呪いの女帝 両面宿儺   作:ジャズ

3 / 13
ちょっと筆が乗ったので書けるうちに進めました。

にしてもあの少年院の呪霊を相手に領域展開はオーバーキルが過ぎませんかね宿儺さんや……。


第三話

 特級呪霊を難なく祓った宿儺は、さてどうしたものかと考え込む。虎杖悠仁はどうやら肉体を取り戻すように手こずっている様子だ。その理由は宿儺には概ね見当はついていたが、問題はこの後。

 せっかくこうして肉体の自由を得られたのだから、今のうちにできることはしておきたい。今回の無茶苦茶な任務をまだ年若い子供に押し付けた黒幕どもの思惑には気づいていたが、このまま戻ったところでまた同じことの繰り返しになるだけだ。

 

「いや、考える時間も惜しいな」

 

 と、宿儺は思案するのをやめて歩き出す。その途中、「ああそうだ」と思い出したように独り言を発する。

 

「おい悠仁よ、聞こえておるか?今から訳あって、一度お主のことを殺すが、その後ちゃんと治癒してやるから、今は私に任せておけ」

 

 と、内なる肉体の主人に語りかける。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 たった1人少年院に残った虎杖を待つために、釘崎を救助した彼は負傷していた彼女を補助監督の伊地知に任せ、少年院の入り口に残っていた。

すると、少年院に展開されていた不気味な呪いの気配が消えたことに感付く。

 生得領域が消えたということは、あの場にいた特急呪霊が祓われたことになる。あとは虎杖の帰還を待つだけ。そう考えた伏黒だったが……

 

「残念だが、此奴(虎杖)は戻らんぞ」

 

 背後から突如として現れた、強烈な呪いの気配。虎杖に受肉した両面宿儺が伏黒の後ろに立っていた。圧倒的な強者の圧に思わず身構える。

 

「まあそう怯えるな、今は気分が良い。少し話そう」

 

 そう言って宿儺は伏黒の前へと歩き出す。

 

「これは、なんの縛りもなく私を使ったツケだろうな。私と変わるのに少々手こずっているようだ。しかしそれも時間の問題だろう……そこで、私に今できることを考えた」

 

 そう言って宿儺は制服のジッパーを胸元まで下ろす。そしてその豊かな胸の谷間の中へ腕をゴリッと突っ込むと、多量の血飛沫を撒き散らしながら虎杖の肉体から心臓を抉り取った。「何を……!?」と驚愕する伏黒に対し、

 

「此奴の身体を貰い受ける」

 

 と、宿儺は抉った心臓を無造作に放り捨てた。

 

「私はコレ無しでも生きていけるが、此奴はそうはいかん。此奴と変わることは死を意味する。そしてさらに……」

 

 ダメ押しだ、と先ほど特級呪霊から取り上げた宿儺の指をごくりと呑み込んだ。

 

「さて、これで晴れて自由の身だ。もう怯えていいぞ、殺す」

 

(まあ、そんなつもりは全くないがな)

 

 宿儺は内心そう付け加える。本音を言えば、宿儺は伏黒も虎杖悠仁も殺すつもりは全くない。

 この数千年で両面宿儺は邪悪極まりない呪いの女帝として名を馳せているが、その本質は「人間が好き」な生物である。その理由は、「人間が幾多の困難に対してあらゆる知恵と努力を持って全身全霊で挑み、それを乗り越える様」に美しさを感じているためであり、それを見るためであれば自らが壁となることも厭わない、そういう存在なのだ。

 

 故に今回、宿儺が伏黒の前に立ちはだかった理由は、「伏黒の潜在性を自ら測るため」である。前々から宿儺は、伏黒にも虎杖と同等のポテンシャルがあることを薄々感じていた。

 

「……虎杖は戻ってくる。その結果自分が死ぬことになってもな。そういうやつだ」

 

 伏黒の言葉に宿儺は中々人を見る目がある奴だ、と感心する。

 

「買い被りすぎだ、此奴は多少頑丈で鈍いだけに過ぎぬ。先刻も、今際の際を前に1人泣き喚いていたぞ」

 

「断言する、此奴に自死するだけの度胸はない」

 

 少なくとも今はな、と宿儺は付け加える。その言葉に伏黒は一瞬訝しんだ表情を浮かべるが、欠損していたはずの左手が再生しているのに気づき、「自分が優勢に立って心臓無しでは勝てないと思わせる」という作戦を立てた。

 両手を交差させ、鳥の式神である鵺を召喚した伏黒は一気に飛び出す。

 

「せっかく外に出たのだ……広く使おう」

 

 式神と同時に突っ込んできた伏黒の猛攻を、宿儺は身軽にひらひらとかわす。「式神使いが自ら突っ込むとは面白い」と感心しながら、まるで蝶の舞のような身のこなしで動き回る。

 

「もっとだ、もっと……もっと!」

 

 お前はもっとやれるはずだ、こんなものではないはずだ、という期待とともに、宿儺は容赦無く伏黒を殴り飛ばす。

 

 死なない程度に加減していた攻撃ではあるが、それでも一撃一撃が伏黒にとっては常軌を逸した威力であり、すでにこの時点で格の違いを全身で感じ取っていた。召喚した鵺はすでに限界が来ているため、破壊される前に一度影の中に戻す。

 

「なるほど、お前の式神……影を媒介にしているのか」

 

「……ならなんだ?」

 

「いや、宝の持ち腐れだな、と思ったまでよ」

 

 どういう意味だ、と訝しむ伏黒だったが

 

「まあ良い。どのみちこのままでは、ここは治さぬぞ?」

 

 と、大きく孔の空いた胸元を指差す宿儺。目論見はすでにお見通しだったことを悟った伏黒はゆっくりと立ち上がる。

 不意に、伏黒の脳裏に最愛の姉の姿が浮かぶ。彼にとって、彼女はまさに善人の象徴のような存在だった。誰よりも幸せになるべきと思っていた存在だったが、しかし彼女は呪われ今も寝たきりとなっている。しかし、だからこそ……これ以上善人が不幸にならないように。

 

 少しでも多くの善人が、平等を享受できるように。

 

(俺は不平等に、人を助ける……!)

 

 再起した伏黒に今までとは比較にならない濃密な呪力と気迫が放たれた。それを全身で受け止め感じ取った宿儺は、歓喜に満ちた表情で笑い出す。

 

「ケヒッ……良い、良いぞ……それで良い!」

 

 そうだ、これが見たかったのだ。やはり自分の目に狂いはなかった。

 

「魅せてみよ、伏黒恵!」

 

「“ 布瑠部由良由良”」

 

 手印を結び、八握……と言いかけたところで伏黒は呪力を解いた。

 

「言っておくが、俺はお前を助けたことについて論理的な思考を持ち合わせていない」

 

 肉体に刻まれていた模様が徐々に薄れていき、女体らしいふっくらとした体つきは徐々に引き締まった少年のものへと戻っていく。

 

「俺はお前を助けたことを一度だって後悔したことはない」

 

「……そっかあ〜」

 

 そして放たれたのは、いつもの少年の無邪気な笑顔。

 

「やっぱ伏黒は賢いからさ、俺よりもいろんなこと考えてるんだろ。俺は伏黒の真実は正しいと思う」

 

 でも俺のいうことも間違ってるとは思わん!と虎杖は続けるが、心臓を抜かれたことへのダメージを打ち消すことはできなかったようで、口から多量の喀血を溢す。

 

「あーー、悪い……そろそろだな。伏黒も釘崎も五条先生……は心配いらねえか。みんな、長生きしろよ……」

 

 そう言い残し、虎杖悠仁は地面に倒れ込んだ。それを伏黒は、悲痛な表情で唇を噛み締めながら見つめていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「存外、現代も捨てたものではないな」

 

 生得領域内に戻ってきていた宿儺は、心底満足したと言った様子でほくそ笑んでいた。虎杖悠仁に伏黒恵、自身が大いに期待する彼らがこの先どのような壁にぶつかり成長していくのか、それが楽しみで仕方がないようだった。

 すると、領域内に1人の少年が姿を現す。

 

「ケヒッ、来たな……」

 

 現れたのは彼女の器である少年、虎杖悠仁。

 

「そんなところに立っていないで、ほらこっちにおいで」

 

 蠱惑的な笑みで宿儺は手招きした。てっきり死んだと思っていた虎杖は訳がわからないと言った様子だったが、宿儺の手招きに吸い寄せられるように彼女の元へと歩み寄った。

 

「こうして顔を合わせるのは初めてだな?」

 

「お、おお……アンタ、宿儺だよな?ここはどこだ?」

 

 宿儺の隣に座らされた虎杖はあたりをキョロキョロと見回しながら問いかける。そんな様子に宿儺は(何と愛らしい奴よ)と内心気分が高揚しつつも、落ち着いた声で応える。

 

「ここは私の生得領域の中だ」

 

「しょうとく……伏黒が言ってたような……」

 

「心の中、とでも言い換えて良いかもな」

 

 つまり私たちはまだ死んでいない、と宿儺は続ける。

 

「さて、そこでだ悠仁よ……私と縛りを結べ。身に余る使役を貪ればどうなるか、お主もよくわかったであろう?」

 

 虎杖の肩に手を回し、寄りかかって顔を近づけ囁くように語る宿儺に対し、虎杖は「縛りってなに?」と間抜けな顔で問いかけた。

 一瞬目が点になった宿儺だが、そういえば此奴は呪術について素人だったと思い返し、一度咳払いを挟んで説明する。

 

「縛りというのは誓約だ。守らねば相応の報いを受けることになる。利害による“縛り”、呪術における重要な因子の一つだ」

 

 これで良いか?と宿儺は虎杖の顔を覗き込むと、

 

「つまり、俺は宿儺と契約を結べばいいってわけ?」

 

「概ねそういうことだ。縛りの内容は2つ。①私が“契闊”と唱えたら、一分間私に身体を預けてほしい。その間、私は誰も殺さぬし傷つけん。“お主も含めて”な。そして②、この話の内容を忘れること」

 

 宿儺から提示された条件について虎杖は「ああ、わかった」と二つ返事で了承。

 

「……まて、悠仁よ。言い出した私がいうのも何だが、もう少し用心というものをだな」

 

 心底呆れたという顔で頭を抱える宿儺。しかし虎杖は「でも……」と続ける。

 

「宿儺なら、“いい”んじゃねえかなって」

 

「……その心は?」

 

「宿儺はさ、確かに呪いだけど……なんていうか、うまく説明できねえんだけどさ……信頼できるんじゃねえかなって思うんだ。さっきだって、俺を乗っ取ろうと思えばできたのにそうしなかった。あくまで俺の意思を尊重してくれた。宿儺ってさ、ほんとはいい奴なんだよ、きっと」

 

「だから俺は、宿儺を信じるよ」

 

 と、澄んだ瞳で宿儺を見据え、きっぱりと告げる虎杖に、宿儺は胸の奥が「ドクン」と波打つものを感じ、思わずため息を吐いて目元を押さえた。

 全く。この少年はどこまでも愚かで浅ましくて……けれどそれと同じくらいに真っ直ぐで純粋で……

 

 

「……なんと愛らしいやつよ」

 

「えぇ!?」

 

 思わず宿儺の口から漏れた本音に、虎杖は素っ頓狂な声をあげる。

 

「ケヒッ、では決まりだな。しかし復活する前に……」

 

 そう言って宿儺は虎杖の両手を素早く掴むと、彼にのしかかって押し倒す。

 

「ちょ……宿儺、なにを……!?」

 

「これこれ暴れるでない。活きがいいのは良いことだが、こうも動かれるとこそばゆいぞ」

 

 宿儺の柔らかで暖かな柔肌と女体が虎杖と重なる。

 

「しかし近くで見るとお主……良い顔立ちをしているな。全く愛いやつめ」

 

 虎杖の顔を至近距離で覗き込むと、頬に唇で優しく吸い付き、ザラザラとした舌で舐め上げる。

 

「アッーーーー!伏黒ぉー!釘崎ぃーーー!!五条せんせーーーー!!!助けて、たべられるーーーーーーっ!!!」

 

 情けなく悲鳴を上げる虎杖だったが、そんな彼の様子を見て一層頬を赤らめた宿儺は

 

「ケヒッ、良いではないか。先ほどの縛りでどうせ忘れるのだから……

少しくらい、“味見”してもよかろう?」

 

 と、宿儺は虎杖の首筋にかぷり、と優しく噛みついた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 場所は変わって呪術高専の医務室。虎杖の遺体をこれから解剖しようとしていた矢先、突如として起き上がった虎杖に医師の家入と伊地知は驚愕し、五条はくっくっと笑いを堪えていた。

 

「悠仁!……おかえり!」

 

「へへ、ただいま!」

 

 五条と虎杖は嬉しそうにハイタッチを交わす。

 

 

「あれ?悠仁、首元に噛み跡みたいなのついてるよ?」

 

「え?うわほんとじゃん!いつついたんだこれ」

 

 虎杖としては全く見に覚えのない噛み跡。それもそのはず、なぜならそれをつけられた記憶は、内なる宿儺によって消されているのだから。

 

 

「……ケヒッ、やはり若いやつというのは良いものよ」

 

 心なしか肌が艶めかしくなっている宿儺は生得領域の中から再び虎杖の様子を観察し始める。

 

「まだまだ楽しませてもらうぞ?悠仁よ」

 

 

 

 




読了ありがとうございます。

正直今回の話は批判も覚悟で書きました……でも色気のある宿儺を書いてみたかったんです……。

R-18は今のところ書く予定はありませんが、もし要望があれば書きたいなと思います(こんなのに需要があるかは分かりませんが……)


7/28追記

R18版を作成いたしました。もしご興味がありましたらぜひ。

https://syosetu.org/novel/382395/

次回もよろしくお願いいたします。

幕間でみたい話

  • 女教師宿儺パロ
  • 虎杖と一緒に漫喫でジ◯ンプを読み漁る宿儺
  • 宿儺が野薔薇と一緒にスイーツ巡り
  • 本作の宿儺マテリアル
  • 宿儺の1日in虎杖
  • 1日外出録スクナ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。