ダンジョンに蒼の兄弟がいるのは間違っているだろうか。   作:やりも

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天使と女神

「【穿て(アヴローラ)貫け(スウィーニー)砕け(スニェーク)吹雪いて(ツヴェイリ)凍えろ(ジマー)】!」

 

「散れ、雑魚どもが!」

 

 

ソーンとアダムはファミリアの金銭問題を解決するために今日もダンジョンに潜っていた。1ヴァリスでも多く稼ぐために朝早くからダンジョンの中層まで潜り、モンスターを狩り続けていた。

 

 

「ふぅ、兄様と一緒だといつもより魔石もたくさん集められますね。」

 

「そうだな、もう少しだけ集めるか。」

 

 

ソーンが魔石を集める傍ら、アダムは戦闘音を聞きつけてやってきたモンスターを笑顔で倒しながらもう少し魔石を集めることを提案した。

 

 

「そうですね、まだ魔力には余裕がありますしどうせなら階層主とかも倒してみたいです…。」

 

「確かにソーンの魔法であれば通用するかもしれないが、単独で挑むであればLv.4になった後がいいと思うぞ。」

 

「そんなことしませんって!流石に兄様と一緒に挑みたいなという話です…!」

 

「すまない、でもゴライアスも討伐された後だから復活するまでまだ猶予があるから無理だろうな。」

 

「ですよね…。」

 

 

落ちている魔石を集め終え、袋の口をきつく縛りカバンの中にしまい込みアダムの元に向かう。次の狩場に向かおうとすれば向かう方向から人の話し声が聞こえてきた。ソーンとアダムは急いでフードを深めに被りこみ、下を向きながら冒険者とすれ違った。冒険者とある程度離れてからソーンは息を吐いた。

 

 

「ふぅ、行きましたね。」

 

「だな。狩場をもう少し下にしておいて蓄えておくか。」

 

「分かりました!」

 

 

二人は下の階層に移動し、新たな狩場でモンスターを狩り続けた。そのあと数時間狩り続け、いつの間にか魔石は5袋分も集まっていた。

 

 

「流石にこれ以上はやめておきましょう。」

 

「だな、残りは俺が持つから急いで上に上がろう。」

 

「分かりました。」

 

 

ソーンとアダムは急いで中層から上層、そしてダンジョンの入り口まで上がった。途中でモンスターと遭遇した時はソーンが詠唱して対処し、ほとんど無視するような形でダンジョンから脱出してそのままギルドへと向かった。

 

ただ、魔石を換金するにはかなり量が多いのでギルド職員と個室での取引となった。

 

 

「こ、この量は流石に今日だけで集めたとか言わないですよね?」

 

「今日の分ですよ?」

 

「どうしたらこんな量になるんですかアダム氏!」

 

「中層の上から下まで狩りつくしただけですが?問題でもありましたか?」

 

「問題大ありです!アダム氏はともかく、ソーンくんはまだLv.3ですよ!」

 

「あ、そのことなんですけどもうステータス的にはランクアップ可能なんです…。」

 

「へ…?」

 

「私が主神様にお願いしてまだ待ってもらっている状態なんです。私もランクアップ自体はできるんですけど、二人で何かしら『偉業』を成し遂げたいとが策しておりまして。

 

「ええええええええええええ⁉」

 

 

エイナは腰を抜かしてしまい、軽く卒倒しかけたが自前の精神力で何とか持ち直した。現段階で最年少Lv.3のソーンと既に一級冒険者でありLv.6のアダムが揃ってランクアップ可能であることを他の人にばれてしまったら大変なことが起きると思ったからだ。

 

 

「そのランクアップ、しばらくしないでもらえますか⁉」

 

「構いませんよ、主神様と話し合って混乱を避けるためにまだしないでおこうって決めてますから。」

 

「ありがとうございます!」

 

「あの、換金の方は…。」

 

「それは今からしてきますね、ここでしばらくお待ちください。」

 

 

エイナは大量の魔石を持って出て行ったがソーンとアダムはこれと言ってすることが無く、ソーンは魔導書チェーニを開いて読み始め、アダムも魔剣を取り出して手入れを始めた。

 

 

「二人とも少しいい?」

 

「換金が終わったのですか?」

 

「それはまだなんだけど、ソーンくんに会いたいって言ってる方がいて…特徴的にソーンくんだと思うんだ。」

 

「ソーンに?エイナさんが信用できる方であると判断するなら通してもらってもいいですか?」

 

「信用できるかと言われると、私、というかエルフ全員が逆らえないですね…。」

 

 

エイナの視線が泳ぐのを見て首をかしげたが、会ってみてようやく理解した。

 

 

「おや、ロキ・ファミリアの九魔姫(ナインヘル)勇者(ブレイバー)ではありませんか。お久しぶりですね。」

 

蒼雪の騎士(グレイ・ナイト)?どうして君が。」

 

「元々弟と一緒に魔石の換金待ちをしていたのですよ、そこにあなたたちがやってきたという話です。」

 

「じゃあ僕らが逃がしたミノタウロスを倒したのは君の弟、ということか。」

 

「そのようですね。まさか遠征帰りの貴方たちが逃がしたモンスターを他のファミリアの冒険者が倒した、なんてオラリオ最大派閥として示しがつきませんしその謝罪にきたのでしょう?」

 

「話が早いな。今回はそのために話しに来た。」

 

「それなら私は口出ししませんので本人と話してください。」

 

 

アダムはソーンの頭を軽く撫でてから手を離した。ソーンは少し戸惑いながらまずは自己紹介をした。

 

 

「初めまして、ソーン・ユーリエフと申します。兄様と同じミアハ・ファミリアで冒険者をしています。」

 

「僕はフィン、ロキ・ファミリアの団長をしている。」

 

「私はリヴェリア・リヨス・アールヴだ、先日のミノタウロスの件はすまなかった。改めて謝罪を伝えに来た。」

 

「き、気にしないでください!僕は冒険者として目の前にいたモンスターを倒しただけです。」

 

「一応こちらにもメンツがあるから何かしらお礼をしたいんだ。」

 

 

フィンがそう説明するがソーンはもとより物欲などあまりなかったのでお礼など入らないと思っていた。しかし、ロキ・ファミリアにもメンツがあるので謝罪の品を受け取ってもらわないと困るのであった。

 

 

「こちらとしては武器かヴァリスなど君の望むものを渡すつもりだ。」

 

「えっと…僕はその、本当に思いつかなくて。に、兄様~!」

 

「俺に助けを出されても困るぞ、当事者はお前なのだからな。」

 

「兄様のいじわる!んー…。」

 

「本当に何もないのか?」

 

「…なら、ロキ・ファミリアの魔導士の方が戦っているところを見させてもらいたいです。」

 

「え、そんなことでいいのかい?」

 

「はい!ウチのファミリアの冒険者は僕と兄様だけです。それに魔導士なんかは僕だけですし、ロキ・ファミリアにはリヴェリアさんをはじめとした妖精隊があると聞きました!実際に見て勉強がしたいんです。」

 

「どうだいリヴェリア?」

 

「構わないさ、むしろもっと欲張っていいと思うが。」

 

「ソーンはそこがいいんですよ。」

 

蒼雪の騎士(グレイ・ナイト)、ところで気になったけど君の弟はレベルいくつだい?かなり若いようだけど。」

 

「Lv.3の12歳ですよ、もうすぐ13になります。」

 

「その年で既にLv.3なのか、アイズと同じか、それより早いか?」

 

「私と一緒に故郷から出たときには既にLv.2だったのでレベルアップ自体は早くないですよ。」

 

「君の出身は確か国家系のファミリア出身だったか。」

 

 

フィンはアダムを見ながら出自について話し出すと、アダムの方がピクリと揺れた。笑顔のままであるが少しだけ魔力が漏れ出ている。ソーンはアダムの変化をすぐに感じ取り、アダムの手をそっと握った。

 

 

「一応僕も兄様も向こうではそれなりに活躍していましたから。えっと、見学の日なんですけどいつごろ空いてますか?」

 

「そうだな、来月あたりなら…。」

 

 

ソーンはアダムの代わりに話始め、さりげなく話題のすり替えに成功した。アダムも少しだけ落ち着きを取り戻したのか少しだけ息を漏らした。

しばらくすると、エイナがトレーを持って戻ってきた。だがそのトレーの上にある袋の中には溢れんばかりのヴァリスが入っていた。

 

 

「お待たせしました、今回の換金額が107万5820ヴァリスになります。」

 

「ありがとうございますエイナ殿。では九魔姫(ナインヘル)勇者(ブレイバー)、私たちはこれで失礼しますね。」

 

「換金ありがとうございますエイナさん!また見学の日によろしくお願いしますリヴェリアさん!」

 

 

アダムとソーンは礼儀正しく頭を下げてからギルドを後にした。残された3人はあの兄弟は少しずれているな、そう考えていたのであった。

 

 

「そういえばもうすぐ怪物祭の時期ですね。」

 

「そうだね、だから今こうしてアダムとソーンにポーション作りを手伝ってもらってるんだけど。」

 

「俺はあまりこういうことが得意ではないのだが。」

 

「僕もポーション作りは苦手です、うわぁ‼︎」

 

 

ソーンはポーションの入った小瓶を落としそうになったがアダムがキャッチしてくれたお陰で割らずに済むことができた。ナァーザはそんな様子を見ながらポーション作りに勤しんだ。

 

ミアハ・ファミリアは零細医療系ファミリアだ。こうした祭りの機会で臨時収入を得て生活しているくらい極貧である。一級冒険者のアダムが冒険者として稼いでくるし弟のソーンも稼いではいるが借金返済のためにあちこちに支払っているため私生活は切り詰めて生活しているのだ。

 

それに祭りでは集客がしやすいのである意味張り切ってるのである。

 

 

「ありがとうございますレディ、これからもご贔屓にしてくださいね。」

 

「は、はい‼︎」

 

「下級ポーション10個と中級ポーションが10個ですね。おまけのキャンディーも一緒に入れておきました!」

 

「こっちにもポーションくれ‼︎」

 

 

そう、この兄弟は顔が良いからだ。ナァーザは売れ行きを見ながら後ろでほくそ笑んでいた。売り子にすれば男性女性問わず売れるので利益で言ったら今日だけでも1ヶ月分の売り上げになる。こんな機会笑わずにいられないのである。

 

 

「かなり売れているな。」

 

「ミアハ様!もう在庫の半分が売れましたよ!」

 

「やはり祭りはよく売れるね。」

 

「これで少しでも借金が軽くなればいいのですが。」

 

「いつもアダムとソーンには迷惑をかけていると思ってるよ。」

 

 

どんどん客が買っていってくれるが、何やら目玉イベントをしているところが騒がしい。アダムはそちらの方を警戒しながら接客をしていた。突然、モンスターがミアハたちのポーション屋に吹き飛ばされた。

 

 

「は?」

 

 

咄嗟にアダムが他3人を避難させたので大事にはならなかったが、屋台が潰されたのでポーションが全て割れてしまった。ナァーザは惨状を見て顔を真っ青にした。頑張って作ったポーションをモンスターに全てダメにされた。トラウマと怒りでナァーザは卒倒してしまった。

 

 

「な、ナァーザさん⁉︎」

 

「気絶しているね、しかしこれはお痛がすぎるな。」

 

「ミスティルテイン‼︎」

 

 

アダムは魔剣を召喚してすぐに屋台を潰したモンスターを倒したが、壊れたポーションが戻ってくるわけではない。しかし、オラリオ中でモンスターが暴れていることを耳にしたアダムとソーンは近いところにのモンスターの対処に向かった。

 

 

「ソーン!」

 

「今強化します!【蒼炎に燃えゆく女皇はベールの下から聖域を望み微笑みかけた】。」

 

 

ソーンはアダムと自分に強化魔法を使い、モンスターの元へ駆けつけた。アダムは魔剣を振るい、ソーンもその援護をするように魔法で追撃を行った。

 

だが油断していた、ソーンの後ろから忍び寄る影に。

 

 

 

モンスターを片付け終えたアダムがソーンがいたであろう場所に視線を向けたがそこにはソーンがいつも被っているベレー帽しか残されていなかった。

 

 

 

 

「うわぁ!」

 

「ふふ、ようやく会えたわね。」

 

「だ、誰ですか⁉」

 

 

ソーンは後ろから誰かに口を塞がれてどこかの路地裏まで連れてこられた。目の前には全身ローブに包まれている女性と猪人の冒険者。すぐに攻撃できるように身構えたが女性がソーンの頬に触れた。

 

 

「美しいわね…あの子と同じ何色にも染まっていない純白。手に入れたいわ。」

 

「貴女は、女神様ですか…?」

 

「そうよ、フレイヤと言えばわかるかしら?」

 

「女神フレイヤ…オラリオ最強のファミリアの一つですね、僕に何か御用ですか?」

 

「ええ、貴方が欲しいの。貴方のその美しい純白の魂を側に置いておきたいの。」

 

「申し訳ありませんが僕は今の主神様の命を救われた身、恩をあだで返すような真似はしたくありません!」

 

「本当にいい子なのね…ますます欲しくなっちゃった。」

 

 

フレイヤはソーンを見つめながらうっとりと表情を浮かべる。その瞬間、ソーンの体の中にいるものが反応した。

 

 

「あっ…離れてください!」

 

 

ソーンはすぐにその存在を感知し、フレイヤを押しのけ胸を抑えつけた。

 

 

「落ち着いて…お願い…僕は、傷つけたくないから、平気だよ…。」

 

「…でも、貴方の中にいるソイツは気に入らないわ。」

 

 

フレイヤは再びソーンに近づこうとすると、ソーンの周りの空気が一瞬で冷たくなった。ソーンの先ほどのつぶやきは一切聞えないが、その代わりにはっきりとしたソーンの声が響いた。

 

 

「【第一・第二・第三拘束全解除、目覚めよ■■■■■】」

 

「フレイヤ様お下がりください!」

 

 

側にいた猪人はフレイヤを抱えて距離を取ると路地裏の全体が一瞬で白銀の世界に包まれた。ソーンは首をうなだれていたが、ゆっくりと立ち上がると純白の髪は黒色に、瞳は黄金色ではなく氷のような透き通っている目に変貌していた。

 

 

『天上の神、僕の大切な愛し子に手を出すな。』

 

「あら、あなたが彼の中にいる存在かしら?」

 

『関係ない、僕のソーンに手を出したらお前の魂ごと天上に帰れないよう氷獄に閉じ込めてやる。だから今すぐ失せろ。』

 

 

ソーンとはまた別の存在がフレイヤに敵意を向ける。猪人は主人の危険を察知して武器を抜こうとしたがフレイヤが止めた。

 

 

「いいわ、だけど必ず手に入れる。」

 

『その時はお前の最後だ、毒婦。』

 

 

フレイヤは帰るわよ、と声をかけてその場から姿を消した。近くには誰の気配もなく、ソーンは力なく倒れた。白銀の世界はソーンが気絶したと同時に消え、まるで最初からそこには何もなかったかのように一人の少年だけがそこで眠っていた。




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