東方願望異変   作:tukimizake

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第十三話 姉妹

【視点・レミリア】

 炎の剣が私を貫く。

 内側が溶けるような熱い感触が広がる。

 それでも、そんな事よりも私にはやらなければいけないことがあるはずだ。

 ゆっくりと両手を広げ、怒に呑まれたフランを包み込む。

 

「──は?」

 

 困惑が溢れたように、口から漏れ出している。

 無理もない。敵意を抱いて刺した相手が反撃しないどころか自らを抱き寄せているのだから。

 

「フラン、あなたを辛い目に合わせたのは謝るわ……もう信じて貰えないかもしれないけど、私は貴方が大切なのは本当よ。だって、血の繋がった唯一の家族で姉妹だもの」

「離して……!! 嘘つき、私をずっと閉じ込めてたクセに!!」

 

 嘘じゃない。貴方の力が強すぎる余り貴方の大切なものが壊れて傷ついてしまうくらいなら安全な場所で育って欲しかった。

 

「お姉さまだって私を止めるのは私じゃなくて咲夜たちのほうが大切だからなんでしょ!!」

「お嬢様……妹様……!」

 

 そんな訳無いでしょう? 咲夜もパチェも皆私の家族よ。

 でもそれと同じくらい……いえ、それ以上に貴方も大切だから……憤怒に飲まれたままの貴方を、憎悪のままに壊した後の、貴方のあの顔をみたくないのよ。

 なんて、そんな事を言ってもきっと貴方は頬を膨らせながらそっぽを向いてしまうのでしょう?

 

「離して……離してよ!! みんなみんな……死んじゃえ!!

 『禁忌【レーヴァテイン】』!!」

 

 炎を纏った剣が私を至る所から貫く。痛い、痛い、痛い……でも、それでも貴方を離さない。

 貴方を思う気持ちも、考えも納得は出来ないのでしょう。

 分かっている、悪者は私だけでいい……私だけでいいから……その剣をどうか……怒りを鎮めて欲しい……。

 音が曇りかかり、視界が暗くなっていく……。

 意識を失う前に何とか……姉として……伝えなくちゃ……。

 

「フラン……ごめんね、大好きよ」

「──は?」

 

 暗闇へ沈む、貴方を抱く手の感覚も徐々に無くなっていく。あと少し、あともう少しだけでいいから貴方を寄せていたい。

 あと……もう少し──。

 

 ──────────────────────────

 

 ──静寂が包む。

 その場に居る全員が、目の前で起きた出来事に息を呑む。

 ある者はその出来事が信じきれず、錯乱一歩手前。

 ある者はどうやって助けるか、思考だけがぐるぐる回る。

 そして、ある者は──。

 

「それが、お前の選択か」

 

 金髪の少女フランドールは見開いた目で、疑問を持ったように氷室の方を向きながら、首を傾げる。

 その表情に、素振りに、氷室は歩みを少し止めそうになるが重りを引き摺るように確実に近づいていく。

 

「ちが、わた……しはこんな事を……お姉さま……!」

「だがお前はそれを選んだ、選んじまった。 越えてはいけない一線を、背負わなくていい十字架を背負ってしまった」

「違う、違う! 違う!! 私は悪くない!!!」

 

 喉を押し潰す声をあげながら、フランは乱雑な魔法陣を展開し、目標もなくただひたすらに撒き散らす。

 その行動に意味は無く、子供の駄々にも似たようなものを氷室は感じていた。

 止まることなく、弾幕の嵐の中で確実にフランに近づいていく。

 そして乱雑な弾幕の一部が運悪く氷室の方へ飛んで爆発と共に煙幕が上がる。

 

「ちょ、氷室お前避けろって! っていうか無茶だ、戻れ!!」

 

 咄嗟に魔理沙が張った障壁と共に煙幕を掻き分ける。

 魔理沙が障壁を張り続けると信じているのか、歩みを止める様子もない。

 

「お前はどうしたい、フランドール」

「わ……かんない、私どうしたら……」

 

 力なく倒れてもなお、フランを包んでいるレミリアの腕の中から震える声で、氷室に問いかける。

 その瞳は今にも零れ落ちる宝石の様な涙を浮かべながら、助けを求めているようだった。

 

「……それがお前の力で、お前の責任だ。 残酷なことに、お前のその力は遊びでも人を傷付けてしまう。 お前が望んでいなくても、その力を制御出来ない限り大切なものはお前から離れていく。……同じ事をレミリアも言ってたんじゃねぇのか?」

「──言ってた、もうやらない……もうやらないから、戻って来てよ……!! お゙ねえ゙さま!!!」

 

 血溜まりに落ちる水滴の音、それは姉を刺した剣から滴り落ちる炎かそれともまた別の──。

   

「その言葉に嘘は無いな?」

 

 嗚咽を漏らしながらコクリと、首を縦に振る。

 その様子を確認した氷室はゆっくりと息を吸い込み、後ろにいるパチュリーと魔理沙に声をかける。

 

「力を貸してくれ、俺1人じゃ魔法の一つもまともに使えない。頼む──」

 

 頭を下げて懇願する氷室。そして足音だけが徐々に近づき──通り過ぎる。

 新参者が余計な迷惑ばかりかけすぎた……そう思った瞬間。

 

「──任せろ! 何をすれば良い!?」

「咲夜、回復系統の魔法書ありったけ持ってきなさい。あなたも、考えがあるなら早く指示しなさい」

 

 力強く笑う魔理沙と、静かに頷き励ましを送るパチュリーと時間を止めたのか即座に大量の本が現れる咲夜。

 頼み込んだものの、自分の言葉を素直に受け入れてくれて少し呆然としていた氷室は咲夜に背中を軽く叩かれて我に返る。

 

「ほら、しゃんとしなさい。お嬢様を助ける考えがあるのでしょう!」

「──あぁ、そうだな。フランドール、お前にも手伝ってく貰うぞ」

「うん……!」

 

 そうして治療を開始しながら、氷室の説明を聞く4人。

 全員が魔力切れ直前、又は疲労によってまともに動くことすら危うい中出来ることに集中する。

 

「まずは俺が患部を凍結させて失血を抑える。パチュリー、回復魔法をかけ続けてくれ。魔理沙は余った魔力を俺とパチュリーに分けてくれ。咲夜は体内の異物を取り除きつつ清潔に」

 

 全員から返事は来なかったが、ただひたすらに各々が指示通りに動いている。

 氷室が患部を一時的には凍結させ、パチュリーが修復した箇所から順に凍結を解除。その間に咲夜は他患部に埋まった異物を取り除く。

 魔理沙は魔力が少なくなった2人に魔力を送り続ける。 

 

「わ……私は何をすればいい?」

「お前の出番は一番最後だ。相当きついから覚悟しておけ」

 

 そうして時間すら忘れて、無惨な状態だった体躯は徐々に原型を取り戻し始める。

 しかし見た目はもとに戻って居ても、以前体温は冷たく身体は青白いままだった。

 

「ね……ねぇ、お姉さま冷たいままだよ!?」

「そうだな」

「そうだなって──」

「お前の出番だぞ、フランドール」

 

 そう話しながら、氷室の身体は氷を生成し形を整えてゆく。

 氷ではあるもののチューブ状のそれはうねり、先端は細く鋭くなっていく。

 ──そう、氷で出来た簡易的な輸血針とその管だ。

 

「これで輸血する、お前と姉妹なら血液型の心配は必要ないだろ。痛みはあるが、我慢できるな?」

「──うん……!」

「咲夜、針を刺すのを頼む。パチュリーは俺と生成の維持を手伝ってくれ」

「妹様、失礼します……!」

 

 咲夜は細すぎるフランの腕に指を当てる。繊細できめ細かい肌の上から細い血管を探し当て、いつの間にか刺していた。

 時止めを使用して、可能な限り痛みを抑える処置をしたのだ。

 そうして、フランの腕に刺された針から鮮血が氷に包まれた管を通り、レミリアの中に流れていく。

 

「輸血するだけでは意味ないわ。レミィの身体は深刻な魔力不足も起こしているから、魔力も補充しないと……!」

「ッチ……パチュリーと魔理沙はこのまま氷の維持に努めれるか!?」

 

 二人は頷き、そのまま氷室が生成した氷の維持に移行する。

 氷室は両手をレミリアの手を掴み、透き通った湖の様な魔力を送り込む。しかし先ほどの粗削りの粗雑な魔法を発動した直後なのもあり、残りの魔力は少ない上、魔力を送る行為が壊死しかけている手からの痛みを加速的に増していく。

 自らの魔力も底をつき始め、手の先から透明になっていく感覚が昇ってくる。

 意識の維持すら難しくなり始めた時、仄かに火種の様なオレンジがかった光が視界の隅に映った。

 

「お姉様……行かないで!!」

 

 見ればフランが反対側の手を繋ぎ、魔力の供給をしていた。

 輸血されているだけでも負担があるはずなのに、その上魔力まで提供を始めている。

 

「フラン、そんなに魔力あげたら貴方も大変なことに……!」 

「やらせて! お姉さま居なくなる方が嫌なの!」

 

 静止の声すら振り切り、一心不乱に魔力と血液を提供し続けている。 

  ──そうして、何時間経っただろうか。

 レミリアは徐々に体温を取り戻し、蒼白に包まれていた身体は無事に正常な血色になり、弱々しく空気を切るような呼吸音は次第に落ち着きを取り戻していった。

 

「……も、う……これで大丈夫だろ……」

 

 氷室は糸が切れたように埃にまみれた絨毯の上に倒れ込む。

 舞い上がった塵埃が鼻に刺さり喉に絡みつき咳をするが身体を起こすほどの気力も体力も残っていない。

 そしてそれをきっかけに魔理沙、パチュリー、咲夜も力無く座り込む。

 ぜぇぜぇと荒れた呼吸音だけが辺りに響く。

 全員がやるべきことを全てやった。しかしそれでも小さな君主、レミリアは目を覚ます様子は無い。

 

「お姉様……フランもうわがまま言わないから……戻って、来てよ……!」

 

 血を限界まで抜かれ、意識すら危ういはずなのに起き上がり、姉の身体をゆっくり揺らす。

 頬に伝う液体が姉の顔にポタポタと落ちる。

 その場にいる誰しもが「もうダメか」と諦めた──

 

「──あたり、まえでしょう……大事な、妹を置いて……どこにも行かないわよ……」

 

 掠れ声が沈黙を破った。

 弱々しく倒れていたレミリアはゆっくりと目を開け、フランに手を当て言葉を零す。

 その様子を見ていた咲夜達はそれぞれが口々にレミリアに呼びかける。

 

「ありがとう、咲夜、パチュリー、魔理沙それに……氷室」

「……業務外の内容だからな、弾んでもらうぞ」

 

 立ち上がる事すら出来ず、倒れたままの氷室はいつもの口調で返答をする。しかし、ほぼ声色に嫌悪感の様な嫌らしさは無い、どちらかというと安堵のそれに近いものだった。

 ──そして騒動から数日後。

 

「……あれ?」

 

 パチュリーの使い魔の小悪魔は命を受けて本の清掃を行なっていた。

 毎日時間さえあれば掃除をしているため、そこまで汚れているわけではない。

 ただの整理清掃ならまだしも、魔術書というのは触れただけ、開いただけで効果を発揮するものもあるので油断はできない。無論その手の魔術書には簡単に開かないようにする等の対策を事前に行っている。

 

「パチュリー様ぁ、魂関連の魔術書が数冊無くなっています〜」

「……この前咲夜と時戻しの魔法で本も全部元通りになったでしょう?」

「そんなこと言われても無くなってますよぅ」

「因みに具体的にどの本が無くなったの?」

「えっと……【魂の召喚】と【魂の構築】の魔術書ですね」

 

 とりあえず危険なものは盗られていないようで少し安心したパチュリーは読んでいた分厚い本に栞を挟みパタンと閉じる。

 

「どうせ魔理沙辺りが盗った、ん……でしょ……」

 

 今更になって例の騒動がパチュリーの頭によぎる。

 魂の本がなくなったのは間違いなくその騒動の時だ、その事件以降に魔理沙はここに侵入していない。

 そして、フランの封印が解かれた件。あの封印はそう簡単に破られるものではない、幾重もの罠と嘘の魔術式を織り込んだパチュリーの傑作とも呼んでいい代物だった。

 一介の魔法使い、魔理沙が解けるわけが無いものだ。

 ──では、誰が封印を解いた? 何のために?

 

「……少し、嫌な予感がするわね」

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