ハルユキミサキ from Gemini 作:test sentinel
『モノローグ W/O (Without) U』
夜。
アークの寮の自室のベッドの上。
私は天井の何もない一点を見つめている。
隣の部屋からは、ハルの健やかな寝息が微かに聞こえてくる。
すー、すー、という何の悩みもなさそうな、世界で一番安心する音。
ねえ、ハル。
あなたは今、どんな夢を見てるの?
きっと、プリンの火山が噴火したり、虹色のクワガタと空を飛んだり、そんな馬鹿馬鹿しくてキラキラした夢なんだろうね。
あなたの頭の中は、いつだって楽しそうで、いいな。
私は時々、怖くなるんだ。
この、私の能力が。
「定義改竄」。
言葉一つで世界を書き換えられる、神様みたいな力。
でもね、ハル。
私にとって、この力は祝福なんかじゃない。
呪いだよ。
だって、私は知ってしまったから。
この世界の全てが、いかに曖昧で、不確かで、脆い砂上の楼閣であるかを。
「リンゴが赤い」のも、「空が青い」のも、「私が私である」ことさえも。
誰かが、そうだと決めただけのただのルール。
私が「違う」と一言言ってしまえば、全てが意味を失ってしまう。
そんな虚無の中で、私が唯一信じられる確かなもの。
それが何だか分かる?
ハル。
あなただよ。
あなたのその底抜けの明るさ。
あなたのその予測不能な行動。
あなたのその何の根拠もない「楽しい」という絶対的な感情。
あなたは世界の意味なんて考えない。
あなたは物事の定義なんて気にしない。
ただ、そこにいる。
太陽みたいに、ただそこに在るだけで、周りを照らしてしまう。
私にとって、あなたはこの不確かな世界に打ち込まれた、唯一の「絶対」という名のアンカーなんだ。
あなたが「楽しい」と笑えば、私の世界にも「楽しい」という意味が生まれる。
あなたが「美味しい」と言えば、私の世界にも「美味しい」という価値が生まれる。
あなたは知らないでしょう。
私が夜中に、こっそりあなたの部屋に忍び込んで、あなたの寝顔を見ながら、どれだけ多くの定義を上書きしているか。
「定義改竄。ハルは絶対に悪夢を見ない」
「定義改竄。ハルが明日着る靴下の左右が入れ替わる悲劇は起こらない」
「定義改竄。ハルが朝、トーストを咥えて曲がり角でぶつかるのは、イケメンの転校生ではなく、必ずミサキである」
くだらないでしょう。
でも、私はそうせずにはいられないんだ。
あなたのその完璧な「光」が、ほんの少しでも曇ることが、私には耐えられないから。
ミサキは強い。
彼女は世界の全てを背負う覚悟ができている。
彼女はハル、あなたのことも私と同じくらい大切に思っている。
でも、彼女の愛し方は私とは違う。
彼女はあなたを守るために、世界の全てと戦うだろう。
でも、私は違う。
私はあなたを守るためなら、世界の全てを書き換える。
あなた以外の全てを敵に回しても構わない。
たとえ、それがあなた自身の意思に反することだったとしても。
ねえ、ハル。
もし、いつかあなたが本当に深い悲しみに落ちることがあったら。
もしあなたのその太陽のような笑顔が、永遠に失われてしまうような出来事が起きたら。
その時は、私、きっとためらわないよ。
「定義改竄。この世界から『悲しみ』という概念は存在しない」
そう宣言して、全てを終わらせる。
人々から感情の機微を奪い、物語から深みを奪い、世界をただ平坦で退屈な、ハッピーエンドだけの場所に変えてしまう。
あなたが悲しまない、という、ただそれだけの理由で。
あなたは、きっとそんな世界は「面白くない」って怒るだろうね。
でも、いいんだ。
あなたが私を嫌いになっても。
あなたが私を世界の敵だと罵っても。
私は、あなたのいない世界で意味を見つけることなんてできないんだから。
私のこのクソ重い愛。
あなたは気づかなくていい。
知らないままでいい。
ただ、明日もいつもみたいに馬鹿なことを言って、笑っていてくれれば。
それだけで、私のこの不確かな世界は、なんとか形を保っていられるんだ。
おやすみ、ハル。
私の太陽。
私の唯一の絶対。
どうか、良い夢を。
私が定義した、完璧に幸福な夢を。