ダンジョンに蒼の兄弟がいるのは間違っているだろうか。   作:やりも

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兄弟と深層

ソーンはダンジョンからの帰り道、何故かアポロン。ファミリアが大勢街中にいるのを見かけて少し疑問を感じていたがあまり気にせずにホームに戻るとアダムとミアハがいた。珍しくナァーザがその場に見当たらない。

 

 

「ただいま戻りました。二人してどうして暗そうな顔をしているんですか?」

 

「いや、少々友神の眷属が厄介な神に目をつけられていてね。ナァーザは今そちらの援護に向かっている。」

 

「そうだったんですか…その、眷属とは?」

 

「ベル・クラネルだそうだ。俺も今話を聞いたばかりだがな。」

 

「はぁ…。あのミアハ様、どうしてアポロン・ファミリアがベル・クラネルを襲ってるんですか?」

 

「この間私とナァーザが神の宴に行ったのは覚えているか?その時にアポロンがベルくんに対して改宗を求めてね、それが原因だよ。」

 

「あの神らしいという感じの理由ですね。」

 

「兄様はアポロン様に言われたことありましたよね…返り討ちにしてましたけど。」

 

「Lv.4のときだがな、強い奴もそういなかった。」

 

 

アダムは嫌な思い出を掘り返し頭痛がした。今回はベル・クラネルが狙われたということは近々、戦争遊戯が起きることが目に見えていたからだ。ソーンとアダムが加勢に向かうとアポロンの眷属たちを壊滅させるのが目に見えていたので今回は参戦することは無かった。

 

 

戦争遊戯が終わった数日後にアダムとソーンはギルドを訪れた。アダムとソーンはギルドマスターのロイマンに案内され、地下の「祈禱の間」へ入ることになった。

 

 

「よく来たな、『ニヴルヘイム』の亡命者たち。」

 

「お久しぶりです神ウラノス、今回はどのような用件で?」

 

「これからお前たちに強制任務(ミッション)を与える。異論はないな?」

 

「ええ、神ウラノスには恩がありますから。」

 

 

アダムが断言するとウラノスは表情を変えずに広間の端の机の上を指さした。

 

 

「今回の強制任務(ミッション)は深層にいるとされている『穢れた精霊(デミ・スピリット)』とそれが侵食している階層の調査だ。詳細はそれに乗っている。」

 

「分かりました、改めて内容を確認次第準備を整えて深層に向かいます。」

 

 

アダムはお手本のような笑顔を見せてからソーンと共に地下から地上へと戻った。

 

 

強制任務(ミッション)ですか…それに二人だけで深層なんて無謀な気がします。」

 

 

「今回は神ウラノス直々の指名だからな。それに、俺らがこのオラリオに入れたのも神ウラノスとの契約だからだ。」

 

「そうでしたね。では色々準備を整えませんとね!」

 

 

ソーンは腕を上げて元気よく歩き出した。アダムもそんな弟の様子を見て少しだけ笑い、そのあとを追った。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、ミアハ・ファミリアに新たな団員が入ってきた。

 

 

「元アポロン・ファミリアのダフネ・ラウロスよ。」

 

「カサンドラ・イリオンです…。」

 

「2人とも行き先が無いようだったから誘ったんだ、仲良くしてくれよ。」

 

「分かりましたが、今は少し、無理そうです!」

 

「…なんでそんなバタバタしてるの?」

 

「俺とソーンはこれからギルドからの強制任務(ミッション)で深層に行かなくてはならない。しばらく空けることになるだろうしまたその時に顔を合わせよう。」

 

「兄様、準備終わりました!」

 

「そういうことですので行って参ります主神様。」

 

「ナァーザさん、貴重な薬草見つけたら採取してきますね!」

 

 

二人は急いで青の薬舗から出て行った。その姿を見送ることしかできなかった2人は自己紹介も聞けぬまま立ち尽くしてしまった。ナァーザは笑いながら2人について説明をした。

 

 

「兄の方がアダム・ユーリエフ、あの猛者(おうじゃ)と並ぶLv.7の冒険者で二つ名は蒼雪の騎士(しはいしゃ)。弟はソーン・ユーリエフ、二つ名は薄氷天使(グラス・セラフィム)でLv.4のれっきとした一級冒険者だよ。」

 

「えっ、彼があの蒼雪の騎士(しはいしゃ)⁉同い年くらいじゃない!」

 

「アダムは19でソーンが13になったばっかりだね。」

 

「私たちより年下でLv.4…。」

 

「そう落ち込むことは無いよ、それに今回の強制任務(ミッション)はかなり危険なものらしいから次に会えるのはいつになるか分からないから会えたら仲良くなればいいさ。」

 

 

ミアハはそう言って未知の世界へ向かった兄弟たちの無事を祈るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが深層…。」

 

「俺からあまり離れるなよ、一歩間違えれば死ぬぞ。」

 

「分かりました。」

 

 

ソーンは下層から初めて深層へと降りた。下層は何度も足を運んだことがあり、まだ余裕があったが深層はそうもいかないのが現実。毒になれば死ぬかもしれないし、油断をすれば一気に殺されてしまう。それが深層である。

 

 

「【閉ざせ(グレイシア)】。」

 

「わっ…。」

 

「気を付けろと言ったはずだ、冷静さを持ってどう切り抜けるか考えて行動しないと死ぬぞ。」

 

「ごめんなさい…それにしても、モンスターが多いですね。」

 

「深層は人が来ない分、モンスターの数が多い。だからこうして冒険者が来たら、大量のモンスターに囲まれる。」

 

「そのようですね…【氷雪の魔術師よ、我の命に答えて封印された力を展開し、雪精の通り道となれ。】【第一拘束解除】!」

 

 

ソーンはすぐに魔法の詠唱をして、囲んできたスカル・シープを氷漬けにした。アダムも魔剣を召喚し、リザードマン・エリートを斬り払った。

 

 

「また来るぞ。」

 

「はい!【雪原の魔術師よ、我の命に答えて封印されし終焉の楔をの一柱をもって、敵の装甲ごと貫け。】」

 

「俺が開ける、そのあとは任せたぞ。」

 

「分かりました。」

 

 

アダムがモンスターに突っ込み、手前にいるモンスターから斬り倒していく。だがその剣が届かない場所にいる敵がアダムを襲う。

 

 

「【第二拘束解除】!」

 

 

起動鍵を呟くと、光線が広範囲に放たれた。アダムにも直撃しそうになったが上に跳んで避ける。【ハロードヌイ・バーボチカ】はモンスターたちの体に一瞬で穴をあけ、塵へと変えた。

 

 

「いい連携だ。」

 

「ふぅ…ひとまず大丈夫そうですね。魔石は回収しますか?」

 

「なるべく回収しておこう。そのために万能者(ペルセウス)収納鞄(マジック・バッグ)を開発してもらったからな。」

 

 

アダムは魔石を拾いながらその魔法道具の中に入れて行った。ソーンは魔石の回収を兄に任せて周りの様子を見ながら、腰に差していた短剣でダンジョンの壁に傷をたくさんつけておいた。

 

 

「何してるんだソーン?」

 

「前に読んだ本で、ダンジョンは傷つくとそちらの回復を優先してモンスターを生み出さないそうです。気休め程度にダンジョンに傷をつけておいたんです。」

 

「そうか、俺は勉強がそれほど得意というわけではないから教えてもらえるのは助かるな。」

 

「えへへ…僕が周りを見ておきますので回収をお願いします。」

 

 

2人は順調に階層を更新し続けた。

そんなとき、事件が起こった。

 

 

「ソーン!」

 

「えっ…。」

 

 

56階層に入り、モンスターを倒しながら進んでいたら突然地面から炎が吹き上げてきた。咄嗟にアダムがソーンを庇ったが、アダムはその時の落石が頭や背中などにぶつかり、気絶してしまった。頭から血を流して気絶しているアダムを見たソーンはパニックになりかけた。だが、兄からの教え、深層では常に冷静にどう切り抜けるかを考えろという教えを思い出した。

 

 

「すぐに兄様を運ばないと・・・!」

 

 

ソーンはアダムを担いで急いで壁際まで寄った。壁際は追い込まれたら大変だが守りながらなら壁際に寄せた方が良いと考えたからだ。

 

 

「下から貫通できるほどの火炎攻撃・・・ここが56階層ですし攻撃してきたのは砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)!厄介な相手ですね・・・。」

 

 

冷静に攻撃が砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)が階層無視の攻撃をしてきたのだ。Lv.4のソーンが相手をするのはかなり厄介な相手である。それに自分が魔導士なので真っ向から勝負を仕掛けるのは分が悪い。それに、音を聞きつけたモンスターが寄ってくるのも時間の問題だと悟った。アダムに上級ポーションを飲ませておく。

 

ここで、自分が頑張らないと二度と日の光を、家族と会えなくなる。それだけは避けないといけないと思ったソーンはまず、詠唱を始めた。

 

 

「【歌は届き、彼の地に安らぎを与える、その歌は神を讃える聖歌であり、平和をもたらす響となった】、【歌は届き、彼の地に安らぎを与える、その歌は神を讃える聖歌であり、平和をもたらす響となった】、【歌は届き、彼の地に安らぎを与える、その歌は神を讃える聖歌であり、平和をもたらす響となった】、【蒼炎に燃えゆく女皇はベールの下から聖域を望み微笑みかけた】、【蒼炎に燃えゆく女皇はベールの下から聖域を望み微笑みかけた】、【蒼炎に燃えゆく女皇はベールの下から聖域を望み微笑みかけた】‼」

 

 

自分に対して何度も持続回復魔法と防御強化の魔法を重ね掛けし、持ってきていた短剣を抜いた。魔宝石が埋め込まれているので魔導書を開かなくても魔法を使うこともできる。

 

 

「大丈夫です、僕は兄様の弟です。兄様から剣術も学んでいるんです…今度は僕が守る番です!」

 

 

短剣を構えると、砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)が開けてきたきた穴から砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)と1体と飛竜(イル・ワイバーン)2体が抜けてきた。ソーンは軽く息を吐いてから、肺に空気を一気に送り込みモンスターに向かって走り出した。

 

 

「あああああああ‼」

 

 

飛竜(イル・ワイバーン)が真っ向から襲ってくるがそれを避けて、まず翼に短剣で傷つける。傷が浅く、逆にソーンも飛竜(イル・ワイバーン)の爪で腕を負傷するが重ね掛けしていた【ソーカル・フェロー】の効果によってすぐに癒え始めた。ケガの心配をする暇もなく、攻撃してくる飛竜(イル・ワイバーン)砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の攻撃を避ける。だが、本職が魔導士なのもあってまともに攻撃をくらってしまい、壁まで吹っ飛ばされる。

 

 

「ガっ…‼」

 

 

肺から空気が漏れ、口から血を吐き出す。何重にも重ねたのに攻撃が痛すぎて、涙が出そうになる。だが今はそんなこと些細なことである。ソーンは再び立ち上がり、モンスターに立ち向かう。何度も避けながら攻撃を仕掛けるが決定打に繋がらない。

 

 

「違う、兄様は真っ向から立ち向かう!僕は、そんな兄様が、兄様に憧れてるんだ‼【寒冷の魔術師よ、我の命に答えて封印されし終焉の獣の一端をこの地に埋め込み、生命の息吹すら生えぬ大地に変えろ。】‼」

 

 

 

兄の戦い方を、一番まじかで見てきたのは自分である。だから、癖も何もかも、利用できるものは利用しなくてはいけない。ソーンは自分の不甲斐無さを、自分が持ちうることも、知識も活用しながら必死に考え、賭けに出た。砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の攻撃と並行詠唱を行い、飛竜(イル・ワイバーン)を足場にして、空を飛ぶ3匹の竜種の上を取った。

 

 

「【第三拘束解除】‼‼」

 

 

詠唱が完了したと同時に、短剣の先から魔法陣が浮かび上がり、3体のモンスターを大氷壁で潰した。自分は未熟なのは分かっているからこそ、何もかも利用してやろうと考えた抜いた結果、物質量でモンスターを倒すことに成功した。冷気が広がり、口から洩れる息が白くなる。砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)に開けられた穴も大氷壁の下敷きになったのでここから入ってくることはしばらくないだろうと安堵した。

 

だが、ダンジョンは無情である。音の元に新たなモンスターが寄ってきた。

 

 

「ははは…まだまだ来ますね…。」

 

 

持っているポーションを一気に飲み、ガラス瓶を捨てて短剣を構えなおす。そんなとき、声が脳内に響いて聞えてきた。

 

 

『変わろうかソーン?』

 

「いえ、これは僕が越えるべき試練です。邪魔しないでください。」

 

『そう、でも本当に危険になったら呼んで。』

 

「分かりました…!]

 

 

ソーンは笑いながらモンスターに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

「っ…俺は、確か…。」

 

 

どれくらいが経ったか分からなくなっているとき、アダムは目を覚ました。壁に体を預け自分が気絶していること、そして深層に潜っていたら下から砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の火炎砲撃で弟を庇ったこと思い出し、すぐに弟を探した。

 

 

「そー、ん!」

 

「【牢獄の守り手はろうそくを携え、練り歩き、暗闇を照らし続け、闇を払い光の導となるため、命ある限りその役目を務めた】【黒の魔術師は鳥の使いを放ち遠くを視た、鳥を通じ、空を制し、空間を掌握する者こそ、魔術師の頂点に君臨する】、【雪原の魔術師よ、我の命に答えて封印されし終焉の楔をの一柱をもって、敵の装甲ごと貫け。】!」

 

 

そこにはボロボロになりながら短剣を握り、並行して魔法の詠唱をしながら自分たちを取り囲むほどのモンスターを相手にしている弟の姿があった。頭や顔、背中にもたくさんの血が付着しているし息も荒いが、その目は諦めていないようだ。

 

 

「【第二拘束解除】‼‼‼」

 

 

モンスターを氷で動きを制限し、攻撃される前に腕や足、翼を斬り落とす。アダムは自分がよく使っている手法だと気が付いた。最後の飛竜(イル・ワイバーン)をソーンが倒し終えると、ソーンはその場に膝をついた。アダムは痛む体を無理やり起こし、ソーンに駆け寄った。

 

 

「ソーン‼」

 

「に、いさま…。」

 

「お前、なんで俺を置いて逃げなかった⁉」

 

 

荒い呼吸を繰り返しながらソーンは笑顔で答えた。

 

 

「そんなの、英雄は絶対にしま、せん…僕は、兄様を失いた、くないで…す。」

 

 

ソーンはポケットからポーションを取り出して無理やり飲んで体を立ち上がらせる。

 

 

「兄様…僕、ちゃんと冒険者してますか?」

 

 

アダムはソーンの問いかけに力強く頷いた。

 

 

「ああ、お前は最高の冒険者だ。」

 

「えへへ…。」

 

「あとは俺に任せろ、今度は俺が守る番だ。」

 

「いえ、僕もにいさま、と…。」

 

 

ソーンはそう言ったが、限界だったのかその場に倒れこんだ。アダムは周りに落ちている魔石を見て、自分がどれほど弟に守ってもらっていたのか痛感した。

 

 

「安心しろソーン、俺が全て倒してやる。」

 

 

アダムは魔剣を召喚し、モンスターに剣先を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んぅ…にいさま?」

 

「起きたかソーン?」

 

「どれくらい寝てましたか?」

 

「ざっと3時間ほどだ。この先に安全地帯(セーフティ・エリア)があるからそっちに向かってる。」

 

「そうでしたか、もう歩けますので降ろしてもらえませんか?」

 

「まだ休んでていいんだぞ。」

 

「いえ、僕がいたら兄様の邪魔になるので歩きます。」

 

「…成長したな。」

 

 

アダムに頭を撫でられるソーンは何か考えながらアダムに話した。

 

 

「兄様と冒険して、初めて死ぬかもしれないと思いました。だから、僕も兄様みたいな、いえ兄様と肩を並べることができる冒険者になりたいんです。」

 

「…お前はお前のスピードでいいんだぞ。」

 

「そうかもしれませんが、僕はもっと強くなりたいんです!僕の大好きなお師匠様みたいな…。」

 

「そうか…だが休憩も必要だ。少し休んでから下に向かうぞ。」

 

「分かりました。」

 

 

アダムは氷に閉ざされた自分たちの祖国を思い出した。だが、あのころの記憶は楽しいこともあったが辛いことの方が遥かに大きかった。右腕を掴みながら、かつての師匠や仲間たちが脳裏によぎった。

 

 

「…ソーン、あの国に帰りたいと思うか?」

 

「あ……帰りたいとは、思いません。けど、いつか行かなければいけないとは思ってます…。」

 

 

俯きながらソーンは、口にした。

 

 

「僕はニヴルヘイムを滅ぼし、女神『ヘル』様をこの手で殺した神殺しの大罪人ですから…。」

 

「……。」

 

 

アダムはソーンの肩を抱き寄せ、頭を静かに撫でた。ソーンは、自分の胸を強く、爪が食い込むくらい強くつかんだ。

 

 

 

 

 

 

しばらくの休息の後、二人は下の階層に向かった。ただ、59階層に到達したソーンとアダムは胸騒ぎがした。

 

 

 

「…ソーン、警戒しろ。見られている。」

 

「はい…あの子(禁獣)も警戒してます…。多分、僕と兄様だけじゃ無理かもしれません。」

 

「ソーン、姿を見せたらすぐに【終焉禁獣】を使え。アイツの条件なら俺は死なない。」

 

「承知しました。」

 

 

ソーンとアダムは警戒しながら奥へと進む。そして、奥の方にたどり着くと驚くべきものを目にした。

 

 

「な、なんですかこれ…。」

 

「俺もこんなモンスターは知らない…。これがギルドとロキ・ファミリアの言っていた『精霊の分身(デミ・スピリット)』か。」

 

「でも報告とは色と形状が少し違うような?」

 

 

そこには、上半身が女体型の異形なモンスターが飛んでいた。しかし、ロキ・ファミリアの報告では死体の王花(タイタン・アルム)のようなモンスターだと報告を受けていた。だが、目の前にいるのは別の、砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)に似ていると二人は思った。

 

流石に撤退しようかと思っていると、精霊の分身(デミ・スピリット)がこちらに気が付いた。

 

 

「気づかれましたね…。」

 

「逃げるぞソーン、今の俺らには無理だ。」

 

「ですね!」

 

 

ソーンはすぐに【イーニー・ラヴーシュカ】で自分たちと精霊の分身(デミ・スピリット)の間に大氷壁を作り出して逃げ出した。だが、モンスターは見つけた敵を逃がすつもりがないようだ。

 

 

『【火ヨ、来タレー火ヨ、来タレー(タケ)(タケ)(タケ)ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ(チカラ)ヲ借リ世界ヲ()ザセ燃エル(ソラ)】』

 

「も、モンスターが詠唱⁉」

 

「ソーン、使え‼」

 

 

アダムは必至な声でソーンにスキルを使うことを許可する。ソーンも使わないとまずいと思ったのかすぐに詠唱した。

 

 

「【第一・第二・第三拘束全解除】!」

 

『【燃エル大地(ダイチ)燃エル(ウミ)燃エル(イズミ)燃エル(ヤマ)燃エル(イノチ)全テヲ焦土ト変エ(イカ)リト(ナゲ)キノ号砲(ゴウホウ)(ワレ)ガ愛セシ英雄(カレ)(トキ)ノ代償ヲ-代行者ノ名ニオイテ命ジル(アタ)エラレシ我ガ名ハ火精霊(サラマンダー)炎ノ化身(ケシン)炎ノ女王(オウ)】』

「【目覚めよ、グラナート】‼」

 

 

精霊の分身(デミ・スピリット)とソーンの詠唱が同時に完了する。大氷壁は一瞬で溶け、炎風が二人を包み込む。精霊の分身(デミ・スピリット)は敵を排除できたかと思っていたが、自分の下半身が凍っていることに気が付いていなかった。

 

 

『全く、随分と汚い精霊だな…精霊もどきの方が正しいか。』

 

 

そこには膝をつくアダムと、手を前に出して冷気を放つソーン…いや、終焉禁獣グラナート(黒髪青目の角が生えた少年)が顔を顰めながら精霊の分身(デミ・スピリット)を見ていた。

 

 

『アダム、死なないとは随分と人の道から外れたのだな…。』

 

「グラナート…すまないな急に。」

 

『我は気にしない、愛しいソーンを守るためならいくらでも目覚める。』

 

「そうか…アイツを倒すことはできるか?」

 

『あんな精霊もどきなど倒せるに決まってるだろ。しかしここ、気持ち悪いな。精霊がいるはずなのに、それに最悪なものが混じりまくっている。』

 

 

グラナートは嫌そうな顔をして精霊の分身(デミ・スピリット)に手を向けると魔法陣から大量の氷の槍が生成された。精霊の分身(デミ・スピリット)の周りに氷の槍に囲まれた。

 

 

『死ね、穢れし者よ。』

 

 

手を下ろすと、全ての槍が精霊の分身(デミ・スピリット)に向けて放たれた。精霊の分身(デミ・スピリット)は何かを叫んでいるが聞き取れず、灰へ変貌した。グラナートはごみを見るような目で精霊の分身(デミ・スピリット)がいた場所を眺めてから、アダムに視線を向けた。

 

 

『アダム、ここより下は我でも行くのを憚られる。』

 

「…いつか行かなければいけないが、どう感じる?」

 

『ふむ…精霊にモンスターの気配が混じりそれがここより下のダンジョンの一部を覆っているような雰囲気だな。精霊は本来なら人に味方するようなものだが、ここでは逆転してモンスターのように害を与える存在となってしまった、という感じだろう。』

 

「精霊の在り方が反転した?」

 

『厄介なことこそ、自我を保ち続けていることと…我の存在に気が付いたことか。』

 

「グラナートに?」

 

『我の力は普通の人間からすれば地上のものが言う三大冒険者依頼のモンスターとやらと同等の力を有する…それを取り入れればより強くなれると確信したのだろう。早めに離れるぞ。』

 

「嗚呼。」

 

 

アダムとグラナートは急いで59階層から離脱し始めた。途中襲い来るモンスターはグラナートに近づく前に一瞬にして灰へと変貌した。二人はそのまま55階層の安全区域(セーフティ・エリア)まで逃げ切った。

 

 

『ここまで来れば追われることは無いだろう。』

 

「助かったグラナート。」

 

『構わん、礼はソーンと共に花畑に連れてってくれればよい。』

 

「分かった、暇ができたら連れて行こう。」

 

 

グラナートは少し笑ってから目を閉じると、黒髪は白髪に戻り、角も灰となって消えた。目を開けるとアダムと同じ黄金色の瞳をのぞかせた。

 

 

「兄様?」

 

「ソーン、目が覚めたか。」

 

「グラナートはどうでしたか?」

 

「ちゃんと話すのは2度目だが、かなり情報は得られた。少し休んでから少し冒険をしようか。」

 

「分かりました!」

 

 

アダムは笑い、ソーンと二人で冒険をすることにした。

 

 

「に、兄様…!ゆ、ユニコーンがいますよ!」

 

「初めて見たな…倒すか?」

 

「でも心優しいモンスターであると本で読みましたよ!どうにかして触らせてもらうことはできないでしょうか…。」

 

「なら普通に近づいて触ればいいだろう。」

 

 

アダムはそう言って岩陰から姿を見せたがユニコーンはすぐに逃げてしまった。

 

 

「…すまない。」

 

「仕方ありません!それにしても欲しかったな…ユニコーンの角。」

 

「あれは万能だからな。今度エルフの里近くの森林にでも行って角だけ取ってくるか。」

 

「あれを簡単に採取しようとしてます⁉」

 

 

 

 

「兄様…カドモスと出会えるなんて幸運ですね。」

 

「だな、よし倒してくる。」

 

「兄様早すぎです!」

 

「倒したぞ。」

 

「兄様⁉」

 

 

 

「ふと思ってしまったんですけど僕も魔石食べたら強くなれますかね?」

 

「ソーン、その発想はやめろ。確かにお前の中にグラナートがいるが、普通においしくないぞ。」

 

「なんでそんな知ってる風の口調で言うんですか?」

 

「………。」

 

「兄様、もしかして食べたことあります?」

 

「…さぁ?」

 

「兄様??」

 

 

 

2人は危険と隣合わせの深層を少しだけ楽しみながら、深層37階層へと到達したのであった。

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