現代の文化に影響を受けた、新しいものが生まれるのも都市伝説の魅力だね!
実はゲームなど、コンピューターにも怪異が潜り込む余地があるんだ。
パソコンのソフトをあれこれ作っている『プログラム言語』…これが魔術に似ているという噂があるんだ。
たしかに画面と言葉で色々出来るのは魔法かもしれないね。高度に発達した科学は魔法と区別がつかない、なんていうくらいだ。
僕らは魔法使いの皆さんに足を向けて眠れないね!
ブルコモンと旅に出たツバサだが、行先などなかった。とりあえず思いついた方に進むしかなかった。夜に大人、それも警察官に見つかると家に連れ戻される可能性があるので移動は昼間が中心だ。
路銀として家から思いつく限りの現金を持ち出したが、最近はキャッシュレスがどうのと心もとない額しか集まらなかった。目的地もないので公共交通機関の使用は一度に限定した。
子供だけで乗って怪しまれないギリギリ。鉄道で県境を跨ぐだけ。距離だけ雑に取り、あとは歩きだ。前にテレビか何かで警察は県を跨ぐと所轄がどうのとツバサは聞いたことがある。
「ここから歩きだね」
「ま、ゆっくりやろうや」
ホームで電車から降りた二人は出口を探す。ツバサは電車自体に乗り慣れていないので、駅をどう出るかさえ手探りだった。
「出口が二つあるね」
「何か違うのか?」
出口の種類についてもいまいちピンと来ていなかった。急がない旅なのでのんびり考えていると、アナウンスが聞こえてくる。
『まもなく、ホームに車両が参ります。通過電車です、黄色い線の内側にお下がりください』
「ん?」
ツバサが妙な音を耳にして、その方を向くとおじいさんが杖を突いて歩いていた。しかし、そのおじいさんは急に体勢を崩してホームに転落しそうになる。
「危ない!」
通過電車が来ている中、線路に転落するのが危ないことくらいはツバサも分かっていた。反射的に助けようおじいさんの腕をツバサは引いたが、筋力の無さや体重の少なさから一緒に線路へ落ちそうになる。
「わ……」
「ツバサ!」
ブルコモンが二人を引っ張ってホームへ引き込む。転落を免れた瞬間、電車が通過する。ツバサは通過電車をホームから見るのは初めてであったが、離れていても受ける衝撃波の強さから背筋が凍った。車よりも遙かに速く、それでいて巨大。あれに轢かれて助かる道はない。
「あ、危なかった……ありがとうブルコモン」
「二人共無事でよかったな」
一息ついたツバサはホームに転がる杖を見る。石突の部分が砕けており、壊れた衝撃でおじいさんが体勢を崩したとみられる。周囲に散らばる破片の少なさや破損部の質感から、今日突然砕けたのではなく石突が欠けたまま使用して、事故に繋がったとツバサは予想した。
「ありがとうねぇ」
「い、いえ」
おじいさんからお礼を言われ、予想外のことにツバサは動揺した。大人と関わると、せっかく家出しているのに連れ戻される危険がある。
「こ、これから塾なので行きますね!」
ツバサは見る人が見れば丸わかりの嘘をついてその場から立ち去る。時刻的には塾でもおかしくないが、手ぶらなので怪しまれるのは当然だ。
ホームを脱兎のごとく逃げ出して出てきたのは、太い道路を中心に商業施設が並ぶ地方都市といった街並み。
「そろそろ夜かな」
日が傾いているのを確認して寝床を探す。子供だけで宿が取れるはずもなく、可能でも資金に限りはある。なので、隠れて睡眠を摂るだけの場所だ。
「ここかな」
「屋根ないぞ?」
「いいんじゃない?」
とりあえずと、自動車の代理店を見つける。こういう場所は広い分閉店になって施錠しても軒先や駐車場にゆとりがあり、隠れるのにはうってつけだ。ツバサはそういう知識を持っている。ブルコモンは屋根がないことを気にしたが、ツバサの方はそこまで考えていない。
「閉店まで待とう」
「あそこよさそうだな」
ただし、開店時間に入り込むと見つかってしまう。そこで待つ場所を探すことになったのだが、道路の向かいにゲームセンターがあるではないか。その隣には空き地があり、ツバサはそちらが気になった。
「そうだ、試したいことがあるんだ」
「なんだ?」
二人はゲームセンターの方へ移動し、空き地で実験を開始する。この空き地はアスファルトで固められており、駐車場か建物を解体した後の空間だったのだろうか。広いスペースがあればツバサの考える実験も可能だ。
「進化前の技って使えるかなって」
「あー、試したことないや」
技はツバサが名前を叫んで、ブルコモンが発動する方式だ。ヒヤリモンの技である『ダイヤモンドダスト』をツバサが叫べば、ブルコモンが放てるのだろうか気になった。
「ダイヤモンドダスト!」
技名を叫ぶと、ブルコモンが氷の息を吹きだす。『ベビーヘイル』は小さい氷をいくつか噴き出していたが、こちらは完全な息。
「少し強くなっている?」
空き地のアスファルトが雪のようなもので白くなる。見た目からヒヤリモンの時より強くなっているのはわかった。
「だったらこれは……デリシャスパティ!」
次にツバサが叫んだのは、バーガモンの技。しかし、ブルコモンは何も技を出さない。
「他のデジモンの技はダメなんだ」
「どうやら、そうみたいだな」
ツバサはバーガモンの技が出せれば食料に困らないと思って試したのだ。数日、こうして旅をして分かったのは家から持ち出した現金では自分とブルコモンの食費を賄えないということ。ブルコモンも遠慮して食事量を抑えているのはツバサにもわかる。そして自分も資金を節約するためにセーブしている。それでも問題なく旅ができるのは、ツバサが空腹に慣れていることもあるだろう。ただ、それだけでは説明がつかないようなとツバサはどこかで思っていた。
「……」
それ以上に、ツバサは自分の変化に戸惑う。あれだけ嫌いだった自分の短気さ、怒りっぽさがなくなっている。ブルコモンに嫌われないようにと、かなり気を付けてみたが気を付けるような場面がないのだ。今も食料を解決する実験が失敗するというかなり深刻な状態のはずだが、イラっとはしていない。妙に落ち着いている。
「え?」
考え事をしていると、突然雨が降り出した。ぽつぽつ、どころかバケツをひっくり返したような豪雨だ。一瞬で全身がずぶ濡れになってしまう。
「ツバサ! こっちだ!」
「え、あ、うん!」
冬にしては珍しい豪雨に、ブルコモンが誘導するままツバサもゲームセンターへ入る。暮らしていた場所ではめったに見ない、建物まるまるがゲームセンターという施設だ。ツバサのゲームセンターへのイメージは、ショッピングモールの一角にある場所というもの。これを見ると、自分が遠くへ来たのだと実感する。
「……ふぅ」
突然の大雨というアクシデントに見舞われたが、ツバサは特に苛立つことはなかった。
「くっそー! 占いの言う通りだ!」
ツバサの後に若い男が入ってくる。その人物は手に何か紙を持っており、それを傘立てに結び出した。
「こういうのは結んでおくといいんだな」
おみくじの感覚なのだろうか。しかしやっていることはポイ捨てみたいなもの。
「まったく、ゴミくらい捨てろよなぁ」
男が去ったあと、ブルコモンはその紙をほどいた。カラー印刷なのだが、あれだけ濡れても滲みがない。
「これ……デジ文字か?」
「デジ文字?」
その紙を読んでブルコモンは文字に注目する。日本語だけでなく、見覚えのない文字が記載されている。デジモンの文字なのだろうか。確かに、似たようなものをバーガモンのお店で見たような気がする。
「チェルニク……チェルニカ? なんだこりゃ?」
「ゲーム機の名前かな?」
紙には『占いマシーン チェルニク☆チェルニカ』とゲームの機種が記載されていた。固定のフォーマットが印刷された用紙をゲーム筐体に入れ、占いの結果を個別に印刷して排出するタイプのものと思われる。文字と用紙のデザインで印刷の質感が異なる。
「雨?」
ツバサは占いの内容に引っかかる。紙には『大雨アリ』と今の状況を予測したような結果が出ているのだ。
「この紙は、なんか変な感じするなー」
ブルコモンが紙に集中している中、内容を読み終えたツバサは風除室の扉に貼られたポスターを見て緊張する。十八歳以下は夜に子供だけで入ってはいけないらしい。つまり、そういうのを店員も厳しく見るし、警察官が来ても不思議ではない。
「早く雨あがりますように……」
ここに一泊はリスクがある。無理してでも雨の中を突っ切るべきだろうか悩む。ただ、その時間までは余裕がありそうなのでしばらくは待つことにした。
ゲームセンターの一階はクレーンゲームが多数あり、景品はぬいぐるみが多い。中には変なおもちゃもある。
「なんだこれ?」
「ペンギン?」
腹で滑るペンギンを模した、走るおもちゃもあった。こういう変なものがあるのがクレーンゲームだ。変わったおもちゃのためか、台の近くにはサンプルがある。
「おー……」
ツバサはそれを動かしてしばらく遊んだ。後ろに引いて離すことで走り出すプルパックカーの類だが、ペンギンがぬいぐるみになっておりなかなか可愛らしい。
「っ……」
「どうした? 脚か?」
唐突にツバサは全身が痛んだ。彼の体にはいくつもの消えないほど深い傷跡があり、気候によってはそれが疼くこともある。ブルコモンにはどうやら以前の脚がバレていたようだが、こっちは露見していないとわかり一息つく。
「いや……、その、うん、脚。どこか座る」
傷の痛みは脂汗を流すほど強い。一つでも大の大人が悲鳴を上げるような痛みがあちこちから発生している。幸い、雨に濡れたおかげでぱっと見分からない。
「ふぅ……」
自販機横のベンチに座り、休憩とする。気候による古傷の痛みは雨や曇りの日に多いが、先ほどまで、まるで感じなかった。あの雨はなんなんだろうか。普通の雨ではないのか。考えたところでどうしようもないので、ツバサはただぼんやりとすることにした。
@
「んん……」
「キミ、大丈夫?」
誰かに揺さぶられてツバサは目を覚ました。いつの間にかベンチに座ったまま眠ってしまったようだ。彼の目の前には明るい茶髪の、眼鏡をかけた女性がいた。
「あ、え……あ……」
見知らぬ大人が現れ、反射的に固まるツバサ。他者への潜在的な恐怖が反応を鈍らせる。心も動きも止めてしまえば、何をされても記憶には残らない。目の前にいる、ほわっとした雰囲気の若い女性にそんな恐怖を感じる者は皆無だろうが、ツバサは別だ。
「この大きなトカゲ……ぬいぐるみじゃない?」
女性はブルコモンがいびきをかいて寝ていることに気づく。恐る恐る、呼吸に合わせて動く鼻提灯を指で割って女性はブルコモンを起こした。
「ふごっ……寝てた!」
「喋った!」
ブルコモンは状況を確認するために周囲を見渡す。一方で女性はショートヘアを掻きながら、これが現実かどうか考えているようだ。
「おー、人間か?」
「えーっと、キミはこの少女の……いや、少年か? ……この子の、うーん、友達でいいのかな?」
「そんなところだな」
半ば放心しているツバサをよそに、ブルコモンと女性は話し込む。女性は一瞬、ツバサのことを女の子だと思ったらしい。彼は自分の見た目に自信がない上、無頓着なところもあるので気づいていないが生育不良も相まって、性差が男に偏り切らずに大きくなっている。
「人間の言葉を話すトカゲ……いや、氷のドラゴン?」
「オレはデジモンのブルコモンだ」
「でじもん?」
やはり、デジモンという生物は一般的なものではない。女性もデジモンと言われてピンと来ない様子だ。
「この子の友達? だったら、今日はもう遅いからおうちに帰るように……」
「い、いやだ……!」
女性が家に帰るよう勧めると、反射的にツバサは拒絶する。女性はしばらくツバサの顔にある傷を見たあと、自身の前髪、左側に触れる。少しクセッ毛になっている短い髪だが、左の前髪はわずかに長くアシメにしてある。
「わかった。んじゃ、困った時はここに連絡して」
女性は名刺入れから一枚名刺を取り出す。そして、スマホで何かを調べながら裏にペンで情報を書き足す。そしてそれをツバサに渡した。近づくと妙に甘い匂いがする。ツバサもこれまで感じたことのない匂いであった。
「私は鮫島瑞(みず)希(き)。月刊アガルタという雑誌の記者。今日はゲームセンターに現れる謎の占いゲーム、『チェルニク☆チェルニカ』を探しに来たの。だからしばらくはここにいるかな」
その女性、瑞希は自己紹介をしながらツバサ達から離れていく。雑誌の記者とのことだが、ツバサはあまり詳しくなく、読んだことも聞いたこともないタイトルであった。
「んじゃ、気を付けてね。困ったらその名刺の連絡先か、周りの大人に言うんだよ。ちゃんと話せば、助けてくれると思うから」
瑞希はツバサの置かれた状況を理解していた。言外に、家へ虐待とかで帰れないならそのことを伝えるようにと教えてくれていた。名刺には出版社の連絡先、瑞希の携帯電話番号、裏面には児童相談所の電話番号が付け加えられている。
「んじゃなー」
「ブルコモンだっけ、その子のことお願いね」
瑞希はツバサとブルコモンから離れ、近くにあった喫煙ルームへ入る。ツバサもしばらく、視線を瑞希に向けたままだった。
「……」
育った環境の影響で、ツバサは人の顔色を伺うのが得意だ。だが瑞希のことは分からない。今まで出会ったことのないタイプの人間だからだ。今まで大人はどういうものだったか、それを考えると記憶に靄がかかるほど思い出したくないような存在だった。
「え?」
瑞希は喫煙ルームに入り、たばこを咥えてマッチで火をつける間もツバサを見ている。当のツバサもそれはずっと確認している。ただ、これまで向けられた奇異の目線とはまた違う、ツバサの経験や語彙力では説明できないものが視線には感じられた。
(電子タバコじゃないから? いや、ちがう?)
どうにか瑞希とそれ以外の違いを考えるも、思いつかない。紺色の古めかしいパッケージに入っているタバコか、それともマッチか。そういう表面的なところにしか目がいかない。
ただ、いい意味で飾り気がなく地味目な、柔和な女性がタバコをくゆらせているとそのギャップに目が行きがちだ。
「あっ!」
「どした?」
考えを巡らせていると、ツバサの金縛りが解ける。肝心なことを忘れていたのだ。
「お礼、言えてない」
「そりゃ大変だ」
ブルコモンは誰かにお礼を言う、ツバサの嬉しそうな顔をよく覚えているようだ。ツバサにとって、お礼を言えるようなことをしてもらえるというのはそれだけ特別なのだ。というわけで、ツバサは助けようとしてくれた瑞希にお礼を言うべく、喫煙室の方へ歩いていく。ちょうど、瑞希もタバコを吸い終えて出てくるところだった。
「お、どうしたの?」
「あ、あの……」
ツバサはどうにか、言葉を絞り出そうとする。ブルコモンたちにすっと言えたのは、人間でないため恐怖を感じなかったからだ。人間への潜在的な恐怖がツバサにはある。瑞希が違うと理解していても、体に染みついた恐怖は勝手に作動する。
「お、ゴミ箱あるのか?」
ブルコモンは喫煙室にある灰皿を見て、持っていた紙を捨てようとする。まるで空気を読まないが、ポイ捨てしないだけ立派なのかもしれない。
「あー、それは灰皿で……紙ゴミはこっち……」
瑞希はブルコモンに分別を教えようとして、彼が持っている紙の文字に気づく。
「それ……『チェルニク☆チェルニカ』?」
「え? あ、ほんとだ」
そう、この紙こそ瑞希の探している占いマシーンから排出されたものなのだ。
「遊んだの?」
「いや、ここ来る時にな、入り口に捨ててあったんだ。ゴミはゴミ箱に捨てないとな」
瑞希はしばらく考える。彼女は一階を見ては回っていたのだろう。それに対し、このゲームセンターは三階建て。二階にメダルゲームがあり、三階にリズムゲームや人気の対戦ゲームがある。
「よーし、探そう! このゲームセンターにあるはず!」
「わっ」
瑞希はツバサの手を引いて、ゲーム探しに向かった。ツバサはなぜ、自分を連れていくのか困惑したが、瑞希としては最初からこうしたかったのだろう。取材対象が見つかったからと訳ありの子供をほっぽって行けるほど冷酷でもない。それこそがツバサの感じた、これまでに見たことのないタイプの人間の気配なのだろうか。
「ツバサくんはオカルトとか都市伝説は好き?」
「……」
とはいえ、話しかけられてもすぐに反応できるほど人への恐怖心は改善したわけではない。ブルコモンが仲立ちをして話を続ける。
「オカルト? お化け?」
「幽霊とかそういうのとかだけじゃなくて、宇宙人にUMAもひっくるめた科学では説明できないもののことね。ブルコモンも広義にはオカルトの住民に見えるわ」
三人はエレベーターを待ち、やってきたそれに乗り込む。
「じゃあ、ツバサのやってたエレベーターで異世界に行くやつもオカルトなのか」
「へぇ、あれやったんだ。有名な都市伝説よね」
ツバサが知り、試したあの異世界へ行く儀式もかなり有名な都市伝説だ。瑞希も当然手順は知っている。
「私がやった時は何も起きなかったけど」
「ツバサもじゃないか? オレとばったり出くわしたけど」
瑞希も経験者であり、噂の様に五階で女性が乗ってくることはなかったのだ。一方でツバサはこの世のものとは思えない生き物、デジモンと遭遇しておりある意味では異世界へ行ったともいえる。
「……もしかして、異世界に行く方法じゃなくてデジモンと出会う呪文なのかな? 女性の姿をしたデジモンっている?」
「人間みたいなやつはいたなぁ。じゃあそいつかな、エレベーターに乗ったの」
ブルコモンと瑞希は会話を続けている。一方でツバサは目的のお礼をなかなか言い出せないでいた。
(どうして……ヒヤリモンの時は、すぐに言えたのに)
口から声が出てこない。なぜだ。何を言っても、言い訳しても謝っても飛んでくる拳の記憶が原因か。
「こういう微妙なゲームって場所分からないのよねー。とりあえず三階から」
瑞希は自身の勘による行動か、三階から探すことにした。エレベーターを降りると、一階よりも天井が低く感じる。一回には背の高いクレーンゲームやバスケットのゲームがあり、空間にゆとりがあった。対戦ゲームは椅子に座ることもあり、筐体は低め。リズムゲームも同様で、まれに立って遊ぶものもあるがそこまで筐体が高くなることはない。
「最近のオカルト番組とか、とりあえずイルミナティだフリーメイソンだ、ゾルタクスゼイアンだ言っておけばいいと思っているのがいただけないの。オカルトとは、フィクションであることを前提にロマンを楽しむべし! 陰謀論とは違うものなの」
「ほほう……」
自身の持つオカルト論を熱く語る瑞希。彼女は雑誌のバックナンバーを持ち歩いており、それをツバサとブルコモンに見せる。
「私が新人の時に書いた記事でね、この時は流行り病があったのよ。うちの月刊アガルタは、それに関する話題は扱いません! 混乱を招かない様に! って声明を出そうって私が言い出したの。そしたら編集長にも同意をもらって、ネットでも好評! この気持ちは私が記事を書く時に大事にしているものなの」
二人は初めて出会う瑞希の強い思いを感じていた。ゲームのモニターをちらつく派手なエフェクトに負けないくらい、彼女の気持ちはギラついている。オカルトと陰謀論を混ぜるような、一部の人間を騙して視聴率や再生数さえ稼げればいいという無責任な連中にオカルトを好きにさせたりしないという、強い意思が宿っていた。
(あれ?)
ふと、ツバサは記事に載っている瑞希の写真に違和感を覚えた。彼女は文責として自身の顔と名前を明かした上で記事を書いている。その写真に写る瑞希は左目のところに傷があるような。しかし、ゲームセンターは暗く、光も筐体があちこちから照らしてくるのではっきりとは分からない。
「あ、もしかしてあれって!」
ツバサとブルコモンに雑誌を見せるため方向転換したおかげか、瑞希はお目当てのゲーム機を見つける。魔女の家にありそうな鍋を模した土台、そこから立ち昇る煙をイメージしたパネルに搭載されたモニター。これが噂の占いマシーン『チェルニク☆チェルニカ』だ。
「先客がいるみたいね」
百円入れて占うだけという退屈なゲーム内容だが、口コミで名前が知られているのか先に遊んでいる人がいる。
「噂の絶対当たる占いマシーン、『チェルニク☆チェルニカ』。なんでも、カレーヌードルにシーフードヌードルが入っているでしょうみたいな、荒唐無稽な内容でも当たるんだとか」
瑞希が見ているスマホでは、SNS上で占いマシーンを探す人の投稿が溢れていた。どうやら同じ場所に行っても見つからない人もいるらしい。
「ブルコモン、さっきの紙貸して」
「やるよ。捨てるつもりだったし」
「ありがと」
ブルコモンから紙を受け取ると、瑞希は内容を確認する。
「大雨アリ?」
「あ、そういえばこっち来る前、すっごい雨あったな。雨の匂いしなかったのに急に」
占いの内容も妙だと感じたのだろう。ブルコモンは自身の鼻で、ツバサは古傷で雨の気配を感じなかった。なのに、急に雨が降ったのだ。そして拾った占いには、大雨アリと。
「紙、濡れてるみたいだけど……印刷が滲んでいない?」
瑞希はスマホで雨雲を確認したが、どうも雨の予兆は確認できなかったようだ。そしてなにより引っかかったのは、濡れた紙に滲みがないこと。紙の状態から濡れていて乾いたのは読めたが、カラー印刷した紙は濡れるとインクが滲む。だから屋外への掲示物はラミネートを施すのだ。
「これ、普通の紙や印刷じゃない?」
瑞希は内容やその前後に起きたことより、紙やインクに目が行っていた。
「ん?」
その時、フロアを悲鳴が満たす。ゲームの音で会話が掻き消えそうな空間であるが、はっきり聞こえるほどのものだった。
「椅子?」
占いマシーンで遊んでいた人が、宙に浮かぶ椅子に襲われている。まるでポルターガイストのような浮き方をする椅子であった。
「ブルコモン!」
「よっしゃあ!」
ツバサは即座に、ブルコモンと助けに入る。
「ベビーヘ……いや、ダメだ!」
反射的に技名を叫ぼうとするが、ベビーヘイルは氷を飛ばす技。ゲーム機があるここで放てば、故障を引き起こしかねない。他の技も迂闊に出せば流れ弾など危険が多い。
「ブルコモン、椅子を床にたたきつけて!」
「わかった!」
「アイスマッシュ!」
氷の爪で飛び回る椅子を床へ叩き落とす。落ちた椅子は動かなくなる。どうやら椅子の襲撃はこれで終わりのようだ。
「ひ、ひぃいいいい!」
占いマシーンで遊んでいた人は一目散に逃げだす。ツバサとブルコモンはそれに目もくれず、椅子を片づけることにした。
「なんか変な匂いするなー、この椅子」
「椅子の匂い? 普通だよ」
ブルコモンは占いの紙に続いて、ツバサには見えないものを察知していた。とはいえ彼もそれが何かを言語化することはできない。
「あ、ちょっと……話聞きたかったのに……」
瑞希が遊んでいた人を呼び止めようとしたが、意味はなかった。ブルコモンも何かを見つけて追いかけようとしていた。
「おーい、忘れ物だぞ!」
「紙?」
それは占いマシーンから排出された紙であった。
「あんなことあったし、いらないんじゃない? 見せて」
「ほいよ」
紙を受け取り、瑞希はよく見る。ツバサも散乱している椅子を取りに来たついでに、紙の内容に目を通していた。
「『椅子に襲われる』? じゃあやっぱあの紙の大雨って……」
瑞希は思考を巡らせるも、目の前に肝心要の占いマシーンがある以上は自分で試すのが筋だろう。
「ツバサ、それ最後だろ。やっとくよ」
「ありがとう」
ブルコモンに椅子を渡し、自然とお礼が出る。それが今のツバサには少し嫌だった。瑞希にはお礼を言いたいのに、口が動いてくれない。
「さーて、やってみるか」
瑞希は占いマシーンに百円を入れ、ゲームを開始する。ゲームが終わってから、そうツバサは自身に言い聞かせた。言い訳か、それとも覚悟のための踏ん切りか、それは彼自身にもわからなかった。
「へぇ、最近の占いマシーンってすごいのね」
画面を一緒に見ていると、占いのモードはいろいろある。中には二人用モードというものもある。
「よし、せっかく二人、いや三人いるしいろいろやってみるか……」
普段は一人で行動しているのか、瑞希はツバサやブルコモンがいる状態をかなりチャンスと見ているようだ。二人モードでは鍋の中身にあるボタンを交互に押すというものであった。
「えーっと、そうね。まずは過去から……」
また、占う対象も過去か未来か選ぶことができる。瑞希としては、過去を占ってから未来を占いたいようだ。
「ボタンを押すのね」
「……うん」
瑞希に促されるまま、ツバサは筐体のボタンを押す。それぞれ何に使うものかはっきりはしないし、このボタンがどうゲームに影響するのかは不明。もしかしたら飾りの可能性もある。ただ、ツバサはゲーム自体触ったことがないのでそんなこと気にならない。
「これでよし」
同じボタンを瑞希も押す。二人で交互に押す仕組みだが極論、一人で二回ボタンを押してしまってもいい。
「結果が出るね」
画面には結果が表示される。まずは、後にボタンを押した人の過去、つまりは瑞希の過去だ。
「こういうの、先に押した人じゃないんだ」
ゲームにはある程度の鉄則があるらしく、瑞希はそこに疑問を持つ。しかし、そんなものは画面の表示を見た瞬間に吹き飛んでしまう。
「なっ……!」
過去の運勢として表示されたのは一つの英単語。『water』、つまりは水。変哲もない内容であるが、瑞希は強く動揺している。
「ボクの結果は……」
一方、ツバサの方も結果として英単語が出る。『death』、死を意味する単語は瑞希のそれより不吉であった。
「げっ、不吉じゃない……死、なんて」
瑞希が読まなければ、ツバサもその単語の意味は分からなかった。
(あー、やっぱ死にそうだったしなぁ……)
この結果にツバサは納得した。死んでもおかしくない生活をしていた自覚はあったのだ。
「え?」
しかし、気を抜いたツバサは筐体の後ろから飛び出す水に気づかなかった。水は蛇のようにうねり、ツバサと瑞希を襲う。まるで神話に登場するヤマタノオロチを彷彿とさせる、複数本の首が筐体から現れる。
「これ……」
ツバサは瑞希の方の結果に何かが足されていることに気づいた。新しい英単語、『dragon』。ツバサにはそれが読めなかったが、危険なことだけはわかる。だが、いち早く動いたのは瑞希であった。
「ブルコモン!」
椅子を片づけて戻ってきたブルコモンの方へ、ツバサを突き飛ばす。
「え、ちょ……うわあああ!」
ブルコモンはどうにかツバサを受け止めるが、さすがに体格差があり一緒に倒れてしまう。
「な、なんだ? ゲーム機から水が出てるぞ?」
「どうなってるの?」
ブルコモンとツバサは状況を理解出来ていない。一方で瑞希は自身の辿る末路を既に悟ったのか、たばこを咥えてマッチで火をつけようとする。
「参ったな……」
しかし、火はつかない。マッチやたばこが湿気っているわけではない。手が震えて、うまく火をつけられないのだ。
「こういう時、主人公に情報を託す先に答え知っちゃった系のキャラみたいにかっこつけたかったんだけどな……うまくいかない」
周囲は水だけでなく、風まで巻き起こっている。ただの占いマシーンが引き起こす現象ではない。
「ベビーヘイル!」
ツバサの指示でブルコモンは氷を飛ばす。しかし、周囲の水を薙ぎ払って瑞希を助けることなどできない。相手が水というのもあるが、そもそもの威力が違いすぎる。
「ブルコモン! あのゲームを壊せば……」
「やってみる!」
ツバサとブルコモンは筐体の破壊に取り掛かる。水が出ているのは筐体の排気口。原理は分からないが、筐体を壊せば止まるかもしれない。
「ベビーヘイル!」
しかし、水が素早く攻撃を阻んでしまい、筐体に当たらない。
「アイスマッシュ!」
近づけばと思ったが、ブルコモンの速度では近づくことも出来ず、水に弾き飛ばされてしまう。
「うわっ!」
「ブルコモン!」
このままでは瑞希を助けられない。ツバサは必死に考える。どうすればブルコモンの攻撃があの筐体へ届くのか。普通に走るだけでは絶対にダメだ。そもそも、蛇のような水は複数本あり死角を攻めてもカバーされてしまう。
「そうだ……ダイヤモンドダスト!」
そこでツバサはブルコモンの息を床に吹き付ける。水の蛇が暴れた分、床は水浸し。一瞬で凍り付く。先ほど、一階のクレーンゲームで見たペンギンのおもちゃからヒントを得たのだ。
「なるほど、これだ!」
ブルコモンはそこに腹ばいで滑り、一気に筐体へ接近する。
「アイスマッシュ!」
ブルコモンの爪で筐体は切り裂かれ、中から何かが飛び出す。
「あれは!」
ツバサには分からない一方、ブルコモンはそれが何かをすぐに理解する。魔女のような姿をしているが、人間ではないその生き物はデジモン。こんなところにもいたのだ。
「ウィッチモン!」
「おや……デジモンがいるとは……」
ブルコモンはその正体に気づく。ウィッチモンというデジモンは筐体の上に乗り、一同を見下ろす。
「ワタシの占いは楽しんでいただいたかな?」
「占い? あの変なのって……」
ウィッチモンの話すことから、ツバサは突然の雨や椅子の浮遊が彼女の仕業であることに気づく。
「ワタシの占いは絶対! 水、死、竜……この結果を実行する!」
「占いってそういうものじゃないんじゃ?」
ウィッチモンは占いを何か別のものと思っているらしく、ツバサも困惑してしまう。
「人は自分の未来を知った時、その本性を現す。ワタシが人間を知るために選んだのが、この占い!」
「ひょっとして占いと予言を間違えてる?」
瑞希にもウィッチモンの勘違いは分かった。占いと予言はそもそも別のもの。占いも必ず当たる未来予知ではない。そんなミスが瑞希のオカルト魂に火をつけてしまった。
「あのね……あなたが言っているのは予言の方が近いわ。そもそも予言は的中していると言われがちだけど、それは当たっているものだけをピックアップしているから!」
予言について、瑞希は早口でまくし立てる。
「当たっている予言一つの裏に何百もの的外れの予言が存在しているってこと! 当たったものは印象に残るし、預言者もこれを看板の様に使うから目立ちやすいの。占いというのは占い師の大半が人生相談の切り出しとして使っていることが多くて、基本的には誰にでも当てはまる内容を言うことで当たっているように見せかけているだけ! 典型的なのが血液型占いで、A型は几帳面、B型は自分勝手、O型は大雑把、AB型は二面性があると言われるけど、人間だれしも几帳面なところがあって、反対に自分勝手で大雑把なところがあるから二面性もあるってわけ!」
それを聞いたツバサは、ブルコモンについ聞き返してしまう。
「そうなの? ボクB型だから自分勝手とか言われてたけど……」
「うーん、ロイヤルナイツっていうすっごい正義の集団にもウイルス種がいるらしいからなぁ」
デジモンも案外、人間と同じ悩みを抱えているのかもしれない。
「ウイルス種?」
「デジモンの性質のことだ。オレはデータ種」
一気に状況が緊迫感を失い、ウィッチモンは魔法で周囲を吹き飛ばして自分のペースに無理やり持っていく。
「ええい! うるさい! 『バルルーナゲイル!』」
「うわあああ!」
吹きすさぶ突風にツバサとブルコモンは吹き飛ばされてしまう。周囲の、かなり重量があるはずのゲーム筐体がずれたり倒れたりするほどの威力があった。
「なんだ?」
「一体どうなってるんだ!」
ゲーム中の客も店員も、泡食って逃げ出すような状態であった。
「危ない!」
ゲーム機の下敷きになりそうなツバサを、ブルコモンが押して回避させる。運ぶだけでも一苦労なものだ。潰されれば無事では済まない。砕けた部品も周囲に散らばる。両替機のような縦長のものはすぐに倒れてしまう。
「ベビーへ……」
「『アクエリープレッシャー』!」
技で反撃する前に二人へ向かって、水が飛んでくる。風と水が一気に襲い、ツバサもブルコモンも瑞希の下へ行くことができない。
「うぐぐぐ……」
「ツバサくん! ブルコモン!」
元々体重が軽く、筋力もないツバサにはこの風と水に抵抗する力もない。ブルコモンもデジモンとはいえ、能力の差が大きすぎる。瑞希は退避を呼び掛ける。このまま立ち向かっても勝ち目はなく、下手をすれば死ぬだけだ。
風だけで、水だけで重たいゲーム機を倒すだけの力がある。それが組み合わされたものを受ければ、健康な子供でも木っ端みじんになってしまう。ツバサは他の子供に比べてかなり華奢で、小柄。間違いなく助からない。
「逃げて!」
「負けられない……」
しかし、ツバサには負けることも逃げることもできない理由があった。それは、あの時瑞希の下に向かった理由。
「ボク……まだ瑞希さんに、お礼言えてない!」
「ブルコモン、進化ぁーっ!」
ツバサの意思に呼応して、再びブルコモンが輝く。身体は一気に大きくなり、ゲームセンターの天井に着くほどのサイズとなった。氷の翼を開き、風と水を弾き飛ばす。氷でできた腕と脚はより強靭になる。
「ペイルドラモン!」
「進化した?」
ヒヤリモンからブルコモンへの進化に続いて、また進化した。腕に付けたデジヴァイスも画面が発光し、反応を示す。
「その程度の進化!」
しかし、相手の攻撃は相当な重量があるゲーム機を倒すほどの威力がある。大きくなったとはいえ、ペイルドラモンも吹き飛ばすことはできるだろう。
「アクエリープレッシャー! バルルーナゲイル!」
ペイルドラモンを狙い、ウィッチモンが魔法を放つ。しかしペイルドラモンは翼や頭部を天井に引っ掛け、吹き飛ばないように踏ん張る。
「なにぃ?」
ここが一階よりも天井が低いことを利用した戦術だった。おまけにペイルドラモンの頭部や翼は尖っているので、ひっかけるには最適だ。ツバサの脳裏に、新しい技の名前が浮かぶ。
「アイスエイジ!」
ペイルドラモンは氷の息を吹きだす。ダイヤモンドダストやベビーヘイルに似ている技だが、威力は断然違う。
「お、おわああああ!」
これまでウィッチモンが放った水が凍り付き、彼女へ押し寄せる。風の魔法であちこちへばらまき過ぎたのだ。
「メテオヘ……」
ツバサは頭に浮かんだもう一つの技を出そうとするが、名前と同時に浮かんだ技のイメージがそれを妨げる。上空から突進するメテオヘイルを使ってしまえば、周囲の被害は拡大する。建物内でギリギリ済んでいるこの状態から、下手をすれば壁に穴を開けたりしかねない。
「アイスマッシュ!」
ブルコモンの時の技でどうにか攻撃を続けるも、ウィッチモンの方も風の魔法で防御して戦況が拮抗する。
「え?」
そして、ツバサのデジヴァイスから警告音が鳴る。デジヴァイスを見ると、画面が赤く発光しており、表示されている波形も激しく揺れていた。
「う……ぐっ……!」
そしてツバサ自身も目の前が白くなり、立っていられなくなった。先ほどの様に、全身の古傷が疼く。ウィッチモンの水と風で身体が冷えた影響か、体力が持っていかれている。
「アイスエイジ!」
その状況でも技を出すが、ウィッチモンとは相性が悪いのか決着には至らずに膠着する。
「ワタシが風と水の魔法しか使えないと思うな!」
おまけに彼女は炎の魔法を使えるらしく、火を使って自分の氷を溶かす。
「炎……? そうだ!」
ペイルドラモンは何かを思いついたようだ。その意思はツバサにも伝わり、技をもう一度出させる。
「アイスエイジ!」
ペイルドラモンは氷の息を吹きだす直前、口を閉じてため込む。頭部の氷が輝くと同時に、口を開いて溜め込んだ息をウィッチモンに吹きだした。
「ぎゃあああああああ!」
威力の上がったアイスエイジは防ぎ切れずにウィッチモンはそのまま吹き飛び、白旗のつもりか手を振って降参する。
「昔出会ったデジモンの真似をしたけど、上手くいったな」
戦いが終わり、ペイルドラモンはブルコモンの姿に戻る。すると、デジヴァイスの警告も収まった。
「ふぅ、ブルコモンと同じデジモンがこの占いマシーンの正体だったのね……」
瑞希は占いの結果が印刷された紙を見て、噂の全容を把握する。水や風を操る魔法のデジモン。それが占いの結果を再現していたのだ。
「すみませんでしたー!」
一方で敗北したウィッチモンは頭を床に擦り付けて平謝り。これまでの感じと異なるデジモンにツバサは困惑していた。
「エビバーガモンやクワガーモンとも違う感じのデジモンだね。行動とかが」
「クワガーモンは怪我で気が立ってたんだと思うが……お前はどうしたんだ?」
クワガーモンがバーガモンの店を襲ったのは、怪我の影響だった。しかしウィッチモンはそうした様子が見られない。むしろ何かの意図があっての行動に思えた。
「それが……というかデジヴァイス持ってるならお前も旋風将様から人間を調べろって言われてない?」
「んんー?」
ウィッチモンは何か、上からの指示で行動している様だった。先ほどの言葉から推測するに、人間を調べるために占いを使っていたのだろう。ただ、ブルコモンはその辺りをよく理解していない様だ。
「というか、『蒼の英雄』なら旋風将様に近いはず……」
「蒼の英雄? よせやい、オレは青いけどさ」
ウィッチモンとブルコモンの話は妙に噛み合わない。旋風将、彼らの上司に近いならブルコモンはもっと何か知っているはずだ。
「瑞希さん、さっきはありがとうございました」
「ん? ああ、気にしないで。私は当然のことをしたまで」
ツバサは無事、瑞希にお礼を言うことができた。このために戦ったと言っても過言ではない。ツバサは少しほほ笑んだが、瑞希の顔を見て即座に青ざめる。
「み、瑞希さん……怪我……」
「ん? あ、これか……」
瑞希は左の目元に触れ、ツバサが何を言いたいのか理解した。彼女の目元には傷がある。それまでは気づかなかったので、ツバサもこのごたごたで怪我したのかと思っていたが、そうではないようだ。
「昔からある傷痕。さっきのでファンデ落ちちゃったのね」
「傷……」
「私たち、結構そっくりなのね」
瑞希はツバサの傷痕に触れる。彼の傷も瑞希と同じで、顔の左側にある。
「これが親子、というグループか?」
「いや、ツバサと瑞希はさっき会ったばかりだ」
ウィッチモンはあまり人間に詳しくないようだった。ブルコモンの話を聞いた彼女は、ツバサの付けているものと同じデジヴァイスを手に、瑞希へ近づく。
「アナタなら、これにふさわしいだろう。デジヴァイス、人間を試す装置だ」
ブルコモンもデジヴァイスを、そう言っていたとツバサは思い出す。少なくとも彼らデジモンを送り込んだ存在は、何か狙いがある様だ。
デジモン図鑑
ウィッチモン
成熟期 魔人型 データ種
別次元のデジタルワールド『ウィッチェルニー』からやって来たデジモンで、ウィザーモンとはライバル関係にある。
風と水の魔術をマスターしている。個体によっては別属性の魔術もある程度使えるのだろう。
彼女は占いマシーン『チェルニク☆チェルニカ』を依り代にしていたが、別次元で活動したウィッチモンはこの占いマシーンの名前と同じ詠唱で呪文を行使してたことが報告されている。
成熟期であるが、ハロウィンの日など魔術的なブーストがあれば完全体相当の力を発揮する。