神ゲーの夜は終わらない 作:ホルン
『
前世では、その難易度と魅力あふれる世界観とストーリーでプレイヤーを魅了し、国内外で飛ぶように売れ続けた前代未聞の超大人気タイトルだ。
神代の戦争の歴史を追いかけながらも、現在を生きる英雄達の人間模様が描かれる緻密な物語。数多のプレイヤーを試すような悪辣なダンジョン、甘えを許さずにプレイヤーをしばき倒すが如き強さのボスの数々。
しかし、そんな難度は問題にならないほどにそのゲームは面白かった。
私もまた、エルダーリンクに夢中になった。
プレイ時間は当然のように数百時間超え。
なにせこのゲーム、エンディングが複数する上に周回可能。自身のプレイスタイルに合わせたステータスを作れる、アホみたいに多い武器種から自分だけの装備構成を生み出せるうえに、そこからさらに追加可能な武技、魔術や呪術まで含めれば、その組み合わせ幅は無限である。
私もちょっと自覚がある程度には、様子がおかしいレベルのファンだったので、ストーリー完全クリア、武器収集率百パーセント、トロコンしても最高のキャラビルドを探すべく遊び続けていた。
あまりの面白さやり込み要素の多さ故に、基本買い切りでオンライン要素はオマケ程度のゲームに、発売から数年が経過してもなお、そんな奴らが大量に存在したのがエルダーリンク界隈だった。
だがある日、エルダーリンカー達に激震が走ることになる。
――――――
世界が震えた。
タイトルは『
正確な時系列は不明だが、前作の流れを組む正当な続編である。
まあ、続編とは言っても、実情はスピンオフ作品に近い。
前作は神代の世界規模の物語だったが、今作は規模を小さくして極東の島国が舞台だし、なんならめちゃめちゃ現代ダークファンタジーモノだ。
あまりに前作が良過ぎただけに、公開情報にあった前作とはやや異なるゲームシステムや世界観に、発売前は一時不安視されたのが懐かしい。
まあ実際は、事前評判をぶち抜く面白さでその名を世界に知らしめたわけだが。
ストーリーはいたってシンプル。
夜を支配する異形の存在、『妖魔』。
その妖魔を討ち倒す陰陽師の『夜狩り』。
私達は夜狩りとなり、極東の危機を乗り越えるというのが物語だ。
人を襲う凶悪無比な魔物と戦い、何を犠牲にしたとしても、夜明けを目指して戦い続けろ!
そんなわけで発売した瞬間、私達は夜狩りとなり、妖魔を狩らんと意気揚々とゲームに乗り込んだ。
――――――まあ当然のように極悪難度なんで、狩られたのはエルダーリンカー達だったが。
世界観再現と言わんばかりに、私達は妖魔にボコボコにされた。
中には歴戦のエルダーリンカーがいた筈………というか、大半が前作経験済みのプレイヤーだったと思われるが、そんなことは関係なくボコボコにされた。
発売してから2週間近くは、最初のボスの突破率が全体の2割を切っていたといえばこのヤバさが伝わるだろうか。
初心者歓迎! と襲い来る野良エネミー。
操作方法は理解できたか? と言わんばかりにプレイヤーに死の洗礼を与える中ボスたち。
そして問答無用で殺意に溢れた攻撃を連発する大ボスの数々。
前作同様、死んで勝利を掴めという死にゲーっぷりだ。
ごく一部の上位者を除き、エルダーリンク古参初心者を問わず刈り取り、等しく床ペロの味を教え込む。それが百鬼夜行列車だった。
「まさかそんなゲームに転生するとはね………」
「何か言いました?」
「なんでもないヨ~」
背負っている少女の質問を、手を振って誤魔化す。
『百鬼夜行列車』には明確な主人公というポジションは存在しない。
登場するいくつかの
だが敢えて主人公に近いキャラを挙げるなら、パッケージにイラストが描かれている【
小金 律。
通称コガネちゃん。
艶のある赤髪の女の子だ。
夜列車に登場するキャラクターで最も標準的なステータスを持っており、あらゆる武器に適性がある癖なさが特徴。
初期武器は直剣。
幼少の頃に住んでいた村を妖魔に壊滅させられ、目の前で一族を皆殺しにされているというなかなかにハードな設定だ。
四肢を切り落とされて壺に詰められる寸前をのがれ、なんとか生き残ったらしい。
夜狩りになったのも妖魔を一匹残らずこの世から殺し尽くすためだとか。
なんて、手段を択ばない復讐者みたいな雰囲気だが、言動の端々から人の良さや仲間への思いやりが隠せていない良い子だ。
一人称は僕で、一族のしきたりで普段は男装している。
ちなみに本気を出すと金髪になる。
オイオイ、属性盛り過ぎだろ。
「さっきは、危ないところを助けて貰ってありがとうございました。まさかあんなに強力な妖魔と出会うなんて………………」
「おそらく犬」
「え?」
「ごめん、なんでもない。
現在は夜狩り達の拠点へ向かっている。
血の匂いに釣られて雑魚エネミーが襲ってくるけれど、槌を振り回して適度に散らしながら進んでいる最中だ。
コガネちゃんと話をしながら、さっき倒した妖魔に思いを馳せる。
エルダーリンクではお馴染みのエネミーだ。
機動力による回避と噛み付きが強力なのだが、こいつらの悪辣なところは別にある。
正確には【出血】という状態異常の付与。
ゲームでは体力の最大値を参照して固定の大ダメージを与えるので、出血が発症すれば一瞬で体力バーを持って行かれ、そのままゲームオーバーすることが多々ある。
ちなみに群れに囲まれると、嚙みつきのノックバックでロクに抵抗さえできずに殺される。
これが夜列車の恐ろしいところだ。
相手が雑魚エネミーでも、油断すれば古参でもあっさり死ぬ。
というかネームドでもないくせに凶悪なの多過ぎである。
具体的には海老とかカラスとかクマとか、アイツら強いくせに普通にエンカウントするのでボスよりヤバイまである。
「まあでも、動きさえ覚えれば楽勝だよ。レベル上げると倒しやすくもなるし」
「れ、レベルですか?」
「そうそうレベル。【位階】って言うほうが有名だよね」
位階。
たしか妖魔を倒すごとに魔力を吸収することで、自身の存在強度を向上させるみたいな設定だったはずだ。
ようはレベルシステムである。
上がれば能力値や耐性が伸びるし、使える武器や習得可能な技が増える。
レベルは最大で10まで。
「位階は今のところ、3ですね」
「これからだね、妖魔をぶっ殺せばどんどん上がるし、頑張って伸ばしていこう!」
そんなこんなで話をしていると、寂びれた駅に辿り着く。
明らかに無人の駅だ。
この妖魔の蔓延る夜のエリアに駅員なんているわけもなく、放棄され、手摺は錆び付いてしまっている。
こんな有様では、列車が走るはずもない。
だけど、これでいい。
――――――汽笛が鳴り響く。
夜を裂くようにライトが輝く。
錆びた線路を踏みしめながら、夜を駆ける列車が目の前で止まる。
夜に溶け込むような漆黒のカラーリング。正面には「百鬼夜行」と刻み込まれた看板が付けられている。
列車から車掌が現れる。
「お待たせしました、ヒトミ君」
「ぜんぜん待ってませんよ、ヨモさん」
むしろ狙いすましたかのようなベストタイミングである。
イケおじの雰囲気をムンムンさせている中年車掌に礼をいいながら、エルダーリンクの副題を飾る列車に乗り込む。
『百鬼夜行列車』
夜列車と略されるその列車は、条件さえ満たせばあらゆる場所に出現し、到達可能と謳われる超常呪物である。
私たち夜狩りは、次元を駆けるこの列車に乗って各地の妖魔を討伐するのだ。
笑みが零れる。
ぞくぞくと武者震いが止まらない。
私の導きの槌が、血を欲している。
けどまあ、とりあえずコガネちゃんを治療室に連れていこう。
夜狩りたちが、明日の朝を手に入れるための最初の一歩として。