俺の名前はタニムラ・マイト、俺の仲間はタニーって呼ぶ、よろしくな!
好きなものはかつおぶしご飯、嫌いなものは呑んだくれ、趣味はゲーム、好きな人はこれから出来るだろう、嫌いなやつは自己中な奴。
「はぁ、行くか」
今日も元気にバイトへ向かう、社会の歯車の一人だぜ。
「混んでないな、事故でもあったかな」
最寄りのターミナルはいつも人でごった返すのに、今日は一人も見当たらない、事故があると人が居なくなる時があるが、それにしても人が少ない日だった。
改札口に来たら、誰も居なかった、駅員も居ないなんて珍しい、人が居ない駅は気分がいい
__背中に凄まじい痛みが走った。
「えっ?」
「チッ……お前が悪いんだ……お前が……地獄へ落ちろ……ひひ」
痛い、痛い、力が入らない、意識が飛ぶ、重力に任せて体が落ちる、うつ伏せで寝そべる俺を、誰かが見ている、誰かもわからない。
「……ほ……う……ちょ……」
「居たぞ! 確保!」
無数の足音が聞こえる、服装から警察だと分かる、視界は映さなくなった、脳の動きが鈍くなる。
「しに……や……いゃ……」
辞世の句は情けなかった。
目を閉じ、ゆっくりと、俺の意識は遠くなる。
「お?」
次に目覚めたのは白い天井の部屋、白いベッドに寝かされていたから病院かと思ったが、窓の外に広がる未開の森が、その予想が外れていると教えている。
「なんだ……ここ」
俺は枕元に置かれた手紙を見つけた、蝋印なんて洒落た止め方がされている手紙だったので、少し緊張しながら開けた。
__タニムラマイト、君の死は理不尽な怨みによる無差別な殺意が生んだ悲劇だった、私としてはそれは良き死とは言えない、よって私の裁量により君に新たな人生を与える
「新たな……人生……じゃあ俺、しっかり死んだんだな」
この手紙が何かのイタズラだと思うには、俺の置かれたこの環境が現実離れしている。
ベッドから降りて部屋を見て回った、ベッド以外には外の見える窓だけで、何もない、何かこの状況に対するヒントがないかと手紙を見返すと文章に続きが“生えてきた”。
「うわっ」
__この手紙は君と私を一時的につなぐもの、その部屋は私が用意した部屋だ。外へ出る前に選んでほしいことがある、難しいものではない、君がその世界で生きるために必要な力を与えるんだ。
「必要な力?」
手紙から目を離すと今度はテーブルと鉛筆が目の前の床へ置かれていた、どうやらそこへ座れと言っているみたいだ、話の先が気になるのでテーブルの前に腰を落としたら、手紙に続きが現れた。
__こちらには君の声が届かない、その鉛筆でこの手紙に君の望む“能力”を書き込んで欲しい、具体的なものでも抽象的なものでも構わない、私はいかなる願いでも叶える用意がある、けれどよく悩んで決めて欲しい、君の人生に関わることだ。
「これって……あれか、神様転生とか転生特典とか、そういう話?」
そうだとしたらかなり回りくどいやり方をしている、この手紙の主はシャイかもしれない、そんな可愛い想像も出来てしまう。
想像も程々にして言われたとおりに能力とやらを考えよう、俺は面倒が嫌いだから、俺が危なくない、俺が使いやすい、俺が困らない能力だと良いと思う。
前世では母が早死にして父に高校卒業まで養ってもらっていた、それから大学をバイトしながら通い……3年の夏、だったな、死んだの、前の暮らしはそれなりに苦労したから今世は楽をしてもいいと思いたい。
「予知、サイコキネシス、空を飛ぶ〜……意外と難しいな」
生活が楽になるのが究極的な所ではあるんだよな、何が一番生活を楽にできる能力なのか。
あぁ、閃いた閃いた、何も俺がやらなくて良いんだ、“人任せ”でいいんだ。
「能力じゃなくてメイドさんが欲しい……っと」
__……メイドの服装はどうする?
「服装!? ……ミニスカ……だと気まずいな、ずっと見てるわけだし……えー、クラシックな感じで……っと」
__メイドは二人、その世界に合わせて派遣しよう。だけどこれでは君の能力ではないから、他には無いかな?
あくまでも俺の能力をってことか、生活環境をどれだけ整えられるか、自分が快適であることに尽きるし、メイドさんも来るし、困ることはないけども、くれる物は貰っておこう。
となるとそうだな……1日分の献立がすぐ出てくる能力とか、洗濯がすぐ終わってすぐ乾く能力とか、勝手に風呂が綺麗になる能力とか、だろうか、いやこれ現代だったら殆ど要らない……科学様々だ。
でもメイドさんいるなから、一応任せられないことはないだろう……となると……あ、怪我とか病気とか怖いな……一人暮らしだと風引いたら辛いんだ、誰も看病してくれないし……、よし健康になる能力で行こう。
「健康になる能力と、……そうだ清潔にする能力も欲しい」
__……欲がないのかい?
「欲はあるけどなぁ……えーなんて書こう、欲ありますよ、惰眠大好きです、怠惰だよ……っと」
__まぁ、そういう見方も出来るね、君が良いなら私に異論はない、その二つの能力は少しサービスしておくから、後で見ておいてくれ、能力は既に付与した、あとはその世界で、君が生きたいように生きて欲しい、万事何事もなく、幸運であることを祈っているよ。
手紙は砂になって床へ落ちていく、役目を終えた、そういうことだろう。
部屋の扉の前に立った、窓の外に広がる森がこの先にもあることがわかっている、だけどこれは心の問題だ、窓から見る景色と扉を開けてその先にある景色は一緒のようで少し違う、扉を開けることはつまりその世界へ俺が加わるんだと言うことを意味するんだ。
「緊張するな……いくぞ」
ノブに手を掛け、ゆっくりと回し、扉を押した。
目に飛び込んできたのは大自然、前世では失われていく一方、限られた場所にしか無い、ジャングルのような世界が広がっていた。
木々に絡むツタやシダ、湿り気のある風、足元には泥のような土、お手本のような熱帯雨林だ。
「……なんで?」
扉から完全に外へ出た、先ほどまで居た部屋は瞬きのうちに消え去り、俺は一人ジャングルに取り残されている。
文句がある、転生させてくれた手前、言える立場にないかもしれないが……それでもいいたい、言わなくちゃあならない。
「こう言うのって普通は街とかじゃないんですかぁぁぁぁぁぁ!!!!」
空へ向かって叫ぶ俺を真昼の太陽はギラギラと照らしていた、笑っているのかもしれない。
次回 メイド現る!
「炊事洗濯からベッドメイキングや添い寝に至るまで、あなたの身の回りのために尽くします」
「砲撃乱闘火事殺しワタシにおまかせデスッッッ!」