Soleil シリウスとレギュラスのお兄ちゃんが頑張る話   作:がらくた屋

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今年夏中には第二部始めたいので尻叩きに更新します


第八話 選抜試験

10月下旬。土曜早朝のクィディッチフィールドはローブの下に長袖があってもいい気温だった。このあとすぐ暑くなるからと薄いシャツ1枚で来たが、これは上着を着て来た方が良かったかもしれない。

 

「あ、リゲル! 頑張ってね」

 

観客席からコイオスの声がした。隣で手を振っているナルシッサと優雅に紅茶を飲んでいるルシウスの二人はしっかりひざ掛けまで持ってきている。

ドロメダとベラの姿は見当たらない。二人とも試験勉強で忙しいらしい。昨夜、二人からはそれぞれ「あなたなら大丈夫よ」という優しい応援と「みっともなく落ちたら笑ってあげるから気張りな」というありがたくない励ましを貰っていた。

 

コイオス達に手を振ってから学校の備品である箒を握り直し、スリザリンのユニフォームとキャプテンバッジを身に付けた選手の元へと向かう。俺以外にも同級生や、名前の知らない上級生がぞろぞろと集まり十数名ほどのスリザリン生がキャプテンを中心に輪になった。

 

「それじゃあこれから今シーズンのクィディッチチーム選抜を行う。俺は5年のキャプテン、ウィリアム・ピュシーだ。ポジションはビーター」

 

大柄な体躯から発せられる朗とした声が響き渡り、ピュシーは足元の籠からクアックルとブラッジャー、そしてスニッチを取り出した。輪になって取り囲む俺達をぐるりと見渡すと頬を掻く。

 

「えーっと、まずはそれぞれポジションの希望ごとに前に出てくれ。まずはキーパー! ……OK、三人だな。それじゃ次はチェイサー!」

 

俺が一歩前に出ると隣に並んでいた黒髪の背の高い女子生徒、それから向かいに居た男子生徒が三名同じように名乗りを上げた。

ピュシーは頷いて希望者同士で一まとまりに集まるように指示すると続いてビーター、シーカー希望者も同じようにグループ分けしていく。俺は一番動き回れるし何より点を沢山取れるのが楽しいからチェイサーを希望したが、やはり花形ポジションのシーカーに希望者が殺到していた。

 

どうやらチェイサーとキーパーの選抜は同時に行う事にするらしい。三名のキーパー志望者に対してフリースローを5本ずつ決めて、もっともゴールを決めた者からチェイサーに任命するそうだ。

 

「じゃあまずチェイサーは……ブラック! お前の番だ。最初のキーパーはルックウッド、お前がやれ」

 

まあアルファベット順だと俺が一番手だよな。箒に跨って地を蹴るとゴールポストの数メートル手前まで飛び上がって空中で静止する。グラウンドと観客席から煩い声援が飛んできたけど無視だ無視。

クアックルを片手でくるくる回していると、青白いニキビ面をしたオーガスタス・ルックウッドがフラフラと箒にまたがりながら俺へと向かい合った。学年は俺より二つ上の四年生。家の集まりでも何度か顔を合わせたことがある。

 

ルックウッド家の現当主はかなり過激な純血主義者で、こいつはいつも父親の隣で黙りこくっているような奴だった。不愛想なやつだ、という印象しか無かったがこうして向かい合っていると緊張しているごく普通の少年にしか見えない。

ぎゅっと箒を握りしめたままルックウッドは眼下の観客席を見渡し、神経質そうに顔を歪めながらぼそぼそと呟いた。

 

「君のゴールをブロックしたらスリザリン全女子から呪われそうだ。すごく観客席から睨まれてる……」

「……それは、なんというか、すみません」

 

地上にいるピュシーのホイッスルが響き渡った。フリースローはホイッスルから10秒以内に動かないと失格になる。とりあえず一番真ん中のゴールめがけて飛び上がりながら勢いよく接近した。ルックウッドも俺の動きに合わせてゴールポスト正面へと飛ぶ。ゴールラインぎりぎりまで引き付けてから箒の先を右へと舵を切るとルックウッドが目を見開くのが見えた。

 

「っし!」

「ブラック1点!」

 

ゴールが決まったことが素直に嬉しいので小さく握りこぶしを作る。ナルシッサとコイオスの嬉しそうな声が小さく聞こえて来た。真っ青な顔をしたルックウッドに向かってわざと厭味ったらしくみえるように笑ってみせる。

 

「やあオーガスタス。良いんですか? この調子だと本当に俺が5点獲ってしまいますが。後輩に良いようにされても構わないと?」

 

神経を逆なでするような声色を選んで挑発すると分かりやすくルックウッドの顔色が青から赤へと変化する。なかなか面白い見世物だ。ニヤつきながら眺めていると、はるか下の観客席でルシウスがこめかみを押さえているのが見えた。

 

「そこまで!」

 

ピュシーが地上へ降りて来るようにと手で合図する。汗で額に張り付いた前髪が邪魔で、雑にかき上げながら地上へと降り立つとまた観客席から黄色い悲鳴が聞こえて来た。野郎たちのじっとりとした視線が妙に刺さる。言っとくけど一挙手一投足でいちいち歓声を上げられるのも大分面倒くさいからな!?

 

「えー、ブラックの得点は10点。各キーパーのセーブ数はルックウッドが2回。ノットが3回。カローが0回」

 

まだ恨めしそうな顔をしてくるルックウッドの隣で勝ち誇ったようにフッと鼻で笑うノットが心底むかつく。こいつルックウッドの時の俺を見て癖を学んでやがった。最後のアミカス・カローは論外だ。あのウスノロよりはトロールの方がまだいいキーパーになれる。

もうちょっと点を取りたかったと悔やみつつ観客席へと戻り、コイオスの隣に腰かけるとナルシッサは「お疲れ様! 凄かったわ!」と微笑みながら杖を振って水差しとコップを取り出した。

 

「汗だくになってるわね、リゲル。レモン水でもいかが?」

「サンキュ、シシー」

 

冷たいレモン水を一気飲みすると火照った身体が少しだけスッキリした。首元を緩めようかと思ったが女子の視線が気になって落ち着かないので止めておく。二杯目のレモン水を飲みながら残りの選抜を見守る。

 

「おいリゲル」

「あーあ、何でキーパーが向いてる方に投げるかなあ……ん、何だよルシウス」

「さっきルックウッドをわざと挑発したな」

 

地上にまで聞こえていたか? こいつの聴力どれだけ良いんだ。コップを傾けたまま横目でルシウスを見上げると「奴の顔色が分かりやすく変わっていた」とため息を吐かれた。

 

「何故わざと挑発するような真似をした? あいつはここで見ていても分かるほど緊張していたんだから楽に5点取れたはずだろう」

「いやそれ俺が面白くねえし」

 

確かにあいつ飛び方もガチガチだったしこっちの動きに全く付いてこれていなかったけど、それで俺が悠々と5点取ったところで何も楽しくない。

 

「実際アイツ2回目からの方が格段に良かった。俺も駆け引きしてて楽しかったしな。緊張を吹っ飛ばすにはムカつかせるのが一番手っ取り早い」

「お前と言う奴は……」

 

ルシウスが呆れかえったような目で俺を見下ろした。コイオスは「らしいなぁ」と苦笑いし、ナルシッサはクスクスと笑い声をあげた。

残りのチェイサー志望達の選抜も10分ほどで終わり、それぞれ8点、6点、7点と結果が発表されたことで俺は無事、来シーズンからのチェイサーに選ばれることになった。

キーパーに選ばれたのはルックウッドだ。やっぱり緊張を吹き飛ばしたのが効いたのか、そのあとのセーブの冴えは素晴らしいものがあった。ビーターとシーカーの選手も無事に決まったところでメンバーに選出された者だけがフィールドに残る。

 

「来季はよろしくお願いしますね。あがり症のオーガスタス先輩」

 

ニヤニヤ笑いながら片手を差し出すと悔しそうな表情のまま、しかしがっしりと握手を交わしながらルックウッドは低く唸った。

 

「……悔しいけど、今は君に感謝してる気持ちもある。こちらこそよろしく、ブラック」

 

ピュシーは満足そうに新しく選抜された一同を眺めると晴れ晴れした笑顔を浮かべた。

 

「我がスリザリンチームは、特にあのグリフィンドールからは卑怯なプレイをすると思われているようだが。今年俺はそれを払拭したいと思っている。つまり俺がキャプテンを張る間はラフプレーや反則行為は一切禁止だ! グリフィンドールにわざわざペナルティ・スローの機会を与えたいか!? 答えは否!」

 

そういえば昨シーズン、マダム・フーチに目を付けられまくってグリフィンドール戦じゃペナルティ取られまくったもんなあと思わず遠い目になる。

競り合いが激しくなってきたら手を出したくなるのも分かるが審判にバレちゃ意味ないだろ。対グリフィンドール最終戦だと前キャプテン同士が箒を捨てて殴り合いにまで発展していた。あれは正直観てて俺も引いた。

 

「キャプテン質問! グリフィンドールを挑発するのは?」

「それは良し! むしろあの猪突猛進バカの集まりを大いに煽ってミスを誘え」

 

シーカーに抜擢された3年生が挙手するとピュシーは腕組みしながら言い切る。こういう所は流石賢い我らがスリザリンだぜ全く。

隣のルックウッドにぼそっと「お前の十八番だよな、ブラック」と呟かれた気がしたけど無視だ無視。

 

寮に戻ってからふくろう小屋に直行し、無事チェイサーに選ばれたことを両親に報告すると、翌日父上のふくろうがやってきた。

祝いの言葉と共に箒を買いに行こうとの誘いがあったので早速その週末、父上と弟達の四人でダイアゴン横丁の箒専門店へと出掛けることにしたのだ。もちろん学校には一時帰宅の許可をもらってある。

学校の飛行術は備品の箒を使えばいいのだがクィディッチとなるとそうはいかない。コメット190みたいな骨董品で飛んでいたら何も出来やしないしな。前日深夜までカタログを読みふけっていた俺は、クリーンスイープ社の最新モデルよりも去年出来たばかりのニンバス社の箒を買う事にした。

 

「リゲル。こっちの方が人気みたいだけどいいのかい?」

 

一番人気と派手に銘打たれたクリーンスイープ社の箒と、俺が手に取って撫でているニンバス1000とを父上は不思議そうに眺めている。

 

「ええ、これが良いんです。最高速度は時速100マイル……そりゃクリーンスイープ製の方は120マイル出ますけど、こっちは静止状態で360°回転が可能なんだ。素晴らしいコントロール性ですよ」

「うわあ……! 兄様、兄様。僕も乗ってみたいです」

「もちろんだレギュラス。だけどもうちょっとだけ大きくなってからな。大人用の箒はまだお前には危ないから」

 

ツヤツヤにニス掛けされた柄をうっとりと撫でていると、父上とシリウスは黙って顔を見合わせていた。俺の箒談義に目をキラキラさせながら食いついてくれるのは我が家ではレギュラスだけだ。

 

そして無事に目当ての箒も手に入れ、今年こそ優勝杯を俺達の手に、とチーム全員で決起集会を行ったところで俺達のクィディッチシーズンは幕を開けた。

始まってみたらこれがまあ思っていたよりも数倍ハードだ。進級して格段に増えた宿題は待ってくれないし日を追うごとに溜まっていくから毎晩コツコツ片付けるしかない。

そして日曜朝と水曜夜に行われるチーム練習では泥だらけになるまでクアックルを投げている。特に水曜は箒を引き摺りながら寮に戻ってシャワーを浴びるとまだ21時だというのに何もできずにベッドにダイブするしかない。

 

「もう、僕はきみのお母さんじゃないよ」

 

ぶつぶつ言いながらも毛布を掛けてくれる優しいコイオスに感謝の言葉を述べたいのだが、くっ付いた瞼も唇も鉛の様に重くて言う事を聞かない。

 

「コイオス“#$%&‘……」

「人は極限に眠いと例え君のような顔でもそんなことになるんだね。瞼が三重になっているよ。ほら早くお休み」

 

何が面白いのかコイオスにくすくすと微笑まれ、とんとんと軽く肩を叩く手のリズムがやけにほっとして心地よくそのままスイッチを切るようにすとんと寝付いてしまう。

つまり、そう。

 

全くといって良いほど俺は弟達に手紙を書ける余裕がなくなってしまったのである。

土曜や日曜午後は割と余裕があるので返事を書けるのだが週に一通が限界。年が明けて、春から夏に掛けては特にひどかった。

中間試験が終わったかと思ったらイースター休暇明けにクィディッチの試合が組まれたので帰省するわけにもいかず、そうこうしていたら6月が近付いて試験勉強にまた追われる羽目になった。

やっとの思いで期末試験を乗り切ったかと思うと気付けば優勝杯をかけたクィディッチ最終試合が迫っていた。試合カードはもちろんスリザリン対グリフィンドール。スリザリンは現状1位でグリフィンドールは現状2位。2位との間にはたったの130点しか差が無い。

ということは。

 

「俺達がスニッチを取ってグリフィンドールに勝てばもちろん優勝。だが、グリフィンドールは俺達との点差が20点以内のうちにスニッチを取ると優勝してしまう。あいつらは死ぬ気で点を獲りに来るだろう。お前ら今日から試合当日まで寝れると思うなよ!!」

 

期末試験最後の科目が終わった直後のグラウンドで、緊急招集をかけたピュシーが吠えた。死刑宣告ともとれる宣言に思わず俺達メンバーの顔が一斉に引き攣る。試験からの解放に呑気に喜んでいる同級生たちの声が遠い。

とはいえ優勝杯が目前なのだから一層練習にも身が入る。テストも無く授業も行われないともあって、試合までの一週間は朝から晩まで一日中仲間たちと練習漬けだ。当然談話室へは寝るためにしか帰っていない。

 

「グリフィンドールのみんなは今年」

「連覇出来るかもってアツくなってるんだ」

「だけど僕達はホントのこと言うと、」

「お兄ちゃんにも勝ってほしくって」

「僕達どっちを応援したらいいのかな?」

 

試合前日、誰も居ない渡り廊下で俺が帰ってくるのをこっそりと待ち構えていたらしいプルウェットの双子は深刻そうな顔で見上げて来る始末だ。

 

「お前らの応援が無くてもスリザリンが勝つに決まってるから、明日は自分の寮を大人しく応援しとけ。な?」

 

ボロ雑巾の様になって重たい身体を引き摺って帰って来た俺は、うっかりこいつらをカワイイ奴だと思ってしまった。だけど俺が下手なことを言えば深紅の群れに混じってこいつらは本気で深緑の旗を振り回しかねない。とりあえずこいつらの髪をグシャグシャにするだけで留めておくことにした。

 

[newpage]

 

「――スリザリンが、スニッチを掴みました!! 試合終了!!! 試合終了です! 優勝はスリザリン!! 見事に3年ぶりの栄光を飾りました!!」

 

アナウンスをかき消すほどの大歓声が深緑の群れから湧き上がってくる。拳を天へと振り上げながら歓喜の声を上げて、仲間たちと抱き合って。

涙で顔中がグチャグチャになったピュシーが優勝杯を受け取って、そのままロッカールームへと向かう最中、ふと俺は髪の毛が気になった振りをして何気なく深紅の応援席を振り返った。

 

悔しそうに唇を噛み締めている顔や涙ぐんでいる顔に混じって一組だけ笑顔で手を振っている姿がぽつんと見えた。流石に手を振り返す真似はしなかったが、俺もそちらを向いて一瞬だけ笑いかけてやった。

 

クィディッチ優勝杯を手にしたことで無事に寮対抗杯もスリザリンのものとなり、10年ぶりの同時受賞というのもあって学年末を迎えたその晩はスリザリンの談話室ではお祭りムードだった。

 

「すごいわ、ええ、本当にすごいわね! 特に最後のゴールが素晴らしかった! 優勝の立役者だわ、おめでとうリゲル!!」

 

スラグ爺さんが談話室で開いてくれた“ささやかな”お祝いパーティーでナルシッサが手を叩いて喜んでいる。ドロメダも嬉しそうに微笑んでおり、ベラは「まだチビだからちょこまか動けるんだろうね」とお祝いなのか皮肉なのか分からないメッセージをくれた。

 

「そんな大層なものじゃないさ、ありがとうなシシー」

「シリウス達にはもう伝えたの? きっとあの子達も喜んでくれるわ!」

「………………あっ……」

 

ナルシッサの無邪気な笑顔で背中に氷水を浴びせられた気がした。俺の表情をみて笑顔のまま不思議そうに首を傾げている彼女と、何かを察したのか顔色を変えるアンドロメダ。まさか、と唇を歪めるルシウス。俺はぎこちなく顔をそらすことしか出来ない。

 

「……お前、最後に弟達と手紙か何かで話したのはいつだ」

「………………新年の、挨拶は、した」

「それってクリスマス休暇中の事じゃない! えっ、じゃああなたほぼ半年ほったらかしにしていたの?! あの子達から手紙は受け取ってたんでしょ?」

「はい……そうです。週一で貰ってました……でも、返事が……返事が……」

「兄としてというより人として最低ね」

 

アンドロメダの正論が胸に刺さって痛い。ベラトリックスはグラスを持ったまま大爆笑している。笑いごとじゃねえぞ。ナルシッサは上品に口元へと手をあてて、「まあ」と呟いてから慎重に言葉を選んでいた。

 

「シリウスもレギュラスもあなたの事大好きなんでしょう、可哀そうに。今からでもお返事書いてあげた方が良いんじゃなくて?」

「相変わらず優しいなシシー。ただ、明日には実家帰るだろ? たぶん俺より手紙の方が到着遅くなるとおもう……」

「チビ達はあんたのこと忘れてるだろ。今夜中に速達ふくろうで写真でも送っときな」

「もう、ベラったら!」

 

ベラトリックスの軽口に優しいナルシッサはぷんぷんと怒っている。ルシウスはもはや言葉も見つからないのか黙って背中を叩いてくるだけだ。アンドロメダは気の毒なものを見るような目で、黙りこくってしまった俺を眺めてから「ご愁傷様」とだけ呟いた。

 

帰りのホグワーツ特急でコイオス、ルシウス、それに従姉妹たちとコンパートメントを陣取り、弟達への機嫌とりに何が良いかをあれこれ議論した。

 

「やっぱりお花よ、それから焼きたてのクッキーにケーキね!」

 

名案だわ、と言わんばかりの笑顔でナルシッサは微笑むが生憎それで機嫌が治るのは彼女だけだ。コイオスの提案した本のプレゼントはシリウスが喜ばなさそうだし、やる気の無いルシウスはこともあろうに俺のニンバス1000をくれてやれと適当なことをぬかしてきた。ふざけんな。

 

「もう誠心誠意謝りなさいな。さっさと宿題を片付けて、シリウス達に構ってあげる事ね」

「逆にあんたが愛想尽かされてるかもだけどね」

 

お手上げ、とつぶやいてかぼちゃケーキを姉妹と切り分けながらアンドロメダがため息を吐く。ニヤニヤと余計な口出しをするベラトリックスに噛みつく余裕もなく俺はぐったりと項垂れながら鉛の味がするサンドイッチを呑み込んだ。

半年もの間完全にほったらかしにしてしまっていた弟達はどうであったか。キングズクロス駅に降り立ってみれば何とも言えない微妙な表情をした両親だけが迎えに来ていたといえば分かってくれるだろう。

 

「……父上、母上。その、レギュラスとシリウスは……」

「……家だね」

「ええ、家にいます。帰りますよ、リゲル」

 

ちなみに俺は弟達が迎えに来ていないと分かった瞬間膝から崩れ落ちた。母上からは行儀が悪いと叱られた。父上は同情と哀れみの混じった視線で終始無言のまま俺を見下ろしていた。

そして言葉少なにロンドンの街を抜け、クリーチャーが留守番している実家に帰って来たのが今である。

普段よりも重たく感じられる玄関の扉を恐々開けた途端、揃いのシャツの裾を皺だらけにして握りしめている弟達と感動の対面を果たした。

 

「……」

「……」

「……シリウス……レジー……?」

 

前言撤回。感動しているのは俺だけだった模様。二人とも母上が黙って怒りを抑えている時の顔にそっくりだ。さすが親子。レギュラスなんか顔の造りがほぼ母上だからより一層凄みがある。うん。超怖い。

 

「……わ、悪かったって。ほったらかしにしてごめん。なあ、」

 

弟二人にこんな目付きで睨まれては何もできない。俺は大人しく両手を上げて降伏するしかなかった。

 

 

「それで、結局どうなったの?」

 

医務室のベッドから上半身を起こしたコイオスが俺の話にくすくすと笑いながら続きを促す。コイオスの白い手がガラスの器に盛られた林檎を一切れ摘まんだ。小さな音を立てて林檎を齧る姿を何となく眺めながら、俺はガタガタと行儀悪く腰掛けた椅子を揺らす。

 

「そりゃもう帰ってきた日はずーっと平謝りさ。宿題を最初の一週間で急いで片付けたあとはずっと弟達と遊んでたよ。あいつらも箒に乗せてやったらやっと機嫌を直してくれたみたいでさ」

「二人ともまだ小さいんじゃなかったっけ? よく乗れたね」

「俺が二人乗りして後ろから操縦したんだ。シリウスは意外と箒の上じゃ大人しくしてくれたんだが、レギュラスがなぁ……大はしゃぎして勝手に速度あげるし一回転したいとか言い出すから冷や汗ものだったぞ」

 

もう遥か一か月前のことなのに、あのアクロバティック飛行を思い出すと今でも薄っすら嫌な汗が出る。一応出来るものはリクエストされるままやってあげたが一回り小さい身体を落とさないようにするのは本当に気を遣った。

 

「とにかく、弟君たちと仲直り出来たみたいで良かったね」

 

コイオスに微笑まれて「まあな」と苦笑を返したところでマダム・ポンフリーが面会時間の終わりを告げに来た。

 

「コイオス、明日は一限から出席できそうか?」

「うー……ん、熱が無ければ、たぶん」

「じゃあまた朝に様子を見に来るよ。お休み」

「お休み。リゲル、リンゴをありがとうね」

 

コイオスにかるく手を挙げてからカーテンを閉めると医務室を後にする。

三年に上がってからコイオスは元々の持病が少しずつ悪化してきたらしく、何日かに一度は熱を出して医務室で過ごすというパターンが増えて来た。

あいつの顔色は日を追うごとに悪くなっている様に見えて心配だ。どんな病気なのか教えてくれないがあまり詮索するものでもないし……。

レギュラスはよく季節の変わり目に熱を出しているがシリウスも俺も文句のつけようがない健康体なのであまり病気に詳しくない。それにコイオス自身からもいつもの事だから気にするな、と言われている。

せいぜい俺に出来る事と言えばコイオスが休んだ分を取り返せるようにノートを取っておくことや見舞いの品を用意することくらいである。

 

「あいつ、来週末のホグズミードに行けるのかな」

 

談話室に掲示されているお知らせを思い返しながら呟いた一言は、しんと静まり返った廊下にやけに響いた。

 

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