速水凛香に愛称で呼ばれてる幼馴染の話   作:速水さんマジ天使

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速水さん自体かなり出番があった方なキャラだけど、作品内時間が1年しかないから少なく感じてしまう今日この頃。


1.一斉射撃の時間

 

 

 椚ヶ丘中学校3年E組。

 数多の有名大学への排出率を誇る超名門の中高一貫校。その中等部。

 

 E組はそんな進学校の勉強ペースに付いていけなかった者や、喧嘩や暴力行為などの素行不良、校則違反者が送られる出来損ないのクラス。

 

 夏だろうが冬だろうが関係なく、毎日学園の保有する敷地の山の中にあるぼろい木造校舎への登校を義務付けられ、劣悪な環境で授業を受けさせられる。

 テストで50位以内に入り、かつ前担任が復帰を許可した場合のみE組を抜け出すことができる制度があるが、毎日本校舎の生徒から馬鹿にされ、貶され、やる気をそがれた上でやる勉強なんて身に付くわけがない。

 

 

 そんな俺も、今年からE組。

 

 

 ぼけーっとしながら山道を歩いていれば、後ろから肩をコツンと突かれた。

 

 後ろを見れば、そこには茶髪のおさげのツインテールに、碧の鋭い目にしかめっ面の幼馴染の姿が。いや、しかめっ面はいつもかもしれない。

 

 

「カナ、ぼーっと歩いてると転ぶよ。どんくさいんだから」

 

 

 言葉にやや棘があるこの幼馴染の少女の名前は、速水凛香。

 俺が7月11日に、コイツが12日に同じ病院で生まれ、そこから保育園、小学校、そして今に至るまでずっと同じの、幼馴染というかいわば腐れ縁のような関係。

 

 小さい時から自己主張が苦手なコイツを放っておけずに俺がいろいろ構ってしまったのが運の尽き。そこから『速水係』みたいな役割を押し付けられ、気が付いたら共にE組にまで来てしまった。

 

 

「大丈夫だって、リン。このくらいで転んだり―――あっ」

 

「言わんこっちゃない……」

 

 

 前に一度転びかけたことのある、木の根が不自然に飛び出した場所。そこへ足を引っかけて転びかけてしまうが、リンが腕を引いてくれたおかげで事なきを得た。

 

 口ではあーだこーだ言うものの、実際こういうところがあるから保小中と嫌にならずに一緒に居られる。

 

 

「……ありがとう」

 

「……カン違いしないで。目の前で転ばれると居たたまれなくなるから手助けしただけ。別に―――……」

 

「? どうした? リン?」

 

 

 いつもの(ツンモード)が始まったと思えば、山の中のある一点を見つめてフリーズするリン。何かいるのだろうかと俺もそちらへ目線を向けると。

 

 

「ニュルフフフ……若い二人が通学路でイチャイチャ……。いいものを撮らせて貰いました」

 

 

 カメラ、それも一眼レフの高級なそれをこちらへ向けながらニヤニヤと笑みを浮かべている黄色いタコ型の怪物、俺らの今年の担任である先生がそこにいた。

 

 撮った写真を確認しているのか、山の中にピッピッという音がホトトギスの鳴き声と一緒に響く。

 

 

「リン」

 

「カナ」

 

 

 俺はかけていた伊達メガネを外してナイフを握り、リンはスカートの下の太ももに仕込んでいたホルスターからエアガンを引き抜き。

 

 

「「殺すッ!!」」

 

「ヌルフフフフ。じゃあ先生はこのあたりで失礼しますね」

 

「待ちやがれッ!」

 

「絶対に逃がさない!」

 

 

 マッハ20で逃げる怪物を殺すために俺たちは武器を振るう。

 

 今年のE組はいつもと違う。

 何せ俺たちはこの理外の怪物である先生を殺すために、国から依頼を受けた『暗殺者』なのだから。

 

 

 

「そのデータ消さねぇと、テメェがコンビニハシゴしながらグラビア雑誌立ち読みしてるところを盗撮した写真クラス中にバラまくぞッ!!」

 

 

「にゅやっ!!? ちょ、そんなのどこで撮ってたんですかカナタ君!!?」

 

 

 

 ちなみに逃げた先生はちょっと脅せばすぐに画像データ消してくれた。以外とチョロイかもしれない。この先生。

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

「よっ、カナタ。なんか騒がしかったけど、なんかあったのか?」

 

「いや別に。ちょっと先生脅して頭下げさせてただけ」

 

「いやそれなんもなかったの範疇じゃないだろ」

 

 

 データを消してもらった後、山を登り切ってE組の校舎の中に入り、リンと別れて席に座れば前の席の菅谷が話しかけてくる。

 

 どうやら俺たちの前を歩いていたらしく、後ろの俺たちの騒音を聞いていたようだ。

 

 

「みんな、今日も頼んだぞ」

 

 

 時刻は朝8時25分。

 あと5分で朝のHRが始まるという時間に。クラス委員の磯貝がクラス全員に聞こえるように声を上げた。

 

 がやがやとしていた教室が一気に静まり、視線が磯貝に集まる。そして時計を一瞥したのちにみんな頷いた。磯貝の言う「頼んだ」というのは先生が赴任してきてから毎日欠かさずやっている朝礼時の一斉射撃のことだ。

 

 

 

 ほんの少し前、それこそ新学期が始まる前までは朝の時間にこんなことをするなんて考えてもなかった。それも中二病のイタい会話とかじゃなく、真剣に、自身の担任を殺すために。

 

 

 

 

 一週間ほど前、新学期が開始して早々に俺らの前に先生がやって来た。

 

 『私が月を破壊した犯人です』という衝撃の事実と奇怪な見た目をぶら下げて。

 

 今現在空に浮かぶ、物理的に欠けてしまった三日月を破壊した先生は、来年の三月に地球も同じように破壊するのだという。

 そんな絶大なパワーを持った先生の最高移動速度は実にマッハ20にも及ぶらしい。しかし、その速度で逃げ回っていては面白くないという理由で、この3年E組の生徒ならば受け持っていいと政府と交渉し、赴任してきたというわけだ。

 

 そして、そんな超生物を至近距離から常に狙える位置にいるのは俺たちE組の生徒。政府は専用装備を渡し、百億円という大金を餌に俺たちを『暗殺者』へと仕立て上げた。

 

 色々と矛盾点はある。あるものの、それを無視してしまえるほど『百億円』という大金の影響は大きかった。

 

 

 ほとんどの生徒が一致団結して地球の危機を救おう(百億円を手に入れよう)と躍起になっている。一部の生徒は除くが。

 

 

 現に、磯貝の一斉射撃に反対する生徒はいない。流石に一週間も30人近くいる人数で一斉に弾をぶっ放せばどこかでボロが出て死ぬと考えているのだろう、除いた一部の生徒もやる気のようだった。

 

 

「今日こそは!」

 

「一番可能性あるとしたら、一番先生に近い私だからね!」

 

 

 みんなのやる気がぐんぐん湧いていく中、いつもの調子じゃ絶対に殺せないと思い前の席の菅谷と、リンにあることを伝える。

 

 

「……って感じだけど、いい?」

 

「いいけど、それで()れたら分け前はちゃんとくれよな」

 

「ていうか、それほかの皆に伝えなくていいの?」

 

「知ってる人が多いほど、目線とか動きに出てくるだろ? あの先生結構みんなのこと見てるから、それでバレるリスクは減らしたい」

 

「なるほどなぁ。ま、やってみるよ」

 

「そういうことなら。任せて」

 

「よし、頼んだぜ」

 

 

 一斉射撃決行はいつも朝の号令の直後。

 日直の渚が「礼」と合図を出したら全員で射撃開始。単純明快でわかりやすい作戦。

 

 

「じゃあみんな、頼んだぞ」

 

 

 その磯貝の声と共に、チャイムが鳴る。

 全員席に座り、その顔を緊張に染めながら机の下に隠したハンドガン、ライフル、サブマシンガンとそれぞれ一番肌に合うエアガンを握り、その時が来るのを待つ。

 

 少し間を開けてにゅるにゅると独特な足音が廊下か聞こえてきて、ガラリと教室前方の扉が開かれる。

 

 入って来た先生にスマホを見せながら笑いかければ、ちょっと動揺したように顔をこわばらせたが、すぐに気を取り直したようで「こほん」と咳払いをした。

 

 

「HRを始めます。日直の人は号令を」

 

 

 来た。

 

 クラスメイト全員が渚の声を待つ。

 

 

「起立!」

 

 

―――ガシャガシャガシャ!!

 

 

 机の下で皆が握っていたエアガンが次々に音を立てて姿を現す。

 

 

「気を付け!!」

 

 

―――チャキ!!

 

 

 姿を現したエアガンの照準が先生に定められる。

 

 

「礼!!!」

 

 

―――ドドドドドドドド!!!!

 

 

 作戦開始の合図が発せられ、クラス中から弾が飛ぶ。

 しかしそれは高速で動く先生を捉えることはできず、焦った様子を微塵も見せることなく先生は出欠確認を取っていく。

 

 

「潮田渚君」

 

「はいっ!!」

 

 

 出席番号11の渚が呼ばれて、次は俺の名前が呼ばれる。それが、事前に菅谷とリンに話していた俺たちだけの作戦決行の合図だ。

 

 

「四条彼方君」

 

「はい!」

 

 

「―――にゅやっ!!? これは!」

 

 

 俺が返事をした瞬間、先生の体が砂時計みたいな形になって拉げた。それと同時に高速移動している先生の移動範囲が目に見えて中央に寄って行くのが分かる。

 

 

 ほぼ最初に想定していた通りの動き。これなら―――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅刻欠席なし。素晴らしいです! 先生はとてもうれしい!」

 

 

 結局、殺せはしなかった。

 教卓で嬉しそうに触手を広げている先生を見ればそれは一目瞭然。菅谷に一言「すまん」と言えば、「まあしゃーないわな」と返って来た。リンにも目線で伝えれば、ツイっと目を逸らされる。

 

 

「しかし今日も命中弾はなし……ですが、カナタ君、菅谷君、速水さんの射撃は実に惜しかった」

 

 

 その言葉と共にクラス中の視線が俺たちに注がれる。

 

 

「先生を直接狙うのではなく、菅谷君と速水さんが先生の『退路』を狙って逃げ道をなくし、追い詰められたところをカナタ君含め全員が狙い撃つ。その発想は実に素晴らしいものでした。

 ですが、先生の柔軟性を甘く見過ぎです。二人程度の『壁』なら難なく通り抜けられてしまいます。人数をもう少し増やすべきでしたね。発案者はカナタ君でしょうか?」

 

「そうです。最初にスマホ見せて動揺を誘おうと思ったけど、あっさり立ち直られちゃ敵いませんよ」

 

「ヌルフフフフ。先生に二度同じ手口は通用しませんよ?」

 

 

 いいところまで行ったという割には余裕そうに俺の作戦を解説してくる先生。

 だけど、殺し損ねた割には、なぜかその賞賛が暖かく感じた。

 

 

「何だよカナタ、言ってくれれば協力したのによ!」

 

「でも先生が暗殺であんなに焦ったの初めてじゃない? この調子なら絶対殺れるよ!」

 

 

 先生の講評が終わると、クラスの皆が俺の席の周りに集まってくる。

 途中で対先生弾が本当に効くのかの実証実験が行われたりもしたが、今日のはおおむね上手くいって満足だった。

 

 渚の弱点メモにも色々項目が増えていそうだし、今度見せてもらおう。

 

 

「ねぇ、カナ」

 

「どうした?」

 

 

 少し俯いているリンが袖を引っ張りながら声をかけてきた。どこか具合でも悪いのだろうかと思っていると。

 

 

「頼ってくれて、少し嬉しかった」

 

「―――んぐっ」

 

 

 ―――心臓が止まった。

 贔屓目に見なくともリンは顔がいい。そんなリンが少しはにかみながら滅多に見せないデレを見せてくるときがたまにあるのだが、未だに慣れない。

 

 

 

「さぁ皆さん! 授業が始まりますよ! 弾の片づけをしましょう!」

 

 

 

 キーンコーンと1時間目開始のチャイムが鳴り、先生の指示でみんなが地面に散らばった弾を片付け始める。

 

 

「さあ、カナタ君もホウキを持って片づけを…………にゅやあああぁぁっ!!!? 心臓が止まってるうううううっっ!!?」

 

 

 どうやら本当に心臓が止まっていたらしく、大混乱した先生に人工呼吸をさせられそうになり、ギリギリでこっちに戻ってこれたという一波乱あったものの、こうして3年E組の暗殺は続いていく。

 

 

「はぁ……本当馬鹿」

 

 

 背中には冷ややかな幼馴染の視線が刺さっていた。

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