが宿り、健やかな身体には知性溢れる筋肉が宿るというのに……』
「おまえ、たまには筋肉から離れたら?」
そう、原因こそ分からないが、結果として、この学校は空気が悪い。基本的に問題がないとはいえ、集まっているのは思春期の子供だ。
短時間ならともかく、周5~6日、半日以上もこんな場所に留まっていれば、様々な影響をもたらすのは必至である。
実際、校内を練り歩いている最中、自覚も理由も無く気分を苛立たせている生徒がチラホラいた。
原因がこの学校全体に広がる悪い空気なので、学校にいる間は何をどうしようが苛立ちっぱなしになってしまう……さすがに、見て見ぬフリもできない。
幸いにも、お札一つをしばらく頭に貼っておくだけで改善する程度の影響なので、目についた生徒の頭へ……で済んだけれども。
ちなみに、中には半笑いで剥がした生徒も居たが、それはそれで彼女は止めなかった。所詮、他人事なので。
「本音を言わせたら、もう面倒臭いからまとめてどうにかしたいんだよね。でも、それをするとなると範囲が学校全体、一ヶ月ぐらい閉鎖しないとだから……」
『ポポポ……聞いてみたら?』
「聞くまでもないよ、そんなの。部外者を入れているだけでもけっこうグレーなところなのに、授業日程まで変更とか、さすがになあ……」
『ポポポ……でも、今のやり方では気休めにもならないと思うけど?』
「それは分かっているけど……まあ、まだ初日なわけだし、こんだけ調べた前任者でも原因を突き止められなかったんだから、これからでしょ」
『ポポポ……3日後にも同じ事を話していそうね』
とりあえずは、だ。
ちょっと休憩ということで再び資料室に戻ってきた彼女は、学校側が用意してくれた電気ポッドを使い、温かいお茶で一服して……その日は、それで終了となった。
……。
……。
…………で、時は流れて3日後……どころか、7日後。
その間、彼女は泊まり込み(今は使っていない宿直室があったので)で、やれるだけの事はやった。
封が開いていないのに中身だけ紛失する『プロテイン事件』に関して、何か分かるかと相談され。
調べてみたら、相も変わらずつまみ食いをしていたのが発覚した糞デカポポポ筋肉ボケ女をしばいた後で、トレーニング禁止の厳罰に処したり(なお、ガチ泣きされた)。
何時まで経っても悪い空気が抜けないので、融合している『古き神』のアドバイスを得て。
とりあえずは校内にて溜まっている場所に『封印札』を張って抑え、あるいは『うむ、美味だ』といった具合で『古き神』がなんか色々と吸収(というか、食事?)していたり。
とある教師より、『男子と女子の割合が55:45だったような気がするのですけど、気のせいですよね?』と何気なく相談され。
調べたら、どこぞのクソボケ祠が、いつの間にか男子生徒の3割を女子に変えていて、違和感を覚えて困惑している元男子を見てニチャァっとした雰囲気を醸し出していたのでヤキを入れたり。
なんか、夜中に見回りをしていると、幽霊とも怪異とも違うっぽい変な気配を放っている白いナニカが居たので。
『古き神』とは大まかには同じ身体であり、色々吸収した分だけ彼女もまたパワーアップしていたので、指先一つでアベシっと爆発させ、有無を言わさず瞬殺したり。
とある生徒より、『昨日の放課後、身長2m越えの筋肉隆々の女性を見欠けて……その、もう、背筋にビリビリ電気が走って、そういう人じゃないと……』と、なんかデリケートな話をされたので。
筋肉隆々の女が好きだって良いじゃない、だって人間だもの……でも、そいつは筋肉に憑りつかれた化け物だからと、相談者から視線を逸らしながら答え。
とある男子より『その、これって心霊的なのかは分からないですけど……おれ、先日女子になっていたんです! どうしてか、忘れられないんです!』っと、涙ながらに相談され。
残念ながら私は専門外だから、カウセリングを受けた方がいいよ……と誤魔化しつつ、部屋の隅でニチャァ……っとした気配を放つ祠にヤクザキックを叩き込み。
祠の弁明によると、その男子生徒は自覚が薄いだけで本当に性同一性障害だったようで、これも治療の一環である……と言われ、『古き神』からも『嘘は言っていない』とのことなので、見て見ぬふりをしたり。
それはもう、中々に忙しい7日間であった。
「……マジで、原因はなんよ」
しかし、肝心要の、この学校を満たしている悪い空気の元凶が分からないままで……色々と業務外のアクシデントが起こったせいで、彼女はすっかり疲れ果てていた。
それも、致し方ない。
なにせ、ちょっと目を放した隙に糞ボケデカ筋肉ポポポ女はトレーニングをしながら、なんか浮遊霊かナニカ知らんけど、ポーズをキメルたび、消し飛ばしていたり。
祠の方はまだおとなしいが、かといって、油断しているといつの間にか姿を消していて、『笑止千万! 私は、TSを守る者だ!』といった感じで、ナニカにナニカをしていたり。
かと思えば、なんか変な気配のやつが夜の闇に乗じてヌルヌル姿を見せてくるので、半分徹夜みたいな状態で朝日が昇るまで消し飛ばし続けたり。
「あの変な気配のやつ、倒しても倒しても手応えがないんよなあ……ぜったい、本体がどこかに居ると思うんだけどなあ……」
おかげで、彼女はすっかりクタクタになっていた。
ぐで~、っとテーブルに突っ伏していた彼女は、湯気が立ち昇るマグカップを、ぼけ~っと眺め……気付けば、そのまま寝てしまうぐらいに疲労が溜まっていたのであった。
……。
……。
…………とはいえ、それでも眠るわけだから、少しは疲れが取れないのかって?
残念ながら、取れないのである。
なんでかって、それは……疲労のせいか、あるいは、この学校に漂う悪い空気が影響しているのか、どうにも寝起きが悪く。
『──またおまえらか!? てめえ、私になんの恨みがあるんじゃい!! ぜったい、てめえら関係しているだろ!』
『ヨ、ヨンデナイ! デ、デテイケ!! ドウシテヘイキナンダ!?!?!?』
『──うるせえ!! 夢から覚めるたび、無駄に忘れさせるからだろ!! 『古き神』様、やっちゃってください』
『ヤメロ! ナゼダ! ナゼナオラナイ! ドウシテクワレ……アアァァ……』
夢から覚めるたび、自分が何をしていたのかは思い出せないが、なんか夢見が悪いぞ……という感覚だけが残るせいで。
(はぁ……う~ん、地上にはもう無いわけだし、地下を掘って調べてみるか?)
寝不足に陥っている彼女は、少々ばかり危険思想がデフォルトになりつつあった。