蛍の埋葬人 ~追放TS美少女ヒーローは後輩を育てたい~   作:劇団おこめ座

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3 初戦闘

 放課後の公園訓練が恒例となり、佐藤と坂本が私のしごきに黙々と耐えている。

 ……いや、正確に言うと『黙々と』はちょっと違うか。叫び声と悲鳴、たまに愚痴も混ざっているから。

 でも、それでも彼らは逃げ出さずについてきている。それだけで偉い。

 しごきをしていると、なんかちょっと自分が偉いような凄いような気持ちに、なんというか気持ち良くなってくる。ううん、ちょっとどころじゃないな、全能感みたいな感じ? わかる?

 彼らが必死に食らいついている姿を見ながら、ふと周りを見渡せば、しごきに耐える2人は周りに子供が集まり、

 

「チェリーがんばー!」

「まさかり負けんなー!」

 

などと声援を送っている。

 無邪気なその声に思わず頬が緩む。

 時々、子供が私の袖をちょいちょいと引っ張り、

 

「おねーちゃん、悪い人なの? 怪人?」

 

と聞い来て、少しだけ胸が痛む。でも、私は笑って答える。

 

「師匠だよ、コーチとか、ほら、学校の先生みたいな人だよ」

 

と答えると、素直に、

 

「そーなんだ。ふーん」

 

と言って離れていく。子供の純粋な目には、私がしごきを楽しんでいるクズに見えていたのだ。

 気をつけよう。指導は愛があってこそだよ。

 私のしごきに耐えて、動きが良くなったし、力の制御も上手くなった。でも、まだまだだ。この程度では理不尽な怪人の発生があればすぐに命を落とす。

 願わくば、単独でも、強靭な上級の怪人を抑え込めるようになればいいなと思うのは、私のわがままだろうか。いや、せっかくヒーローを目指して、実現した子達が死ぬのは嫌だ。

 それに、怪人駆除の時には馬鹿な野次馬がいつも湧いて出るんだ。そいつらに気を取られて死ぬようなことがあれば悔やんでも悔やみきれない。

 そんな人間のカスの理不尽にさえ、どうともしない動きができなければならない。

 まあ、私には出来なかったが。

 

 そんな日々が続き、放課後の訓練時間で佐藤と坂本が集まった時に、サイレンの音が響いた。お昼の時間を告げるサイレンの音にしては大袈裟に長かった。

 合わせて至る所から携帯電話の緊急避難通報の連絡が流れた。

 最悪だ。怪人だ。

 私は携帯電話の防災アプリを起動させる。有名なアニメの特務機関と同じ名称のアプリだ。そこには怪人の出現場所と、自分の居場所から最短の防災施設を表示させることができる。

 当然、私の目的は防災施設ではない。怪人だ。

 佐藤と坂本のヒーロー協会から支給された手首に着装する端末から出動命令特有の着信音が流れていた。

 通称、ヒーローリングというものだ。いろいろ便利な機能が備わっているが、携帯電話くらいの機能だけでも十分なものだ。まあ、私は締め付けられるのがいやで、支給されても付けなかったが。

 

「ここから北にたった2キロの地点、小学校のすぐそばだ。行けるよな?」

 

 2人は、ハイと返事をしたが、足元や腕が震えていた。実戦、しかも初陣で、ヒーローの先輩に付き添って手取り足取りアドバイスを受けながらお膳立てされて戦うものではない。何が正解で何が間違いかわからないまま戦わないといけない。

 私は2人の肩を抱き寄せ、

 

「私も近くにいく。危なくなれば助けに入るから安心して。大丈夫、今まで苦しい訓練を続けてきた自分と仲間を信じるんだ」

 

そう耳打ちし、背中を叩いた。

 2人の震えは少し収まり、凛々しい目つきとなり、ヒーロー変身を唱え、北に飛び立った。

 

ーーー

 

佐藤桜

 

 いつもの給食の時間より少し前に鳴るサイレンの音に似ていた。あの音を聞くと、お腹空いてくるんだよね。でも、放課後にそんな音聞くことなんてなかった。

 その音は、高くなったり低くなったりして長く響いていた。

 ああ、あの音だ。

 思い出したくない。

 私の両親が殺された日の音だ。

 思い出すと、怒りで腕が震え出し、でも、あいつらみたいな奴らと戦わなければならないと思うと、足が震え始めた。

 死にたくない。

 でも、復讐してやりたい。

 二つの気持ちが私の体を揺らした。

 すると、師匠が私と坂本を抱き寄せて何かを私達に話した。

 はっきりと私の耳に届いたのは

 

 師匠も来てくれること

 自分と仲間を信じて戦うこと

 

 その二つだった。

 師匠の目を見つめると、戦いに勝つことを求めるような目ではなかったし、復讐が上手くいくといいね、という目ではなかった。雛鳥が飛び立とうとすることを案じるような目だった。

 ああ、そうだ。師匠は怪人を殺すことを主として教えるのではなく、いかに生き残るかを教えようとしていた。

 いつも、ずっとそうだった。

 訓練が厳しくて、この人サディストなんだ、と思っていたこともあったけれど、訓練は最後まで生き残ることを目的としていた。

 

 必ず生き残りなさい

 

 師匠の言葉はきっとそういう意味なのだろう。

 私は震えを抑え込み、空に向かって飛び立った。

 

ーーー

 

 公園の子供たちを防災施設に行くように指示していると、お母さん方やご近所さん方が子供たちを連れて行ってくれた。

 一段落し、さあ、2人の弟子の様子を見に行こう思った時、軽自動車の中でも山道に強いスズキのジムニーがキィーっと横滑りしながら私の前に止まった。運転席のウインドウが下がり、運転席の二十歳ぐらいの大きなメガネのお姉さんの顔が覗き、大声を出した。

 

「佐藤の姉です! 師匠さんですか? 桜は怪人のところに?」

 

「ええ、これから私も行きます」

 

 お姉さんは車から降りて、唐突に私の胸ぐらを掴んだ。

 その目は私を睨みながら、涙を溜めていた。

 こんな状況で申し訳ないが、元々私は男なんでね、お姉さんがとても近くていい匂いがした。一部のひねくれた性癖の人にはたまらないかもしれない。

 でも、そんなこと思っていることを知られたら、ドン引きされるのは間違い無いので、平然と、毅然とした顔つきでお姉さんを見つめ返した。

 

「なんで、なんで止めてくれなかったの!

 私の家族、もうあの子だけなんだよ!」

 

 いくつもの被災地で経験したな。こういうの。

 

    もっとお前動きが良かったら死ななかった

    お前がもっと強かったら◯◯が死なないで済んだ

 

 いくつもの街で叫ばれた罵声が、頭に再度響き渡るようだ。

 誰かを守れなかったヒーローに向けられる、どうしようもない怒りと悲しみの矛先。

 特に仲間のヒーローが死んだ場所が出身地の街だったりすると、生き残りの私達への罵声が酷いんだ。

 

「……ヒーローは誰かがならなきゃ、しなきゃならない仕事です」

 

「あなたが、元ヒーローのあなたが戦えばいいでしょ!」

 

「3年くらいなんです」

 

「何が?」

 

「ヒーローの寿命です。と言っても数年前の統計ですけどね。彼女たちが長生きしてもらうためにも、世代交代のためにも、どんどん後進を指導し、怪人を倒す経験を積ませなければなりません」

 

「桜があと早くて三年で死ぬっていうの?」

 

「怪人にヒーローが殺される平均がね。甘やかされ過ぎたり、天狗になっている子はもっと早い。実戦が久しぶりの子もね」

 

「だからって……桜を戦わせなくたって……」

 

「みんな、そうなんです。家族や愛する人に怪人と戦ってもらいたくないんです。知らない誰かにその責を持って行って貰いたいんです。その人が死んでも、『ああ、そうなの、残念だったね』くらいで済みますからね」

 

「くっ……そんなに達観しているなら、なんであなたはヒーロー辞めたの?」

 

「馬鹿くさいから」

 

「はあ!?」

 

「ヒーローが命を懸けて戦っているのに、他の人なんて安全なところからヤジを飛ばしたり、テレビの報道で好き放題言うじゃない。あとで訴えられるかも、とは考えもしないでインターネットで中傷をするし……。人が死ねばみんなヒーローのせいにして、間に合わなければまたヒーローのせいにして……だから、うんざりして、戦うの辞めました」

 

 正確にはそんな感じのことを言ったらクビになったんだけどね。

 

「ふざ、ふざけないでよ!」

 

「それに、本当に、私の寿命もまもなく終わるんですよ」

 

 そう言って私は自嘲気味に笑顔を作ると、胸ぐらを掴むお姉さんの手の力が少し緩んだ。

 

「だから、私は最後くらい、好きに、頑張っている後輩達に肩入れしてやりたいと思っているんです」

 

 大きな爆発音のような音が響き、街のガラスがふるえていた。太陽と反対方向に目を向けると、大きな砂煙が立ち登っている。

 

「……あなたはこれから、あっち……怪人のところに行くの?」

 

「ええ、行くと約束しましたし、大切な後輩たちに死なれたくないんですよ。だから、正直、あなたの相手をしている暇なんてないんです」

 

 力のなくなった桜のお姉さんの手を払い、私は足元に転がった杖を拾い、歩き始めた。

 

「ごめんなさい。私がどうかしていた。あ、あの、近くまで送ります」

 

「結構です。怪人の方に向かって万が一のことがあれば妹さんが悲しみますよ」

 

 私は振り返らずに、左手で手を振りながら歩いた。

 

ーーー

 

 思ったとおり、悪くはない戦いっぷりだった。

 小学校のグラウンドを戦いの舞台に定め、そこから怪人を動かさないよう、じりじりと嫌らしく間合いを詰めては、反撃のタイミングで入れ替わるヒット&アウェイ。まさに2人だからこそできる、緻密で堅実な攻撃スタイルだ。

 被害を最小限に抑えつつ、相手には確実なダメージを与え、じわじわと焦燥と苛立ちを煽っていく。見た目こそ派手さはないが、理にかなった、いやらしいほどに理詰めの戦い方。

 怪人の発生した時は一瞬どうなるかと思ったけれど、怪人のオーラの大きさから、彼女たちなら対応できるだろうと踏んでいた。

 案の定、2人は人型の怪人を上手く攻めている。

 相手の攻撃を避けて、建物に被害がありそうなら地面に弾く。余力があれば、安全であれば避け際に遠距離攻撃を繰り出す。

 いい。凄くいい。

 あとは精度やタイミング。そこを磨くだけで、彼女たちは並の怪人には負けないだろう。

 

 やがて怪人が追い詰められ、強引に距離を詰めて佐藤、いやクリムゾンチェリーへと攻め込んでくる。

 彼女はそれを受け止め、瞬時に炎の壁を展開して相手の逃げ道を塞ぐ。もがき苦しむ怪人を狙い、まさかり次郎の巨大斧による斜め上からのフルスイングで叩き割ように振り下ろされると、怪人の上半身が斜めに落ちた。

 

「やった! 倒した!」

 

 クリムゾンチェリーの歓喜の声が耳元でまで響く、その瞬間、私は素早く杖を構え、エネルギーを込めた刃を斜め上に走らせた。

 居合切りのような動きから生まれた私のエネルギーの刃が二人の間をすり抜けて、額から顎まで大きく裂けた異形の口になんらかのエネルギーを溜め込んだ怪人へトドメの一撃が走り抜けた。

 私の一振りと怪人の捨て身の一撃に気づいて、2人は唖然としていた。

 

「油断しないで。怪人は死にかけていれば、死に物狂いで、共倒れを狙ってくる」

 

 危機に駆けつけて、華麗に弟子を庇う師匠……そんなの、人生で一度はやってみたかったんだよね。

 べつに計算してたわけじゃないけど、決まった瞬間、ちょっと脳内でファンファーレが鳴ったような気がする。

 テンションが上がりすぎて、脳がふわふわ沸騰してる感覚。あー、これ、やばいくらい気持ちいい。

 

「師匠! ありがとうご……わっ、すごい息……!」

 

 ポタポタと滴る汗と子犬の息みたいな細かい呼吸をする姿を見せた私は、あまり格好いい師匠ではないと思う。

 

「……あんなに全力で走ったの、何年ぶりだろ。しかも、杖ついてだよ……。ごめん、ちょっと汗が止まらない」

 

「えっと……その、ほんとに、ありがとうございます」

 

 照れくさそうに笑う佐藤の声に、心の奥がふっと温かくなった。

 助けに来たのは私の方なのに、救われたような気がした。たくさんの仲間たちの死を見送った無様なヒーローが、ほんの少しだけ許されたような気がした。

 

 考えすぎだ、と私はポリポリと頬をかきながら苦笑した。

 

「まあ、よくやったよ。初戦で無傷で怪人を仕留めたんだから、ほんと、えらいよ」

 

 私がそう言った途端、佐藤が満面の笑みで私に飛びついてきた。汗と砂埃のにおいが混ざった、戦い終わりのにおい。決して芳しくはないのに、不思議と嫌じゃなかった。

 

「師匠、素直に褒めてよー」

 

 彼女の体温が、今も生きてここにいることを伝えてくる。胸の感触に一瞬ぎょっとしながらも、そんな自分の動揺に、少しだけ苦笑いを浮かべる。

 私が前世で男だったなんて、きっと誰にもバレない。まあ、今、バレたら、佐藤から軽蔑のまなざしが返ってくるんだろうなあ。

 むしろ、美少女にドン引きされることがたまらないって人も、一定数いる。世の中、広いわ。

 まあ、……こうして、間近でこの子の成長を見届けられる……生まれ変わって、悪くなかったかもしれない。

 

「坂本も、こっち来なよ? ゆりゆり美少女の間に収まれるチャンスなんて、そうそうないよ? 人生、ノリと勢いが大事」

 

「いや、意味わかんないけど、違うから!」

 

 坂本は顔を赤くして大声でそう答えた。

 こいつ、言葉の意味はわからなくとも、おおよその意味は理解しているだろ。

 

「よし、今日は祝賀会しよう! 来々軒のラーメンで!」

 

「えー! お祝いでラーメンって、それはないですよ! お祝いならお寿司とか焼肉でしょう!?」

 

 佐藤は、有り得ない、とでも言いそうな絶望しきった顔で私を見つめた。坂本の方を見たら、坂本も、けちんないでくださいよ、と残念そうにため息を吐いていた。

 2人とも、無邪気で、ちょっと図々しくて、本当に、今を生きているんだな、と思った。

 

「最近の子は贅沢だなあー。わかったよ、おや……保護者の許可を取ったらどこでも連れていくよ」

 

「最近の子って、同じ年じゃないですか。

 いやー、持つべきものは師匠だね!」

 

「師匠の良いとこ見てみたい!」

 

 はしゃぐ二人の姿を横目に、昔の自分や、ふざけ合っていた憧れていた先輩の背中をぼんやりと思い出す。

 そして、同時に、帰り道にちょっとATMに寄っておこう……なんて現実的な思考がよぎった。




お気に入りへの登録、評価等ありがとうございます。励みになります。
誤字脱字報告もありがとうございます。

なお、お話は短くまとめようと思ってます。
だいたい10話くらいで終わりにする予定です。
ストーリーの大まかな流れは考えていますが、筆の進みは遅いので、5話あたりから毎日更新はできないと思います。
感想あれば是非お願いします。
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