多分続かん。
「今!」
2018年10/31の渋谷、渋谷駅構内。本来であればハロウィンの仮装や帰宅途中の人々で人がいるはずの渋谷は、呪いに満ちて無辜の民の血が舞う惨劇の地と化していた。のちに『渋谷事変』と呼ばれるそれは、『特級術師』五条悟が封印されたところまで来ていた。
そんな中、渋谷駅の一角では『特別一級呪術師』禪院直毘人・『一級呪術師』七海健人・『四級呪術師』禪院真希VS『特級呪霊』陀艮が繰り広げられていた。
禪院直毘人の術式『投射呪法』によってあわや祓われるか、と言ったところで陀艮の領域展開によって波打つ穏やかなビーチへと駅構内は変貌し、形勢は一気に逆転してしまった。
領域展開『蕩蘊平線』
沖縄のビーチを彷彿とさせるような、暖かな見た目の生得領域。
しかし、陀艮の術式によって領域内は弱肉強食の、海の力に溢れている。
『死累累湧軍』
陀艮の術式によって生み出された式神たちは、海に生息しているあらゆる生物の姿を模倣でき、さらに海は全ての生物の始まりの場所であるが故に領域内において理論上無限の式神を出すことができる。
サメの口の中に放り込まれるが如き状態であり、『一級』という称号を持っている七海、そして禪院直毘人でも大怪我は免れなかった。禪院真希に関しては後回しにされるという始末である。
そんな絶体絶命の中『二級術師』伏黒恵が参上。
領域展開『嵌合暗翳庭』
偶然か必然か。
この場に現れた伏黒の展開する領域もまた、多数の式神を召喚する類のものであった。
しかし伏黒の領域はまだまだ未熟。外郭の構築が不十分、さらに必中必殺の付与もままならぬレベル。しかし,この場ではそれで十分でもあった。
外郭は陀艮が構築した結界を代用し、必中必殺はもとより使えぬため陀艮の領域と綱引きを行い、『死累累湧軍』の必中必殺効果を打ち消すという状態となり形勢は少しだけ呪術師側へと傾き出す。
そして特級呪具『游雲』。
伏黒恵が自身の影に入れて運搬していたことにより、禪院真希の手へと渡る。
その結果彼女は陀艮にとっても無視できない存在へと成り上がった。
必中必殺から逃れた七海がこの場で一番重要である伏黒恵を魚類系の式神から守り、真希と直毘人が陀艮を祓うため攻めかかる。
これでやっと互角。
しかし、伏黒恵の領域展開は未熟かつ慣れない領域の綱引きのため、そろそろ領域展開が限界という域まで達していた。
そこで彼は一計を案じる。
『結界から外に出る』
本来ならば成立しない策。
そも、内側からの攻撃には強いように縛りがかけられているのが常であり、その上領域の輪郭を掴むことなど卓越した結界術が持っていなければ不可能であるからして、そのような結界術を持っているならば自身も領域を展開した方がいいのである。
しかし今回はその呪術の常識が通用しない。
伏黒恵、彼は陀艮の領域『蕩蘊平線』に入る時、領域の外殻に触れている。つまり彼は結界に穴をあけ、外へと逃げることができるのだ。
そして領域展開後の術式焼き切れ後の無防備なところを袋叩きにしようという魂胆であった。
しかし、そのようなことを大声で叫んだりすれば陀艮がそれを察知し、全力を持ってして伏黒恵を止めようとしてくるだろう。そうすればこの勝負はチェックメイト。呪術師の敗北である。
ならばどうすればいいか?
それが最初の言葉につながるわけである。
呪術師たちはその場で急に行う連携などザラにある。
卓越した彼らの連携能力は、根拠もなく仲間のことを信用し、七海及び
伏黒恵の元へと到着した。
「……!!!させぬ!!」
当然陀艮もそれを察知し、大量の式神を伏黒恵へと送るが七海のナタ捌きによってそれもまた阻止されてしまう。
これで一気に呪術師側に傾くところ…であった。
天与の呪縛。天与の暴君、フィジカルギフテッド…。
多数の呼び名はあれどそのものは死人。降霊術式によって起きたバグの存在であった。
そのような存在のものが、伏黒恵が一瞬開けた結界の穴を潜り抜け、新たな敵を求めこの海に降り立った。
---さてここからが史実との分岐点。
陀艮はその男を見て得体の知れない感情を覚えた。
怒り、そして---悲しみ。
なぜ悲しみを覚えているのか彼には分からない。
怒りならば彼にとって理解出来た。急に新たな敵が現れたからだ。そして呪術師たちへの花御を殺された怒り…。されど、悲しみ?
彼には理解できなかった。
故に彼は潜ることにした。
得体の知れぬ男が周囲を見渡す数秒の間、彼は自身の生得領域へと潜った。
それは今形成されている領域ではなく、自分自身の心の中にある生得領域。自身の生得領域である海の深い、深い、深い深海。
陀艮にとって深海とは自分の住処であり、自身の心奥。ここならばなぜ悲しみを覚えたのかわかると、そう思ったからだ。
戦闘中にもかかわらずそのような行為をしたのかはわからない。しかし、陀艮はそれをしなければいけないと本能で思っていた。
自身の持つ足、腕をフル活用し心中にある深海を潜り続ける。精神世界において数分。彼は精神世界での深海へと辿り着いていた。
そこには自身の根源とも言える、深海の中でも青く光り輝く宝石の如き美しい、だけどどこか暗い色をした自身の魂が存在していた。
---そしてその傍には一つの影があった。
陀艮はこの影が悲しみの正体だと察知。そしてその理由もわかってしまった。
その影の記憶も、経験も、そして感情も。
その影が自身に取り込まれた人間の魂であることも。
呪霊としての陀艮の魂に飲まれぬほどの存在であれど、意識はないほどに弱りきった魂であることも。
先ほどの男を見たことにより、眠っていた魂が起きてきたということも。
そしてこの影があの男と因縁がある存在であるということも。
---陀艮は高い知性をつけてから一時間もたっていない。
だけど、その影から受け取った全てから彼はより一層の知性を獲得した。
そして確信する。
自身はあの男、否、天与呪縛の男に負けると。
それは予想とか、推測とかそのようなチャチなものではなく彼女の血筋によってなされた呪力の信号。
さらに影から受け取った記憶を観ることにより、自身の敗北を確信してしまう。
しかし、陀艮はそこで諦めるようなものではなかった。
自身の敗北はすでに決した。ならば、次に繋げればいいだけのこと。
海とは進化の歴史。
細胞から多細胞、菌から生物へ。海から陸へ。動けぬ体を自由に動ける体へと。魚、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類へと進化していく歴史。
陀艮にはその軌跡が刻まれている。
故に陀艮はその影に問うた。
『貴様は…どうしたい?』
影は答えない。すでに脳も、呪力も、電気信号すらなく、あるのは刻まれた記憶と感情、そしてカケラとも言えぬ魂の残滓であるから故に。
輝石の隣に佇み、ただ悲しみのままに泣くのみ。
『言い方を変えるぞ、影よ』
しかし、それでもなお陀艮は話し続ける。
答えないだろうと知っていても、話し続ける。その魂に惹かれたから。美しさに触れたから。
そして---全てを託したい、と思ってしまったから
『あの男を殺したいか?⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
『…』
そして奇跡は起こる。
最初に気づいたのは天与の亡霊、そして直毘人。卓越したセンスと、積み重ねられた経験により、彼らは気づく。
陀艮が泣いている、と。
異変を感知した『亡霊』はすでに真希から奪取していた游雲を持ち、水の上を駆け抜ける。
一方直毘人は観察を始めた。
(甚爾はおそらく降霊系統の術式によるものだな。そこはまあ良いだろう。問題はあのタコ。何があったのだ?)
直毘人自身の経験において急に泣き始める呪霊など結構見てきた。
それは感情から生まれる呪霊であるが故に。
しかし、見る限りあのタコは悲しみといった感情に付随した呪霊ではないことは明らか。
呪霊に置いて悲しみというものは、重要視されない。烈火のような『怒り』でもなく、汚泥のような『憎悪』でもない『悲しみ』。勢いはなく、ただただ水面の波打のようなもの。しかし、今まで怒り狂っていた呪霊が急に涙を流すなど人間でも何か起きたのかと疑われるほどのもの。
今まで荒れ狂っていた津波が、今は何も起きずに水面が整っている状態。
異変。
呪術師にとってそれは呪霊の変化につながる。
その涙を見て直毘人もまた確信した。
変態を始めようとしているのだ、と。
その直毘人の予想はおおかた正解していた。不正解だったのは変態ではなく、再誕であるということ。
「あぁ…なんて愛おしいのだろうか」
海の呪霊、陀艮。
彼は激怒していた。
花御を殺されたことに。
彼は積怒していた。
影が、不条理と無常によって、人間社会の礎とされたことに。
彼は感激していた。
この瞬間に呪霊として新たなステージへと進めることを。
彼は歓喜していた。
自身のうちにある影が、生まれ変わることを。
彼は悲嘆していた。
影の再誕を見れないことを。
彼は、それでもなお、感謝していた。
いま、この世界の全てに!!
「『再卵宮』」
陀艮の背後に巨大な泡が出現した。中には気泡がいくらか入っており、そして深海そのもののような威圧感を感じさせられた。
それを守るように陀艮は構える。
彼岸と此岸の間にて、彼は最後の足掻きを始めた。
「呪術師共、私は父であり、母であり、そして海だ。私の矜持を捨ててでも…」
極ノ番⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
発動後、術式発動者の死亡。
「全力で貴様らを叩き潰す…!!!」
伏黒甚爾の游雲、そして直毘人の蹴りにより最後の一撃が加わり、陀艮の首が飛ぶ。
それと同時に領域の崩壊が開始した。
極ノ番発動からの経緯に関しては、ほとんどが史実通り。
彼ら術師たちは知り得ないが極ノ番⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の発動完了まで、後数秒のことだった。
ゴロゴロと砂浜の上を頭が転がる中、領域が崩壊する。波打ち際はコンクリートのタイルとなり、ヤシの木々は灰色の柱となり、陀艮の胴体はクズと消え、泡は霧散してゆく。
結局のところ陀艮が行った行為は泡と化す。
しかし、海は、大自然の権化は、生命の出発点そのものは、特級呪霊『陀艮』は。
今際の縁にて、覚醒する。
「再誕」
それは呪詞。術式の効果を底上げする一般的な技。
「溟海」
本来であれば術師らが得た技術。それを陀艮は魂に刻み込まれた術式より直感でつむぎあげ、呪詞を歌う。
彼は自身の延命など、ましてや一矢報いることすら考えぬ。
ただ今は次に繋げるのみ、と。
「水母と円環」
それは言うなれば誕生を祝う祝福の言葉。新たな生命を向かい入れるために歌う海の波音。
最後っ屁とも見てとれるその呪力の爆発。その反応に対して、三人…『亡霊』禪院甚爾、『現代最速』禪院直毘人、『一級呪術師』七海建人。
領域展開の結果疲れ切っている伏黒恵、そして伏黒の警護を続ける禪院真希。それ以外の三名が各々の武器を手に走り出す。
術式、呪具、鈍、三つの武器がほぼ同時に陀艮の崩れゆく頭…、ではなく。
霧散していくはずの巨大な泡へと攻撃を加える。
陀艮が最後に発動しようとしていた術式。
特殊な目、もしくは術式を持たぬ彼らにとって、術式効果に関しては予想していくしかない。しかし呪力の流れ、密度などから判断して主軸となっているのは呪霊ではなく巨大な泡だと彼らは判断した。
呪力の発散により泡は弾き飛び、空気中へと霧散した。そして霧散した泡の中には…
ただ一匹の、胴が半分となってしまったウツボのような式神がいるだけだった。
「泡沫の夢…!!」
ブラフ。
その文言が頭によぎると同時に、呪霊へと目を向ければ。
陀艮の持つ髭のようなタコ脚。
その内側に。
一つの小さな小さな卵があった。
タコが産卵期のときに、必死に多い隠し、身を挺して守るように、飢餓によって自身の足を喰らうことがあれどその場を動かぬその特性のように。
陀艮は最後の言葉を振り絞り、呪力を注ぎ込む。
それは胎児のような姿。
卵の中にて揺蕩うその姿はまるで…
ーーー一人の赤子のようであった。
「極ノ番」
失敗した。
それが呪術師たち五名の脳裏によぎった。
明らかに健全な姿を見せるソイツは。
ソイツが放つ呪力の波動は確実に『特級』を関する一角。先程までいた陀艮と名乗る呪霊よりも一層濃密な呪力を放っていた。
しかしソイツの姿は明らかに幼体。故に今、強者のみを追い求める『亡霊』は襲いかかる。
その行動が示すは、ここでの警戒する対象として『現代最速』禪院直毘人よりも、『方陣の神将』を持つ伏黒恵よりも、高いことを示していた。
踊るように彼は游雲を、尖った先をソイツに向けて。
刺しついた。
「ん…」
しかし、再誕した姫は一考すらせず。
一瞥だけして『亡霊』へと手を向けた。
そこから放たれるは激流。
『亡霊』は空気の面をけり、避けようとする。しかし、その瞬間空気が揺れ動いた。
『亡霊』が本能のもと感じるその目のうちには、空気中の水蒸気全てが、『亡霊』の眼に映し空気の面が、螺旋状に引き込まれながら激流へと向かう。『呪術師殺し』であれば対応できたかも知れぬが、『亡霊』には対応不可能な現象。
『亡霊』の肉体はズタズタに引き裂かれることとなった。
四肢断裂には至らずとも、重症は必須。
安易に、本能のままに動いた結果となった。
(どうする?どう動けばいい!?)
『四級呪術師』禪院真希。
『覚醒』を経ていない今の彼女にとって現状は非常に判断しづらい状態であった。
先達らである七海と直毘人、彼らが動き出せばすぐ動けるように、武器がない中素手であろうとも挑む姿勢を見せながら様子を伺っていた。
その視線の先には一体の、否。一人と言ってしまいそうな容姿をもつ呪霊が立っていた。
深海のような黒き青を放つ長髪。浅瀬の海底に揺蕩う海藻のような美しい双眼。砂浜のような美しさの肌。その身を覆うのは貝殻のような色合いをした、水着ブラとロングスカートを来ているような少女。
その周りは大量の熱帯魚や他の小魚、地面には甲殻類が動き出していた。
呪霊の相貌に、若き呪術師二人は気づかない。
しかし、『亡霊』を除く残り二人は気づく。
一人は一瞬であれど知り合ったが故に。
一人はその特殊な立場であったが故に。
彼女はそっと呟く。
「黒井…」
一瞬両手を見ていたと思えば、『バリンッ』という音と一緒に姿がかき消えた。
周囲を見渡してみれば割れた巨大ガラス、居ない特級呪霊、姿のない『亡霊』。
いまだ羽化せぬ未熟な呪術師らには知り得ぬ事であるが、眼の良い残り2人は気づいていた。
無数の式神と共に、『亡霊』を巻き込みながら空へと飛翔する呪霊の姿を。
「どうなってんだよ…。渋谷は!」
そう、伏黒恵が呟いてしまうのも仕方のない事であった。
渋谷マークシティの窓ガラスから躍り出た『亡霊』と呪霊。
彼らは隣のビル、その外壁に立っていた。
『亡霊』はその筋力によって窓枠の縁に
対する彼女は海を揺蕩う海月の如く、ぼんやりとしていた。
「…⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎。どこ、⬛︎⬛︎?どこなの?⬛︎⬛︎」
今、彼女は赤子。
本能のままに動くであろう、幼子。
「◼️井…、あ、あ?あぅ、う?…うん。そっか。そうだね黒◼️。ダメだったんだよね、私たち」
しかし。
彼女にとって目覚めることができたのは、ただの偶然。
運命の糸を一本取り違えた程度の違いの差。
されど彼女は。
その糸を選び取ることのできたもの。
ゆえに彼女は、彼女は変貌する。
幼体から成体へと。
過去の記憶と、今渡された呪力の情報、そして面前におりし『亡霊』の姿。
それは未来を望みながらも、道をたたれ、その死を祝うものすらいた悲しき人生。
それは過去に背負いし責務を捨てようとも、自由を得たいと叫んだ魂。
それは今、覚醒する。
「妾は…、否、私は貴方を許そうと思う」
自身の周囲に式神を漂わせながら、『亡霊』に視線を向けながらもどこか宙を見つめながら話だす。
対して『亡霊』は我関せず、油断せず、両手に游雲を持って構える。
「私が殺された時、とても痛かったし、恨めしかった。でも、それは貴方に与えられていた任務だったし、夏油の話を陀艮が聞いてたから、誘導されていたものだったからほとんど避けられない運命だった、って今はそう思ってる」
穏やかだった海面のような呪力の波は急激に変容する。
荒々しき嵐の前ぶりのような、そして海神の怒りが顕現したような呪力の爆発。
それに呼応し『亡霊』は飛びかかる。
「でも」
周囲に漂っていた式神らが『亡霊』へと牙をむく。
飛びかかってきたその体へと目をむける。
「黒⬛︎を殺したのは絶対に許さない…!!」
憤怒の念を持ってして、式神は飛びかかる。
『亡霊』は游雲を振れど、呪霊には一向に届かない。
領域展開をしていないにも関わらず、陀艮を超える圧倒的な質量の式神を持ってして『亡霊』と衝突する。
正面から、背後から、上空から、ビルの壁面から、空に霧散する式神の残滓から、そして『亡霊』自身が撒き散らす血液から。
至る所から無数の式神が湧いてくる。
弾けどいなせど躱わせど溢れ出る式神に、『亡霊』は対応できず式神の中から出てきた一層大きな式神に弾かれ、コンクリートの上へと落ちていった。
「お主に名乗るなど気に触るが、新たな道の門出として、
天の元に敷かれし理のもと、死ぬ定めを与えられた運命にありし一人の少女。
元々持っていた天内理子はすでに捨てた名。
呪霊として名乗るとするのならば、この名を名乗るとしよう。
「
ちなみに『陀艮=⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』説の根拠は
1どちらも海に関係している
2ジュジュさんぽでの制服が同じ
3パパ黒に殺されている
4漫画の一コマで口が類似している
などなど
があげられるみたいです。
気になったら調べてね!