蛍の埋葬人 ~追放TS美少女ヒーローは後輩を育てたい~   作:劇団おこめ座

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9 あなたが私のヒーロー

 地元のケーブルテレビって、なんかいいんだよね。地元のための番組だから、ディスりがほとんどない。むしろ良いところを探して褒めましょう的な番組仕様。出演するレポーターはどこか緩く、ギラギラした感じがしない。

 心が安らぐわー

 特に、地元の美味しいパン屋さん紹介とかマジ神だわ。

 でも、最近放送されたあのパン屋さん、私が退院するまで持つかな。店長、98歳だし。

 

 でも、今日はそんな穏やかな雰囲気の放送ではない。その地元ケーブルテレビで緊急の生放送が始まり、後輩2人が怪人たちと戦っていた。

 怪人の数は5人。中級2に下級3。数では明らかに不利だけど、2人の背中を預け合う隙のない連携は、まるで長年のパートナーのような動きだ。ヒーローエネルギーの消費も極めて安定し、無駄がない。

 まだまだ荒削りだけど、いい仕上がりだ。

 荒削りだからこそ輝く、伸び代の光。

 それを確かに感じていた。

 

 全ての怪人を駆除し終えても、しっかり油断せず残心を残しているところを見て、少し私は安心した。

(※残心を残す=一つの動作を終えた後でも緊張を持続させ心身の備えを怠らないところ)

 それとほぼ同時に胸の奥が一気に強張った。

 すごく嫌な感じがする。

 胸の奥にわだかまるような違和感。まるで肌の裏側を針でなぞられたような感覚に、私は呼吸を止めた。

 ああ、スクランブルだ。特に面倒なやつだ。

 この感じ、上級怪人ではない、さらに上だ。

 仕事の時間だ。

 

 だめだ、だめだ。他のヒーローに任せると心に決めたじゃないかと、私がいなくてもヒーロー協会があるからなんとかなるって。

 

 そう私がベッドの上で悶着していると、携帯電話に緊急避難速報が流れ、怪人の出没地点を差した。

 

 ふざけんなよ。

 

 私は潰れたカエルのような声でつぶやいた。

 

 出没地点は、豊川町

 今、2人のヒーローが戦いを終えた、その場所だ。

 テレビに目を向けると、空中にいた2人に一閃の光が走った。視線が吸い寄せられる。

 

 ああ、坂本、お前本当に優秀だな、最後まで本当に残心を忘れずに反応したな。

 だが、敵う相手ではなかった。

 

 坂本が佐藤を突き飛ばし、咄嗟に召喚した巨大な斧で身を守ろうとするが、斧ごと両腕が光の線によって切断された。

 そこで、ケーブルテレビの放送はお花畑の映像に切り替えられた。

 

ーーー

 

 地面に落ちた佐藤は、地面の感触すらも頭に入らなかった。

 飛ばされた理由が分からなかった。ただ、どこかで坂本が、何かに気づいたのだと思った。

 しかし、その理由はすぐにわかる。

 地面への衝突音が聞こえ、そちらに目を向けると、半分に破壊された斧があり、両腕がなく胸に穴の空いた坂本の姿があった。

 ひりつくような悪寒が肌に這う。

 佐藤の心が、恐怖の形にかちりと凍る。

 これは違う、今までの怪人とは『質』が違う。

 自分の実力と割が合わない、遥か格上の怪人だ、と。

 

 風が止まり、色彩が一瞬だけ褪せたように感じる。

 そして、その怪人は現れた。

 

 白い装束に身を包んだ、異様に長身の怪人。

 顔には、古びた神像のような能面。

 左右非対称の目が彫られ、無表情のまま、ただそこに立っている。

 目玉がぎょろぎょろと動き、佐藤に焦点を絞って、そして止まる。全てを見透かすような視線が、佐藤を貫いた。

 その姿を見ただけで、佐藤の心臓が跳ねた。

 本能が『これは殺される』と警鐘を鳴らす。

 そして、見覚えがあった。

 ヒーロー協会のリストに記された、出会ってはならない存在。災害級怪人と呼ばれるものだ。

 そのリストには『ミエルカミ』と書かれていた。

 そのリスト上の説明では、

『未来を見る特殊能力。討伐は多くのヒーローの死によりもたらされた。次、出現しないことを祈る他ない』

と絶望感すら凍りつきそうな内容であった。

 

 佐藤は咄嗟に一歩後退りをし、少しだけ右腕が上がった。

 

「右ダ」

 

と怪人ミエルカミは光線を放つ。

 ほんの一瞬の瞬きは、佐藤の右腕を貫通して、燃えるような痛みに、叫び声を上げた。

 

「貴様ノ、右腕ヲ上ゲル未来ヲ断ッタ」

 

 怪人の声は機械みたいな無機質な声だった。

 その声でケラケラと笑う。

 

 痛みに耐え、反撃に出ようとすると、

 

「左足」

 

 機械音と共に、左足に光の線が走り、あわて横に転がる。

 

「貴様ノ左足カラ、私ニ飛ビ込ム未来ヲ断チ切ッタ」

 

 ハハハ フフフ

 

 機械音が響く。

 佐藤は絶望した。

 どこを動かすか、何をするつもりかを当てられた。

 未来が見えている。勝てるわけない。

 体が重くなっていくのを感じた。

 すると、飛び込む勇気も、避けながら遠距離攻撃をすることも、坂本の救護に走ることも失敗してしまうだろうと、足が止まってしまう。

 今までどうやって戦っていたか、坂本がいたらどう動いていたか、師匠ならどんなアドバイスをくれるだろうか、そんなことが思いつかない。

 物陰に一度隠れようと思い、ふと顔をあげる。

 すると、その物陰の方へ光の線が走り、物陰を斜めに切り取った。

 ずしんと、音が響き渡る。

 無表情な怪人のはずの顔が、とても気持ち悪い笑みを浮かべているようだ。

 あぁ、逃げられない……

 

「動ク気ガナイナラ、遊ンデヤロウ」

 

 光の線が佐藤に向かって伸びる。

 死にたくない。

 佐藤はとっさに避ける。右に左に。

 

「チョコマカ、チョコマカト……」

 

 避けながら佐藤はなぜ自分が生きているか不思議に思った。

 攻撃される予感を感じながら、体は勝手に避けていく。

 ああ、そうか、悪意や殺気だ。

 佐藤はただそれを感じたままに避けていた。

 ずっと続けた訓練で、佐藤は感じるようになったのだ。攻撃を当てようとする悪意に。

 

『俺たち、前よりずっと動けるようになってる。師匠についてきてよかったって、今なら胸張って言えるんだ』

 

 佐藤は坂本の声が聞こえた気がした。

 少し前に言われた、自分たちの成長。

 

「本当に、私たち成長していたんだ」

 

 目では追えないはずの飛び交う光の線をただはひたすら避ける。

 師匠の訓練が目指していた先は、こういうことなんだ

 

 佐藤は怪人の悪意を避け続ける。

 当たるか当たらないかの紙一重。数本の髪の毛が切り取られ、空に舞う。

 自分を守ってくれた坂本の為にも、一矢報いなければ、と佐藤は怪人を睨み飛び込もうとする。

 横から衝撃が襲った。

 吹き飛ばされ、地面に転がり、砂埃に視界がかすむ。

 

「調子ニ乗ルナ、メスガキが」

 

 怪人の背には一本の人間の足二本分の太さの赤黒い触手が蛇のように蠢いていた。

 ああ、これに叩かれたのか、と佐藤はつぶやこうとするが、息が苦しくてできない。

 

「私ニハ、オ前ノ未来ガ見エル。勝機ガ見エテ今飛ビ込モウト瞬間、叩キ潰サレタ気持チハ、ドンナ気分?」

 

 苦しそうにあえぐその姿を見た怪人は、心が躍るようだった。

 勝てるかもしれない、という希望が一瞬にして砕かれた瞬間。とても、オイシイ。

 今度は少しずつ痛みつけて、許しを乞う姿を見たい、と思った。

 自分を倒せるヒーローなんて、この世界では数人いるかいないか。

 それだけの自負があった。

 なぜなら、自分には『未来』が見えるから。

 とても簡単に相手を迎え撃てる、と。

 

ーーー

 

佐藤桜

 

 勝てない。

 口の中が、鉄っぽい血の味とじゃりじゃりした、おそらく土とか砂が入った異物感。

 前には未来が見えるようなことを言い続ける怪人。

 私よりも強い坂本は既に倒れてしまっている。

 ……勝てない。でも、立たなきゃ……。

 悔しいほど震える足を手で強く抑え、立ち上がる。

 でも、立ち上がれない。中腰で、私は息を切らしていた。

 

 そんな時、風鈴の音が聞こえたようだった。怪人の攻撃も町の喧騒もなく、一つだけ、チリン、と音が響いた。この季節、目立つ音でも何でもないのに、まるで時を止めたかのように、その音が妙に響いた。

 

 ざしっ、ざしっ、と私の後ろの地面を踏む音が聞こえてきた。 

 怪人かと思えば、そういう感じではない。目の前の怪人も、うねうねと動かしていた触手がぴたりと止まっていた。

 私は、怪人から目をそらしてはいけないのに、後ろに目を向けた。

 

 黒い和服をまとい、腰まで伸びた黒い髪を揺らして、少女がゆっくりと近づいてきた。

 しかし、その歩みは少女らしさとはかけ離れているような歩き方だ。

 旅をして歩き疲れた、浪人のように、ふらり、ふらりと足取りが重い。

 足音はまるでお経のようにも、パッヘルベルのカノンにも聞こえる。

 私は……この少女を知っている。

 3年前くらい前に私の町を救ったヒーロー、そして両親の元には間に合わなかったヒーロー。私が、つかみかかって、顔を曇らせたヒーロー『埋葬人』

 その時よりも、少し大人びた彼女は同じくらいの年に見えた。

 その成長した顔は、誰かの顔に似ていた。

 

「クリムゾンチェリー、見ていたよ。いい動きだったね。何度も反復して行った訓練が、『考えて避ける』から『反射的に避ける』とか、『攻撃前に感じる違和感』の気づきに昇華する。訓練すれば誰でもできることだけど、その訓練を続けるのは苦しい。このまましっかり訓練を続ければ君はもっと強くなる」

 

 私の戦いをどこで見ていたのか、彼女はそう述べた。

 それ以前に、まるで私の日々の訓練を見てきたかのような彼女の言いぶり、私は彼女の姿に誰かを重ねた。

 

「それと、ヒーローの強さに重要なのは、想い、だよ。君のなんとかして、生き延びたい、あいつに勝ちたいという気持ちが、君のヒーローエネルギーを反応させた。相手が格上なのに、君はここまで耐えた。その想いを力に乗せること、くれぐれも忘れないで」

 

 埋葬人は私を褒めて、肩を叩く、すると私は緊張の糸が切れて座り込んでしまった。

 すごく安心する声。誰だったか。

 でも、疲れ切っていて頭が働かない。

 ……しかし、なんでだろう。怪人が攻撃してこない。

 埋葬人を待っている?

 いや、恐れているんだ。

 さっきの私と同じ、目の前に『どうしても勝てない存在』を前にした感じ。……何をしても、防がれる。

 そう思うと、何もできなくなる。

 怪人の目を見ると、ほら、確かに揺れていた。

 

「未来が見える、だったか?

 だったら、マサカリ次郎や君を狙った最初の不意打ちが避けられるなんて、おかしいじゃないか。いたぶるためにわざと、未来が見えるみたいな理由を後付けにしているだけ。

 まあ、こいつら怪人は、痛ぶるのが好きな変態野郎が多いから」

 

 埋葬人は疲れているのか、息を切らせながら、腕を振るうと、一振りの刀が握られていた。薄い緑色の、蛍の光のような淡い緑の刃の刀だ。

 

「そもそも、壊すことのしか興味ない奴らが、未来なんてたいそうなもの見えるわけないじゃないか。

 差し詰め、お前は、相手の行動パターンを記憶しながら、筋肉の動き、目の動き、表情を読み取って、高速攻撃をするだけの怪人じゃないか?

 未来が見えるんじゃなくて、これからの動きが読める上に、素早く攻撃できるだけ。

 まあ、確かに、お前のポテンシャルは高いよ。

 並みのヒーローでは苦戦するけれど、それだけだ」

 

 光線が埋葬人に向かって走る。でも、既に埋葬人は怪人の光線を出していた腕を切り払っていた。

 怪人は背中から元々一本だった触手だけじゃなく、破裂音と共に4本、いや6本くらいの触手を出して、埋葬人を掴もうとする。速い。私なら避けきれない。

 それを埋葬人は弾丸にも勝る速度のまま、地面を這う影のように翔け、隙間を縫って怪人の裏に周り触手をまとめて切断した。

 

「目は口より語る。戦いの相手が強ければ強いほど、自分の視線や表情から動きが読まれると思え」

 

 その言葉、誰かも私にそんなことを言った。体中真っ白の、ほとんど色がない子。

 怪人は大きく口を開け、埋葬人に向け、大きく光を放つ。

 

「未来が見えるだっけ? 詐欺師の上等文句。

 本当に口だけ達者な攻撃が好きだな」

 

 頭の上から振り下ろした埋葬人の刀が、怪人を真っ二つに分断し、爆発した。

 

 

 

 埋葬人はフラフラと歩きながら私に近づいてきた。

 しかし、あの艶のある真っ黒の髪の埋葬人とは違った。

 髪の毛が白髪交じりの、白く染めたインナーカラーの髪の毛に、喪服のような和服も、まだらに白く、ほとんど灰色となっていた。それはもう死に装束をまとった姿にしか見えなかった。

 

「さ、……佐藤、坂本は……どこだ」

 

 師匠と同じ声の埋葬人の手を取る。

 ほのかな温かみすらもう少ない。

  

「なんで……なんで……」

 

 なんで来たのか、そんなことわかっていた。

 私たちに生き延びてほしいから。

 でも、3年前に私は両親を助けてくれなかったとあなたを罵倒し、掴みかかったのだ。それでも、私を見捨てなかった。

 その優しさに、私は納得できなくて……感謝の気持ちがただひたすらに溢れて、こらえきれず、嗚咽が漏れた。涙が止まらなかった。

 

「それよりも……坂本は……まだ生きているか?」

 

 私は一人で立つのも辛そうな師匠の体を掴み、坂本君の落ちた場所に歩く。

 坂本君は両腕はなく胸には大きな穴が開いていた。辛うじて息はしていた。

 

「さすが、ヒーローだ……まだ生きているなら間に合う」

 

 ずさり、と師匠は私の体から離れ、坂本君の開いた胸に手を乗せた。

 

「な、なにをするんですか?」

 

「ヒーローエネルギーは、ヒーローの思いに反応して力になる。その思いの実現のために……佐藤、お前は坂本を死なせたいのか?」

 

 私は横に首を振る。

 師匠がやろうとしているのは、おそらくヒーローの治療だ。しかし、それは一人のヒーロー以外できないはず。そもそもそのヒーローもこの世にいない。

 

「もう、私のエネルギーでは足りない。佐藤、おまえの力を分けてくれ。手をつないでくれたらあとは私がやる」

 

 半信半疑の私の顔を見て、師匠は優しく、でも強い意志を乗せて語りかける。

 

「ヒーローができないことなんてないんだ。ましてや、誰かができたことなら……できないってことは、ヒーローそのものがあきらめたからだ」

 

 師匠の手を取り、私はヒーローエネルギーを師匠に送る。誰かにヒーローエネルギーを送ったことなんてないのに、不思議とできる気がした。そうなんだ。ヒーローの力って想う力なんだ。

 その瞬間、抜けてくエネルギーの他に不思議な感覚が体を満たしていく。

 光が、想いが、流れていく。

 これは師匠の揺るぎない自信と、自分そのものを信じる気持ち。

 だから、私も信じた。

 そうだ、できる。

 きっと、できる。

 

「坂本、死ぬなぁぁ!」

 

 師匠の叫び声とともに視界が真っ白になっていった。




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