祠を壊されてしまったTS娘「おまえ、あの祠を壊したんか!?」 作:葛城
──改めて語る事ではないかもしれないが、彼女が所持している
まず、大地に向かってランマーを使用すれば、そこが清められあ結界となり、聖域へと変わる。
一つ打てば、周囲の悪しき者たちの足を止め。
二つ打てば、波動となった力が悪しき者を苦しめ。
三つ打てば、その力は内部へと到達し、弱体化させる。
つまり、ドドドドドッと地面を平らにしていけば、それだけで周囲の悪霊たちを浄化し、退治してしまうという武器なのである。
しかも、地面を打ちつける回数が多ければ多いほど、効果範囲が広がって行く──連続使用時間=効果範囲というわけだ。
実質、地面に打ち付けるだけで攻撃と防御を同時に完成させるのだ。
まさに、攻防一体の奥義と言っても過言ではない。あと、地面を突いて固める機能もある、オマケが付いている。
そして、このランマーが持つ力はそれだけでなく、『音』という逃れられない攻撃を放つことができる。
そう、意外に思う者がいるかもしれないが、『音』というのも、実は神事などにおいて重要な意味を持つ。
例えば、巫女などが神事の時に持つ神楽鈴(かぐらすず)というのも、アレはただ鈴が取り付けられているわけではない。
鈴の音は、神に己がここに居るのだということを知らせる合図でもあり、道しるべでもあり、神を出迎える歓迎の呼びかけでもある。
転じて、鈴の音は邪悪なるものを祓うといった意味もあるとされ、これを鳴らすことで場を清める力があるとされる……ただ、リンリンと鳴るだけではないのだ。
これは何も、神道に限った話ではない。
様々な宗教において、古来より『音』というのは重要視されている。
たとえば、チャペルの鐘の音(いわゆる、ウェディングベル)は神の声を表現、または、悪魔や不幸を追い払うといった意味合いを持っていたりするし。
ヒンドゥー教におけるベルは、儀礼として使われる他にも、音そのものが邪悪な気を祓うとされている
まあ、ヒンドゥー教の場合は、『音』そのものを聖なる音、宇宙の根源をあらわし究極の真理を意味するオームという言葉があるが、話が逸れるので戻そう。
とにかく、彼女が使用するランマー……それはもはや、ただのランマーではない。
古き神と同化した彼女の力をふんだんに注ぎ込まれた、清浄なる力……『破邪の転圧機』である。
これにより、彼女がひとたびランマーを稼働させてしまえばもう、あらゆる邪悪なるモノ(一部例外あり)は、彼女に近付くことすらできない。
事実……おお、見るがよい。
ランマーが奏でる聖なる破邪の音。
ドドドドドッ、と耳鳴りすら生み出すほどの騒音が、地下空間を反響して、とんでもないことになっている。
それはまさしく、音の爆弾である。
しかも、ただの音ではない。肉体的なダメージではなく、根源である魂そのものへ作用する音の爆撃。
神でもないし悪霊でもない、白い人型のモヤ。
モヤたちは一つとして例外なく、苦しそうに耳の辺りに両手を当てて……音から逃れようとしている。
効いているのだ!
『うるせぇぇぇぇぇ!!!!!』
もしもモヤが人の言葉を発せられたら、そんな悲鳴を上げたかもしれないが、それは『もしも』の話でしかないので、考えるだけ無駄である。
とにかく、モヤたちは逃げられないのだ。そして、それだけではない。
いまだ燃え残っていた一部ガソリンが、ランマーの放出熱やらなにやらによって引火し、地下通路は昼間のように明るく、灼熱に満ちていた。
そう、地下の奥は、下手したら地上よりも明るかった。
密閉された空間で、酸素などあっという間に亡くなるのにどうして燃え続けるのか……原因は、地下の奥にあった『穴』である。
この穴は、ただの穴ではない。
何百年という月日を経て積もり積もった様々なナニカ、それらが儀式によって形成され、生み出された異界への通路であり、『風』の発生源である。
おそらく、この通路が作られた当初は、もっと小さかったのかもしれない。
なにせ、この場に居る誰もが知る由もない事だが、この地下通路が作られたのは、機械などない昔のこと。
鉄製の農具ですら珍しいを通り過ぎて存在すらしていない時代に、ただ穴を掘るだけならともかく、少人数の村人だけで地下空間なんぞ作れるわけがない。
──では、どうして?
──答えは、勝手に広がった、である。
最初は、もっと小さく狭かった。だが、今はその時よりも明らかに広がっている。誰も、広げるための工事などしていないのに。
おそらく、異界への通路が生まれたから。
異界からやってくるナニカによって徐々に拡張され……おそらく、この通路を作った者たちも、恐ろしくて見て見ぬふりをしていたのかもしれない。
そして、その通路の奥にある穴より流れ出て来るのは、『風』だ。もちろん、ただの風ではない。
それは、死を遠ざける風である。間違っても、命の風ではない。文字通り、あらゆる死を遠ざけるのだ。
この風の中では、あらゆる死がその役目を果たさない。
首を落とされようが、身体を焼き尽くされようが、身体をミンチにされようが、この風の中に居れば傷は癒え、元の姿に戻る。
そして、ただ戻されるわけではない。
死を遠ざけるたび、肉体からは死に付随する感覚……すなわち、痛みや苦しみも遠ざけられてゆく。
つまり、蘇生や再生を繰り返すたび、生き物は痛みも苦しみも感じなくなり……それに合わせて、死の間際に訪れる快楽物質だけを鋭敏に知覚できるようになる。
……これはあくまでも仮説の段階だが。
生物が死を迎える直前、その苦しみを和らげるために、その脳内では大量のエンドルフィンが分泌されるという。
エンドルフィンとは別名、『脳内麻薬』。
または、脳内モルヒネ、天然の鎮痛剤と呼ばれるほどに強い効能がある神経伝達物質であり、しかも、ただ苦しみを和らげるだけではない。
ストレスの軽減の他にも、強い幸福感や高揚感をもたらす。また、死の間際にはドーパミンと呼ばれる神経伝達物質も多量に分泌されるという話がある。
エンドルフィンとドーパミン。
この二つは共に『幸せホルモン』というとも呼ばれ、互いの効果を相乗的に高めるという話があり……つまりは、だ。
この『風』の中で死と蘇生を繰り返し続けると、いずれはオーガズムにも似た快感を常に体感し続けるようになる、というわけだ。
……では、白い人型のモヤは?
答えは、異界にて生息している生命体である。かつては人に近しい姿をしていたのか、それはもう誰にも分からない。
ただ、一つだけ確かなのは……白いモヤたちは、善意で動いているのだ。
もちろん、全てのモヤたちが同じ気持ちでいたわけではない。純粋に友達が欲しくて動いたモノも居ただろう。
だが、大多数の白いモヤたちは、善意で動いていた。
おぞましい話かもしれないが、快楽に満ちた自分たちの世界をおすそ分けしようとした。そこに、悪意は無かったのである。
けれども、極々少数の……悪意を持ったモヤたちのせいで、全てはこうなってしまった。
「おららららあああああああ!!!!!!!」
まさか、『古き神』と同化融合した例外中の例外が、巡りめぐって討伐に動いてくるとは……誰もが夢にも思っていなかった。
それはまさしく、冗談のような現実であった。
真っ暗で、どこか水など無いのにぬかるんでいて、濃厚な血の臭いが立ち昇る、その穴へと差し込まれたランマー。
それが、ドドドドドドッと振動を繰り返すたび、モヤたちの世界全体が叩かれているかのように揺れて、軋む。
これには、快楽に浸りきっていた異界の者たち全てが仰天し……けれども、どうにもできなかった。
何故ならば、モヤたちが邪魔をしようと穴から這い出ても、灼熱の高温下(というか、燃えてる)であるため、瞬時に引火して燃え尽きてしまうからだ。
呼吸なんて、今の彼女には必要ないのだ。
古き神と融合した彼女は、『炎は、私のエネルギーだ!』といった感じで平気な顔をしているが……それほどの、とてつもない状況であった。
しかも、問題はそれだけではない。
『ポポポ……ファースト……リラックス……!!』
彼女の横で、盛り上がった筋肉によって衣服が破れ、素っ裸になった……身長240cmの、化け物のような筋肉を搭載した化け物もまた、大問題であった。
彼女は、筋肉に魅せられた求道者。筋肉に忠誠を誓った、筋肉の使徒──じゃなくて、怪異である。
オイルが塗られた身体はツルツルテカテカで、シミ一つない。子供の頭よりも大きな乳房がぶるんと震え……それ以上に立派な太ももが、ムキッと筋肉を隆起させる。
それは、まさに筋肉戦車であり、その背中には鬼神が宿っていた。
『ポポポ……セカンド……フロントラットスプレッド……!!』
鍛えに鍛えた筋肉の前では、たかがガソリンの灼熱なんぞ、そよ風程度にしかならない。筋肉は時に、奇跡をも起こすのである。
コレは、幼稚園児すら知ってる常識だろう。
かの有名な評論家、与謝野筋肉が詠んだ『君よ肉を失せることなかれ』という言葉はあまりにも有名である。
なお、この詩は糞デカ筋肉長身ポポポ女しか知らず、彼女はおろか祠からも『え、何それ知らん、こわっ……』と言われたという逸話が……話を戻そう。
『ポポポ……サード……アブドミナル&サイ……!!』
とにかく、磨きに磨かれ鍛え抜かれた筋肉の前では、自己鍛錬から逃げた白いモヤたちなんぞ、敵ではない。
おまけに、今宵の糞デカオッパイムキムキポポポ女は、身体にオイルを塗っていた。
ボディビルダーにとって、身体に塗るオイルは聖水も同じ。
言うなれば、完全武装。オイルが塗られたボディビルダーを前にして、恐れを抱かぬ怪異はいない!
筋肉を照らすテカリはあらゆる邪悪を跳ね除け、ポーズを決めるたび、『決まった……!!!』と悦に浸りつつも、『まだよ、まだ……筋肉は友達、怖くない!!』と残心を残さないことによって、隙など欠片も無かった。
そう、筋肉は天であり、大地であり、父でもあれば母でもある……今の糞デカ筋肉長身バカポポポは、まさしく無敵であった。
『えい! えい! えい!』
そして、祠は一生懸命、男をTSさせる(女は〆る)ビームを放っていた。
……。
……。
…………そうして、だ。
ランマーによる異界そのものへのダイレクトアタック、筋肉が魅せる雄大なポーズによる肉圧、男をTSさせるビームによって。
──ぐぅぁあああああああ!!?!?!?!?
ついに、『異界』は断末魔の悲鳴をあげたのであった!!!!!
……。
……。
…………皆まで言わなくても良い、詳細を語ろう。
いったい、何が起こったのか……簡潔にまとめるならば、だ。
まず、異界は『♂(オス)』である。
残念ながら、さすがに力の差があってTSビームは通じなかったが、♂のマークは、男性を意味する記号である。
これを分解すると、『↑』と『O』の二つに別れる。
ここからが肝心なのだが、『↑』は彼女の行ったランマー攻撃によって、『T』になった。
『俺はやるぜ!』から、『ま、負けんぞ!』になったのだ。『T』は、言うなれば敗北を予感しつつも諦めず、胸を張って肩をいからせる男の意地である。
そこに、オスの証でもある……絶対的な筋肉……放たれる王者の肉圧が襲った。
せめて、『↑』ならば耐えられた。
だが、度重なるランマー攻撃によって『T』になった異界は、圧倒的筋肉を目の当たりにして、魂のレベルで敗北を認めてしまい……肩が下がってしまった。
その瞬間、『T』は『+』へと変わり、そのまま『O』の背後に隠れ、『♀』になった。
──そう、その瞬間、異界は女の子になっちゃったのである!!!!!!!!!!!
魂のレベルで敗北を受け入れてしまった異界には、もはや祠より放たれるTSビーム(女は〆る)に耐えられるわけもなく……そのまま、呆気なく倒されてしまったのであった。
そして、異界の住人であり異界の中でしか生きられないモヤたちも、同じ道を辿る。
異界が女の子になっちゃったのなら、モヤたちも女の子になるのは自然の摂理。女の子になっちゃった以上、祠の呪いより逃れられるわけもなく、例外なく道連れとなった。
「──っ!? 崩れるぞ!!」
そして、異界が無くなるとなれば、後に起こるのは……世界からの修正、あるべき形……すなわち、広げられた空間が元に戻るわけで。
「急げ、生き埋めにされるぞ!!」
『ポポポ……さすがに生き埋めは嫌……』
『うむ、逃げよう』
発火していた炎も、まかれていたガソリンも、全てが……まるで、始めから無かったかのように土砂の中へ埋もれてゆくのを背にしながら……彼女たちは、一目散に退散したのであった。