ダンジョンに蒼の兄弟がいるのは間違っているだろうか。 作:やりも
2人は冒険し、時にはモンスターと戦い、突然地面が崩落して事故に巻き込まれたりしながら深層を冒険した。
「…
「二人で倒すか?」
上層を目指すうちに階層主のいるフロアまでやってきたユーリエフ兄弟は入り口からこっそりと階層主『ウダイオス』覗いていた。アダムはソーンと倒す気満々であったが、ソーンは少し考え込んでからアダムにお願いをした。
「兄様、僕に任せてもらえませんか?」
「ウダイオスの推定能力値はLv.6、それにお前はLv.4だ。それでも戦うか?」
「戦います。僕は大罪人ではありますが、それでも本の中の英雄に憧れたんです。兄様と一緒に読んだ英雄譚の英雄たちに。だから、戦わせてください。」
ソーンはアダムに頭を下げてお願いした。アダムはしばらく無言であったが、ソーンの頭を撫でた。
「行ってこい。お前は俺を守って深層を生き抜いたんだ、ウダイオスくらい倒せるさ。」
「ありがとうございます…!絶対、勝ちますから!」
ソーンは笑ってウダイオスに向かって走った。アダムは無事を祈りながらソーンの勇士を見守ることにした。
「勝負ですウダイオス!」
ソーンは腰の短剣を抜いてウダイオスと向き合う。10M以上ある骸骨型のモンスターであるウダイオスは地面から黒い大剣を抜いて、ソーンに向けて振る。それを上に飛んで避けるソーンは詠唱を始めた。
「【氷雪の魔術師よ、我の命に答えて封印された力を展開し、雪精の通り道となれ。】【雪原の魔術師よ、我の命に答えて封印されし終焉の楔をの一柱をもって、敵の装甲ごと貫け。】」
地面から生える逆杭を避けつつ、2つの魔法を詠唱した。
「【第一拘束・第ニ拘束解除】!」
背中から翅が生え、3つの魔法陣から光線を放つ。光線はウダイオスの関節を的確に貫いた。だが、それだけでは終わることは無い。ウダイオスは骸骨型のモンスターを召喚してソーンに襲わせるが、ソーンの【アイシクルロード】は近づく敵を凍らせる。踊るように逆杭から避け、ウダイオスに着々と近づいては短剣で攻撃する。大剣で攻撃されたときは距離を取り、【ミラーシ=イーニー】で攻撃する。
「【牢獄の守り手はろうそくを携え、練り歩き、暗闇を照らし続け、闇を払い光の導となるため、命ある限りその役目を務めた】!」
少しずつ削っていくが、ウダイオスは骸骨型のモンスターを召喚したり逆杭を生やすなどで妨害してくるので決定打となる攻撃ができないので倒し切ろうと考え、【ヴェテロク・ツァーリ】で地面から鎖を召喚してウダイオスが動けないように完全に拘束した。だが、もがかれると鎖は砕けて再び攻撃を仕掛けてきた。
頭の中で嗜好を巡らせて、どうすれば倒せるのか、自分が持てる術をどう活用するべきか思案を始めた。
「兄様ならもっと果敢に攻めるはずです…!だけどこれは僕の冒険だ。兄様じゃない、僕の冒険なんだ。」
ウダイオスが召喚した骸骨のモンスターを蹴散らしながらどの魔法を使うべきかを考える。【ヴェテロク・ツァーリ】はウダイオスに千切られ、【グラード・ウラガーン】だと凍らせる範囲が小さい。また、【リオート・ヴルガーン】でアダムの魔法を模倣するには精神力の消費が多いのと連発ができないこと。
なら、スキルもフル活用して削るしか自分にはできないのだ。
「【雪原の魔術師よ、我の命に答えて封印されし終焉の楔をの一柱をもって、敵の装甲ごと貫け。】」
並行詠唱を行いながら骸骨型のモンスターを倒してウダイオスの隙を見つけるために動き回る。もっと、観察しろ。観察して、ウダイオスが完全に油断してできる隙が欲しい。
召喚されたスパルトイを倒していると、ウダイオスが剣を真上にあげ始めた。その隙をソーンは見逃さなかった。
「【第二拘束解除】!」
光線が放たれ、ウダイオスの腕が遠くまで反れて重心が後ろに傾く。その隙にソーンは再び並列詠唱を始めた。
「【牢獄の守り手はろうそくを携え、練り歩き、暗闇を照らし続け、闇を払い光の導となるため、命ある限りその役目を務めた】!」
鎖が地面より何本も召喚して、ウダイオスの右腕、左腕、胴体、頭と別々の鎖でしっかりと身動きできないように拘束された。
ようやくウダイオスの核が見えたのをいいことにソーンは活路を見出せた。短剣を握りしめて核目掛けて走り出す。
鎖で拘束されたウダイオスは初めて、目の前にいる小さな少年が自分を殺す存在であると認識した。認識した瞬間、ウダイオスの中で負けられないという気持ちが溢れて鎖を千切ろうと体を動かし始めた。
「【氷の魔術書よ、我の問いかけに答えよ】【氷剣からは逃れられない、永劫の氷獄に囚われ、氷像としてその美しき姿を残し続けるといい、我は氷雪の支配者である】。」
ウダイオスは力を振り絞り、右腕だけ鎖を砕いて大剣を振り下ろした。
並列詠唱をしていたソーンはすぐに避けようとしたが、ウダイオスの大剣によって左腕を斬り落とされた。だが左腕が斬り落とされてもソーンは止まることなく振り下ろされた腕からウダイオスの脳天まで駆け上がった。
「【顕現せよ】‼‼」
短剣をウダイオスの頭に突き立てると、そこから氷がウダイオスを包み込んだ。最後までもがいていたが、砕けたところからまた氷に覆われ、また砕けての繰り返しが始まった。
血が左腕のあった場所から大量に流れて視界がボヤついているソーンだったが、目の前にいる敵を確実に殺すために再び詠唱を始めた。
「【氷雪の魔術師よ、我の命に答えて封印された力を展開し、雪精の通り道となれ。】」
ソーンの背中から翅が生え、足元が氷の花畑が広がっていく。
「【第一拘束解除】。」
発動鍵を言い終えると、一気に氷の花畑が広がり、ウダイオスを包み込む。ウダイオスも必死で藻掻いて凍らないようにしていたが、核が魔法によって凍っていくとウダイオスの動きが完全に止まり、氷に包まれた。
ソーンが刺さったままの短剣を抜くと、その衝撃で凍ったウダイオスは水晶のような輝きをしながら砕け散った。
これがウダイオスの単独討伐をLv.4の魔導士が成し遂げた瞬間であった。
「ソーン!」
「兄様…。」
すぐにアダムがソーンの元に駆け寄ったが、褒めの言葉ではなく叱責の言葉であった。
「無茶しすぎだ!腕を斬り落とされてどうする⁉」
「ごめんなさい…えっと、腕は…。」
「俺が回収した。しかし繋がるかどうか分からないな…。」
「自分で縫って何とかつなげてみます。兄様はエリクサーの準備をしてもらってもいいですか?」
「分かった、だが本当に無茶をしすぎだ。」
アダムはソーンの左腕の汚れている箇所を水で綺麗に洗い流し、ソーンは自分のカバンの中から手術用の糸や針を取り出して消毒を行う。針に糸を通して、布を口に含める。アダムが腕を切断面同士がずれないようにきれいにくっつけると、ソーンは躊躇うことなく、切れた腕の接合を始めた。
「~~~~~‼」
麻酔も無しで激痛に耐えながら腕を縫うソーンは目に涙を浮かべながら、口に含んだ布を噛み締めながら腕を接合した。
「【歌は届き、彼の地に安らぎを与える、その歌は神を讃える聖歌であり、平和をもたらす響となった】。うっ、痛いです…。」
「当たり前だろう。エリクサーはどうする?」
「かけてください。神経までは繋げられませんのでこれだけはエリクサー頼みですね。」
アダムがエリクサーをソーンの腕にかけると、腕の傷跡が癒え始め、少しながら動き始めた。
「感覚はどうだ?」
「少し鈍いですが、しばらくすれば元通りになると思いますよ。流石に剣は握れないと思いますが。」
「当たり前だろう。次、自分の体を大切にしないような動きをしたらしばらくダンジョンに潜ることを禁止するからな。」
「ひぇ、き、気を付けます兄様!」
「よろしい。」
兄の本気で起こっている姿を見たソーンは頭が取れるくらい頷いた。ソーンは少し笑うとあるものが地面に刺さっていた。
「これは…。」
「『ウダイオスの黒剣』、一騎打ちで戦い抜いたものしか得ることのできないドロップアイテムだ。それに、この偉業を成し遂げたのは
「え、それ本当ですか…⁉」
「ああ、俺もまだ成し遂げたことない偉業だ。」
ソーンはアダムの言葉に喜び、抱き着いた。自分が成し遂げた『偉業』が、自分の力だけでここまでの強敵を倒せたことに喜びを隠せなかったのだ。
「大剣ですね…僕、まだこれで戦える気がしないんですけど。」
「そうだな、これを素材にソーンに合う剣を作ってもらうのもありだが。」
「んー、来るべき時まで取っておきます。今は使えませんし。」
「だな。」
アダムはそう言ってドロップアイテムを引き抜き、ソーンの代わりに持つことにした。疲労回復のためにポーションを飲むソーンと弟を待つアダムは突然37階層全体に響く鐘の音を聞いた。ダンジョンの中で鐘の音が聞こえるわけがないと思っていたが、完全に今のは鐘の音であった。
「兄様、これは⁉」
「分からないが向こうから聞こえる、行くぞ。」
「分かりました!」
アダムとソーンは鐘の音がする方へ向かって急いで向かった、自分たちが階層主と戦っている間に何が起きているのか、そして自分たちが知らぬ間に起きていた『厄災』を倒すために死ぬ物狂いで戦う兎とエルフの方へと進むのであった。
音の発生源は36階層に向かうための『獣の道』であった。アダムたちがそこにつくと、見覚えのある人物が倒れていた。
「あれは、ベル・クラネルと【疾風】⁉」
「倒れてますよ!しかもボロボロです…!」
アダムとソーンが駆け寄ろうとすると、反対の通路から武装をしたモンスター集団がやってきた。アダムはすぐに魔剣を召喚して、モンスターたちを2人を近づけないようにソーンに指示を出した。
「二人とも意識なし、出血過多、骨折もしてますし…毒にもやられた跡が!早く治療しないと!」
「くっ、邪魔だモンスター‼」
「ま、まって!私たちはフェルズ、ウラノスの命令でベルたちの救出に来たの!」
「モンスターが話しただと⁉」
アダムは驚き、とっさに距離を取ってモンスターたちを睨んだ。
「お前たちは、モンスターなのか?」
「おれっちたちは
「ベルは私たちの友達なの!それで助けに来たの!」
「…にわかに信じがたいな。」
「兄様今は治療が先です!とにかく今すぐ治療しないとです!」
「今は信じておく…敵意を向ければすぐに斬る。」
アダムは視線をベルたちの元へ寄った。
「ソーン、怪我の状況は?」
「ベル・クラネルさんが出血過多、心音微弱、右腕の複雑骨折、足も骨折…それと何か鋭いものが体を貫通しています。毒に侵された跡がありますが治療しているようです。【疾風】さんは、出血過多、骨折、
「まずはコイツのケガの方か…。」
「兄様は胸骨圧迫を!僕は傷口を縫います、心音が戻り次第兄様はエリクサーを飲ませてください!」
「分かった。おいモンスター、手が空いてるなら【疾風】の手当てを手伝ってくれ。ポーションはカバンの中に入ってるからそれを取り出して使え。」
「分かったわ。」
アダムはベルの胸骨圧迫をはじめ、ソーンは先ほども使った糸と針を取り出して消毒液をぶっかける。本来ならちゃんとしたところでやった方が良いだろうがそんなことを言ってる暇はない。
「申し訳ありませんクラネルさん。痛いかもしれませんが我慢してください!」
ソーンは気絶しているベルに謝りながら大きめの切り傷を縫い始めた。途中、ベルの苦しそうな声が耳に入ってくるがこれ以上ケガを放置しておけば傷跡が残り、後遺症になってしまう可能性を考慮しての判断であった。
「ベル・クラネルの心音回復!今からエリクサーを飲ませる。」
「了解です!」
「ベル、たすかった…?」
「ひとまずは!」
ソーンは一つ目の傷を縫い終えると、針を再び消毒し、別の傷口を縫い始めた。
「チッ、貫通した方はポーションじゃ治らないな。」
「そっちも縫います!ふぅぅぅぅぅぅぅ…。」
ソーンは更に集中するために息を思いっきり吐いて、傷口を縫い始めた。これでも医療系ファミリアの冒険者、怪我の手当てや治療などは一通り教わっている。アダムは軽いけがの処置ならできるが、傷口を縫うなどの医療知識は完全にソーンの方が上なのでこの場を任せることしかできなかった。
しばらくするとベルの仲間たちがやってきた。
「ベル様!ベル様が!」
「おい、ベルとリューさんは大丈夫なのか⁉」
真っ先にヘスティア・ファミリアのメンバーが心配して駆け寄ってくるがアダムが魔剣を召喚して行く手を阻んだ。
「治療中だ、静かにしろ。」
「アンタは
「アダムさん!どうしてここに⁉」
「遠征帰りだ、鐘の音が聞こえたと思って近づいたら倒れていたから救助中だ。」
「にゃー!やっと見つけたにゃー‼」
「はぁぁぁ、疲れた!」
「治療って、素人がそんなことして平気なのでござるか⁉」
周りが騒がしくなり、アダムが静かにさせるために刃法でも使ってやろうかと思うと先にソーンが爆発した。
「さっきからギャーギャーにゃーにゃーうるさいです‼‼ベル・クラネルに生きて欲しいなら少し静かにしてもらえますか‼手元狂って変なところ刺してもっと苦しませますよ⁉というか邪魔なのでさっさと【疾風】の骨折してる箇所を固定して上に運んでもらえませんか⁉チッ」
小さく舌打ちをしたソーンは再び治療に取り掛かり、傷口を丁寧に縫い始めた。周りはあまりの迫力に固まってしまい、アダムも弟があんなに大声でキレる姿を見るのは初めてであり、心の中でそんな風に怒れるのかと驚いていた。
黙々と傷口を縫い、最後の傷を縫い終えるとソーンは息を漏らしてからベルの胸に手を置いて詠唱を始めた。
「【歌は届き、彼の地に安らぎを与える、その歌は神を讃える聖歌であり、平和をもたらす響となった】。」
ベルの体が光に覆われると細かい傷や先ほどまでの苦しそうな顔がゆるみ、少しずつ癒えていく。
「これで治療はひとまず終わりです。あとはディアンケヒト・ファミリアで見てもらってください。」
「…本当に、平気なのですか?」
「これでも医療系ファミリアの人間ですし、神様から手術の手ほどきを受けているんで得意なんです。」
ソーンは汗をぬぐい、質問してきた
「あの、お名前をお聞きしても。」
「ミアハ・ファミリア所属、アダム・ユーリエフだ。二つ名は
「同じくミアハ・ファミリア所属、ソーン・ユーリエフです。二つ名は
「俺らは先に地上に戻る、何かあれば青の薬舗を訪ねてくれ。」
ユーリエフ兄弟は冷たく告げると、その場から離脱した。