蛍の埋葬人 ~追放TS美少女ヒーローは後輩を育てたい~   作:劇団おこめ座

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時系列ちょっと飛んでいたりする場面があります。
読みにくかったらすみません。


2 愛情を込めた指導はだいたいパワハラ

 訓練を始めるには少し早いと思い、佐藤と少し世間話をしていた。どこのスーパーが品物がいいとか、この街のマスコットキャラクターがキモ可愛いとか、回転寿司屋さんが回転してないこととか、取り止めのない話題をしながらケラケラ笑っていた。

 ざっざっと、足音が聞こえた方を振り返ると私よりずいぶん背が高く、髪をきっちりツーブロックに整えた少年が、いきなり睨みつけてきた。

 

「お前が佐藤を振り回して迷惑をかけているやつだろ!」

 

 彼は怒鳴りながら指をさしてきた。少しびっくりして、数秒ほど言葉が出なかった。

 佐藤なんて知り合いは佐藤桜、クリムゾンチェリーくらいしかこの辺にはいない。ああ、きっと彼氏か。

 格闘の訓練で投げ飛ばしたことを話したら、彼氏がすっ飛んで来たということか。

 中学生にしてカップルとか今どきは普通なのかもしれない。でも、付き合ってツキツキしちゃうとか不健全な交友なんて許せません。羨ましい。

 

「なんか、おまえ、すごく失礼なこと考えてないか?」

 

「いや、そんなことないけれどさ、私と佐藤さんの訓練に何か問題でもあるの?」

 

「そうだよ。あいつが元ヒーローの師匠の元で訓練しているって聞いたけど、ここにはヒーローのOBもOGも住んでいないってヒーロー協会から言われているし、大体、俺たちと同じくらいの年の引退したやつなんて知らないし、そんな体で何を教えられんだよ」

 

 ヒーロー協会の名簿から除名されるとOBOG扱いされないんだよね。彼の視線の先にある、杖をついて疲弊し切った私の体を見れば、まあ普通そう思うよね。

 そんな空気の中、佐藤が私と彼の間に割って入ってきた。

 

「坂本! 師匠になんてこと言うの! 謝ってよ!」

 

 眉間にしっかり皺を寄せて怒っている。その姿がちょっと可愛いな、と思ってしまうのは、私の悪い癖だろうか。

 

「坂本君、だったか? じゃあ、試しに同じ訓練をしてみよう」

 

 そう言って、いつもの地面に直径2メートルくらいのサークルを描く。

 彼は、はあ?、とイキリ、文句たらたら不満げな声を漏らしながらも、私たちの訓練を渋々真似してみせた。

 5分後、彼は見事に地面にキスしていた。

 地面にキスしないで彼女にキスしたら、みたいなことを言ったら2人とも顔を真っ赤にして、そんな関係じゃないと叫んでいた。若いっていいね。そう言いながら将来いい関係になって、ちちくり合うんだ。羨ましい限りですわー。私は男歴が長いので男は勘弁だけど、羨ましい。そんな時間、過ごしたかったなあ。

 坂本をベンチに運んで、またクリムゾンチェリー佐藤と訓練を始めると、

 

「今日の訓練、いつもより厳しくないですか?」

 

と佐藤がぼそりと呟く。別に僻んでいないですよ。全然僻んでないです。

 ともあれ、厳しくしごいた彼もまた、その日から私を師匠と呼ぶようになった。

 

ーーー

 

 家に帰り、私は暗い部屋の明かりを付けず、パソコンの電源をつける。モニターの明かりが部屋を照らした。

 検索サイトから2人のことを少し調べようと思って入力フォームをクリックする。

 すると、最近の話題となっている言葉が何も書いていないのに表示された。

 その中に、私のヒーローネームというか異名があった。

 私のヒーローネームそのものは無いが、誰だかわからないが私を指し示す名前みたいな物をインターネットにsnsに書き込んだら、それが広まっていつの間にか一般人的にはそれが私のヒーローネームとして周知されている。つまるところの、異名だね。

 検索フォームの私のヒーローネームをクリックすると、次のページに移動し、また入力フォームには私のヒーローネームの後ろに追加されて、死ねとか消えろとか表示されていた。

 ちなみに私のヒーローネームと今住んでいるこの町名前を打ち込むが、私がここに住んでいるという話は出ていなかった。むしろ、3年前、ここに怪人からの防衛のために入った時の記事を見つけた。地元の新聞社のページに私のヒーローネームと、でかでかと、ありがとう、と記載されていた。

 懐かしさと、かすかな寂しさが、すっと胸の中をそよ風のように駆け巡った。

 そんなこともあったなあと思ったが、感傷に浸るためにパソコンを起動させたのでないと、ウェブブラウザのタブを消した。

 インターネット上のヒーロー協会のホームページにアクセスし、弟子扱いになっている2人の情報を閲覧した。ちなみに非合法にアクセスしているわけではない。全ての人に公開されている情報だ。

 佐藤も坂本も怪人討伐数はゼロの若葉マーク。

 佐藤はバトルスーツの色を表すように炎を操る力を持っている。坂本は巨大な斧を召喚して叩き切る系の力こそパワーなヒーロー。ちなみにヒーローネームはマサカリ次郎だった。相変わらずネーミングセンスが酷い、というかウケ狙いかな。私はこういう名前好きだけど。

 閲覧を終えると、私はパソコンの電源を切る。すると、薄暗かった部屋が真っ暗になる。

 すぐ目が慣れるからと、私は明かりはつけない。

 ほとんど空っぽの冷蔵庫を開け、ヨーグルトを取り出し、常温保存していたバナナを一本取り外し、ヨーグルトの中に一口大にスプーンで切り分けて混ぜる。先輩が、食欲がなくてもフルーツやヨーグルトは食べろ、身体が資本だぞ、と言っていたことを思い出して甘酸っぱい香りの白い塊を口に入れた。

 

ーーー

 

坂本真一

 

 師匠に教えてもらったことを、佐藤と2人で思い出しながら、動画にしていた。

 それは、俺たちみたいな田舎のヒーローのためだ。師匠に出会えなければ、きっと、今頃とっくに死んでいた。

 だから、遠くにいる俺たちの仲間が伸び悩み、誰にも教えを乞うことができないなら、その役に立ちたいと思った。

 佐藤に伝えると、喜んで手伝ってくれた。

 そうだよな。佐藤は師匠にべったりで、子犬のように尻尾を振ってかまってもらっていた。

 だから、余計に師匠の生きた証を残したいのだろう。

 

 

 

 ああ、はい、もうカメラ回っているんですか?

 ごほんごほん

 どーも、マサカリ次郎です

 斧を振り回して、パワーで怪人を粉砕する猟奇的な戦闘スタイルで戦ってます。

 俺がヒーローを本格的に目指したのは、小学生6年生の頃に、珍しく地元に怪人が出て、酷い被害に遭いました。

 その時、駆け付けたヒーローがいて、怪人をバッタバッタとなぎ倒して、奴らを墓に放り込むような姿がとても格好良くて、本当に感謝してます。

 あんな風に俺もなりたいなって思って、ヒーローに志願したら、才能あることがわかって、短期のヒーロー養成研修に参加して、ヒーローになることができました。

 俺は田舎でヒーロー活動をしていて、指導していただけるヒーローの先輩がいなくて、訓練と呼べるような訓練はなかなかできませんでした。

 ちょうど同じ時期にヒーローになれた友達もいたのですが、下手に組手をすればどちらかが怪我しかねないので、困っていました。

 そこで、そんな感じのヒーローの方にお勧めの訓練方法ですが、地面に直径2メートル、慣れたら1メートルでも構いません、この線を引きます。

 そしてピッチングマシンを10メートル離れた場所、慣れたらもっと距離を詰めていいです、これを設置して、ボールを流してもらいましょう。

 それを弾く練習をしてください。もちろん、ヒーローのエネルギーを使って受け流しても構いませんが、最終的には、変身をせず同じ動きができるようになってください。

 ヒーローの配置の少ない地域では、ヒーローのエネルギーを節約しながら戦わないと、急な怪人の発生や強い怪人に対する時間稼ぎができません。

 あと、変身している姿よりも変身しない方が一つ一つの技に使うエネルギーは多いのですが、変身しているという状態にエネルギーが使われるので結果的にはエネルギーの消費が大きくなります。

 また、変身しないでの技をしっかり使えるようになることで、変身後の技のキレや威力が上がります。

 ですので、このヒーローで訓練方法で困っている人がいたら是非この方法を使って欲しいなと思います。

 試しにやってみましょう。

 あ、ピッチングマシンに球を入れる人はヒーローじゃなくても大丈夫です。

 チェリーさん、ボール流して

 こうやって、弾いたり、避けたり、出来るだけ力をかけない受け流しをしましょう。

 ちょ、チェリーさん、なんで近づくの!

 痛! チェリー、今2個ほぼ同時に変化球モードでやっただろ!

 痛ァーッ! おま、普通にお前も投げんな!

 

 こんな感じで難易度も上げることはできますが、体にボールが当たるとめちゃくちゃ痛いので、ヒーロー以外の人は絶対にしないでください。

 あと、硬式じゃなくて軟式の球にしてね。絶対怪我するから。

 ヒーローチューバ、マサカリ次郎でした。




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