祠を壊されてしまったTS娘「おまえ、あの祠を壊したんか!?」   作:葛城

3 / 18
第1話: 行く方が悪い、何事も

 

 君子危うきに近寄らず。

 

 

 それは、昔からある教訓の一つで、正確な出典は不明である。

 

 現代の感覚で訳するなら、『賢い人はそもそも危ない事には近寄らない(なので、安全です)』であろうか。

 

 けっこう勘違いされがちだが、似たような意味で使われるけど、実際は似ていない意味の、『好奇心は猫を殺す』というのがある。

 

 実はこれ、西洋のことわざであり、この部分だけを読むと、『好奇心に任せて動けば、時には命を危険にさらす』という意味合いになるが、実は続きがある。

 

 それは、『好奇心のせいで猫は死んだが、物事を深く知り満足した猫は生き返った』、というもの。

 

 つまり、『好奇心によって命を危険にさらすかもしれないけど、それによって得た満足はリスクをも上回る』というもので、意味がガラリと変わるのだ。

 

 ただ、この続きと呼ばれる部分は近代になってから付け足された物という説が有力らしく……これに関しては、昔に比べて医学などが発達し、死が遠ざかったからという話もあるらしいが……とにかく、だ。

 

 古今東西、あらゆる国で、言葉やニュアンスが違っても、おおよそ似たような教訓が生み出される理由はちゃんとある。

 

 そう、究極の護身とは、危ない物、危ない事、それに準ずるモノには近寄らない、それが全てなのだ。

 

 どれだけ身体を鍛えたところで、本気で殺しに掛かった虎や熊にはひとたまりもないように、どれだけ強くとも、致死性の毒を受ければ手も足も出ず死ぬ。

 

 それが分かっている昔の人達は、そういったリスクあるモノに近寄ろうとはしなかったし、様々な迷信にてそれらを遠ざけようとすらしていた。

 

 あっさり命を落とすのが当たり前の時代だったからこそ、『危うき者には近寄らず』の意識が強くあった。

 

 しかし、『死』から遠ざかり、身近に『死』はおろか『怪我』すら遠ざかり始めた現代では……先人たちが教訓として残したそれらを、数ある言葉の一つとしてでしか認識しなくなっていた。

 

 それゆえに、危険だと分かっている場所でも、『自分たちだけは大丈夫』、『自分にはそんな事は起こらない』、なんの根拠もなく、絶対的な盲信でもってそう認識し、毎日のように危険な場所へと足を踏み入れる者が後を絶たなかった。

 

 

 ……そう、どれだけ忠告してもなお。

 

 

 自分たちだけは大丈夫と盲信した者たちは、狂人と同じ事をしていることにも気付けず……1人、また1人、欲望を滾らせながら、そのトンネルへと足を踏み入れるのであった。

 

 

「あ、ああ、あああ……」

 

 

 そして、この日……通算11人目となる、自称ゆうちゅう○○なる男は、ポポポ女に捕まり……食われていた。

 

 

「ポポポ……筋肉が満ちていく……喜んでくれているわ……もっと、もっとよ、上腕二頭筋……!!!」

 

 

 恍惚の笑みと共に、ポージングを取るポポポ女。

 

 これこそが、ポポポ女が彼女に付いて来た理由である。

 

 鍛え抜かれ、磨かれたその肉体を維持するためには、何もしていなくとも相応のエネルギーを必要とする。

 

 ましてや、『人々に害を成す悪霊を仕留める』ような事をすれば、求められるエネルギーは爆発的に膨れ上がる。

 

 そう、闘争を終えたポポポ女の身体は、酷く腹が減る。

 

 何人、何十人、何百人、それだけの命を人知れず貪って来た悪霊を返り討ちにしてボコボコにしたところで……飢えたその身体にはまるで足りない。

 

 悪霊というのは、カロリー的な意味でみると、非常に偏った栄養なのである。

 

 ビタミンだけでは駄目なのだ。

 

 たんぱく質も、ミネラルも、脂肪も糖質も食物繊維も、万遍なく十分に補給して初めて、上質な筋肉(ニク)は維持される。

 

 そして、その条件を満たした良質な餌は、生きた人間以上には無く──ああ、見るのだ、哀れな犠牲者を! 

 

 

「あ、ああ……なんで、こんな、俺の身体が……太ってゆく……!?!?!?」

 

 

 ポポポ女のポージングによって、今宵の獲物の肉体から筋肉が奪われてゆく。

 

 ただそれは、痩せ衰えてとか、そういうものではない。

 

 ポポポ女の、巨匠の手で作りだされた大理石彫刻のごとき筋肉に圧倒的敗北を受け入れた獲物の筋肉が、自らの意思でポポポ女に移ってゆくだけ。

 

 それは確かに、食事である。しかし、筋肉たちは、それを食われているとは思わない。

 

 そう、愛と友情と信頼、そして共に歩んだ努力によって培われた『すぅぱぁ(巻き舌)筋肉』に心酔した軟弱筋肉たちが、自分たちもそうなりたいと志を同じくするだけ。

 

 筋肉たちは、ただ魅せられてしまっただけなのだ……そう、これもまた、筋肉(ニク)が成せる御業である。

 

「あ、ああ、そんな……こんな、細マッチョの俺の身体が、ぽっちゃり小太りに……う、腕に脂肪が、腹もこんなに出て……」

「ポポポ……これに懲りたら、もう来ては駄目。次に来た時は、BMIが40を超えることになるわ……!」

「う、うわぁああああ!!!!」

 

 

 悲鳴を上げた自称ゆぅ……いや、哀れな小太り男は、ぽよんと脂肪を弾ませながら、ドスドスとなんとも不恰好な走りで……トンネルを出て行った。

 

 それを、勝者の笑みで見送るポポポ女。

 

 それだけを見るなら……まあ、人にもよるけど、見惚れる者が現れても不思議ではない。

 

 なにせ、膝のあたりまであるワンピースは年期が入っているのか、裾のあたりがチラホラ切れていて、生地そのものが薄くなっているようで。

 

 あまりにも女性らしい曲線美や、誰もが目を見張るぐらいに大きな乳房に、圧迫感すら覚える張りのある尻。

 

 グラビアアイドル顔負けのダイナマイトボディ(死語)のインパクトをも上回る、2m40cmの長身。

 

 そのせいで、有り体に言えば、うっすら乳首が透けて見えている。

 

 暗がりなので分からないが、明るい日差しの下だとその形がうっすら確認できるだろう。だって、あまりにも目に毒な体形のせいで、初見だと寸胴体形に見えるぐらいだから。

 

 顔は、残念ながら長く垂らした前髪のせいで判別できない。ただ、声色は初見の印象に比べて可愛らしい感じで、声だけを聞けば、印象がガラリと変わるだろう。

 

 まあ、実際に顔を合わせたら体重240kgの、拳で鋼鉄を容易く変形させるフィジカル怪異だが……で、だ。

 

 

「……何度見ても意味わからん???? なんでポーズ取ったら筋肉を奪えるの?????」

 

 

 古き神と魂で融合した彼女ですらも理解が及ばない光景に、この日もまた困惑に頭を抱えていた。

 

 そう、全知全能で無い限り、必ず分からない事がこの世にある。

 

 なにせ、融合している古き神からも『え、なにそれ、こわっ……』とドン引きされるぐらいだ……いや、本当に、コイツだけ明らかに他とは違うよなあというのが、彼女の正直な気持ちである。

 

 

(こいつ、最初の頃はもっと、こう……The・悪霊みたいな感じだったんだけどなあ)

 

 

 本当に、出会った当初は胸はそこそこあるだけで、手足も尻もガリガリに痩せ細っていて、誰が見ても悪霊の類としか思えない見た目をしていた。

 

 それが、ある時……ポポポ女は、見てしまったのだ。

 

 ──キレてる! キレてるよ! ナイスバルク!! ──

 ──OK! 仕上がっているよ! 肩メロン!! ──

 ──太ももバンプキン!! 筋肉は今が旬!! ──

 ──腹筋チョモランマ!! こんなの登山できないよ!! ──

 ──腹直筋黒光り!! マグロよりたくましい!! ──

 

 テレビに映る……鍛え抜かれた男たちの、その身体を! 

 

 最初、彼女はポポポ女なりの怪異ジョークの類だと思っていた。

 

 しかし、その日からのポポポ女の行動はガラリと変わった。

 

 それまで、ポポポ女は隙あらば外を出歩いている少年を監視し、舐めるような目で近隣の小学校周辺を物色していた。

 

 しかし、その日からのポポポ女は、ストイックに己の身体を苛め始め……鍛え始めたのだ。

 

 ある時は、長年放置された廃屋の壁をひたすら殴り続け、倒壊させるまで無心に繰り返し。

 

 ある時は、己の身体を作るのだと、スーパーで特売買いした生卵(シュガーシロップ混ぜ混ぜ)をジョッキで飲み欲し、自作したサンドバックを殴り続け。

 

 ある時は、放置された違法車両を担いでスクワットを行い、雨によって勢いを増した小川に飛び込んでは流れに逆らって泳ぎ続けたり。

 

 ある時は、ストイックに肉体が悲鳴をあげるまで苛め続け、それが終わればまた別の部位を……という感じで、汗で地面に水溜りができるほどに続けたり。

 

 なんというか、おまえ本当に怪異か……と思われそうな事を繰り返していたわけで……そして、今に至るというわけだ。

 

 

「ポポポ……ふぅ~、ヨシ! 今日もまた一歩理想に近付いたわ」

 

 

 そうして、食後のストレッチと言わんばかりに、何時の間にか素っ裸になっているポポポ女は、様々なポージングを取った後、うっすら汗で光る身体で仁王立ちしていた。

 

 その姿はまあ、人によってはあまりにも官能的に映るだろう。

 

 女性らしい部分にはちゃんと女の柔らかい曲線があるけど、力を入れた太ももは傍目にも分かるぐらい筋肉が搭載されていて、腹筋もそうだが、背中には鍛え抜かれた形が浮き出ていた。

 

 

「気は済んだか?」

「ポポポ……ええ、今日も入れ食いで助かるわ」

 

 

 ちなみに、ポポポ女が彼女と同行した理由は、コレだ。

 

 生きている人間より筋肉を奪うためであり、人助けとかそういうのは次いでである。そう、筋肉(ニク)の導きというやつだ。

 

 結果的に脅し役としては最適なので、彼女もそこらへんは目を瞑っているが……さすがに、10人を超えてきたら手段と目的が入れ替わるので、待ったを掛けるわけである。

 

 

「ポポポ……私としてはまだいけるけど、ここらで引き揚げ?」

 

 

 ポポポ女の言葉に、彼女は頷いた。

 

 

「ボランティアで動くはここまで。これだけ忠告しているのにこれでも来るやつは、承認欲求バシバシのバカだから、そこまで面倒を見るつもりはないよ」

「ポポポ……運が悪いわね、12人目以降に来る人たち……」

 

 

 気の毒そうにするポポポ女だが、止めようとはしないあたり、彼女……名無子と同意見なのは言うまでもない。

 

 そう、このトンネル……安全になったかと言えば、そういうわけではない。

 

 元々、このトンネルには怪異が巣くっていた。

 

 フィジカル怪異ポポポ女のマッスル説得(物理)によって、奥歯がガタガタになってしまうぐらいのメガトンパンチをこれでもかと叩き込まれて、今はおとなしくなっているだけだ。

 

 その証拠に、ポポポ女と彼女がこの場を去ろうとしている……という会話を耳にしたトンネル怪異は。

 

 

『寂しく なるね』 ← 壁に赤い文字が浮き出る

 

 

 それはもう嬉しそうに……いや、まあ、嘘だけど。

 

 表面上はさめざめと寂しそうに振る舞っているが、内心では今にも喜びの舞を踊ってしまいたいぐらいにテンション↰↰であった。

 

 そりゃあ、トンネル怪異からしたら、だ。

 

 いつものように馬鹿な獲物が入って来たぞとニヤニヤしながら近付いてみたら、とんでもねえ化け物だったという悪夢のような話でしかない。

 

 

「そもそも、最初の3人組は迂闊で馬鹿な行いではあるけど、少なくとも目立って金稼ぎをしようっていう感じじゃなかったからね」

『そうだ そうだ』 ← 壁に赤い文字が浮き出る

 

「ポポポ……欲の皮を突っ張った人には、厳しいね……」

『もっと 言ってやって』 ← 壁に赤い文字が浮き出る

 

「金や称賛が欲しくて自分から飛び込むんだ。それなら、リスクもまた自己責任でしょ」

『良い事 言うね』 ← 壁に赤い文字が浮き出る

 

「ポポポ……まあ、名無子がそう言うなら、私はそれでいいけど」

『そうそう そうだよ』 ← 壁に赤い文字が浮き出る

 

「おいおい、ポポポ女……あんた、私を善人だとでも思っているわけじゃないよね?」

「ポポポ……少なくとも、自分は善良だと思い込んでいる自称一般人の類ではないと思うかな」

『そうかな? そうかも』 ← 壁に赤い文字が浮き出る

「ははは、私もこうなる前はその一般人の1人だったのに?」

 

 

 

 ──こいつら、実は仲が良いのでは? 

 

 

 第三者が居たら、なんか誤解されるような会話をしている。

 

 だが、実のところ、食おうと待ち構えていたトンネル怪異、筋肉の導きに動いたポポポ女はどう考えてもギルティだが。

 

 助けに動いた名無子とて、100%善意で動いているわけではない。

 

 あくまでも、助けようと思ったのは最初の3人組だけ。

 

 その後は、その後にやってくるであろうバカたちへの脅しもあるが……本当の目的は、それで犠牲者が出た後にある。

 

 本当にお偉方が重い腰を上げざるを得ないぐらいにまで被害者が出たら……彼女が、名無子が狙っているのは、そこだ。

 

 

「理不尽に遭ってしまった者なら助ける。自分から飛び込んだ馬鹿はそのままくたばれ。最初の3人は、ただの趣味で集まっているだけって感じだったから助けたまで」

「ポポポ……その心は?」

「言葉遊びは止めい……ほら、帰るよ。おまえも、邪悪だと思ったやつならともかく、仲間内でワイワイする程度のバカなら脅かすだけにしときなさいよ」

『はい わかりました』 ← 壁に赤い文字が浮き出る

 

 

 依頼が来ても良いし、来なくても良い。

 

 そもそも、最初の3人組を助けた後は、彼女にとっては蛇足でしかなく、依頼されたわけでもないので、知った事ではないのであった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。