呪いの女帝 両面宿儺   作:ジャズ

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先日前書きのところに追加したのですが、第三話の途中にあったR18展開の小説をR18版で投稿いたしました。もしよければそちらもご覧ください。

さて、今回は順平真人回です。


第五話

 五条悟から言い渡された虎杖の任務。今回からは引率ができないので代わりの人物を連れてきた。七海建人、自己紹介で「呪術師はクソ」などと宣った時は引きかけたが、事実に即し己を律すると言うその在り方には概ね好印象を持っていた。見込んだ人間でなければ即チェンジを言い渡すところだったが、彼ならば虎杖のいい手本になってくれるだろうと様子を見ることにした。

 

 早速、事件の現場となった映画館に赴いた彼ら。そこで犠牲となった人間を見たときは、流石の宿儺も顔を顰めた。頭部が異様に変形させられた3人の学生。十中八九、何かしらの呪術によるものであることは感じ取れたものの、なんとも趣味が悪いと思わず呟く。

 微かに残っていた残穢を追って屋上に向かうと、そこに待ち受けていたのは2体の呪霊。七海と虎杖がそれぞれ手分けして対応することになり、彼の術式によって呪霊の四肢は一撃で分断された。

 そして虎杖の初陣。この数週間で五条と宿儺の手解きの下編み出した、彼の渾身の技。虎杖の瞬発力に呪力操作が遅れることによって生じる、一度の打撃で2度の衝撃が襲いかかる攻撃。五条によって『逕庭拳』と名付けられたその技は、実際見てみるとやられる側は相当嫌なものだろうと宿儺はニヤニヤと見つめる。

 だが、虎杖の身体を通じて宿儺に感じ取った先ほどの感触に何か違和感を持った。あれはどうも呪霊のものではない。むしろ、生きた人間を殴りつけた時の感触に近かった。

 そしてそこで、宿儺は思い出す。つい先ほどまた、頭を異形に変えられてしまった少年たちの遺体。点と点が線で結びつき、宿儺は何かに気づいた。

 

「いかん、待て!悠仁」

 

 トドメを刺そうとしていた虎杖を叫んで制止する。彼女の叫びで手を止めた虎杖に、おそらく同じことに気づいたであろう七海が駆け寄る。

 

「これを見てください。わたしの携帯で撮影しました」

 

 彼は手持ちのスマートフォンカメラで撮影した、切り落とされた呪霊の腕を映す。手首には腕時計らしきものが付けられているのが見受けられたが問題はそこではない。

 

「?こう言うのって写真には写らないんじゃ……」

 

 そこで虎杖の方も、何か嫌な予感を悟ったのか言葉を詰まらせる。

 

「落ち着いて聞いてください。我々が戦っていたのは……」

 

 

 

 

『人間だよ。いや、“元人間”と言った方がいいかな』

 

 電話口から結果を告げる高専の医師、家入。やはり宿儺たちの予想通り、彼らは術式によって変形させられた人間だったのだ。宿儺は人間を手にかけてしまったことについて虎杖が落ち込んでいないか心配だったが、それと裏腹に彼はこの事件の主犯に対して「趣味が悪すぎだろ」と怒りを露わにし、杞憂に終わった宿儺は「それでこそ私の悠仁だ」と得意げに微笑む。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 重要参考人であった吉野順平と接触した虎杖。初めて出会った少年だったが、ここ最近の映画漬けの日々ですっかり映画通になった虎杖は、元々映画鑑賞が趣味だった吉野とすぐに打ち解けあった。しかし、彼に残る映画館に残っていたものと同じ呪力の残穢に気付いた宿儺は眉を顰める。

 

「この順平という子、すぐに死ぬであろうな」

 

 そして全てを悟る。彼が吉野順平と出会ったのも、全てここまで黒幕の思惑通りであるということに。そんなことを知る由もなく、2人の少年が

楽しそうに会話を弾ませる。このような平和な光景も、宿儺の目にはいずれぐちゃぐちゃに壊される未来が容易く見えていた。

 ふと宿儺の脳裏に七海の「呪術師はクソ」という言葉が過ぎる。

 

「本当に糞なのは、この世界そのものなのかも知れぬな」

 

 己の中に湧き上がる虚しさを埋めるためか、どこからか取り出した琵琶を領域内で弾く宿儺。甲高い弦の音色が、だだっ広い生得領域の中に寂しく木霊する。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 その翌日。吉野順平の通う高校で事前通告のない帳が下ろされ、異変を察知した虎杖が校内へ突入。体育館の扉を開けると、床に倒れ込んだ無数の学生と、壇上で向かい合って立つ2人の男子生徒。

 

「何してんだよ、順平!?」

 

「……引っ込んでろよ、呪術師」

 

 冷めた目で吉野順平はクラゲ型の式神を侍らせてそう告げた。そして2人は激しくぶつかり合う。昨日2人で語り合ったことも、共に夕食を楽しんだことも全てが遠い昔の出来事であったかのように、彼らは己の意志を通さんと呪い合う。

 そんな彼らを、宿儺は悲痛な面持ちで見守る。まだ社会にも出ていない子供が、運命と呪いに翻弄された末に殴り合う。

 

「ああ……なんと、なんと嘆かわしいことか」

 

 宿儺は人があらゆる壁を乗り越える生き様を見守ることが大好きだ。けれどそれは、人生における逆境や自身が定めた高い目標であるべきで、このような誰かに仕組まれ、弄ばれた末のものであってはならない。けれど宿儺は、もう吉野順平は救えないと判断していた。人の心を知らない醜い呪いに魅入られ、愚かな受け売りの論を振りかざすその様は、彼女の目には四肢を糸で繋がれた哀れな操り人形のように映っていた。

 

「順平が何言ってんのか、ひとっつもわかんねえ」

 

 彼が口にした、人か心がまやかしだという言葉。けれどそれは、それだけは認められない。だって、昨日一緒に夕食を楽しんだ順平の母に顔を向けて言えるのか。

 

「オマエはただ……自分が正しいって思いたいだけだろ」

 

 呪いを込めて、虎杖は吉野を思い切り殴る。衝撃で彼は校舎内へ吹き飛んでしまう。

 

「順平の動機は知らん。何か事情があるんだろ……でも人に心がないなんて、あの人の前で言えんのかよ!?」

 

「人に心なんてない……無いんだよ!だってそれじゃあ……ぼくも母さんも……人の心に呪われたっていうのか!?そんなのあんまりじゃないか……」

 

 悲痛に満ちた声で、彼は叫んだ。絶望と失意に満ちた彼の、心からの叫び声だった。

 

「もう、何が正しくて何が間違ってるのかも……っ!」

 

 分からないままに、吉野は呪いを振るった。式神の毒針が虎杖めがけて飛来するが、しかし彼はそれを避けることもせずにただ受け止めて。

 

「な、なんで……避けないんだよ……!?」

 

「ごめん……何も知らないのに、偉そうなことを言った」

 

 虎杖は理解したのだ。吉野の心が、散々呪いに弄ばれてもう壊れ切ってしまったのだと。けれどだからこそ、今彼には寄り添う存在が必要なのだ。

 蹲る吉野の元に、虎杖はゆっくりしゃがみ込む。

 

「だから、話してくれ。何があったのか」

 

「俺は順平を絶対に呪ったりしない。一緒に戦おう!」

 

 今ならやり直せる。だから一緒にやろうと、手を取り合う彼らの背後に迫る、強大な呪いの気配。

 

「初めましてだね、宿儺の器」

 

 そう言って特級呪霊である真人は、左腕を変形させて虎杖を捉え、壁に押し付ける。

 虎杖は理解した。コイツこそが全ての元凶だと。

 

「順平!そいつとどういう関係かは知らん!けど今は、逃げてくれ!頼む!!!」

 

「虎杖くん落ち着いて、真人さんは悪い人じゃ」

 

 そこまで言い及んだ瞬間に吉野は気づく。これまでの真人の言動。“人をどこまで巨大化させられるかの実験”と称して見せられた、異形に変えられてしまった人間の姿を。

 

「順平ってさ、多分頭いいんだろうね。けど熟慮は時に短慮以上の愚行を招くものさ。キミってその典型」

 

 人の呪いは吉野の肩にゆっくりと手を添える。

 

「順平って、キミが馬鹿にしている人間のその次くらいにバカだからーー

だから、死ぬんだよ」

 

 そう言って、真人は邪悪に嗤う。

 

 

『無為転変』

 

 

 真人が術式を発動した瞬間、吉野の身体がドクンと跳ね、真っ青な異形の怪物へと姿を変えた。

 

「さあ、ラウンド2だ」

 

 真人の掛け声で化け物とかした吉野が虎杖に襲いかかる。彼はなんとか吉野を取り押さえ、「しっかりしろ順平!」と宥めるように叫ぶ。

 

「すくな、っ……宿儺アァァーーーー!!」

 

「なんだ?」

 

 虎杖は己の内にいる宿儺に呼びかける。もしかしたら、あの時自分を生き返らせてくれたみたいに、彼女ならばなんとかしてくれるかも知れないという、淡い期待と願いがあったから。

 

「なんでもする!俺のことは好きにしていい!!だから、あの時俺の心臓を治した時みたいに……順平を治してくれ!!」

 

 微かな希望を持って宿儺に頼み込む。しかし……

 

「無理だ」

 

 帰ってきたのは、無慈悲な宣告。

 

「傷や怪我であれば、反転術式で治せる。しかし魂を変えられてしまっては……反転術式ではどうすることもできん」

 

「そ、んな……!?」

 

 淡々と告げる宿儺に、虎杖は愕然とする。

 

「……すまない、悠仁。もうこの子を救う手立てはない」

 

 トドメとばかりに、吉野は助けられないという事実を突きつける。

 一連のやり取りを見ていた真人は、宿儺が吉野の治癒およびそのための縛りを断ったことを意外に思っていたが、まあこれはこれでと笑い始める。

 

「惨めだなぁ!オマエの全部を使って宿儺に寄りすがっても何にも救えないなんてさぁ!!ほんっとうに惨めだ!!」

 

 ゲラゲラゲラと校舎中に響く醜悪な笑い声をあげて虎杖を嘲笑する真人。

 

(あぁ……そうか。コイツはどこまで行っても“呪い”なんだ)

 

 その瞬間、虎杖の中で何かが弾けた。

 

「ゆ……うじ」

 

 虎杖の服を掴むのは、異形に変えられてしまった吉野。

 

「な……………んで……………?」

 

 彼が最期に、どういう意図でこの言葉を発したのか。今となっては、吉野本人にしか知り得ない。しかし確かに言えるのは、他人に否定され、なじられないがしろにされてきた彼が、たった一つの興味本位の悪意によって無惨に殺されてしまったという事実だけだった。

 

(……許せ、吉野順平よ)

 

 涙を浮かべて地面に崩れ落ちる吉野に、宿儺は詫びる。彼女としても、吉野がこんな末路を迎えることは容認できるものではなかった。せめて彼の魂が、死後呪いに転じるのではなく安らかに浄土へ昇華していくことを願うばかりだ。

 

「アハハッ、あーーもう死んだ?ちょっと乱暴に形変えたからね。こんなもんかな?」

 

 さて、ここで一旦話は逸れるのだが、本来の歴史であれば彼が“それ”を弾けさせるのはもう少し先の話であった。しかし今回たどる物語では、虎杖悠仁は五条悟に加え、両面宿儺という呪術を知り尽くした2人の最強の師の導きによって、本来の彼よりも一足早く成長している。加え、今回彼が爆発させたその強大な怒りは真人のみに向けられている。

 

 これらふたつのイレギュラーが合わさったことで、幸か不幸か……彼はこのタイミングで“黒い火花”の一瞥を受けることになる。

 

 

 

『 黒 閃 』

 

 

 

 黒い稲光を纏う呪力が真人の顔に炸裂し、衝撃で真人の身体は階段を突き抜け壁に大きくめり込む形で吹き飛ばされる。

 

「あふがっ……!?」

 

 顎が砕かれ、口からダラダラと多量の血を吐き出す真人。何が起きたのか分からず、目の前の虎杖を見てようやく気づく。彼は宿儺の器、つまり一つの肉体に魂がふたつ同居している状態。つまり、虎杖は自然と魂の輪郭を知覚できているのだ。

 

「……ぶっ殺してやる」

 

 生まれてまだ間もない真人にとって、初めて向けられる強大な殺意。加えて、黒閃を決めたことによるバフの恩恵で高濃度の呪力が放たれているのも相まってその迫力は凄まじく、真人は思わず冷や汗を流す。

 

「祓うの間違いだろ、呪術師」

 

 しかし真人は強気で虎杖を煽って見せた。彼の目的は虎杖に宿儺と縛りを結ばせ、あわよくば呪霊側の仲間に引き込む。そのために、虎杖に利害を超えた憎しみを抱かせて宿儺に交渉の機会を持たせるのが最大の狙い。

 

 だが、真人は知る由もなかった。彼がどうこうしようともすでに虎杖と宿儺は縛りを結んでいること。そして何より、真人が宿儺の地雷を踏みまくったことによって、呪霊側の仲間に引き込める可能性はすでに0であることを。

 

 怒りのままに叫びながら拳を振るう虎杖の内側で、宿儺は逆に歓喜の高笑いをあげていた。

 

「悠仁よ……よくやったぞ。このタイミングで黒閃を決めるとは!おめでとう、お主はまだ強くなれる!」

 

 宿儺の言葉が聞こえているのか否かは定かではないが、虎杖はただ己の憎悪と怒りの赴くままに真人を殴りつける。しかしそれを真人は腕を器用に変形させてかわしていく。

 

(何百回でも何千回でも……ぐちゃぐちゃにしてやる!!)

 

 一方の真人は、虎杖では自分には勝てないとたかを括っていた。故に虎杖を早々に戦闘不能にし、彼の内側にある宿儺を呼び覚ますことを画策する。

 そのために、まずは腕をワイヤー状に変形させて校舎を切り刻み、虎杖を校舎外へ叩き出す。運動場に着地した彼めがけて追撃のドリルを放つが、その攻撃はかわされてしまった上にドリルを繋いでいる自分の肉体を掴まれてしまった。

 ならばと、彼が掴んでいる肉体を変形させて棘を突き出して手のひらを串刺しにする。しかし虎杖はその攻撃に怯むどころかむしろ力任せに引っ張り、真人を校舎から引き摺り下ろす。

 

「放すだろ、普通」

 

 呆れる真人に対し、宿儺は虎杖の狂気的な行動に思わず手を叩いて笑い、「さすがは悠仁だ。あとで褒めてやろう」などと口ずさむ。

 

 真人へ接敵した虎杖は彼の腹部を思い切り殴りつけるが、しかし真人はカウンターで自分の身体を変形させて虎杖の身体を串刺しにしてしまった。

 

「……キミじゃ俺に勝てないよ。さっさと代わりなよ、宿儺にさ」

 

 そう言って虎杖の体に掌を押し込み、『無為転変』を発動した。

 

 しかし次の瞬間、真人は彼女の生得領域へと引き摺り込まれた。彼が見たのは、無数の骨と屍が積み上げられた山の頂点に座する宿儺の姿。

 

「私の魂に触れるか。それが貴様の在り方であれば仕方あるまい。一度は許す……だが二度はない」

 

 真人はこれまで出会ってきた者たちとは比べ物にならない圧倒的な強者を前に何もできずに動けなくなってしまう。

 

「分を弁えよ、痴れ者が」

 

 自分を見下ろす深紅の瞳と、千年の時を経て恐れられ続けた呪いの女帝の迫力に、真人は初めて恐怖という感情を得た。

 

「……代わんねえよ、言ったよな」

 

 虎杖の両手が真人の頭を掴む。

 

「ぶっ殺してやるって」

 

 そして虎杖は思い切り真人の顔面めがけて頭突きを喰らわせる。すでにゾーン状態に入っている虎杖は、この体制にもかかわらずただの頭突き攻撃でも黒い火花を発生させた。

 真人の顔はぐちゃぐちゃに潰され、さらに回し蹴りの追撃で吹き飛ばされた。

 この機を逃すまいとさらに追撃を狙う虎杖だったが、真人は一瞬で虎杖の背後に回り込んでいた。醜悪な笑みの真人が肥大化した右手を振り下ろすその直前、呪布の巻かれた鉈がそれを弾いた。

 

「ナナミン!」

 

 七海建人がこのタイミングで合流を果たした。

 

 

 




読了ありがとうございます。長くなりそうなので一旦ここまでにします。

順平は結局、原作と同じルートを辿る結末となりました。なんというか、虎杖があそこまでブチ切れる説得力を持たせるにはやはりこうするしかなかったのかなぁと思ったからです。

でもアニメ版の虎杖の「ぶっ殺してやる」ってセリフにはこちらまで恐怖してしまいました。声優さんってすごい。

では次回もよろしくお願いします。

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