祠を壊されてしまったTS娘「おまえ、あの祠を壊したんか!?」 作:葛城
結局、修復というか修繕作業は徹夜で行われることになった。
異界からの影響が途絶えたことで本来の姿に戻された結果、地下通路というか穴は塞がったが、事はそう単純ではない。
やはりというか、案の定というか、校庭の一部が陥没して落盤してしまったのだ。
念のため、糞デカポポポオイルテカり女がポージングを取ってくれたおかげで結界が張られ、周囲がその事に気付くことはなかった……え、守衛さん?
守衛さんは、ポポポな肉圧の余波を受けて失神したので、無問題である。生半可な筋肉では、糞デカマッスルポポポの肉圧に耐えられず頭を垂れてしまうのだ。
どこぞの祠が気絶している守衛さんにビームを放って、ニチャァ……っとしていたが、とにかく周囲に露見することはなかった。
まあ、露見しないだけである。
結局のところ、修復は彼女にしか出来ないので、徹夜確定なのだけれども……まあ、手を出したのは彼女なので、愚痴をこぼしまくりながらも、やる事はやったのだけど。
「──警察に通報される前に出て行きなさい、詐欺締め」
で、翌日。
とりあえず、一番厄介で危険なやつは片付けたから、こっから先は追加料金になるで~みたいな感じで理事長へ挨拶に出向いた彼女に掛けられた言葉が、それであった。
正確に言えば、挨拶もそこそこに……といった感じなのだが、そこは関係ないので、話を進めよう。
「なるほど、貴方はそういう人だったと分かりました。では、これで」
ゴネたところで、この手の問題は解決しない。というか、心霊的な仕事の場合はほぼ100%彼女の方が悪くなってしまう。
何故ならば、日本には心霊商法に関する法があり、不安を煽ったりして金銭を得ると違法……みたいな判断が下されやすいからだ。
……ん? この場合は、向こうから依頼が来たのではないかって?
それはそうだが、本当に警察を呼ばれた場合、まず逮捕されるのは彼女の方。警官も人の子なので、偏見と独断で一方的に犯人扱いするのも、よくあること。
なので、こうやって理事長のように警察を臭わせてきたら、即座に撤退するのが鉄則なのであった。
ちなみに、なんで急に理事長がそんな事を言い出したのか……ぶっちゃけてしまうなら、料金踏み倒しである。
心霊に関わる仕事は、けっこうこういう事がある。
目に見える成果、証拠として残る形が無い場合が多いから、仕事が完遂してから『詐欺締め、警察を呼ぶぞ!』と訴える輩《やから》は、珍しくはない。
時と場合によるが、本当の心霊的なアレが解決された場合、けっこう感覚的に分かってしまうせいでもある。
たとえば、肩が軽くなったとか、嫌な気配が消えたとか、背筋を走るゾワゾワとした感覚がなくなったとか……とにかく、分かる場合が多い。
つまり、問題が解決した途端、『霊感商法だろ!? 訴えられないだけ感謝しろ!』っと踏み倒すことを正当化する人が現れるわけだ。
理事長も、どうやらそういう輩だっただけの事。
間を繋いでくれた増田の顔を潰すことになるのだが、おそらく、あの手この手で言い訳して誤魔化すつもりなのだろう。
だって、彼女から見て、理事長の顔……欲に目が眩んでいる顔をしているし。
既に頼んだ霊能力者たちが失敗、その度に前金を払っている。これ以上1円たりとも払うつもりは……いや、違うな。
始めから、様々な理由を用意して踏み倒すつもりだったのかもしれない。まあ、別にそれは始めてではないので、彼女はその場では何もしなかった。
「ヨシ、透明女、私の言いたい事はわかるな?」
だが、何もしないのは、あくまでもあの場だけ。
改めて言うことではないが、彼女は基本的に転んだらタダでは起きない女(女になる前から、だけど)である。
やられたら、100倍にして返す。それが、今の姿になる前からの彼女のモットーである。
学校から離れ、駅前の喫茶店にて腰を下ろした後。ポツリと、彼女は……誰も居ない目の前の空席に、そう語りかけた。
いったい、誰に……答えはまあ、怪異である。
正確には、あの学校に以前から居付いていた、『異界』とは無関係の怪異だ。
この怪異には、名が無い。
彼女も名無子とかいうふざけた名を名乗っているが、この怪異は本当に名前が無い。そして、名前が無いことが特性の怪異でもある。
とはいえ、便宜上ややこしくなるので、ひとまず『透明女』と呼ぼう。
透明女には名が無いので姿が無く、見付けるのも祓うのも非常に難しいが、2,3年に一人か二人、お友達にして連れて行くだけの怪異である。
時に大勢の犠牲者を生む怪異の中では非常におとなしく、連れて行った者は幸福の中で終わり、犠牲者も老若男女の区別が……いや、少しある。
透明女が連れていくのは、悪い事をしている者だけ。
この、悪い事というのは透明女の基準なので、人間が作った法律とは……まあ、だいたいに、だ。
トレーニングの後は、腹が減る。
そう言って、放っておくと無差別に生者などから筋肉を奪ってプヨプヨ不摂生ボディの人を作り出す、どこぞの糞ボケデカ女怪異に比べたら、まだマシなのかもしれない。
「程々にするんなら、見て見ぬふりをしておく。調子に乗るのなら、糞デカ肉マシマシ女を突撃させる……わかるね?」
返事は、無い。当然だ、透明女は名が無いのだから。
音として言葉を発することはできず、あくまでも狙われた者にしかその声を認知することはできない。
けれども、コミュニケーションが取れないわけではない。
その証拠に、テーブルの端。そこに置かれた伝票の文字が、少しばかり消えて……代わりに、別の文字が出る。
私より みんな ヤル気マシマシ
その文字が現れていたのは、おおよろ5秒にも満たない。後には、殴り書きの『チョコパ×1』という伝票だけであった。
そして、カランと、ドアベルが鳴った。
「いらっし──???」
ドアベルが鳴ったのに、ドアが開いていない。
その異常に、反射的に応対した店員が首を傾げ──直後、別の客から呼ばれて、それっきりになった。
……。
……。
…………後に残されたのは、だ。
『ポポポ……みんなって、誰?』
「さあ? 先祖代々、よっぽど恨みを買っていた家系なのかもね」
チョコレートパフェを食べる彼女と、『パフェは無駄なカロリーが多い』と考えている筋肉女と、カバンに入れっぱなしの祠。
「これ食ったらホームセンター寄って、スーパー銭湯で整ってから、理事長宅に突撃するから」
『ポポポ……構わないけど、何を買うの?』
「バール」
なにやら不穏な気配を出しながら、1人と1体と1箱は……夜が更けてから、理事長宅へと向かったのであった。
……。
……。
…………で、まあ、何をするのかと言うと、別に深い意味はない。ただ、『突撃お宅訪問集金編withバール』なだけである。
手順は簡単で、夜も更けた深夜。3階建ての豪邸である理事長宅へと、コソッと痕跡を残さず敷地内へ。
時刻はもう深夜だというのに、電気が点いている。あと、テレビの音も聞こえる。
こんな時間まで夜更かしとは……彼女は気配を探り……誰も居ないことに気付き、首を傾げながらも玄関へ。
術で己の姿やら何やらを隠密状態にした彼女は、糞デカムキムキ筋肉バカ女の『ピッキングポーズ』によって平和的に鍵を開けてから中へと入る。
ピッキングポーズとは、糞デカポポポ女が持つ基本ポーズの一つであり、魅力的なポーズを取る事であらゆる鍵を開けることができる。
冷静に考えて、鍵穴にだって『穴』はある。
鍛えに鍛え抜かれた肉鎧を身に纏ったポポポ女のポージングに、思わず鍵穴が開いてしまうのも致し方ないことなのだ。
なにせ、さび付いた鍵穴すらも、その魅力に思わずトゥンク……と穴がオイルに満たされ、開けてしまうほどの筋肉なのだ。
いくら防犯に優れたディンプルシリンダーとはいえ、所詮は鍵穴。ちょいと筋肉をチラ見せすれば、成す術もなく開かれてしまうものなのだ。
「ヨシ、速やかに金庫に向かうぞ、金庫の匂いがする……」
『ポポポ……そのマスク、似合っていないわね』
「仕方がなかろう、顔を見られて驚かせるわけにはいかんからな。どこに出かけているかは知らんが、今の内に済ませてしまおう」
何度も言うが、時刻はもう深夜、草木も眠る丑三つ時。
照明やテレビが点けっぱなしのリビングには、人が居た痕跡はあるけど、それだけ。
中途半端にテーブルに並べられた皿に、トレーに乗せられて常温のまま放置されている肉に、油が入れられただけの天ぷら鍋。
まな板には切っている途中のキャベツと包丁が置かれていて、コンロにはすっかり冷めきっている鍋(中は味噌汁)が放置されていた。
まるで、晩飯の用意を途中にして出かけたかのような……なんとも、奇妙な光景であった。
「クンクン……金の匂いがする、こっちだ……!!」
『ポポポ……私が言うのもなんだけど、貴方も大概だと思うわよ』
まあ、それ以上に、顔をマスクで隠した巫女服の見た目小学生な彼女の方が、はるかに奇妙なのだが……残念ながら、無粋なツッコミを入れるのは空気を読まないポポポ女だけである。
コソコソ。
コソコソ。
カサコソ、コソコソ、カサコソ。
抜き足、差し足、忍び足。
気配が無いのは分かっているが、それでも万が一を想定して音を立てないよう気を付けながら……嗅覚を頼りに、金庫がある部屋へ。
その部屋は、おそらく理事長の書斎として使用されていた部屋なのだろう。
壁に設置された本棚にはギュウギュウに本が詰められていて、中にはガラス扉の戸棚(鍵付き)もあり、そこにはずいぶんと年期を感じさせる本が収められていた。
けれども、欠片の興味もない彼女からすれば、それはポストに入れられるチラシでしかなく。
「……ひゅ~、やっぱ現ナマ持っているよなあ」
彼女の視線は、お宅訪問ツール『バール』と、神的パワーによって開けられた金庫の中身……置かれた札束に釘付けであった。
おおよそ、他人様には見せられないような顔で、グヒヒっと気持ち悪い笑みを浮かべた後。
「……まず、交通費がコレで……食費がコレで……ホテル代が……道具の経費が……達成報酬が……慰謝料が……」
おそらく、地下通路へと向かう時よりも真剣な顔で、実に手慣れた指さばきでお札を数えはじめたのであった。
ちなみに、『古き神』はそういう人間の善悪など心底どうでもいいし、彼女が喜んでいるならヨシ、なアレなので、まったく問題ないのであった。
……。
……。
…………で、だ。
そうして報酬の精算をしている彼女はソレで良いのだが、筋トレもできず(そんなのしたらブッ飛ばされるので)、暇を持て余した糞デカマッスルポポポは……暇潰しがてら、施錠された戸棚の奥にある本を手に取る。
中を開けば、古い家系図であった。
そんな知識も無いし興味も無いのでペラペラ捲るだけだが……それでも、記録が途絶えることなくずいぶんと長く続いているソレを見て、へ~っとポポポ女は胸筋をムキッとさせた。
なんでかって、己が怪異として誕生するよりも前まで記録が遡れるのだ。怪異だって、そういう驚きを覚えるのは人間と同じである。
『ポポポ……代々、村長を……ふむ、長を務めていた家系なのね……』
けれども、興味は大して続かない。
だって、ポポポ女はあくまでも怪異である。
人間だって、興味の欠片もない家畜の血統書を見せられたって、へ~、で済ませるだろう。怪異は、人間以上にそれが顕著なのだ。
『ポポポ……見つけたって、なにが?』
ただ、何気なくパラパラとめくり続けた先で、『見つけた』の4文字がデカデカと一面に書かれているページを見て、思わず手を止めたが。
それでも……3秒で興味を失くしたポポポ女は、本を元の場所に戻し……早く終わらないかな~、と彼女の後姿を見つめるのであった。
次回で、本当に終わりっす