ダンジョンに蒼の兄弟がいるのは間違っているだろうか。 作:やりも
「すまないソーン、すこしお使いを頼めるか?」
「お使いですか?」
「嗚呼、俺が行きたいところなのだが少し面倒な頼みごとをされてだな…。悪いが行ってもらえないか?」
「分かりました、どちらに届ければよいのですか?」
「ロキ・ファミリアの本拠【黄昏の館】とフレイヤ・ファミリアの本拠【
ある日の朝、ソーンは庭で剣術の鍛錬をしていると兄のアダムが窓から声をかけた。アダムはソーンに申し訳なさそうな顔をしながらある小包を2つ、ソーンに手渡した。ソーンは届け先を聞いて目を開いたが、アダムが申し訳なさそうな顔をしている理由も分かった。
「この小包は門番の方にお渡しすればいいのですか?」
「いや、できれば本人に直接渡してほしい。ロキ・ファミリアは【
「あまり他の冒険者を知らない僕でも知ってるくらいの一級冒険者の方たちですね…。」
「そこそこ関りがあるからな。前に頼まれていたものを見つけたから届けようと思ったのだがタイミングが悪く。」
「分かりました、朝食を食べ次第お届けに参りますね!」
「助かる。」
ソーンはアダムの願いに答え、朝食を食べてから着替えて頼まれた行き先に向かった。
まず最初に自分のホームからも近いロキ・ファミリアの【黄昏の館】へと向かった。遠くから少し見ていたが自分たちのホームよりも遥かに大きなホームを見てすごいなぁと心の中で思った。しかし尊敬している兄の頼みごとを遂行すべく、門番に話しかけた。
「あの、会いたい人がいるのですが…。」
「ん、子ども?それも会いたい人?」
「一応冒険者です!ミアハ・ファミリア所属のソーン・ユーリエフと申します。同じくミアハ・ファミリア所属、【
「【
門番は驚いたような反応をしてもう1人に指示を出して中へと向かわせた。ソーンはアダムが有名人なことに改めて実感することになった。自分もいつか兄と並ぶ冒険者になりたいとさらに思った。
しばらくすると先ほど呼びに行った門番ともう1人、別の冒険者がやってきた。
「申し訳ないっすけど今ガレスさんは幹部会議中で、荷物はこちらで預からせてもらってもいいっすか?」
「兄様…アダムからは直接渡してもらうようにお願いされましたので時間がかかるようならまた後でお伺いします。」
「会議と言ってもそこまで長いものではないのであと数十分で終わるっすから中で待ちますか?」
「ならそうさせていただきます。」
ソーンは荷物を渡すべくロキ・ファミリアの本拠へと招かれた。大きなホームにそこかしこにいる冒険者たちにオラリオ最大派閥なだけあるなと思っていた。
「おっと、自己紹介がまだだったすね。俺はラウル・ノールドっす、二つ名は【
「ミアハ・ファミリアのソーン・ユーリエフと申します。Lv.5で二つ名は【
「はぇーアイズさんもレベルアップが早かったっすけどソーンくんも早いっすね。」
「ありがとうございます、ですがまだまだ兄様には届きません。」
「確かお兄さんって【
「はい、兄様は僕やファミリアのためなら何でもするような人です。僕はそんな兄様が心配なのでもっと強い冒険者になって、兄様が1人で背をわなくてもいいように、肩を並べられる冒険者になることが目標なんです。」
「その若さで明確な目標があるなんて立派っすよ。」
「ありがとうございますラウルさん。ラウルさんも噂程度ですがファミリア内でもとても信頼されていると聞いています。弱者嫌いの兄様もロキ・ファミリアの方々の話をするときにラウルさんのことを褒めていましたよ。」
「え、それ、本当っすか⁉」
「はい。『平凡な能力であるからこそ自分の強さをしっかりと自覚している。指揮に関しても【
「それは褒めてるっすか?」
「兄様にしては褒めてますよ、逆に実力を感じられない人に対しては辛辣ですから。」
「そうなんすねー…。あ、ここの部屋でお待ちくださいっす。」
ソーンはラウルに案内された部屋に入り、その豪華さに声が漏れた。流石は最大派閥、ホームにもかなりお金をかけているのだなと思っていた。この部屋だけにどれだけのヴァリスをかけているのか気になって落ち着けなかったが、その静寂を破るように扉が開かれた。
「ミアハんとこのおチビちゃんがおるってホントかいな⁉」
「ひぇ⁉」
「ほ、ホンマにおるやんけ‼はー遠目にしか見たことなかったけどホンマにかわええ!マジでウチの子にならん⁉」
「お断りいたします!」
「そこをなんとか!」
「ミアハ様に助けられた恩があるので仇で返すわけにはいきません!」
「はーダメかぁ…。それにしてもえらい美少年やな、【
「恐縮です…。」
神ロキがソーンのことをじっくり見るのでソーンは固まってしまった。神々は変な人物が多いと思っているが、ここまでじっくり見られるのは初めてなので固まってしまったのだ。
「あの、ロキ様?」
「なんや?」
「そこまでじっと見れれるのは、恥ずかしいです…。」
「すまんすまん、最近お目にかかれない美少年やったからついつい目に焼き付けてもうたわ。」
「は、はぁ…。」
「一応客人やししばらくウチとお話せえへん?聞きたいこともあるし。」
「可能な範囲であれば…。」
神ロキの言葉にソーンは緊張感を覚えた。【
「なぁ自分らはオラリオ外から来たんよな?」
「はい、外の国から来ました。」
「どうしてオラリオに来たんや?」
「…えっと、兄様と国を出た後にある女神様と出会って、その方からオラリオを目指すといいと言われました。」
「ほーん、自分の眷属にせんでオラリオに行けなんていう神がおるんかー。こんなかわええ子たちを逃すなんてどんな神なんやろなぁ。」
「えーっと、ヘラ様ですね。」
「ん?今、めっちゃ聞き覚えのある名前が聞えたような気がするんやけど。」
「女神ヘラ様にオラリオを目指すように言われました。」
「聞き間違いやなかった!え、あの【
「はい、少しの間ですが一緒に旅をさせていただきました。今でも文通していますし。」
「あかん、この子に手を出したらウチが天界に送還させられる未来が視えた気がするわ…。」
神ロキは頭を抱えながら応接室からいなくなった。神ヘラがオラリオにいた頃、どれだけのことをしてきたのか想像するつもりはないがあの神ロキが頭を抱えるほどのことをしていたのだなと思った。
またしばらく1人で待っていると再び扉が開いた。今度は目的の人物ともう1人、応接室に入ってきた。
「すまんすまん、会議が少し長引いて待たせてしまったな。」
「ガレスさん、それに【剣姫】さん?」
「私が会いたいって頼んだの…。」
「そうだったんですね、えっとまずガレスさんに。こちら兄様からのお届け物です。」
ソーンはカバンの中から小包を取り出してガレスに渡す。ガレスは受け取ると早速中身を確認すると声を漏らした。
「ほぉ、まさかこれを覚えていてくれるとはな。」
「ガレス、何を貰ったの?」
「希少素材だ。前に欲しいと話したことがあったんじゃが覚えておったのか。いいのかこんな希少なものを貰っても?」
「兄様が言うには自分が持っていたも仕方がないものだ、欲しいものに譲るしお世話になっているなら尚更、だそうです。」
「そうか、ならありがたく受け取っておこう。」
ガレスの礼にを言われたので頭を下げると、アイズがソーンに顔を近づけてきた。ソーンは一瞬顔がこわばったが少し後ろに下がり、距離を取った。
「えっと、何かありましたか?」
「あ…その、どうしたらそんなに早くランクアップ、強くなれるの?」
ソーンはアイズの質問に少し困ったが、素直に答えた。
「そうですね…僕はスキルの恩恵があって他の冒険者の方より少しだけ成長が早いんです。ですが、結局は兄様という追いつくべき目標がいたからこそどんな試練でも乗り越えて、兄様と肩を並べる冒険者になりたいと願ったからではないでしょうか?」
「目標…。君はお兄さんがいたから強くなれたの?」
「そうですね…大部分はそうですけどあと一つ、英雄譚の英雄に憧れたからでしょうか。」
「英雄?アルゴノゥトとか?」
「はい!というより、英雄譚に出てくるような物語を自分でも送ってみたいという気持ちがあったからだと思います。当時の僕に今のような自由はなかったですから…。」
「…そっか、ありがとう。参考にする。」
「参考になるかどうかは微妙ですが…えっと、僕はまだ行かなければならないところがあるのでお暇させていただきます。突然の訪問失礼しました!」
「いや、こちらこそこんな希少なものを感謝しなければいけないな。今度いい酒を送ると【
「分かりました!」
ソーンはロキ・ファミリアの【黄昏の館】をあとにし、次なる目的地であるフレイヤ・ファミリアの本拠【
「こ、ここも大きい…。」
目的地にはついてものの、あまりの広さにまた驚きを隠せなかった。ソーンはフレイヤ・ファミリアについてアダムから多少話は聞いているが、かなり酷いことを言っていた。
『あいつらはただの盲信者ばかりだから気持ちが悪い。実力は認めるが、あの盲信ぶりは正直、雪原で数日過ごすよりも鳥肌が立つ。あの女神のことに触れたり侮辱したりしなければ危害は無いからそれだけは気を付けろ。』
「…と、とりあえず荷物をすぐに渡して帰りましょうか!」
ソーンはなるべく平穏に、そして早急に頼みごとを終わらせてダンジョンにでも潜りに行こうかと考えた。そのためにすぐに門番に話しかけた。
「すいませーん、ミアハ・ファミリアのソーン・ユーリエフと申します。【
「ヘディンさんに?しかも【
「はい!直接本人に届けるように言われていますのでいなければ帰りますがこちらにいらっしゃいますでしょうか?」
「……どうするべきか。」
ソーンはすぐにでもこの場から離れたい一心であったが門番が不信がっているので一向に話が進まずに内心困っていた。
なんとか呼び出してもらおうかと口を開きかけたとき、後ろに気配を感じて短剣に触れながら後ろを振り向くとダーク・エルフの冒険者が立っていた。
「ほぉ、我の気配にすぐ気づいたのか…。」
「ヘグニさん⁉」
「くくく…招かれざる客人よ、このような場に何用だ?」
「【
「そうか、ではこの客人は我がもてなす!着いてきたまえ。」
「えっ、あ、ありがとうございます!」
ソーンはヘグニの後を追い、フレイヤ・ファミリアのホームへと足を踏み入れることとなった。あまりダンジョンでは見かけないファミリアの人たちを見て、やはり派閥としてはかなり大きいのだなと感じた。
「さて客人よ、貴様の名前は何と言う?」
「あ、そうでした。アダム・ユーリエフの弟、ミアハ・ファミリアのソーン・ユーリエフと申します。」
「【
「えへへ…兄様と同じ…ありがとうございますヘグニさん!」
「…貴様、本当に冒険者か?」
「冒険者ですよ!どうして皆さん僕のことを冒険者だと思わないのでしょうか…もっと筋肉をつけるべきですかね。」
「いや、それは多分関係ないと思うよ。」
「え?」
ヘグニはソーンの言葉に思わず素で突っ込んでしまった。ソーンも思わず聞き返してしまったがヘグニはソーンに対してそのまま話し続けた。
「多分、態度とか雰囲気が優しすぎるから冒険者と思われないと思う・・・。」
「うっ・・・これは治しようがないです。」
ソーンは項垂れながら少し開けた場所を見た。そこには、同じファミリア同士で闘いあっている姿が見えた。
「あれは・・・。」
「『洗礼』だよ、ここはこうして強くなってるから。」
「『洗礼』・・・騎士団もあんな風に…。」
ソーンはかつての国の騎士団内で行われていたことを思い出した。その時のアダムは特に酷かったので思い出したくない記憶の一つであった。
「他の者が呼びに行ってるからここで待とう。」
「分かりました。」
ソーンとヘグニは向かい合って座るが会話は何も起こらない。ソーンは別に何も思ってないが、ヘグニは何か話さないといけないかと思い必死に話題を考え、一つだけ話題を振り絞って話しかけた。
「す、好きな食べ物はなに・・・⁉︎」
「た、食べ物ですか?えっと・・・腐ってない食べ物ですかね?」
「それは当たり前じゃないの?」
「あはは、スラム出身なもので腐ったものでも食べなきゃ生きていけなかったですから。」
「す、すまない・・・。」
ヘグニはこの質問はダメだったかと心の中で反省したがソーンは話を続けた。
「今は紅茶とココアが好きです。ヘグニさんはお好きですか?」
「え・・・ほどほどには。」
「そうなんですか。紅茶って面白いんですよ、採れた場所や気候、発酵によって甘さや渋み、香りが全然違ってくるんです。もちろん淹れ方が良くなければ味や香りが損なわれてしまいますが上手に淹れられた時は本当に美味しいんですよね。」
「そうなんだ・・・!」
「そうだ、実は来る途中に珍しい茶葉が手に入ったので良かったら一緒に・・・って、ああああ!すいません!こんなベラベラとたくさん話してしまって、しかも初対面の他派閥の方に対して!」
ソーンは紅茶の話で思わず色々と話したことに思わずヘグニに謝ったがむしろヘグニは咎めるつもりなどなかった。
「き、気にしないで!その、誰かにこんな楽しく話しかけてもらえることが少ないから嬉しかったんだ!もしよければ、飲ませてくれないか?」
「わ、分かりました!良かった、今日は自前のティーポッドを持ってきておいて・・・これなら美味しい紅茶が淹れられますから。」
「持ち歩くものではないのでは・・・?」
ソーンはカバンの中からティーポッドを出して、水筒の中に入っている水を注ぎ入れてしばらく待つ。その間に茶葉の入った缶の封を開けて香りを嗅いでから美味しく飲める淹れ方を考えた。
「この茶葉は渋みが少なく甘みが強いですから短めですかね。お砂糖とミルクは個人の好みですが入れるのもありですかね・・・ふむ、難しいところです。」
「匂いだけで分かるんだ。」
「兄様と二人で過ごす時は紅茶とお菓子は欠かしていませんでしたから。さて、そろそろお湯が沸く頃合いですね。」
ソーンはポッドの蓋を開けると湯気が立っていた。魔道具のティーポットの中に茶葉を適量入れてからしばらく待ち、カップへと注ぎ入れると透き通った紅茶がヘグニの前へと差し出された。ヘグニは出された紅茶を受け取り、一口飲んだ。
「・・・!美味しい・・・それに、口の中に香りがすごい広がる。」
「えへへ、流石は少しお高めの茶葉です。それに今回は人に飲んでもらえると思ったので上手に淹れられました。」
「ソーンは凄いな・・・。」
「‼︎いえ、僕は凄くありませんよ。僕は・・・。」
ソーンが何か言いかけるが、その時扉が開いた。そこには当初から目的としていた人物がいた。
「呼ばれたから来たぞ。」
「あ、ヘディン・セルランド殿でしょうか?【
「そうか。しかし何を送ってきたんだあの騎士は。」
「兄様からの伝言も預かっております。『前に話していたものをたまたま手に入れたからお前にやる。俺やファミリアにも不要なものだから有効的に使えるやつに渡すのが得策だろう。』と。」
「ほぉ、あの時話したものか。ここまでご苦労だったな【
「兄様からの頼みでしたから。直接お渡しできて良かったです。」
「それにしても、何をしてるんだヘグニ。お前、紅茶を淹れることが出来たのか?」
「あ、ソーンが淹れてくれたんだ。凄く美味しいんだ。」
「・・・俺にも一杯もらえないか?」
「えっ、わ、分かりました・・・。」
突然ヘディンにもそう言われたソーンは急いでティーカップに紅茶を注ぎ、ヘディンに差し出した。
「お砂糖とミルクとも合いますが一口目はそのままお飲みいただけるといいかと。」
「そうか。」
ヘディンは言われた通り一口、紅茶を飲むと目を見開いた。
「確かにこれは美味しい。温度管理や茶葉の入れるタイミングも完璧だ。」
「よ、良かったです!ここに向かう途中で良い茶葉も手に入れられたので。」
「あら、そんな美味しい紅茶なら私もいただこうかしら?」
ソーンは耳元で女性に囁かれてすぐさま距離をとって短剣を抜いたが、それは女神のイタズラであった。
「フレイヤ様・・・。」
「警戒心の強い子ね。」
「フレイヤ様、どうしてこちらに⁉︎」
「ここは私のホームでもあるもの。それに美味しそうな紅茶の香りがしたから来てしまったの。」
「そうでしたか・・・。」
「それにしても相変わらず綺麗な子ねあなたは。その中にいるものは気に入らないけど・・・。」
「・・・何のことでしょうか?」
ソーンは神フレイヤに向けて分からないふりをしたが、フレイヤは笑いながらソーンに近づいた。。
「ごまかしても無駄よ、私はそれと話したもの。それに貴方を守ろうと殺すと脅してきたもの。あなたの事がとても大切なようね。ちょっかいをかけたかったのに、それのせいで台無しだわ。」
ソーンは血の気が引いた。美神のホームで、しかも自分の記憶がない時に限ってそんなことを自分の中にいる存在が脅していたことを知ったのだ。殺されるに違いないと思ってしまった。ソーンは初めて、グラナートを恨んだ。
『すまないソーン、もしもの時は我が出るから。』
「そうしないと許さないですからねグラナート・・・。」
「あら、もしかしあれとお話し中?私は別に気にしてないわよ、ちょっかいをかけたのは本当だし。」
「いえ、あ、その節は申し訳ありません!その時の記憶、というかまずいつそんな事が起きたのかすら知らなかったので!」
「気にしないで頂戴、それに紅茶の方が今は気になるから私にも貰えないかしら?」
「分かりました!すぐにでも淹れさせていただきます‼︎」
ソーンは痛いほど感じる視線を受けながら急いでティーカップに紅茶を淹れ、神フレイヤに差し出した。
「この茶葉は渋みが少なく甘みが強いのが特徴的なのでまず一口目はそのまま飲んでみてください!お砂糖やミルクはお好みでどうぞ‼︎」
「ありがとう。」
フレイヤが飲むのを見ていられなかったソーンは持っていたチェーニで顔を隠す。これで不味いと言われようものなら死ぬほど追いかけまわされる。レベルを偽ってるとはいえ同じレベルでも実力は相手側の方が高いから確実に殺されるだろうと心の中で憂いていた。
「とっても美味しいわね。紅茶なのに雑味が少ないわ。」
「ひぇ!えっと、お湯の温度と茶葉を入れる時間を調節すれば雑味はかなり少なくなります…。」
「詳しいわね。」
「王宮にいた頃の暇つぶしの一種だったので…あ。」
ソーンは思わず口を手で塞いだ。あまり人に話すつもりはなかったことを思わず口に出してしまったから。温かかったはずの記憶ではあるが今は奥底にしまっておこうと決めていたのだから。
「王宮?」
「いえ、故郷での話ですのでお気になさらず。」
ソーンは口を固く閉ざして、目線を逸らした。あまり、故郷の話を広めるつもりはない。特に他派閥の神の前ではモラしたら最後、弱みとして握られてしまうかもしれないのだ。
「僕はお届け物ができたのでこれで失礼します。」
「あら、もう少しお話しないの?」
「この後、団長から仕入れをしてきてくれないかと言われているので申し訳ありません。何か用があれば、兄様かギルド経由でご連絡ください。」
「分かったわ。ヘグニとヘディン、この子を送ってあげてちょうだい。」
「承知しました。」
ソーンはエルフ二人と共に出入口へと向かった。
「はぁぁぁぁぁ、心臓に悪いですぅ…。」
「フレイヤ様が急に来るとは、同情する。」
「いつもバベルの方にいると思ってたんですけどホームにもいらっしゃるとは…。しかも、目をつけてるとか言われるなんて…早く兄様に会いたい。」
「ソーンがここに入れば解決すると思うけど…。」
「僕はミアハ様に命を救われた恩があるので改宗する気はありませんよ…今日はどうしてこう、言われるのでしょうか。」
ソーンはため息を吐きながらフレイヤ・ファミリアのホームをあとにした。
「ただいま帰りましたー!」
「おかえりソーン。」
「ただいま帰りましたミアハ様。」
ソーンは町の店で色々な薬草や、ポーションを入れるガラス瓶や夕飯の食材を抱えてファミリアのホーム「青の薬舗」へと戻ってきた。
「どうやらお疲れのようだね。」
「兄様のお使いでロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアのホームに行ったのですが…改宗を進められたり色々あって疲れましたよ。」
「おや、そうだったのか。別に私はソーンもアダムも寂しいが本人の意思なら改宗してもいいとは思っているが。」
「流石にそれは聞きづてならないですよミアハ様!僕と兄様はミアハ様に命を救われたからここにいるんです!だからそんなこと言わないでください!」
ソーンはミアハに買ってきたものをしまいながら怒り始めた。小言はアダムやナァーザ、ダフネとカサンドラが帰ってきてもしばらく続いた。