ダンジョンに蒼の兄弟がいるのは間違っているだろうか。 作:やりも
「やぁミアハ、君も来ていたのか!」
「ヘスティアか、丁度ランクアップした子供がいてな。」
ミアハは友神であるヘスティアと出会い、世間話を始めた。ヘスティアもミアハと同じ零細ファミリアの主神であるので親近感も持っていた。
「そうなのか、ボクのベルくんもランクアップしてね。君のところは、ナァーザくんかい?」
「そういえばヘスティアは会ったことなかったか、うちにはもう2人団員がいてね。
Lv.7とLv.4に上がったんだ。」
「えっ・・・君のところって医療系ファミリアだったよね?」
「そうだが?一応2人も薬草採取やポーション作りはしているぞ。」
「それはいいとして、なんで君のところにそんな強い子がいるのをボクに教えてくれなかったんだい⁉︎」
「普通に忘れていたな。」
「君ってそういうところがあるねミアハ・・・。」
ヘスティアは呆れながらミアハを見るが少し困ったような顔をしていた。もう少しヘスティアはミアハに子どもたちの話をしようかと思い、話を振った。
「ミアハ、君の子どもたちはどんな子なんだ?」
「心優しい兄弟だよ、自分たちのことより私やナァーザを優先してくれるとても優しい子たちだ。だがその分危うさもある。」
「君がそれほど言うなんてね。ベルくんと会わせてみたいね。」
「お、思い出した。君のところのベルくんと私の子どもの声が似ていると思っていたんだ。見た目も弟のソーンはベルくんと同じ白髪だから並んだら兄弟に見えるかもしれないな。」
「それ、本当かい⁉今度子どもたち同士を合わせてみたいね。」
「面白そうだな。」
ヘスティアとミアハは談笑に花を咲かせているうちに
「さてお次はミアハ・ファミリアのアダム・ユーリエフ…Lv.7⁉」
「あの
「間違いないのかミアハ⁉」
今回の司会者であるガネーシャがアダムの名前を大声で話すと神々から一気に声が上がった。驚きの声と視線がミアハに注がれるが、ミアハ臆することなく肯定の意として首を縦に振った。
「しかし彼にはもう
「それならオッタㇽと同じようにすればいいじゃない。」
そう宣言したのはロキ・ファミリアと双璧をなすフレイヤ・ファミリアの主神であるフレイヤであった。フレイヤに逆らえる男神はかなり少なく、その意見はすんなりと通った。しばらく様々な二つ名が飛び交ったがある男神の意見によって、新しい二つ名が決まった。
「ミアハ・ファミリアのアダム・ユーリエフの新しい二つ名は
ミアハはアダムの反応が多分苦いものになるだろうなと考えたが、決まってしまったものは仕方がないと腹をくくった。
「続いてもミアハ・ファミリアから、ソーン・ユーリエフ!レベルは4⁉」
「初めて聞く子だが、二つ名は?」
「二つ名はないぞ!どういうことだミアハ⁉」
「元々ソーンもアダムと同じようにオラリオに来た時には既に恩恵持ちのLv.2で、3に上がる直前だったんだが、レベルアップした時に色々あって私が申請し忘れていた。すまない。」
「嘘じゃあないな!」
「ミアハならやりかねないな…。」
「確かに…。」
「それにしてもこの年齢で魔導士としてのレベルも高いのか!」
「しかも可愛い!」
男神女神問わず可愛いといわれるソーンの新しい二つ名はかなりの数押し寄せたがある女神によって決まった。
「なら
「ロキ!」
「これならこの子にぴったりやと思うで、なぁミアハ?」
「ふむ、確かにあの子にぴったりだ。」
こうして、ソーンも
「僕の二つ名…
「まだマシだろう、俺なんか
「すまない、なんとかしようと頑張ったが他の神がノリノリで決めてしまってな。」
「止めてくださいよ主神様。」
アダムはミアハの予想通り頭を抱えて苦い顔を浮かべていた、それとは逆にソーンは初めてもらった二つ名に対して満足しているが少し恥ずかしそうであった。
「いいじゃない、カッコいい二つ名だと思うわよ。」
「俺は支配者というタイプではないだろ…騎士なのに…。」
「でもアダムの魔法の詠唱式に氷雪の支配者って単語があった気がするんだけど。」
「うっ…!」
アダムは図星を突かれると更に頭を抱えてしまった。そんな兄の様子を見たソーンは笑いながらファミリアのために紅茶を淹れようと席を立った。
「アダムとソーン、君らに友神の子どもの救助に行ってもらえないか?」
ミアハは突然、アダムとソーンに対してそう声をかけた。
事の発端は、ヘスティア・ファミリアのベルたちが
「彼の安否が確認出来たら遠くから見守っていてくれるだけでいい、頼んだよ。」
二人はミアハの命令ですぐに中層、そして18階層へと赴いた。だがそこでロキ・ファミリアとベルたちの姿が確認できたので二人は影から上層に戻るまでの間見守ることにした。
「兄様、ダンジョンって神様は立ち入り禁止ですよね?」
「そうだな、だがその約束をあの神ヘルメスが守るわけないだろ。神ヘスティアがいるのは予想外だったがな。」
「ですよね、でもここでもし『神威』とかを使ってしまったらダンジョンが反応するのではないでしょうか…あの時みたいに。」
「…。」
ソーンは5年前の故郷での出来事を思い浮かべた。あのときの自分たちの環境は温かさの裏の陰謀に巻き込まれ、楽しいものから一転し苦いものとなってしまった。思い出すだけでも冷たいものが湧き上がってくる気がした。
「思い出すなソーン、俺らはもうあそことは関係ない。」
「はい…。」
白いローブのフードを深くかぶりながらソーンは眼下のいる白い少年、ベル・クラネルを見た。アル・ミラージュのような見た目で善人の塊、ソーンが噂で聞いたベル・クラネルはそういった人間であった。
しばらくはベルたちを見守るような形で姿を見せないように気配を消しながら上層に戻るのを待っていた。しかし、ここで事件が起こった。
モンスターが生まれない18階層でモンスターが生まれてしまったのだ。それはソーンたちが2週間前に倒したゴライアスと同じ姿をしているがその色は漆黒。ゴライアスの亜種がここ、18階層で生まれたのだ。直近に帰還するロキ・ファミリアが倒したはずなのでインターバルはずっと先のはずなのである。
「どうしますか兄様、あのゴライアス…強化種みたいですしかなり強そうですよ。通常のゴライアスとも違いそうですし。」
「無論、倒すつもりだが…今回は少し手を貸すだけにしておく。」
「何故ですか?」
「神ヘルメスがいるからだ、アイツがいるとろくなことが起きないからな。」
「散々な言い様ですね…僕は【ソーカル・フェロー】と【ゼシータ】をベル・クラネルさんにかけておきます。」
「分かった。」
ソーンは魔導死書チェーニを開きながら詠唱を始めた。ソーンの強化魔法は一度に3人目が限界だ、だけどもし叶うことならあの漆黒のゴライアスと戦うすべての人を助けれるようになればいいのにと願った。
「【歌は届き、彼の地に安らぎを与える、その歌は神を讃える聖歌であり、平和をもたらす響となった】。」
ソーンが詠唱を終え、ベル・クラネルに強化魔法を付与しようとしていたときだった。何故か漆黒のゴライアスと戦う冒険者全員に強化魔法がかかったのだ。
「えっ…。」
「どうしたソーン?」
「えっと、ベル・クラネルさんにだけ魔法をかけようとしたのですが、何故か全員にかかってしまって…。」
「…もしかしてスキルの能力か?」
「あっ。」
「ソーンの【箱庭】のスキルは『自らの願う形に変化する』とあった、もしかしたらソーンがそう願ったからじゃないか?」
「そういうことだったんですね!ただ、これは魔力消費が多いですし使いどころが少し難しいですね。」
ソーンはスキルの能力を把握したが、一人にかけるはずが全員にかけたとなると魔力の多いソーンでもかなり疲弊するので、今度こそベル一人に強化魔法をかけようと決めた。
「【蒼炎に燃えゆく女皇はベールの下から聖域を望み微笑みかけた】。」
防御力・回復系の強化魔法をかけたソーンは、魔導書を閉じながら少し溜息を零してアダムを見た。アダムも第一魔剣サヴァイヴァーニを召喚していた。
「アイツの片腕を落としに行ってくる。」
「はい、お気を付けください。」
アダムはフードを深くかぶり、念のために持ってきておいた仮面をつけて漆黒のゴライアスの元に向かった。ソーンはそれを見守るしかなかった。
「やぁ、久しぶりだねソーン君。いや、今は
「ご無沙汰しておりますヘルメス様…何の用でしょうか?」
「いや、さっきの強化魔法の出どころが気になって見に来たら君がいたわけだ。」
「なるほど。ところでヘルメス様…あの漆黒のゴライアスが生まれると知っていたんですか?」
「いや、これは完全に
「そうですか。今回の件、僕らはあくまで少し助力するだけですのでヘルメス様の考えていることの邪魔はしませんよ。」
「もしかして気づいていたりするの?」
「……僕らのような地上の存在が貴方たち神の考えることを理解できるわけありません。」
ソーンはヘルメスになるべく情報を抜かれないよう、そして感情をあまり見せずにただ事実だけを述べた。神の前では嘘をつけないし、考えのすべてを見抜かれることだってある。故郷の神がそうであったように、なるべく悟られぬようフードの下の顔を見られないように気を付けて。特に神ヘルメスは口が上手い、だからこそ警戒をしていた。
「そうかい、邪魔をしないんだったら構わないさ。」
「なら一つお願いがあります。」
「なんだい?」
「僕らの存在に対し、ベル・クラネルたちには教えないでください。」
「知られたくないのかい?」
「僕と兄様はミアハ様に影から護衛してくれと頼まれたからここにいます。助けたのもあれがゴライアスの亜種で危険だと感じたからです。それに、ベル・クラネルはまだ信用できないからです。」
「…分かったよ、もし気づかれたら強力な助っ人とだけ伝えておこう。」
「ありがとうございます。」
ソーンがお礼を言うとヘルメスは颯爽といなくなった。冷や汗をぬぐいながら、漆黒のゴライアスに再び視線を向けた。
一方アダムは漆黒のゴライアスと戦う冒険者を後方から眺めてしばらくしてから、一気に前に出て漆黒のゴライアスの左腕を切り落とした。
「なっ!」
「今のは…。」
「【
新しい魔法【レド・ファインブル】を使い、切り落とした腕が再生しないように蒼氷と蒼炎が覆った。急に現れた人物に近くで戦っていたリューやアスフィは驚いたが漆黒のゴライアスの片腕を奪ったことに対して感謝を伝えた。
「助太刀助かります。」
「…。」
アダムは返事をすることなく、漆黒のゴライアスに背を向けた。あとは自分の助力はいらなくとも倒せると悟ったからだ。それに、あまり手助けをしすぎると厄介な相手に捕まることが分かったからだ。
すぐにソーンの元に戻ると、漆黒のゴライアスが鐘の音と共に討伐された。
「討伐できたようですね。」
「そうだな。しかし階層主出現のインターバルにしては早すぎるな。」
「ヘルメス様がこちらに来たので尋ねてみましたが今回の件は
「ならいい、あの神が裏で何かしているようならしばいていたが。」
「あとヘルメス様に僕らが護衛していることは口止めしてもらうように頼みました。バレたとしても助っ人とだけ伝えてもらう予定です。」
「そうか、それにしてもまだ話ではLv.2だと聞いていたが協力があったとしても強すぎる。」
「レベル以上の実力は身を壊す・・・兄様がいつも言ってる言葉ですね。」
「そのうち身を壊すことになりそうだな・・・。」
アダムは仮面を外し、喜び合っている冒険者たちに視線を向けた。ソーンも同じように冒険者たちに視線を向けて少しだけ笑みを浮かべた。死者は出ていないようだ。
「兄様、今回の件についてギルドに報告はどうしますか?」
「…いや、リヴィラのやつらとヘスティア・ファミリアがしてくれるだろう。」
「分かりました。」
それからまたしばらく、姿を見せないようにベルたちを見守ることにしたユーリエフ兄弟はベルたちが上層に戻るときに前とを守り、モンスターに襲われないように倒しておく等のことをしていた。
「…前と後ろに一人ずつ誰かいる。それも18階層からずっと着いてきている。」
「えっ、敵ですか⁉」
「全員戦闘態勢を!」
そんなとき、助っ人としてベルたちとともに上層を目指していたリューが二人の存在に気が付き、全員が剣を構えるとヘルメスが割って入った。
「すまないすまない、多分リオン君が言ってるのは助っ人のことだよ。」
「助っ人?私たち以外にもいたのですか?」
「嗚呼、影から見守ってくれていたんだよ。本人たちの要望で名前とファミリアは明かせないけどね。」
「ヘルメス、急に敵になるようなことはないだろうね?」
「それはないよ、なんなら姿だけでも見せてもらえるように頼むかい?」
「お願いします!」
ベルがヘルメスに頼みこむとヘルメスは姿だけ見せてくれないか、と少し大きめの声で話しかける。するとベルたちの前と後ろから白の仮面をつけてフードを深めに被っている少年(ソーン)と黒の仮面にフードを被った青年(アダム)が姿を見せた。
「あ、あの時の!」
「君たちに強化魔法をかけてくれたのも彼らだよ。」
「そうだったのか…。」
「…疑ってしまい申し訳ありません。それと助太刀助かりました、ありがとうございます。」
ベルが感謝を伝えるとソーンは少しだけ頭を下げ、また姿をくらませた。
「…礼には及ばん。」
アダムは一言だけ話すとソーンと同様、再び姿をくらませた。
「冷たい人たちですね。」
「彼らは主神の命令で護衛をしてるだけだからね。」
「ふむ、ファミリアさえ分かればお礼に行けるんだけどね。」
「望んでいないようだから仕方ないよ。早く地上に戻ろう。」
こうして彼らは護衛のお陰もあり、地上へ無事に帰還したのであった。