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虎杖たちの元に合流した七海建人。事前に虎杖には現場に行かないよう忠告していたのだが、やはりこうなってしまったかと嘆息する。
「説教は後で。まずは現状報告を」
「……2人、助けられなかった」
七海の問いに虎杖は悲痛な面持ちで目を伏せながら答える。七海としては虎杖本人の現状を問うたつもりだったのだが、「どこまでも他人のことを……」と思わずつぶやく。
「まずは君の体の事を」
「俺は平気。いっぱい穴空いてっけど」
平気の意味……と七海は突っ込むが、真人に貫かれて開けられた虎杖の傷は内なる宿儺の手で反転術式をかけられて治療されていく。
「なぁんだ、ピンピンしてるじゃん七三術師。お互い無事で何よりだね、ハグでもするかい?」
再会を祝して、とニヤケ顔で言う真人の鼻からは赤色の血がドロリと流れ出ている。
「虎杖くん、あの血は?」
「え、俺が殴った」
いつだと問いただすと「いっちゃん最初」と言う答えを返す。
「奴の手には触れましたか?」
「うん」
そこまで聞いて七海は情報を整理する。
①虎杖の攻撃は真人に効く
②虎杖には真人の術式は効かない=殺せない理由がある
ここまで整理した七海は、どちらにせよ今この場に虎杖がいるのは好都合であると判断。
「虎杖くん。私の攻撃は奴には効きません」
「え、は?なんで!?」「理由は説教の時に」
「ですが動きは止められます。お互いが作った隙で攻撃を畳み掛けていきましょう」
敢えて多くは語らない。2人とも、ここでやるべき事をしっかりと認識している。
「ここで確実に祓います」
「応!」
七海と虎杖の2人の同時攻撃に対し、真人は様々に身体を変形させて応戦する。一度身体を小さくしてみた彼だが、このままではまた虎杖の黒閃を受けて致命傷を受ける可能性があったため、まずは2人を分断する作戦に出た。口から「ヴォエッ」と体内に収納していた改造人間たちを吐き出すと、無為転変で小さい子供サイズに変形させたのち、「短髪のガキを殺せ」と命じて飛び出させる。
虎杖は人間を殺せない、と判断しての行動だった。改造人間に追われ、真人の目論見通り虎杖を分断することに成功し七海を追い詰める。
その間、虎杖は自分に襲いかかってくる改造人間に手こずっていた。一体を掴んで地面に叩きつけると、「あ……そぼ……」と言う譫言のような言葉を発する個体の声を聞き、元々は小さい子供だったのかもしれないと言う予感がよぎり、虎杖は一瞬拳が止まってしまう。
その隙にもう2体の改造人間に押し倒され、真上にのしかかられる虎杖。しかし相手が人間であるとわかっている虎杖は、どうしても攻撃の拳が鈍ってしまう。
「さあどうする……どうするんだ悠仁よ」
全てを見守っている宿儺は、身を乗り出すようにして固唾を飲んで見守っていた。虎杖のような純粋で優しい人間が、いくら形を変えられ既に手遅れの状態とは言え、化け物にされた人間を殺せるのかどうか。
「お……がい………ころ……し、て……」
涙を流して懇願する改造人間。その悲痛な願いを受け、虎杖は決断した。
「……どちらかと言えば、バカは貴方です」
真人によって拘束され、危うく改造されるところだった七海。明らかに虎杖を舐め腐っている様子で話しかける彼に対し、七海は虎杖のことをまるでわかっていないとばかりに吐き捨てる。
その直後、真人の腕を真上からへし折る。そして虎杖と七海は完璧とも言える連携プレーを見せ、真人に反撃はもちろん形を変える隙も与えないほどの猛攻を浴びせていく。
しかしその間、死のインスピレーションを得た真人が「今ならできる」と確信し、口腔内で生やした2体の腕で弥勒菩薩印と孔雀明王印を結ぶ。
「領域展開『自閉円頓裹』」
無数の腕が発生して虎杖を弾き、七海を結界内に引き摺り込む。
「今はただ、君に感謝を」
「くそっ、なんで!!」
真っ黒い球体の壁を虎杖は一心不乱に殴り続ける。
(なんでナナミンだけ閉じ込められた!?このままじゃナナミンが……!)
このままでは大切な人が目の前でまた死ぬ。その恐怖が虎杖を突き動かしていた。ただ、必死に殴る。肉が裂け、骨が砕けようとも構わず殴り続ける。そして宿儺は、それらを反転術式をかけることで治療し続ける。
そして領域内で七海が詰みを確信し投了しかけたその時。領域の壁が砕け、虎杖が飛び込む。
「なんで入れるんだ……!?」
と驚愕する真人だったが、そもそも領域展開は閉じ込めることに特化した結界術。つまり逆に言えば入ること自体は容易い。なぜならば術師にとって『入るメリットがない』からである。特に『無量空処』や『自閉円頓裹』のような、領域に引き込んだ時点で勝ちが確定するものであればなおさらである。
しかし今虎杖悠仁の内側には、“
「言ったはずだぞ」
再び宿儺の生得領域に入り込んでしまった真人。宿儺はこれまでみたことがないほどかなり激怒した様子で真人を睨みつける。
「“二度はない”と」
警告はした。ならばそれを破るのであれば報いを受けるのは当然の事。宿儺が適当に指を振ると、真人の身体が斜めに切り裂かれた。真人につけられた切り口からおびただしい量の鮮血が吹き出す。
本音を言えば、宿儺は今すぐにでも虎杖の縛りを有効にして自ら真人を切り刻んで嬲り殺しにしてやりたい気分であった。自分の魂に薄汚い手で触られたこともそうだが、未来ある若者を呪い殺し、さらには愛しい子である虎杖を嘲笑った上に彼の身体に幾つもの傷をつけた事で、宿儺の怒りは限界に達そうとしていた。しかし、それをやってしまうと意味がない。真人は虎杖にとっていずれ越えるべき壁になる存在。たとえこの先真人が何人もの一般市民を虐殺する結果になってしまうとしても、宿儺は虎杖の成長のために自らの手で彼を殺すと言うことはしなかった。
しかしだからと言って何もせずに見逃す、などと言うことは絶対にしない。命を奪うような事はせずとも、致命傷を与えてやるぐらいはせねば気が済まなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
結論から言えば、真人をあそこで祓うことは叶わなかった。領域が解体され、致命傷を負った彼だったが最後の悪あがきに自らの体を破裂させ、虎杖に大ダメージを与えたのだ。幸い、彼がもともと頑丈な身体だったのと宿儺の高度な反転術式による治癒があったことで事なきを得たが、虎杖のことを気にかけている隙を見て真人は姿を消してしまっていたのだった。
遺体が安置された霊安室。今回、真人の手で殺されてしまった人々の遺体がここに収められている。その中には、親友になるはずだった少年、吉野順平のものも含まれている。そんな部屋の隅に、虎杖は立ち尽くしていた。
「……すまなかった」
不意に、宿儺が口を開く。
「お主の望みに、沿うことが出来なかった」
吉野順平を救ってやらなかったことを詫びる宿儺に、「大丈夫」と少々力無い口調で答える虎杖。
「俺も、無茶を言ったって自覚はあるから」
虎杖の方もやや申し訳なさそうに告げる。普段の彼からは考えられないほどに抑揚のない話し方。今回の件が相当精神的に来ているのが宿儺にも感じ取れた。
「悠仁よ、聞いてくれ。この先、お主はたくさんの壁や困難、辛き出来事に何度も当たることだろう。けれどどうか……諦めないでくれ。その強き心を保ち、どんな理不尽にもクソ喰らえと打ち勝ってくれ」
「忘れるな……お前には常に私がついているぞ」
そう言い残し、宿儺は虎杖の中へと引っ込んでいった。虎杖は少し潤んだ瞳を上を向いてゴシゴシと袖で擦った。
読了ありがとうございました。
前書きでも述べましたが、毎度の感想と高評価本当にありがとうございます。私は敢えて皆様に感想と評価を促すようなことはしないようにしているのですが、やはりこのような形で応援いただけると非常にモチベーションが上がります。本当にありがとうございます。引き続き本作をよろしくお願いいたします。
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