ハルユキミサキ from Gemini 作:test sentinel
『デイリー・リポート File.128: 究極の選択とプリンの神様』より
## 15:00 JST - 平穏なる午後
その日の午後、対次元異常存在対策機関「アーク」の寮は、珍しく平和な空気に包まれていた。ミサキは自室で刀の手入れと精神統一。ユキは共有スペースのソファで、分厚い哲学書を(おそらくは内容を理解せず、雰囲気で)読んでいる。そして、我らがトラブルメーカー、ハルは。
「う〜ん……う〜ん……!」
テーブルの上、たった一つのプリンを前に、人生最大の選択を迫られていた。
それは、アークの購買で一日一個限定で販売される、幻の「黄金の極みプリン」。濃厚なカスタードと、ほろ苦いカラメルソースが織りなすハーモニーは、食べた者の脳内に直接、幸福の概念を書き込むとまで言われる伝説の逸品だった。ハルは早朝から並び、最後の一個を勝ち取ったのだ。
問題は、スプーンが一本しかないことではなかった。問題は、そのプリンを「いつ」食べるか、だった。
「今すぐ、この衝動のままに食べてしまうべきか……。いや、でも、今食べてしまったら、この『いつでも食べられる』という万能感に満ちた幸福な時間は終わってしまう……!」
ハルは頭を抱えて唸っていた。彼女にとって、これは単なるおやつの問題ではない。幸福の最大化という、極めて高度な哲学的命題だったのだ。
「……ハル、さっきからうるさい」
ソファから、ユキの冷静な声が飛んでくる。
「たかがプリンでしょ。さっさと食べちゃえばいいじゃない」
「たかがプリンじゃない! これは、私の魂の在り方を問う、聖なる問いなんだよ! ユキには、この葛藤の崇高さが分からないのか!」
「分からない。私は、食べたい時に食べる。それが、私とプリンの、最も誠実な向き合い方だと思うけど」
ユキはそう言うと、再び本の世界に戻ってしまった。
ハルは一人、苦悩の海を漂う。今食べるか、後に食べるか。それは、刹那的な快楽を取るか、持続的な幸福感を取るかという、究極の二択。
「うう……神様……! どうか、私に、正解を……!」
ハルが天を仰いで祈った、その時だった。
## 15:10 JST - 神の降臨(?)
ピーンポーン、と、寮のチャイムが鳴った。
「はーい!」
ハルは悩みを一時中断し、玄関のドアを開けた。そこに立っていたのは、見慣れない小柄な配達員の男性だった。
「こんにちはー! アーク購買部です!『超特急・あなたの元へお届け便』をご利用いただき、ありがとうございます!」
「へ? 私、何も頼んでないけど……」
配達員はハルの言葉を無視し、一つの小さな箱を恭しく彼女に手渡した。
「こちら、ご注文の品、『時空を超えて届く、奇跡のプリン』でございます!」
「えええええ!?」
ハルが驚いて箱の中を覗き込むと、そこには、先ほどまでテーブルの上にあったものと全く同じ、「黄金の極みプリン」がもう一つ鎮座していた。
「え、なんで!? どういうこと!?」
「それは、お客様が強く、強く、プリンを願ったからでございます!」配達員はニカッと笑う。「お客様の『もう一つ食べたい』という純粋な願いが、時空の狭間に奇跡を起こし、未来の、あるいは別の並行世界のお客様自身から、このプリンを取り寄せたのでございます!」
「な、なんだってー!?」
ハルの能力は「絶対確率発現」。あらゆる事象の発生確率を100%に固定する力。どうやら、彼女の「プリンがもう一つあったらな……」という、無意識の、しかしあまりにも純粋な願いが、能力を暴発させ、未来か別の世界線の自分が買うはずだったプリンを、時空を超えて「デリバリー」させてしまったらしい。
「では、またのご利用を!」
配達員は嵐のように去っていった。
ハルは二つのプリンを手に、呆然と立ち尽くす。そして、次の瞬間、彼女の顔は歓喜に輝いた。
「やったー! これで、今すぐ食べる用と、後で食べる用の二つが手に入った! 私の悩み、完全解決だー!」
彼女はスキップしながらテーブルに戻ると、早速一つ目のプリンの蓋を開けた。黄金色に輝く魅惑のプリン。ハルはスプーンで、その神々しい肉体を大きくすくった。
そして、至福の一口目を口に運んだ、その瞬間。
## 15:20 JST - さらなる選択
プルンッ、と。
ハルの手の中に、三つ目のプリンが忽然と出現した。
「…………へ?」
ハルは、時が止まったかのように固まった。右手には、スプーンに乗った一口目のプリン。左手には、まだ蓋の開いていない二つ目のプリン。そして、膝の上には、どこからともなく現れた三つ目のプリン。
「な、な、な、なんでえええええ!?」
ハルの絶叫が寮に響き渡った。ソファで本を読んでいたユキが、呆れたように顔を上げる。
「……ハル、今度は何?」
「ユキ! 大変だ! プリンが、プリンが増える!」
「は? 何言ってるの?」
ユキがハルの手元を見て、目を見開いた。
「……本当だ。増えてる」
どうやら、ハルの「プリンが無限にあったらいいのに」という、さらに純粋化された願いが、能力を再暴発させ、プリンそのものに「自己増殖」の概念を付与してしまったらしい。
「ど、どうしようユキ! このままじゃ、プリンに埋もれて、私たちは圧死しちゃう!」
「落ち着いて、ハル。まだ三つでしょ。……とりあえず、食べたら?」
「だ、だよね!」
ハルは意を決して、スプーンに乗った一口目を口に放り込んだ。濃厚なカスタードの甘みと、カラメルのほろ苦さが、口の中いっぱいに広がる。
「おいしーーーーーい!!」
ハルが幸福の絶叫を上げた、その刹那。
ポコッ、ポコッ、ポコポコポコッ!
テーブルの上、ソファの上、ハルの頭の上、ユキが読んでいる本の上。ありとあらゆる場所から、「黄金の極みプリン」が、まるでキノコのように、次々と出現し始めた。
「「ひいいいいいいいいい!!」」
二人の悲鳴が重なる。数秒後には、部屋の床は足の踏み場もないほどのプリンで埋め尽くされていた。
「だ、ダメだ! 食べると増える! このプリン、食べると増えるぞー!」
「ハル! あんたの能力で、どうにかしなさいよ!」
「む、無理だよ!『プリンが増えない』って願っても、『プリンを食べたい』って本能が、それを上回っちゃうんだもん!」
まさに、無限幸福地獄。プリンの海の中で、二人は甘い香りに包まれながら、途方に暮れていた。
その時、ガチャリ、と、ミサキの部屋のドアが開いた。刀の手入れを終えたミサキが、静かにリビングへと足を踏み出す。
そして、目の前の光景に、完璧に固まった。
床一面を埋め尽くす、無数のプリン。その中央で、途方に暮れている、ハルとユキ。
ミサキの、完璧に整えられた静かな日常。それが、音を立てて、崩れ去った瞬間だった。
彼女は、深く、長ーーーーーーーーーい、ため息をついた。
「……ハル」
その声は、絶対零度よりも冷たかった。
「……はい」
ハルは、プリンの山に埋もれながら、小さな声で返事をした。
「……あなた、今日の夕食、どうなっても知りませんからね」
それは、ミサキなりの最大級の怒りの表明だった。ハルの顔が絶望に染まる。ミサキの作る、栄養バランスの取れた美味しい夕食。それが食べられない。それは、プリンが無限に増えることよりも恐ろしい事態だった。
「ごめんなさーーーーーーーーい!!」
ハルの悲痛な叫びが、プリンの海に虚しく響き渡った。
この後、三人が総出で一晩かけてプリンを(主にハルが泣きながら)食べ尽くし、ミサキの機嫌が直るまで、あと三日かかったという。